泊地の敷地に入るなり、俺は悟の指示ですぐにこの泊地の医務室のベッドに寝かされ、執務室で行われる話し合いに参加出来なかった……
まあこれは仕方がない事だ、今の俺は全力行動の反動のせいで首から下がまともに動かせない状態なのだからな……。そんな奴が大事な話し合いに参加しても、周りに迷惑しかかけないだろうからな……。そういう訳で俺は大人しくこのベッドで横になっているのだが……
「……暇だな」
ついポツリと呟く、首から下が動かないので今の俺が出来る事と言えば、視線を動かすか独りでボソボソと独り言を言うくらいしかないのである。独り言はやってても空しくなるだけなので何とか視線を動かし医務室を観察するのだが、吊るされた点滴と誰もいない為変化が起こらない風景しか見えない為飽きてしまった……。その結果が先程の呟きなのである
さてどうしたものか……、俺がそう考えていると不意に医務室の扉がノックされる。今の医務室には俺以外誰もいないので、恐らく誰かが俺に用があって来たのだろう、そう思って俺は返事をして今しがたここの扉をノックした者に入室許可を出す
扉を開き中に入って来たのは翔鶴だった、翔鶴は今の俺の姿を見ると一瞬表情を曇らせたが、すぐに気を取り直して先程行われたであろう話し合いの内容と、戦治郎達がガダルカナルに戻った事を伝えてくれるのだった
ふむ、俺の滞在の許可が下りたか……、ならば一刻も早く傷を癒して翔鶴とお互いの理解を深め合いながら、ヌ級を討伐しなければならないな……
「そうか……、戦治郎達は戻ったか……。戻る前にこちらに顔を出せばいいものを……」
「あのヌ級の件をリチャードさんとやらに早急に伝えなければと言って、急いで戻って行きましたからね……。その時皆さんと日向さんがニヤニヤしていたような気がしますが……」
ああ、あいつら気を遣ってくれたのか……、これについては感謝しておくとしよう
「空さん、その……、具合はどうですか?」
不意に翔鶴がまたも表情を曇らせながら、言いにくそうにそう尋ねてきた。一体何が翔鶴の表情を曇らせているのだろうか……?正直俺は翔鶴のその表情をあまり見たくはないのだが……
「正直に言えば最悪だな、首から下が全く動かせなくてな、翔鶴が来るまで話し相手もいなかったものだから暇で暇で仕方がなかった……」
今の気持ちを正直に告げたところ、何か思い詰めているのか翔鶴の表情が更に暗くなる……。やめてくれ、その表情は俺に効く……
「ごめんなさい……」
翔鶴が不意にポツリと呟く、そしてそれを皮切りに翔鶴は涙を流しながら俺にまるで懺悔でもするように語り掛けてきたのである……
「私のせいで空さんはボロボロになってしまいました……、でも空さんはそんな姿になっても私を守ろうと必死になって戦って……、私はそんな空さんを助ける事も出来ず、ただただその光景を見守る事しか出来ず……、本当にごめんなさい……」
そう言って俺に向かって嗚咽混じりに何度も謝罪する翔鶴、どうやら翔鶴は俺がこんな事になってしまった事に責任を感じているんだな……
「気にするな翔鶴、これは俺がやりたい事をやった結果であって、お前は何も悪くないんだ。だからそんな顔をしないでくれ、そっちの方が俺は辛いぞ……」
本当はここで頭を撫でるなり、優しく抱擁してやるなりするところなのだろうが、生憎今の俺の身体ではそれも叶わない……、おのれヌ級め……
「どうして……、どうして空さんはこんな私にそんなにも優しくしてくれるのですか……?どうしてこんな無力な私を命がけで助けようとするのですか……?」
相変わらず涙で頬を濡らしながら翔鶴が言う、どうして?そんなのは決まっている
「言ったはずだ、俺はお前を一目見たその時から全てをお前に奪われたと、翔鶴の事を愛していると……。それでは理由にならないか?」
それを聞いた翔鶴の顔にほんのりと赤みがさす、このまま翔鶴と愛を語らいたいものだが、そう言うわけにもいかないな……。俺が翔鶴を守ろうとする理由が他にもあるのだから……
「それは……、その……」「それに……」
戸惑いながら俺の言葉に何とか答えようとする翔鶴の言葉に、俺は被せるようにして他の理由について話し始めるのだった
あいつは俺と同じ脳障害を抱えている、そんな奴が好き勝手に暴れれば俺達以外でこの脳障害で悩む者達が迫害される可能性がある、そうなればあいつと同じような存在がこの世界でも出現するかもしれないのである。俺はそれを阻止したいが為にあいつを何とかしたいと思っている事……
あいつは俺の事を化物と呼んだ、それがどうしても許せなかった。もしそれを俺が認めてしまえば、俺が社会で生活出来るように尽力してくれた両親の頑張りや、戦治郎が小さい頃に俺の事を人間だと言ってくれた事、それらが全て無駄になってしまうような気がして、それが恐ろしくてたまらなかった事……
「そしてこのまま負けっ放しでいるのが気に食わない、これが俺がお前を守ろうとする理由の全てだ。どうだ?これで納得出来たか?俺はお前を餌にして奴を誘き出し、自分の都合のみで奴を始末しようとしているのだ」
俺が理由の全てを打ち明けた時、翔鶴の目から涙は消えていた。それと同時に翔鶴は鋭い目つきで俺の事を睨んでいた
「つまり貴方は私の事を都合の良い駒にする為に、私に愛を囁いて利用しようとしていると言うのですか?」
こんな事を言われれば、誰ってそう思うだろうな。だが……
「そんな奴が胸騒ぎがしたからと言って、わざわざ500kmも離れた場所から探し回りながら助けに来て、負傷しながらも庇ったりすると思うか?俺がお前を守ろうとしているのは心の奥底からお前の事を愛しているからであって、他の理由はオマケに過ぎん」
俺がそうキッパリと言い切ると、またもや顔を赤くする翔鶴……。ああ、本当に抱きしめたくなるな……、だが身体が動かん……。ヌ級め……、絶対に許さんぞ……
俺がそんな事を考えているとまたも扉がノックされ、こちらの返事を待たずして誰かが入室して来たのだった
「チーッス!江風さンが見舞いに来たぜー!」
「空さーん、身体の方は大丈夫っぽい?」
「夕立、江風、いくら空さんの容態が気になるからって勝手に入るのはダメだろう?」
「とか言いながら、結局時雨も入って来てるじゃん」
「そう言う川内もね……、まあ私も偉そうに言える立場ではないけど……」
そんなやり取りを交わしながら、俺のところに江風、夕立、時雨、川内、雲龍が歩み寄って来る。全員俺と面識があるここの艦娘である
「って翔鶴さンも来てたのか」
「ええ、私は先程執務室で行われた話し合いの内容を、空さんに伝えに来たんです」
「話し合いの内容……?一体どんな感じだったの?」
川内が翔鶴に話し合いの内容について尋ねると、翔鶴は俺に目配せをしてきた。恐らく内容を彼女達に話してもいいか了承を得ようとしているのだろう。俺からしたら彼女達は立派な関係者だと思っているので、俺はそれを了承する。それから翔鶴は彼女達に話し合いの内容を話し始めるのだった……
「しばらくの間は出撃も遠征も中止……、仕方のない事ね……」
「あンな化物がこのへンウロウロしてるって分かりゃ、そうなるだろうな……」
「私はそれよりも、戦治郎さんの人脈に驚いてるんだけど……」
「大本営の長門さんと友達って凄いっぽいー!ねぇねぇ!どうやって長門さんと友達になったっぽい?」
「それは僕も気になるね……、良かったら教えてもらえないかな?」
彼女達は口々に、思い思いの感想を述べるのだった。長門達との出会いは前に報告書の件で説明したような……?ああ、その時時雨はいなかったな……。夕立はあの時いたはずだが……、まあ時雨に教えている時に思い出してくれればいいか……
こうして俺はさっきまでの静寂と退屈が嘘だったかのように賑やかになった医務室で、彼女達と会話を楽しむのであった