「ご主人様! この子飼ってもいいですかっ?! いいですよね!?」
「漣、とりあえず落ち着いて状況説明して? な?」
現在、漣と霞は先程出会った通とともに執務室に来ていた、時刻はヒトロクゴーマルと予定時刻より10分早い到着となった、何か大和が膨れているが気にしないでおこう
理由としては先程通が釣り上げたPT子鬼に関してである
「すみません先輩、実はですね……」
そう言って通が状況を説明し始める、非番だったので釣りをしていた事、漣達と出会い話をしているところでこの子鬼を釣り上げた事、漣がこの子鬼をペットにしたいと言って聞かなくなった事
「なるほどな~……、まあ気持ちは分からんでもないな……」
通の説明を受け戦治郎が答える、その首には金次郎が抱き着いて頬をスリスリと擦り付けていた、めっちゃ可愛い、執務室に入って戦治郎を見つけたら通の肩から飛び降りて戦治郎の脚に飛びついてからその身体をよじ登っていく姿はたまりませんでした
「んで漣、その子鬼は安全なのか?」
「こんなちっちゃ可愛い子が危ないわけないじゃないですか! ね~?」
戦治郎が子鬼の安全性、つまり深海棲艦の工作員の可能性を危惧しているのだが漣がまともに取り合ってくれないのだ、肝心な子鬼はあたりをキョロキョロと見回している
「ちっちゃ可愛いからって……、いくらちっちゃいからって安全とは限らねぇんだぞ? なぁ、金次郎?」
「キィー!」
金次郎は返事をするなり両手を上に上げる、そしたら何もないところから突然魚雷が出現し、金次郎は落っこちてきたそれを両手で掴む
「子鬼はこのくらいのサイズでもこういう芸当が出来るんだぞ?」
漣は先程金次郎がやった魚雷召喚に驚いて目を見開いていたが、ブンブンと左右に首を振り
「いやいや、それは金ちゃんだからこそ出来る芸当……」
この子には出来ないだろうと主張しようとした矢先に、手のひらの上の子鬼は金次郎と同じ動作で魚雷を召喚していた、成功したのを喜んでいるのかちょっとはしゃいでいる、あぁんかわゆい
尚、魚雷は危ないからという事で通が2本とも回収しました
「……、こういう時は本人の話聞くのが一番か」
戦治郎はそう呟くなり窓際へ立ち窓を開け、ポケットから取り出した笛を吹く
フィ~っという音が鎮守府中に響き渡り、しばらくしたら執務室の扉がノックされる、戦治郎が入室許可を出して入ってきたのは太郎丸だった
「ご主人様、呼んだ?」
あれって太郎丸呼ぶ為の犬笛だったのか……、漣がそう考えている中で話が進む
「おう、何か子鬼拾ったらしくてな、ちょいと奴さんの事情聴いてくんね?」
「わかりました!」
太郎丸は元気よく返事をして犬の様な鳴き声を出し始める、それを見ていると太郎丸は本当に犬だったんだな~としみじみ思う
「え~っと……、何と言うか……」
太郎丸が事情を聴きだしたようだが様子がおかしい、と言うか目頭を押さえている、一体どうしたと言うのだ
「とりあえず、まずコレを見て」
そう言って太郎丸が取り出したのはちっさめな注射器、それも採血用のようだ
そして太郎丸は子鬼の腕を取り注射器を近づけて……
「な、何をするだァーッ!」
漣が叫びそれを阻止する
「飼うんだったらどの道血液検査するから事情説明ついでで今採血しとこうと思ってね、本人にも了承はとってるから、ね?」
とまあこんな感じで太郎丸が漣を説得し採血開始、注射器の針が子鬼の腕に刺さり注射器の中に子鬼の血液が流れ込んでくるが、その色が
「え……、赤?」
この子鬼もまた、赤い血液を持った深海棲艦だった
「この子、どうやらお祭りの屋台の金魚掬いの金魚みたいでね……、この子はちっちゃな子供に掬われたみたいだけど、親が飼えないからって放流したみたいなんだよ……」
まあそれはよくある話だろう、生態系云々はこの際おいておくとして……、と考えるがまだ話は続いていた
「……お祭りが開催されてたのが海沿いだったってのが問題でね……、この子、海に放流されちゃったみたいなの……」
「「おおぅ……」」 「「あ~……」」 「なんと……」
戦治郎と漣が、大和と霞が、通までもが察してこのような反応を返す
「それで気付いたらこのあたりにいたみたいで、何か美味しそうな匂いがするものがあったから食い付いてみたら釣られちゃったみたいだよ」
「姿変わったら食性も変わるもんなのか……?」
「それについては僕がいるじゃないかご主人様、今の身体だったら玉ねぎもチョコレートも食べれるからね」
太郎丸が胸を張って言う、説得力が半端ないです
「ご主人様……」
漣が訴えるような目で戦治郎を見つめてくる、これは同情するのも仕方ない事だ
「うん、ごめん、飼うの許す、俺もいっぱい飼ってるし1匹増えるくらい大丈夫だよな、うん……」
戦治郎が許可を出す、戦治郎自身金魚飼ってるわけだから知識があるわけだ、この金魚だった子鬼の最後がどのようなものだったか想像するだけで涙が出そうになっていた
「やったー! よかったね子鬼ちゃん!」
漣が大いに喜び、それにつられるように子鬼も喜んでいる、太郎丸がこの子鬼にあの短い時間で色々説明してくれていたようだ、タロちゃんマジ優秀
「さて、飼うって事になったみたいだし、僕はこれからこの子の血液検査に行くとするよ、この際だから悟にも協力してもらおうかな? あ、その子の名前は早いうちに決めておいてね、こっちで色々まとめるとき必要になるからね、それじゃまた後でね~」
そう言って太郎丸は執務室から出て行った
「さて、こいつの名前だけど~……、その前にだ」
そう言って戦治郎は机の中をゴソゴソと漁り何かを取り出す
裁縫セットと桃色の兎の小さなヌイグルミだった、ちょっと待ってろよ~と言ってヌイグルミの綿を抜くなどの作業を始めてしまった
「よっし出来た、漣、こいつをそいつに着せてやってくれ」
どうやら作業が終わり目的の物を漣に渡す、細かいところまで色々やっていたようだが時間はさほどかかっていなかった、この人ホント器用だな……
「ほいさっさ~、それじゃあ子鬼ちゃ~ん、お着換えしましょうね~」
漣はテキパキと子鬼にそれを着せていく、女の子だからだろうか非常に手際がよかった
「おお~~~っ!!!」
漣が感嘆の声を上げる、そこにいたのは小さな兎の着ぐるみを着た子鬼、腕と脚をパタパタと振ったりクルクルとその場で回ってみたり、戦治郎がいつの間にかとりだした鏡で全身を映して見せてやると一瞬驚いた後はしゃいでいる姿を見る限り着ぐるみを気に入ったようだ、鏡を見たときの反応を見た限り視界もしっかり確保出来ているようだ、正体を知らない者から見れば動く兎のヌイグルミである
「むは~~~~~~!!! 超かわええ~~~~~!!!」
興奮しすぎたのか少々鼻血を出しながら絶叫する漣、大和がさりげなくティッシュを持ってきてくれた
「あのままだと、俺や太郎丸、空や通や剛さんなら分かるだろうがそれ以外の奴が金次郎とそいつの区別がつかなくなりそうだからな、着ぐるみの替えについては気が進まんだろうが司のとこで頼んでこい」
「ご主人様、本当にありがとうございまーす!!! さてこの子の名前だけど~、この姿見てキュピーンと来ましたよ~来ちゃいましたよ~……、この子は『ウサちゃん』です! いいですか~? 今日から貴方はウサちゃんですよ~?」
「イィー!」
ウサちゃんと名付けられた子鬼も、どうやらその名前を気に入ったようだ
この日、漣の相棒となるウサちゃんが執務室にて誕生したのである
「それはこのあたりで終わりでいいかしら?」
そう言って子鬼の件を終わらせにかかる霞、ここに来たのはもっと別の事を話すためだったから仕方がないと言えよう
「おお、そうだな、とりあえずウサちゃんの事は後回しにしてだな……」
「あ、ご主人様~、ちょっといいですか?」
漣が挙手して質問してくる
「鈴谷さん達が着任するなり改修、それも改二以上まで改修されてたのってどんな手使ったんですか?」
「あれはだな、あいつらとは軍学で一緒だったって言っただろ? そのときに鍛えてやったんだわ、俺1人対あいつら3人+何人かで隠れて演習やったりしてな、そしたらメッキメキ練度上がってなぁ……」
「お二人とも、これを見てください」
そう言って大和がタブレットを見せてくる、そこに表示されているのは鎮守府にいる艦娘や深海棲艦のステータス表であった
「ああ、艦娘のコンディションチェックとかに使う奴ですね~、どれどr……はいぃ!?」
「ちょっ!!? 何なのよこれ?!」
大和は2人にタブレットを見せながら操作し戦治郎のステータスを表示する、そのステータスの数字を見て2人は驚愕する
工作戦艦水鬼 長門 戦治郎 練度48
練度以外の数字も艦娘では到底辿り着けなさそうな数字が並んでおり、耐久は4ケタを超え装甲や火力は500オーバー、戦艦にはあるはずのない対潜の数字もあると来ている、化け物のようなスペックである
「練度やステータス数値が本来の戦艦水鬼の数値より上がってるのは、生まれ変わり……、ここから先は『転生個体』、或いは『転生』って呼ぶわ、まあ血が赤いのが関わってるみてぇなんだわ」
違う世界から生まれ変わってこの世界に存在するから転生か、そう考えてる間にも戦治郎が続ける
「本来の深海棲艦、これは『純正』って呼ぶとしてだ、純正は基本何度戦闘しようが練度が上がらねぇもんなんだわ、だが基本スペックが元からぶっ飛んでるのが特徴ってとこだな、艦娘は逆に最初はよえぇが戦いを重ねると強くなっていく、練度はその目安ってなってるのは知ってるはずだ」
このあたりは軍学校なんかで習う範疇だ、霞も独学で色々やってたと聞いているから恐らく知っているはずだ
「だが転生は双方のいいとこ取りしてるってな、最初から滅茶苦茶高いスペック持ってて更に練度も上がって強化される、後面倒なのが見た目とスペックが一致しねぇ場合がある事だな、エリでもフラでもましてやフラ改でもない普通のル級だと思ったら転生ル級で、まだ戦いに慣れてなかった俺達がかなり苦戦した事もあったくらいだ。ただ、遭遇率はおっそろしく低い、俺らが海賊やってる間でも遭遇したのは3匹くらいだわ、ル級もその中の1匹」
遭遇率が極めて低いはずなのにここの鎮守府にはいっぱいいるんですがそれは……
それはそうと、見た目とスペックが一致しないのは恐ろしい事だ……、ただでさえ純正と転生の判別方法を血を見る事だけしか知らないので、戦治郎達がいない状況で遭遇してしまったらと考えるとゾッとする
「そうそう、俺らの練度だけどよぉ、これが上がらない上がらない、艦娘が練度1からケッコンカッコカリして最大練度になったときにやっとこっちが練度2になれるくらいだわ、まあ練度1上げるのに必要な数値が常に一定なのは助かったと思うところか? その分ステータス上がる量もすげぇわけだがな、まあ俺で言えば俺単体でケッコン艦48人分くらいの戦力になるんじゃねぇか?」
何それ怖い、他の人も見てみると大体練度40超えてるし……、あのときのホ級が本当に哀れに思えてきた……
「とまあ、鈴谷達が来た直後に改修出来た理由はつまり、俺という化け物相手に何度も演習やった結果だ、OK?」
「そういう事だったのね……、ねぇ、それって私達にもやってもらえるの?」
霞が問う、敵討ちの為に力が欲しいというのがヒシヒシと伝わる
「おう、望むところだ、手ぇ空いてるときならいつでもいいぞ」
「鈴谷さん達の練度の事は分かりましたが~……、それをやる事になったきっかけって何ですか? 何かがあって鈴谷さん達に正体がバレた結果演習をやるようにになった感じがするんですよね~……、後鈴谷さんと榛名さんにとってはご主人様は命の恩人みたいになってるのも気になりますね~」
漣が戦治郎の回答を聞いて浮かんだ質問をぶつける
「鋭ぇな漣……、それはな、鈴谷達が軍学時代にやらかした事故がきっかけだ、そのせいで正体バレちまったんだがな……」
「その事故って何よ?」
「それは、妖精さんの加護を受けた羅針盤が示す航路から外れて航行する、所謂羅針盤事故って奴だ」
……羅針盤事故?