何とか日向を宥めて職務に戻ってもらったところで、俺達は泊地巡りを再開する
現在俺の車椅子を押しているのは先程と変わらず夕立なのだが、日向にこっ酷く叱られた関係で今は非常に大人しくなっているので、さっきみたいに暴走する事はなさそうだ
そうして俺達はゆっくりと穏やかに泊地の至る所を巡り歩き、泊地巡り最後の場所へと辿り着くのだった。その場所とは……
「ここが泊地の工廠か……」
俺は目の前にある大きな建物を見て、ついそう呟いてしまうのだった
「はい、ここが艦娘の艤装の保管や改装、兵装の開発と改修が行われているショートランド泊地の工廠となっています」
「僕達がいつでも万全の状態で深海棲艦と戦えるようにと、妖精さん達が日夜頑張っているところだね」
「まあ最近はヌ級の出現のせいで、妙に慌ただしくなってるみたいだけどな」
俺の呟きが聞こえたようで、翔鶴、時雨、江風がそれぞれの意見を口にする。ヌ級関係で慌ただしくなったか……、恐らくその原因は提督の指示で対ヌ級用の装備の開発しているからなのだろう……
しかし、そんな状況で更に絶対平和党の事も伝えたら、一体どうなってしまうのだろうか……?少々妖精さん達の事が心配である……
「翔鶴……」
「中に入りたいのですね?それなら安心してください、既に提督から許可は頂いてますから」
俺が翔鶴に話しかけたところで、翔鶴は俺の発言を予知でもしてたかの様にそう言って、工廠の方へと歩みを進めるのだった
俺達はそんな翔鶴の後を追うようにして工廠に近付き、翔鶴が開けてくれた入口から中の様子を窺ったのだが……、確かに先程江風が言った通り、中の妖精さん達は慌ただしく工廠内を走り回り、忙しなく何かの作業を行っていたのだった
「いつもは皆もっとのんびり作業してるっぽい、けどあいつが現れてからは皆いつも忙しそうにしてるっぽい~……。休憩する余裕もない感じで働いてるみたいだから、ちょっと妖精さん達が可哀想っぽい……」
その様子を見た夕立がションボリしながらそんな事を言った、休む暇すらないと来たか……、これは思った以上に深刻な問題だな……
長門屋海賊団の場合、生きる術講習で艤装のメンテナンスどころか、中破レベルの修理やオーバーホールが自力で出来るほどまでに鍛え上げられているので問題視する事ではないのだが、軍属の艦娘の場合そういう訳にはいかない
軍属の艦娘はメンテナンス程度なら軍学校で習うそうだが、それ以上の事は基本明石と妖精さんに依存する形になるのだ
もし今の状況が長く続けば、いつか妖精さん達が倒れてしまうかもしれない……。そうなった時に出撃や遠征が解禁されてしまえば、ここの艦娘達は碌にメンテや修理が行われていない艤装で戦場に立たざるを得なくなってしまうかもしれないのである……
そうなると艦娘達の生存率が著しく低下してしまい、多くの犠牲者が出てしまうかもしれないのである……
それを解決するにはヌ級をどうにかしなければ……と言いたいのだが、絶対平和党の存在が明らかになった今、ヌ級だけをどうにかしたらいいと言う問題ではなくなってしまった……
まあ、絶対平和党については戦治郎達に任せて、俺はヌ級に集中するとしよう。ヌ級の目標が翔鶴である事が分かっているからな
ただ、肝心なヌ級をどうにかする為の力が、今の俺には圧倒的に足りないのである。前回ヌ級に有効打を与えられるライトニングⅡの杭打機を使った為、恐らくヌ級は次からは杭打機を警戒してくるだろう……
その対策をどうにかしなければならないのだが、俺の身体はこの調子、代わりに依頼しようとしていた工廠の方は絶賛修羅場中……
こうなると、俺のヌ級対策は俺の調子が戻ってからになりそうだ……。正直なところ、この手の準備は早期に片付けてしまいたいところだが、状況が状況故仕方ないか……
俺がそんな事を考えていたところで、突如工廠の隅の方で爆発が起きた
「一体何事だっ!?」
「あそこで爆発したっぽい!ちょっと見に行ってみるぽいっ!」
職業柄こういった事態に敏感な俺がそう叫ぶと、夕立が俺の言葉に返すようにそんな事を言い、俺の車椅子を押しながら爆発した場所に向かって走り出すのだった。とは言っても速度は先程俺を射出した時よりも随分と遅かったわけだが……、日向に叱られたのがよっぽど効いたみたいだな、夕立……
そうして辿り着いた場所には作業を中断した妖精さん達が円を描くように集まり、その中心に妖精さんが1人座り込んでおり、先程の爆発の煙を吸ってしまったせいかコホッコホッと言った具合に咽ていた。近くに高速建造材、所謂バーナーが転がっているところから、あの妖精さんがバーナーの操作を誤り爆発させてしまったようだ……
俺がその様子を心配そうに見守っていると……
「またあの子っぽい……」
夕立がそんな事を零すのだった、俺はそれが気になって夕立に尋ねてみたところ、どうやらあの妖精さんはちょっと前にこの工廠に見習いとして着任したばかりの新人なのだとか……
更に詳しく話を聞くと、あの妖精さんは他の妖精さんよりも少々要領が悪いようで、同期の妖精さん達が既に一人前として扱われている中、あの妖精さんだけが未だに半人前を脱却出来ずにいるのだとか……
俺と夕立がそんな話をしていると、ここの代表と思わしき妖精さんが姿を現し、件の妖精さんの頭を叩いて何かを言っているようだった。それをしばらく見ていると代表と思わしき妖精さんは言いたい事を言い終えたところで持ち場へと戻って行ってしまったのである……
「今あの子を叩いたのが、ここの工廠長っぽい。何て言ってるかは分からないけど、多分忙しい時に面倒な事するなって怒ってたっぽい」
それを聞いた俺は少々あの工廠長と呼ばれた妖精さんに呆れてしまうのだった、忙しいのは分かるがその接し方はいくらなんでも無いだろう……
この手の輩は何が原因で失敗したのかが分からない場合があったりするのだから、しっかりと手本を見せてから、何処が悪かったのか、どうしたらいいのかを指摘してやるべきだと俺は思うのだが……。いくら忙しいと言っても、そのくらいの余裕はあるものではないのか……?こんな調子ではいつまで経ってもそいつは半人前のままな気がするぞ……
俺がそんな事を考えながらその妖精さんを見ていると、不意にその妖精さんと目が合ってしまった
妖精さんは俺の姿を見てしばらく呆然とした後、大丈夫と言わんばかりに俺に微笑みかけ、立ち上がるなり服に付いた煤を手で払い落してから、足元に転がるバーナーを再び手に取り作業を再開する
その様子を見た他の妖精さん達は、すぐに各自の持ち場に戻る為にバラバラと散って行くのだった
それに合わせて夕立も移動しようとするのだが、俺がそれを制止してあの妖精さんを見守る事が出来る、作業の邪魔にならない場所まで移動するようにお願いする
そしてその条件が揃う場所まで来たところで、翔鶴達が合流して来た
「空さんはその妖精さんの事が気になるのかい?」
俺が3人に先程何が起こったのかを説明したところで、時雨が不意にそんな事を尋ねて来るのだった
「そうだな……、放っておくとまた失敗しそうだと言うのもあるが……、先程あの妖精さんが俺に向けた笑顔を見て確信した、こいつはいい指導者と巡り合えたら化けるタイプだとな……」
俺は時雨の言葉にそう返しながら、あの妖精さんと重ねるようにしてある少年の事を思い出していた……
生前、俺がオリンピックで金メダルを獲得した後に顔を出した道場で見かけた、見た瞬間俺を戦慄させたあの少年の事を……