「皆さん、本日は集まって頂き本当にありがとうございます」
赤城型正規空母1番艦である赤城は、そう言って佐世保……鎮守府の執務室に集まった者達に向かって頭を下げる
現在執務室にいるのは秘書艦代行の赤城と水上機母艦の千歳と千代田、軽巡洋艦の五十鈴、そして駆逐艦の長月、皐月、文月の計7名である
「赤城さんが秘書艦を代行してるって事は……、また金剛さんは提督の事を夜遅くまで待っていたみたいね……」
五十鈴がそう言った後深いため息をつきながら頭を抱える、五十鈴が言うように本来ここの提督の秘書艦を務めているのは金剛型戦艦に1番艦である金剛なのだが、現在彼女は夢の中で提督とキャッキャウフフしている最中なのである
「その通りです……、来月いっぱいまでは日付が変わるくらいの時間からほんの少しだけしか顔が出せないから、自分の事は気にするなと仰っていたのですが……」
「金剛さんの方が寂しくなって、つい無理しちゃったみたいね……。金剛さん、いつもはフタフタマルマルになる前には寝てるからね……」
申し訳なさそうに告げる赤城に対して、千歳が苦笑しながらそんな事を言う
「それで、結局提督は何時くらいに姿を現したの?」
「マルマルサンマルあたりでしたね……、ただその30分くらい前に金剛さんは睡魔に負けて眠ってしまいましたが……」
「あら、今回は惜しかったのね。金剛さん、それを知ったら本気で悔しがるでしょうね」
千代田が提督が姿を現した時間について赤城に尋ね、その答えを聞いた五十鈴が冗談交じりにこう言うのだった
この佐世保……鎮守府の提督は、昼間は行方をくらませているのだが、夜になると唐突に姿を現し短時間で執務を片付け、次の日の予定を書いたメモを金剛や赤城に手渡した後にまた姿をくらませる不思議な提督なのである
以前金剛が普段は一体何処にいるのかを尋ねたところ、提督は曖昧な返答をして誤魔化してしまう。なので鎮守府に所属する艦娘達は提督が普段何処にいるのかを全く知らないのである
「普段は姿を見せない司令官か……」
未だに提督を見た事が無い長月がふとそう呟く、この執務室にいる長月、皐月、文月、そしてこの3人と一緒にアムステルダム泊地から佐世保……鎮守府に異動して来た加賀の4人は、異動して来てしばらく経つのだがまだ提督と会った事が無く、提督がどんな人物なのかを知らないのである
「ここの司令官ってどんな人なんだろうな~?」
「すっごく面白い名前の司令官だから、きっととっても面白い人だと文月は思ってるよ~」
長月の呟きを聞いた皐月と文月が、思い思いの言葉を口にしていた
「面白いって……、まあ確かにユニークな名前よね……。確か『オパンチュ大天使モモロウ』だったかしら……?長い事提督の名前を口にしてなかったからうろ覚えなんだけど……」
「ええ、その名前で合ってますよ」
文月の言葉を聞いた五十鈴がうろ覚えながら提督の名前を口にし、それを赤城が肯定していた。そう、ここの提督の名前は五十鈴が言った通り、『オパンチュ大天使モモロウ』と言うのである
恐らく偽名だと思われるのだが、この鎮守府の艦娘達は誰1人提督の本名を聞き出そうとしなかったのである。本名を聞き出す際、どうしてもこの名前を口にしなければならなくなり、それを誰もが嫌がった為誰も提督の本名を知らずにいるのである
「変な名前のクセに仕事だけは短時間でキッチリこなす……、ホント提督って何者なの……?」
千代田がしかめっ面でそんな事を言う、千代田は提督の名前がとても気に入らないようで、その仕事振りこそ認めるが仕事以外の事では提督と関わり合いになりたくないと普段から言っていたりするほど、提督の事を嫌っているのである
「提督の事は本当に誰もご存じないみたいなので、私からは何とも……。っとすみません、話が脱線してしまいましたね」
千代田の言葉を聞いた赤城が、皆に謝罪した後今回皆にここに集まってもらった理由を話し始めるのだった
「本日、皆さんに集まってもらったのは他でもありません、皆さんに南方海域での遠征任務、『水上機基地建設』を行って欲しいのです」
赤城が南方海域と口にした瞬間、場の空気がガラリと変わってしまう。この張り詰めた空気の中で赤城は言葉を続ける
「この任務は大本営所属主力艦隊旗艦にして元帥秘書艦である長門さんから直々に私達佐世保に依頼されたもので、とても重要な任務となっています」
赤城の口から長門の名前が出た瞬間、長月が反応して身体をピクリと震わせる
「赤城さん、この事は提督は知っているの?」
赤城の言葉を聞いた千歳が挙手しながらそう尋ねる
「はい、昨晩提督がお見えになられた時に私の方から伝えています」
その言葉を聞いた千歳は納得し、それを見た赤城は話を続ける
何でも南方海域での遠征任務を解禁した後、こちらから戦闘を仕掛ける行為を全面的に禁止したにも関わらず、積極的に戦闘を行っている艦娘が多く存在していると偵察に向かわせた吹雪達から報告があった為、それらの対策として要所要所に水上機基地を建設し、そこから発進させた水上機でその手の輩を探し出して監視し、最終的にはその艦娘達が所属する鎮守府及び泊地に大本営から警告、それでも戦闘を繰り返すようならば対象の鎮守府及び泊地の提督に厳罰を与えるつもりでいるそうだ
「以上で任務の説明を終わります、何か質問はありますか?」
赤城が皆に向かってそう尋ねるが、誰も質問をせず沈黙を貫くのだった
「では、準備が整い次第南方海域に向かい任務を開始してください」
\了解!/
赤城の言葉を聞いた艦娘達が一斉に敬礼しながら返事をし、任務に参加する艦娘達は執務室を出てから各自準備を開始するのであった
「……長月、今回の任務だけどさ……、どう思う……?」
出撃準備をしている最中、皐月がふと長月にそう尋ねる。恐らく皐月はこの任務には他にも何かがあると思っているようである
「その事なんだが……、実は私は長門から直接その話を聞いているんだ」
「えぇ~!長門さんから直接~!?一体どうやって長門さんとお話したのぉ?」
皐月の質問に対して長月が予想外の答えを口にする、それを聞いた皐月と文月は大層驚き、その方法について文月が長月に質問する
「こいつさ」
長月はそう言いながら自分の左耳を指差す、そこにあったのは……
「それって……、戦治郎さん達がくれた通信機?」
「ああ、護さんが頑張ってくれたおかげでこの通信機を持っている者同士なら、海の中以外なら何処ででも通信出来るようになったそうだ」
「すっご~い!ねぇねぇ長月ちゃん、もしかしてその通信機を使ったら……」
「そうだ、長門屋海賊団の皆や大本営の主力艦隊と神風、そしてキャシーさんやワンコさんといつでも何処でも話が出来るぞ」
長月は2人の言葉にそれぞれ返した後、通信機の入手経路と長門から聞いた話を2人に聞かせるのだった
以前、光太郎達と共にアムステルダム泊地解放戦に参加した長月は、作戦中連絡を取り合う為に護特製通信機を貰っていたのである。長月は作戦終了後に通信機を返却しようとしたのだが、戦治郎から思い出の品として持って行けと言われ、以後大事に保管していたのだが、先日通信機から声が聞こえてきている事に気付き、試しに装着して使ってみたところ南方海域を巡回している光太郎と輝の通信に割り込んでしまったのである
長月はその時に南方海域の現状を知るのだが、佐世保に着任してしまった以上勝手な行動が出来なくなってしまった為、長月はここをすぐにでも飛び出して皆の力になれない事を大いに嘆くのであった
それからしばらく後、長門から通信が入り長月は今回の任務についての説明をそこで受けたのである
この任務、皐月が察した通り他にも意図があったのである
それは翔達の店の事である、これは消滅してしまったラバウルの代わりに翔達の店を翔達がガダルカナル島に滞在している間限定で拠点代わりにする事で、任務中の損傷の修理や疲労回復を行い効率よく任務にあたれるようにしようとしているのである
一応ラバウルの建て直しは考えているらしいが、実行されるのはヌ級とゼッペーの問題が解決してからになりそうだと長門は言っていた
ただ現状翔達の店を知っているのが吹雪達だけなので、このままでは拠点代わりには出来ないと思い、何か手は無いかを考えていたところで戦治郎達と面識がある長月達の事を思い出し、長月達には吹雪達と協力して翔達の店を流行らせて欲しいとの事だった
因みに、水上機基地を作る場所の1つにシゲ達が修理屋をやっているアンベル島が含まれていたりする。これはシゲ達に水上機基地の防衛をお願いしているからである
それと水上機の監視対象についてだが、赤城が言っていた艦娘達に加え例のヌ級とゼッペーも監視対象になっているのだとか……
前者はあの空を倒してしまった危険過ぎる存在、後者は放置していると数が増える上に戦争被害が拡大してしまう厄介者、よく考えれば監視対象になるのは当然である……
「とまあこんなところだ、私達が行う任務は私達が思っている以上に重要な任務であり、任務を遂行する海域は非常に危険な場所になっている……。それを踏まえた上で、2人共準備は終わったか?」
「長月が話してる間にやってたからね、バッチリ準備完了だよっ!」
「あたしの方も大丈夫だよ~」
長月は2人の言葉を聞いた後1度だけ頷き、艦娘寮の自分達の部屋を出て埠頭に集まっていた五十鈴と千歳、千代田と合流する
その後、見送りに来ていた赤城に敬礼し……
「それじゃ皆、いくわよ!」
旗艦である五十鈴の号令により、佐世保……鎮守府、正式名称『佐世保オパンチュパラダイス鎮守府』所属の遠征部隊は南方海域へと向けて抜錨するのであった
佐世保鎮守府の皆さんごめんなさい