※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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2019/2/3 20:18 内容を一部修正しました

2020/4/7 1:27 内容を一部修正しました


羅針盤事故

羅針盤……、本来なら方位磁針又はコンパスと呼ばれる磁石の特性を利用して方位を知る為の道具であるが、提督や艦娘にとっては全く別の物の事をそう言うのである

 

提督や艦娘にとっての羅針盤とは、妖精さんの加護を受け深海棲艦の気配を察知し、使用する者を深海棲艦の脅威から遠ざける、或いは被害を最小限に抑えるという魔除けのアイテムなのである

 

軍学校の教本や資料などには、羅針盤が示す航路を無視した場合どうなるかが一切書かれていなかった

 

理由は至ってシンプルである、羅針盤を無視して航行した者が帰還した事がこれまでに一度もなかったからである、通信も妨害されてしまうのか一切連絡が取れなくなり向こうがどのような状況になっているのかすら分からなくなってしまう

 

通信も途絶え帰還者も0、報告しようにも報告が出来ないのである、故に資料が一切存在しなかったのだ

 

「まあ、これは今まではって話だな、来年あたりから軍学の教本に載ったり資料が残るぞ、いいんだぜ? 喜んで」

 

戦治郎がドヤ顔で言う

 

「あんたがその資料とかに関わってるってのは分かったわ、それで? 羅針盤を無視するとどうなるわけ?」

 

霞が若干呆れ気味に戦治郎に問う、戦治郎の表情が一瞬つまらなそうな感じになったがすぐに真顔になる

 

「すげぇぶっちゃけるとだ、おめぇらが想像出来んくらいの数の純正が襲ってくる、それも通信妨害の準備とかしっかり整えたクッソ大規模艦隊がな」

 

漣と霞の表情が凍る、ウサちゃんさえもギョッとしたポーズのまま固まっていた

 

「今でも俺らは50~60隻まとめて相手してるんだが、羅針盤無視は桁が2つは違うぜ? 鈴谷達のときも俺と鷲四郎で1000隻以上潰してたらしいからな、まあ鷲四郎は武装扱いだから実質1人か」

 

そう言って自分の右腕を左手で叩く、『一鬼当千』の文字が刻まれた右腕を……

 

「50隻60隻でもふざけんなって話なのに1000隻とか絶望しかないじゃないですかヤダー!」

 

「その1000隻をあんた独りで倒したとか嘘でしょ……?」

 

2人はその話の信じる事が出来なかった、戦治郎は確かに強いのだろうが戦力差1000倍をひっくり返す事が出来たなどあり得ない、そもそも本人もらしいと確証を持って言っているわけではなさそうなのも手伝ってにわかに信じられなかった

 

「提督はこう仰っていますが、大和達教導艦で編成された艦隊が到着したときには現場には大破した鈴谷さん達と深海棲艦だったと思われる残骸が大量に浮かんでいました……、調査チームの調べでは1026隻分相当の残骸だったそうです……」

 

「そうは言ってもよぅ、俺だってあの時は鈴谷達がボコられたってので頭キて視界真っ白だったんだから殆ど覚えてねぇよ……」

 

大和の言葉でそれらが全て事実だった事が証明されてしまった

 

「着任先のご主人様が化け物だった件について……」

 

「俺だって気付いたら周りが残骸だらけで超ビビったっつぅの……、しっかし未だ分かんねぇんだが何で江田島近辺にあんだけの数の純正がいたのか……、これが分からん……」

 

「恐らくですが……」

 

江田島近辺にいた超大規模艦隊の狙いが分からない戦治郎に、心当たりがあるのか大和が言う

 

「あの艦隊は呉鎮守府を再び攻撃しようとしてたのではないでしょうか……?」

 

大和の言葉に霞がピクリと反応する

 

「呉に再び……、あぁ、1度目ってのは三原をおかしくしていた原因になった奴か?その辺は俺はちょびっとだけ資料に目を通しただけで、詳細まで分かってねぇから、出来れば詳しく教えてくんねぇか?」

 

戦治郎が問う、どうやら戦治郎の知り合いが関わっている事のようだが、如何やら事の詳細については把握していない様である。かなり大きな事件だったので緊急速報や新聞の号外が出たくらいなのだが……、と漣は思ったがよく考えてみれば戦治郎はその頃はまだ転生していなかったか、海賊やってて事件当初の事を知る術がなかった可能性があるのだった

 

「はい、その時丁度呉鎮守府で観艦式が行われていまして、多くの鎮守府や泊地、警備府から提督や艦娘が集まっていました。恐らくそれらをまとめて排除しようとしたのではないでしょうか……? 大和も緊急出撃したのですが多くの方が亡くなられました……、そして、霞ちゃんのご両親もそのときに……」

 

「え……?」

 

霞が大和の言葉を聞き固まってしまう

 

おかしい、大和には自分の両親の事は話してないはずだ、なのに何故大和はその事を知っているのだ? 霞は思考を巡らせる

 

「大和、俺は霞の両親の事言った覚えはねぇぞ? 霞の反応見る限り霞もおめぇにその事話してないみてぇだが……、風呂のときも確かおめぇはその話の後来たはずだから聞けるはずがねぇ……、どうして知ってんだ?」

 

風呂のときの会話、そっちにも聞こえてたのか……、アンタが年甲斐もなく飛び込みしてお尻ぶつけて痛がってたの聞こえてたからまあ聞こえるか、漣は余計な事を考えていた。 そうだ、後でこの事大和に教えておこう

 

戦治郎が大和に問い、大和は嘘偽りなく答えた

 

「それは……、霞ちゃんを救助したのが大和だったからです、深海棲艦が海沿いの道路に出現し砲撃を行ったのですが、その道路には渋滞していたせいで多くの自動車が取り残されていました……、道路に砲弾が直撃し沢山の車が吹き飛ばされていました……、吹き飛ばされた車の内の1つから女の子が1人投げ出され海面に叩きつけられそうになっていたのを大和が助けたんです、その女の子が霞ちゃんでした……、ご両親の事は何とか深海棲艦の撃退に成功した後お見舞いに行った際お医者様から……」

 

「なるほどな……、つかあのド腐れがよく見舞い行くの許したな……」

 

ド腐れって何だ……? 戦治郎と大和とどういう関係があるものなのだろうか……

 

「あいつの艦隊の最高戦力だった大和が戦いで傷ついた子のお見舞いをする事で、あいつの体裁が良くなりますからね……」

 

ド腐れ=あいつ? そうなると大和は別の鎮守府或いは泊地でエースクラスの存在でド腐れというのは大和の提督だった人の事か? そう考えてるときに漣はある事を思い出す、訳アリ、大和もそのクチ、ブラ鎮所属の艦娘から助けを求められてそれを助けた……、やっばい、凄く嫌な予感がする……

 

「まあ霞とおめぇの関係は分かった、霞は誰が自分を助けたか知らねぇみたいだったな~……、良かったな霞、憧れの大和がおめぇの事助けてくれたらしいぞ……って聞いちゃいなさそうだな……」

 

霞の方を見てみれば顔を真っ赤にしてプルプル震えていた、その表情は名状し難いがとりあえず喜んでいるのは雰囲気で分かった、そっとしておこう……、大和はこの霞を見て困ったように苦笑いを浮かべていた

 

「とりあえず、だ、あの艦隊は多分大和の推測通りかもしれんな、リコリスのクソ馬鹿は執着心すげぇからな……、あ~……、ここいるのバレたときは連合艦隊6つ分くらい送り込んで来そうだな~……、何とか見つからんようにしねぇとだな……」

 

戦治郎が頭を抱える、リコリスって誰だよと思うが戦治郎が話を羅針盤の話に戻す

 

「さて、羅針盤っつか鈴谷達がやらかした事故の話に移るぞ~」

 

そう言って戦治郎が話し始める

 

鈴谷達がやらかした羅針盤事故、それは提督候補生と艦娘候補生の合同実習のときに起きてしまった

 

艦娘候補生5人に教導艦1人の6人編成の艦隊を提督候補生が指揮し、羅針盤が示す航路を通って目的地である柱島へ向かうというものだったのだが、戦治郎が指揮する鈴谷達の艦隊の旗艦だった榛名が航路を間違えてしまい、本来大黒神島と沖野島の間を航行するはずだったのが大黒神島と阿多田島の間を通り甲島に近付いたところ、甲島から件の超大規模艦隊が出現したのであった

 

「そん時の編成は旗艦榛名、鈴谷、瑞鶴、瑞鳳、イクに教導艦の鹿島教官だったな……。鹿島教官、あんときめっちゃ焦ってたな~……、まああんだけ数いりゃそうもなるだろうが……」

 

戦治郎の艦隊の通信が途絶えた直後に警報が鳴り生徒達の避難が始まるが、戦治郎はそれを隠れてやり過ごし最後の通信を頼りに海に飛び出したのだ

 

「変装解除して行くかっ!ってとこで空母担当の赤城教官に見つかってな~、避難しろって言ってきたから『んな事言ってねぇで大和とか戦えそうな面子かき集めて柱島の連中と共同で救助しにいけやクソボケェ!』とか言っちまったな~……、そんで変装脱ぎ散らかして海に突っ込んだわ」

 

因みに、その現場を榛名を心配して戦治郎と同様に海に出ようとしていた霧島に見られていたようだ

 

「何とか間に合いはしたが、もう大惨事だな……、皆服ボロッボロで傷だらけ……、それ見たら頭キて後はさっき言った通りよ、んで哨戒してた鷲四郎から大和達と柱島の連中が来たって事で海に潜って逃げたんだわ」

 

その結果、戦治郎の声を覚えていた鈴谷、覗き見した霧島とその霧島から話を聞いた榛名、艦載機を飛ばして戦治郎を追跡した瑞鶴と瑞鳳、変身解除を目の前で見せられた赤城、その日の夜に事情を聴きに来た鈴谷に同行していた熊野といった具合に結構な人数に正体がバレてしまったのであった

 

因みにイクと鹿島に関しては、軍学校が正式に始まる前にとある事情で戦治郎サイドに既に引き込んであり、これがこの問題の解決に大きく関わっていたりする

 

「その日の夜はひでぇもんだったわ……、正体知った奴が俺と大和の部屋に押し寄せて来てな~……、しかも鈴谷が熊野まで連れてきて更に正体知った奴増えたし……」

 

「待った! 質問! 俺と大和の部屋とはどういう事ですかっ!? 同室だったんですかっ?! 候補生と教官なのに?!?」

 

漣が聞いてくる、そこ重要か?

 

「はい、大和は教官だけでなく提督の護衛も兼ねていましたからね、提督の正体を知って襲ってくる輩がいないとは言い切れませんからね、候補生の寮と教官の寮はかなり離れたところにありましたから護衛の為に同室にしてもらったんです」

 

因みに駆逐艦担当の教官に大本営の綾波がいた、彼女はカスガダマ沖共同戦線で共闘していたので戦治郎の事を知っており、大和と共に護衛を任されていた

 

「あの日の夜、俺らの部屋の前の部屋にいた綾波がめっちゃ驚いてたっけな、何か申し訳なかったなぁ……」

 

「綾波ちゃんェ……、つかご主人様に護衛って必要ですか?」

 

「提督の手を煩わせるわけにはいきませんからね! 提督の事はこの大和が全力でお守りします!」

 

大和はそう言って使命感に燃えていた、いや、恐らく理由はそれだけではなさそうだが黙っておこう……

 

「とりあえず鈴谷達が俺の事情知ってたのはこういう経緯だ、しっかしリコリスのクソ馬鹿も俺が江田島にいるってのは読めなかっただろうな、そこだけは超愉快痛快ざまぁみやがれだったなぁ!」

 

「そういえば、さっきからクソ馬鹿クソ馬鹿言ってるリコリスって誰よ?」

 

復帰した霞が聞いてくる、それはいいがとりあえずヨダレ拭いて? 可愛い顔が台無しだぞ? 大和に目配せしてティッシュを持ってきてもらう

 

「リコリスってのは現在純正の強硬派代表のリコリス棲姫のこった、北海で補給基地襲撃したときたまたまその基地の責任者が通信しててな、そこで宣戦布告してやったんだわ」

 

「強硬派代表にですか……、大胆な事しますねご主人様は……」

 

「待ちなさい、純正の強硬派? もしかして他にも派閥があるとでも言うの?」

 

漣が戦治郎の破天荒っぷりに呆れているところに、霞が更に質問する

 

「霞、いい質問だ、今日おめぇらに話そうとしてたのの1つなんだよなぁこれが、因みにもう1つは転生個体の事だったんだがな」

 

「転生個体と派閥に関係があるの?」

 

「あるある大有り、転生個体のせいで純正どころか深海棲艦全体がハードフルカオスになっちまってるからな」

 

一体どういう事なのだろうか、疑問に思っている間にも戦治郎が続ける

 

「純正だけでなく、転生も派閥作って純正と人間両方相手に戦争やってやがんだよ、転生の遭遇率が恐ろしく低いのは、派閥入ってしっかり統率されてるからだったりするんだわ、俺らが遭ったル級ははぐれって言うか野良って言うかって奴だったんだわ」

 

どうやら深海棲艦も面倒臭い事になっているようだ……

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