「ねえシゲ……」
「何だ五十鈴……?」
「私達って確か水上機基地を建設しようとしていたのよね……?」
「ああ、確かにその予定だったな……」
五十鈴は自分達の任務の内容を確認する為にシゲに問いかけ、頭を抱えながら地べたに座り、胡座をかくシゲは深いため息を吐きながらその質問に答える
「「……どうしてこうなった……」」
自分達の視線の先にある物を見た2人は、意図的に合わせたわけでもないのに同時にそう呟くのであった
2人の視線の先には、水上機基地と言うにはあまりにも巨大で、凄まじく堅牢そうな大要塞がそびえ立ち、その大要塞の門の前で護と伊吹を含む技術班の面々がスタジャンを着た輝の事を胴上げしているのだった
時は少々遡る……
翔の屋台で食事を終えた五十鈴達は、吹雪達に別れを告げて自分達の次の目的地であるアンベル島に向けて移動を開始する
その道中で作業の段取りについて話し合い、目的の島とシゲ達の簡素な造りをした修理屋が見えて来たところで、不意に艦載機を飛ばしていた千歳が声を上げた
「あれ……?小屋のところに誰かいるみたい……」
「ホントだ……、あの人もあんた達の知り合いなの?」
千歳の言葉を聞いた千代田も艦載機をそちらに向かわせて確認すると、シゲ達に向かってそう尋ねるのであった
「いや、艦種とか教えてもらわねぇと分かんねぇよ……」
「あっごめんなさい、えっと……、中間棲姫ね。それもスタジャン着てる」
シゲが千代田にそう言い返すと、それを聞いていた千歳が謝罪もそこそこにその人物の艦種を教えてくれた
「ああ、輝さんッスね。でも輝さんって今日は午後からも巡回やる日じゃなかったッスか?」
「その辺は本人に聞きゃええじゃろ、そがいな訳で取り敢えず行くで」
千歳の話を聞いた護が思い当たる人物の名前を告げると同時に、その人物が何故ここにいるのかについて疑問に思う。そんな護に対して伊吹がそう返し、一行は輝の下へと歩を進めるのであった
「遅かったじゃねぇかおめぇら!俺ここでずっと待ってたんだぞっ?!」
「いや、それ以前に輝さんが何でここにいるんですか?今日は午後も巡回するんじゃなかったんです?」
島に上陸してくるシゲ達を見つけた輝が、腕を組み仁王立ちしながらそう叫ぶ。それに対してシゲが皆を代表して、先程頭に浮かんだ疑問をそのまま輝にぶつけるのであった
「応っ!その予定だったがおめぇらが何か建設するって聞いたから、戦治郎に頼んで巡回する役代わってもらったんだわっ!!!」
シゲの質問にそう答え、腕組み仁王立ちのままカッカッカッと笑う輝
「輝さんも手伝ってくれるんだ!だったら水上機基地の建設もすぐ終わりそうだねっ!」
「応!俺に任せとけばこんなのとっとと終わらせてやんよっ!!!」
皐月の言葉を聞いた輝は、自信満々にそう言いながら自身の胸をバシン!と叩き、またガッハッハッと笑いだす
「ねぇシゲ……、この人本当に大丈夫なの……?」
「ああ、建築や建設に関しては長門屋一の腕前だから問題はねぇ……はず……」
「『はず』とか言うの止めなさいよっ!不安になるじゃないっ!!?」
輝の様子を見て不安になった五十鈴がシゲにそう尋ねたところ、シゲの返答を聞き余計不安を募らせてしまうのであった……
「っとそういや見ねぇ顔もいる事だし、自己紹介しとくか!俺は赤城 輝!長門屋海賊団専属の大工だ!よろしくな嬢ちゃん達っ!!!」
輝はふと思い出したようにそう言って五十鈴達に向かって自己紹介をし、それを聞いた五十鈴達も輝に自己紹介をし、輝が作業に加わった関係でここでまた改めて作業の段取りについて話し合うのであった
「ふむ……、ところでおめぇらはどのくらい建材持って来たんだ?」
話し合っている最中に、不意に輝が建材について尋ねて来た
「ここに来る前に、グアムにも水上機基地を作って来たので……、取り敢えず今あるのはこのくらいですね」
輝の質問に対して、千歳が自分達の艤装に積んでおいた建材を降ろし、それを輝に見せながらそう答える
「ふむふむ……、まあ必要最低限はあるって感じだな……」
それを見た輝はニヤリと笑いながら立ち上がり、自分の艤装を展開し……
「おめぇらこれを見ろぉっ!!!」
輝が突如そう叫び、自身の艤装の背中っぽい部分を勢いよく叩くと……
「ゥ"ヴォ"オ"オ"オ"ゥ"エ"エ"エ"ェ"ェ"ェ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ーーーッ!!!」
艤装が気持ちの悪い声を出しながら、その口から次から次へと建材を吐き出す
「ヴォ"ロロロロロッ!!!ゥ"オ"ゥ"ロロロロロッ!!!」
そして建材を吐き出し終えたかと思えば、今度は資源を大量に吐き出し始める。しかし吐き出す時の声があまりにも汚過ぎて、その様子を見守っていた五十鈴達がドン引きしていた……
「コヒュ~……コヒュ~……」
「おっ全部吐き出したみてぇだな、っとどうよこの建材と資源の量っ!!!すっげぇだろっ!?」
輝の艤装が聞いていると心配になってくるような呼吸音をし始めたところで、輝が今しがた艤装が吐き出したとんでもない量の建材と資源の前に立ち、胸を張りながらそんな事を言う
「ほあ~……、こんなに沢山……、輝さんすごぉいっ!」
「確かに凄いが……、これは一体どうやって手に入れたんだ……?」
文月がその建材と資源の量に驚き、長月がその入手経路について輝に尋ねる
「輝さん、まさかこれリチャードさんに頼んで譲ってもらったとか……?」
「いや、これ全部拾った奴だっ!」
シゲが訝しみながら輝に尋ねたところ、予想外の返答が返って来るのであった
その後、輝はこの建材と資源の入手経路について詳しく話し始める……
普段の格好で水上バイクに乗ると、スカートだけでなく袖もバタついて鬱陶しいと思った輝は何かを上から着てそれを防ごうと考え、穏健派の総本山の敷地内にあるショッピングセンターであるスタジャンを見つけ購入していた
そのスタジャンの背中にはビリヤードの9番ボールを咥えた、物凄くリアルな髑髏が大きく描かれており、輝はその不気味さと迫力、そしてこの手の物は大体8番ボールが使われる事が多いのに、敢えて9番ボールを使っているところを気に入って購入に踏み切ったのだ
そして今日の午前中、それを着て上機嫌で巡回しているととある島に物資を運び込む深海棲艦の艦隊を発見したのだ
(腕章してねぇみてぇだし……、強硬派の連中か……?)
そう思った輝はその艦隊の後を追い、その身を隠しながらその艦隊の動向を観察、その艦隊が運び込んだ物資をよく見たところ……
(ありゃ建材と資源だな……、あいつらまさかここに拠点作るつもりか……っ!?)
そう考えた輝は、背中に背負った某狩りゲーのリーチ極長ハンマーのような大型ハンマーを担いで突撃を仕掛ける。輝が接近している事に気付いた強硬派の艦隊はすぐに輝を迎え撃つ準備を始めるのだが……
「おっせぇよ愚図共がぁっ!!!」
輝はそう叫びながらその大きな鈍器を横薙ぎに振るい、3匹ほどまとめて上半身と下半身を分離させる。そして運悪く輝に吹き飛ばされた上半身達の進行方向にいた1匹に、その衝撃でクチャクチャに混ざり合った上半身達が激突、その深海棲艦も上半身達と仲良く、識別不可能なくらいグチャグチャに混ざり合って絶命するのであった
その光景を目の当たりにした残り2匹はすぐに逃げ出そうとするのだが……
「この俺から逃げられると思うなぁっ!!!」
輝はそう叫ぶと艤装を展開すると同時に艦載機を発艦させ、強硬派深海棲艦の退路を完全に断つ。その2匹は必死になって艦載機を撃ち落とし何とか逃げ出そうとするのだが……
「おおおぉぉぉ……っ!!!」
ハンマーのヘッド部分を艤装に咥えさせた輝が、地を這うような声を出しながら2匹の方へと駆け寄り……
「ざあああぁぁぁっさいぃっ!!!」
気合いの掛け声と共に天高く跳躍し、2匹目掛けて艤装付きハンマーを勢いよく振り下ろす。輝の艤装がその脳天に直撃した強硬派の2匹は、頭頂部と爪先の高さが同じになるほどに叩き潰され、その衝撃のせいで半径2m、その中心部が30cmほど陥没した地面にその内臓をブチ撒けるのであった
「ふぅ……、取り敢えずこいつらの拠点作りは阻止出来たな……、……ん?」
輝が額の汗を拭いながらそう呟いたところで、あるものを発見する
それは建材の上に投げ置かれた計画書のような物だった、それが気になった輝はそれを手に取り中身を読んでみると……
「……どうやらここ以外にも拠点作ろうとしてんじゃねぇか……、それもたんまりとよぉ……」
その計画書を読み終えた輝はニヤリと口角を上げ、計画書に書かれていたポイントに向かおうとするのだが……
「おっと、そういやこの建材と資源もそのままにしとくのは勿体ねぇな……、そうだっ!」
輝はそう言うと強硬派が用意した建材と資源を全て艤装の中にしまい込み、意気揚々と次の強硬派の拠点建設予定地に向かったのである
こうして輝は巡回任務そっちのけで計7ヵ所の拠点建設予定地を単独で襲撃し建材と資源を強奪、本当は現場にいた強硬派を証拠隠滅の為に全滅させるつもりだったのだが、数匹ほど取り逃がしてしまうのだった
その取り逃がした強硬派の深海棲艦達が輝の事を仲間達に報告した結果、輝はこれ以降強硬派深海棲艦からその衣装の特徴と、自身に立ち塞がる障害物をその手に握ったハンマーで悉く破壊しながら真っ直ぐ突っ込んで来る戦闘スタイルから【
その後、この事をリチャードと戦治郎に報告した時にシゲが修理屋をやっている島に水上機基地を作ると言う話を聞いて、午後の予定を変更してシゲ達のところに駆けつけたのである
「ってな訳よっ!いや~、このスタジャン買ってから何か妙にツイてるんだよな~!こりゃもう家宝にした方がいいかもな、このスタジャンッ!!!」
スタジャンを見せびらかしながら輝が建材と資源の入手経路についての話を締めくくり、話を聞いていた面々は2通りの反応を見せるのだった
輝の事を知っているメンバーは輝のあまりに突拍子もない行動に呆然とし、輝の事をよく知らないメンバーは輝がとんでもない戦闘能力持ちだと知ってその顔を青ざめさせていた……
「まあこういう経緯で手に入れた品だから、この建材も資源も気兼ねなく使ってくれて構わねぇからな!」
「そう言う事なら遠慮なく使わせてもらうッス!後からダメって言っても知らないッスよっ!?」
「拠点7つ分の建材と資源か……、こりゃ凄いもんが作れそうじゃのぉっ!」
輝の言葉を聞いた護と伊吹が気分を高揚させながらそう言って立ち上がり、基地建設の準備を開始する。他の技術班の面々も護達と似たような反応をしながら、護達同様作業の準備に取り掛かるのであった
「俺、何か嫌な予感すんだよな……」
「奇遇ね、私もよ……」
その様子を見ていたシゲと五十鈴がそんなやり取りを交わす中、遂に水上機基地建設が開始されるのであった……
こうして護、伊吹、技術班、そして輝と言う匠達がノリと勢いで作業を進めた結果、水上機基地になるはずだったものは、水上機だけでなく大型飛行艇なども運用可能な大規模な航空基地、戦艦主砲すらも防ぐ堅牢な防壁、驚くほど充実した拠点防衛用兵器、あらゆるものに対応可能な大規模な工廠、凄まじく快適な居住性を完備した巨大要塞と姿を変えてしまったのである。何と言う事をしてくれやがったのでしょう……
そして話は冒頭に戻る
「俺さぁ、この事アニキ達に報告しなきゃなんねぇんだけどさぁ……、どう報告したらいいんだ……?」
「私も長門さんにこの事報告しなきゃいけないのよね……、ホント何て言えばいいのかしら……?」
シゲと五十鈴はそんなやり取りを交わし、2人同時に深いため息を吐くのであった……
輝の⑨には東の方的な意味も含まれてるかもしれませぬ