シゲと五十鈴が水上機基地の代わりに出来上がってしまった大要塞の事を、どう報告したらいいか考えているその時だった
『皆、聞こえているか?』
不意に通信機から声が聞こえて来る、その声の持ち主はどうやら長門のようでその言葉には何処か緊張感が漂っていた
通信機を装着している者達の表情が真剣なものに切り替わり、皆が長門の声に耳を傾ける
「どうしたんですか長門さん、何かあったんですか?」
シゲが皆を代表して長門にそう問い掛けると……
『シゲか、お前達は確かアンベル島に水上機基地を作っていたな……。そちらにいるメンバーにこの通信は聞こえているか?』
「ええ、こっちの通信機持ちは全員聞いてますよ」
長門の問いにシゲがそう答えると……
『巡回中の光太郎です、こちらも食事中に護から通信機を受け取った吹雪ちゃん達含めてしっかり聞こえてますよ』
『こちらババス島の翔です、こちらも感度良好。一体何があったんですか?』
他のメンバーからも、この通信が聞こえている事を伝える通信が入って来るのであった
『皆聞こえているようだな……、それでこの通信の内容なんだが……、緊急事態が発生したんだ』
緊急事態、その単語を耳にした瞬間場の空気が更に緊張する
『先程トラック泊地から連絡があってな……』
長門の言葉を聞いたメンバーの一部が、またトラックか……と内心で舌打ちする。そんな事を考えている者がいるとは露知らず、長門は言葉を続ける
『今度は対潜任務中の海防艦が6名行方不明になったそうだ……、この話を聞いた時私はすぐに例のヌ級の仕業だと思い、こうやって皆に連絡を入れる事にしたんだ』
「海防艦って……、こりゃまたエライ事やったッスね~、あのヌ級は……。その筋の紳士淑女の皆々様が絶対黙ってないッスよこれ~……」
内容を聞いた護がそう言いながら顔を顰める、護の言葉を聞いた一部のメンバーがこの話を聞いたそう言う趣味のあるお兄さんお姉さん達が、一斉に武装蜂起してヌ級に立ち向かう光景を幻視したのだが、今は関係のない話である
『その子達がどの辺りで消息を絶ったかって分かりますか?俺達が今から向かって近辺を捜索しようと思うんですけど……』
光太郎がそう言った直後である
『あ~……長門?\ワーワー!/その件なんだけどよ~……\ギャーギャー!/』
戦治郎から通信が入るのだが、後ろの方が騒がしいのか妙なノイズが入っている
『6人全員は無理だったが\大丈夫、僕達は何もしないから出ておいで~/その内の2人は現在\絶対嘘っす!占守が出て来たところであいつみたいにガブリッ!ってやるつもりっしゅ!/ガダルカナルで保護してる\占守ちゃん、お願いだから出て来て頂戴~/ってコラ佐渡ぉ!そこの棚に登るな!棚の上走るなぁ!!!』
通信機の先で戦治郎が怒鳴っているようだが、あちらでは一体何が起こっているのだろうか……?
『戦治郎、一体どうしたんだ……?』
『すまん、ちょっちチビ達が暴れててな\誰がチビだっ!佐渡様はチビじゃねぇぞっ!/イテッ!ちょっち佐渡!棚の上の物こっちに投げんなって!危ねぇだろうがっ!\うっせぇ!深海棲艦が佐渡様に指図すんなっ!/アダッ!ってもう!止めろっつってんだろうがっ!!!あんま調子乗ってるとお尻ペンペンすんぞゴラァッ!!!\ギャ~!やっぱり何もしないって嘘だったっすねっ!占守がここから出て来たらお尻ペンペンするんっすね~!/\戦治郎!あまり占守ちゃんを刺激するような事を言うのは止めてくれっ!!!/』
長門が戦治郎に状況を尋ねたのだが、どうやら向こうはそれどころではなさそうである……
「え……、何これ……?」
「俺に聞くな……」
このカオスフルな通信を聞いた五十鈴がシゲに尋ねる、しかしそのシゲもあちらの状況が一切分からない為、五十鈴のその問いに答える事が出来なかった……
「長門さん、取り敢えず俺達のとこはもう作業終わってるんで、今からアニキ達のとこ向かって向こうを落ち着かせて来ますわ。通信はその後でいいです?」
『あ、ああ……、そうしてもらえると助かる……』
『ああシゲ!出来たら五十鈴達連れて来てくれ!\これでもくらえ!おんりゃぁ!/あっぶね!オラ佐渡ぉ!待てコラァ!\いひっ、捕まえられるもんなら捕まえてみなっ!/っとこっちいる艦娘は皆祖父さんの修行のせいで動けねぇんだ!だから頼んだっ!えぇいチョコマカとぉっ!!!』
そういう訳で水上機基地建設チームは、戦治郎達の救援の為にガダルカナルへと向かうのであった
さて、ガダルカナル島にあるリチャードの執務室に辿り着いたシゲ達は、それはもう凄惨な光景を目の当たりにし、メンバー全員が愕然とするのであった……
室内に散乱した書類、棚の上から落下して壊れてしまった飾りの数々、壁に飾られていたであろう額縁も何かの拍子に落下しており、ソファーやテーブルには子供くらいの足跡がいくつも付けられている有様である
そんな室内を走り回るのは長門屋海賊団のリーダーである戦治郎と、択捉型海防艦の3番艦である佐渡。そしてこの部屋の主である穏健派転生個体のリーダーのリチャードとその相方である穏健派深海棲艦のリーダーのスウは、リチャードの執務机の下に立て籠もる占守型海防艦1番艦である占守を必死に説得していた
「ほれ戦治郎、もっと気合い入れて頑張らんか~い」
そう言って部屋の隅で戦治郎を煽りながら暢気に茶を啜っているのは、穏健派が保有する企業であるヤマグチ水産の社長を務める戦治郎の祖父、長門 正蔵である
「そう言う祖父さんもちょっちくらい手伝ってくれYO!」
「お前今日の修行に参加しとらんかったじゃろ?じゃからこれが今日のお前の修行じゃ、ほれほれ、はよそこのお嬢ちゃんを捕まえてみせんか~い」
「チキショーめえええぇぇぇーーーっ!!!」
「ぎゃ~!いや~!助けて~っしゅ!」
佐渡を追いかけ回す戦治郎が正蔵に援護を頼むも、アッサリ断られてしまいついつい叫び声を上げる。そして戦治郎の叫びを聞いた占守がパニックを起こして、釣られるようにして叫び声を上げる
そんな長門家の祖父と孫の微笑ましいやり取りを、入口で突っ立ったまま眺めていた五十鈴の下半身に急に衝撃が走る。何事かと思い視線を下ろすと、そこには先程戦治郎に追いかけられていた佐渡がしがみ付いていた
「あんた艦娘だろっ?!助けてくれっ!深海棲艦に追われてるんだっ!」
「えっ?えっ?!」
佐渡にそんな事を言われた五十鈴が、どうするべきかと戸惑っていると……
「確保おおおぉぉぉーーーっ!!!」
戦治郎がそう叫び……
「ウィッス!」
「うぉっ!?ってよく見たら隣にいるの深海棲艦じゃねぇかっ?!てめっ!この!放せっ!!!」
その声に反応したシゲが、すぐに行動を起こし佐渡を捕まえてしまう。捕まった佐渡はそこでようやくシゲの存在に気付き、何とかシゲの腕を逃れようと抵抗するのだが、シゲはその腕で佐渡をガッチリホールドしてしまっているので、佐渡はシゲの腕を振りほどけないでいた
「よくやったシゲ!褒めて遣わすぞ!」
「あざっす、んでこれどういう状況なんです?」
ようやく追いついた戦治郎がシゲに向かってそう言うと、シゲは感謝の言葉もそこそこにこの状況の説明を戦治郎に要求するのであった
「こいつらの事か……、こいつらは今日の午後俺が輝の代わりに巡回してた時に、ヌ級に襲われているところを助けて保護した艦娘なんだわ」
戦治郎はこの言葉を皮切りに、その時の状況について詳しく話し始めるのだった……