「その後俺は弥七と一緒に海の中潜って犠牲になった海防艦達の艤装を回収して、佐渡と占守連れてこっちに戻って来た訳だ」
戦治郎がそう言って自身の通信機に内蔵されたカメラの映像データを、リチャードの執務室に備え付けられたスクリーンに投影するのを止めながら話を〆る、戦治郎の話とその戦闘の映像を静かに見聞きしていた佐世保鎮守府の遠征部隊と、話の最初の辺りで光太郎と共にこちらに合流した大本営の遠征部隊の面々は、顔を青ざめさせながら話と上映会が終わった事に安堵し息をつくのだった
「あのゼッペーとか言うのだけでなく、こんな怪物まで徘徊してるなんて……」
「長門さん達が必死になって南方海域への出撃を阻止していた理由がようやく分かりました……、こんなのがいたらまともに任務なんて出来ませんよ……」
上映会の後、佐渡を後ろから抱きしめている五十鈴と涙目になっている占守に引っ付かれている吹雪がそれぞれの感想を口にする
何故五十鈴と吹雪がこのような状態になっているかだが、話が始まった直後にシゲが捕まえていた佐渡を五十鈴に預け、リチャードの執務机の下に籠城している占守を少々強引に引っ張り出し、その直後に部屋に入って来た吹雪にシゲが占守を預けたからである。その為占守が涙目になって吹雪に引っ付き、シゲを警戒しているのである
因みに戦治郎が五十鈴達を連れて来て欲しいと言っていたのは、佐渡達を落ち着かせる役を頼む為である。本来は海賊団の艦娘にお願いしようとしたのだが、海賊団の艦娘達は戦治郎が巡回に行っている間に唐突に訪ねて来た正蔵に修行をつけられ、まともに身体を動かせなくなってしまっていたのである……
吹雪の発言についてだが、どうやら吹雪達は翔達と初めて出会った日、元帥と長門に任務の報告をした際に長門達の事情を教えてもらったのだが、その話が余りにも突飛過ぎた為その話をあまり信じてはいなかったのである
だが先程戦治郎に見せられた映像のおかげで、吹雪達はようやくこの海域の惨状を実感する事が出来たのである
「でも何でまたここに佐渡達を連れて来たんッスか?そのままほっといたら異常を感知したトラック泊地の連中が出て来て、佐渡達を連れて帰るんじゃないかと思うんッスけど?」
不意に護が口を開き、佐渡達をここに連れて来た理由について戦治郎に尋ねる
「いや、そのまま放置してたら強硬派に襲われる可能性あんだろ、それにこいつら間違いなくPTSD発症してるだろうからさ……」
護の質問に対して戦治郎がそう答える、そう、佐渡と占守は自分達の目の前で通常の戦闘ではまず有り得ないような方法で仲間が惨殺される光景を見せつけられた事で、ヌ級にトラウマを植え付けられてしまったのである
その為占守はすぐにパニックを起こすようになり、佐渡は自身のトラウマになっているものを何としてでも排除しようとかなり攻撃的になってしまっているのである
「ちょっち気になってショートランドの提督にトラックの提督の事聞いたんだけどよ、今のトラックの提督は深海棲艦絶対殺すマンに成り果ててるみたいでな……、多分あのままチビ達をトラックに戻しても佐渡達のトラウマガン無視で出撃させるか、使えないと判断して艤装解体してから日本に送り返すかのどっちかだと思ったわけよ……」
「ああ、それでこっち連れて来たんですね。こっちには悟大先生もいるし、大先生公認の優秀な医療チームもいるみたいだから、こっちでPTSDをどうにかしてからトラックに返そうとしてる訳ですね」
戦治郎の言葉を聞いたシゲが、納得したように首を縦に振りながらそんな事を言う
「その通りだシゲ、そういう訳でこいつらの艤装をこっちに残ってた技術班の連中に預けて、本体の方は悟達に預けてリチャードさん達に今回の事報告して今後について話し合ってたんだが……」
戦治郎がシゲの言葉を肯定した後、渋い顔をして頭をバリバリと掻きながら言葉を続ける……
どうやら戦治郎とリチャード達が話し合いをしている最中に、佐渡達が目を覚まし医務室から脱走したのである。その連絡を受けた戦治郎達は大慌てで執務室を飛び出し佐渡達を捜索、その道中で佐渡達を追っていたが体力が尽きてしまい倒れてしまった悟を発見し、悟を医務室に放り込んだところでここは任せて欲しいと言ってきたリチャード達の部下達に後の事を任せて執務室に戻ったところ、執務室を荒らし回る佐渡達を発見したんだそうな……
「んで、俺達が佐渡達を追いかけ回してる時に祖父さんが執務室に来たんだが、見ての通り祖父さんは手伝ってくれなかったんだよな~……」
「さっきも言ったじゃろ、これはお前の修行じゃと。実際今回の戦いではヌ級の機動力に翻弄されとったじゃろ?ならこれはいい修行になったじゃろ?」
戦治郎がそう言いながら正蔵に恨めしそうな視線を送ると、正蔵は相変わらずお茶を啜りながら戦治郎に言い返す。それを聞いた戦治郎は正蔵の発言も一理あると思ったのか、悔しそうに口を噤んでしまうのであった
「ん~……」
長門家の祖父と孫のやり取りを尻目に、シゲは考え込むような仕草をして微かな唸り声を上げる。そして五十鈴が抱いている佐渡の前へと移動すると、ヤンキー座りをして佐渡と視線の高さを合わせ……
「佐渡、おめぇらは何で執務室を荒らしたんだ?」
佐渡に向かってそう尋ねるのであった、佐渡はそんなシゲを見て一瞬驚いたのかビクリと身体を震わせるのだが……
「な、何でお前なんかに教えなきゃ……「いいから答えろ……」うっ……、じょ、情報を持ち帰ろうとしたんだよ……。折角こんな大きな深海棲艦の拠点に来たのに、このまま手ぶらで帰るのはどうかと思ってな……」
佐渡はシゲに向かって強気の態度を取ろうとしたのだが、凄味を利かせたシゲに圧倒されてしまいついつい正直に執務室を荒らした理由を答えるのだった。因みにそのやり取りを見ていた吹雪が、シゲの眼光を見て思わず短い悲鳴を上げていた……
「そっか……、おめぇらはまだ深海棲艦と戦う意志が残ってんだな……。だったらおめぇらはまずやらなきゃいけねぇ事があるな」
「へっ?」
シゲの言葉を聞いた佐渡がつい間抜けな声を上げてしまう、そして佐渡がシゲが言う自分達がやらなければいけない事について考え始めると……
「おめぇらは誰のおかげで今ここにいるのか分かってるか?誰がさっきの映像の化物を追っ払って自分達を助けたか……あの映像見てたら分かるだろ?それにその人はおめぇらの心の傷もどうにかしようとしているし、ちゃんとおめぇらの事を泊地に帰すって言ってたと思うが聞いていなかったのか?」
その様子を見ていたシゲが口を開き、それを聞いた佐渡と占守は何かを思い出したかのようにハッとする。それを見たシゲが更に言葉を続ける……
「気付いたみてぇだな……、んでおめぇらはその人に対して何したか分かるか?ここまで言ったらおめぇらが何をしなきゃなんねぇかもう分かるだろ?そりゃまあおめぇらが深海棲艦についていい感情抱いてねぇのは分かる、だが自分達にしてもらった事に対してはそう言う感情抜きでやらなきゃいけねぇ事があるだろ?」
シゲがそう言うと、佐渡と占守はばつが悪そうな顔をしながら互いの顔を見合わせ、1度頷いてから五十鈴と吹雪から離れて戦治郎の方へと近寄って行き……
「「……部屋を荒らしてごめんなさい、そして助けてくれてありがとうございます!」」
2人はそう言って戦治郎に頭を下げる、それを聞いた戦治郎は2人に視線を合わせるようにしゃがみ込み……
「気にするな、それよりお前達2人が無事でいてくれて本当に良かった……」
2人の頭を優しく撫でながら、2人に不安を与えないように微笑みかけながらそう答えるのだった
そんな2人の様子を見守っていたシゲは、腕を組んで1人うんうんと頷いていた
「あんた、中々やるじゃない」
「ありゃ俺が昔アニキから言われた事だ、俺はそれをただあいつらにそのまま言っただけだ」
そんなシゲに五十鈴が声をかけ、シゲはそれに謙遜するようにそう返すのだった
「……何かシゲさんが座ってる姿とか眼光とか、凄く様になってた気がするんですけど……?」
「シゲは元族の総長ッスからね、そういうのが堂に入ってるのは当然ッス」
シゲと五十鈴のやり取りの傍らで吹雪がそんな事を呟くと、護に聞こえていたのかその様な返事が返って来た為、吹雪はその表情を引き攣らせる事しか出来なくなってしまうのであった……