空が独りで泊地の修繕をしている頃、オーストラリアのパースにある港にて……
「これは……、本当に輸送船護衛任務に参加する艦隊なのかしら……?」
正蔵の依頼である輸送船護衛任務に参加する事になった雲龍が、パースにある港の光景を見て思わずそう呟く
その視線の先には、輸送船の護衛にしては多過ぎる気がするほどの艦娘達の姿が映っていたのである
その数、雲龍を含めて30人。通常艦隊5つ分の護衛が付く事になってしまったのである
「親分がOK出しちまったからな~……、あたし達からしたらやり難くて仕方ねぇんだけどよぉ……」
先程の呟きが聞こえたのだろう、雲龍の傍で渋い顔をしながら摩耶が言う。摩耶が言う親分とは正蔵の事である、摩耶が戦治郎の事を旦那呼びしているのを知った正蔵が、自分もそう言う呼ばれ方したいと摩耶に頼み込んだ結果、摩耶は正蔵の事を親分と呼ぶ事にしたのである
それはそうと何故こんな事になっているのか……、それはヤマグチ水産側のミスから始まったのだった……
当初の予定では、ショートランドから川内、球磨、時雨、夕立、江風、雲龍の6人、海賊団から摩耶、木曾、阿武隈、陽炎、不知火、天津風の6人の計12人で護衛任務に就くはずだったのだが、正蔵の部下達が気を利かせたつもりなのかリンガ泊地、ブルネイ泊地、タウイタウイ泊地に一斉に護衛任務の依頼を出してしまい、それが全て受理されて各泊地から6人ずつ、計18人の艦娘が派遣されてきたのである
本来なら手違いである事を告げて各泊地の艦娘達にはお帰り願うところなのだが、正蔵が面白そうだからと言う理由でOKを出してしまい、その結果こんな大艦隊で輸送護衛任務を行う事になったのである
そのせいで主に海賊団の艦娘達が、頭を抱える羽目になるのだった
先ず海賊団の艦娘達の所属に関する問題だが、これは正蔵の私兵と言う事で何とか誤魔化す事が出来た
だが厄介な問題がまだ残っている、輸送船の目的地が欧州である都合、どうしても『カルメン』の縄張りであるインド洋を突っ切って進まなければいけないのである
これはたまに自社の漁船や輸送船などを守る為に、オーストラリア西部の海の『掃除』をする正蔵からの情報なのだが、最近の『カルメン』はしっかりと武装し、以前よりも強くなってきているらしいのだ
そんなところをこんな大所帯で突っ切ろうとしたら、すぐに発見されて襲撃されてしまい、かなりの被害を受ける可能性があるのである。もしこれが本来の形、事情を知ってるメンバーのみの12人編成だったならば……
『アタシ達も陰から援護するから、何とか頑張って頂戴……』
『こんなに一杯艦娘ちゃん達がいるのに、表に出て声を掛けられないって言うのがホント残念だったりしちゃったりするんだよね~……』
『そんなに女の子が口説きたかったら、向こうにいるクマノミでも口説いてるといいッス』
『確かクマノミて雄から雌に性転換すっ魚やったよね?って言うか護さん、どっけクマノミのおっと?この辺にはおらんごたぁけど……』
通信機の先にいる『カルメン』対策として、念の為に付いて来た剛、司、護、九尺に堂々と援護を頼めるのだが、現状ではそうする訳にはいかなくなってしまったのである。もし剛達の存在がバレてしまえば、事情を知らない各泊地の艦娘達が混乱してしまい、そこを『カルメン』の連中に狙われる可能性があるからだ
それに各泊地の艦娘達は転生個体との交戦経験が無いと言うのだ、これが厄介さに拍車をかけていた。もしこのまま彼女達を『カルメン』の連中と戦わせた場合、異形艦娘を初めて見た飛龍達のように驚き竦んでしまう可能性がある為、事情を知っているメンバーは常に彼女達に対して気を配り、フォローしなければいけなくなるのである。そうなると、事情を知っているメンバーの負担が大きくなってしまうのだ
ただでさえ強い転生個体を相手にする必要がある上に、事情を知らない彼女達の面倒までみないといけない、そう考えると事情を知っているメンバーは憂鬱になるのだった
「まあなっちまったもんは仕方ねぇ、気持ちを切り替えていこうぜ」
港の様子を見ながらぶう垂れる摩耶の下に、木曾がそう言いながら歩み寄って来た
「俺達が以前のままだったらもっと色々対策考えないといけないだろうが、今の俺達は違うだろう?剛さんや正蔵さんのおかげで間違いなく俺達は前より強くなっているはずだ、今回の件、俺達はもしかしたら剛さん達の手を借りなくても何とか出来るんじゃないか、俺はそう思ってる」
木曾が摩耶の隣に並び立ちながらそう続ける、そんな木曾の視線の先には正蔵達の厳しい修行を乗り越えた結果改二になった阿武隈の姿があった
「……そうだな、お前が言う通りなのかもな。あたし達はあの地獄のような修行を乗り越えて来たんだ、前よりも確実に強くなっているはずだ。だからあいつらの面倒見ながらでもあたし達だけで『カルメン』の連中を相手に出来るかもな!そう考えるとやる気出て来たぜ!サンキュー木曾!よーし、やるぞっ!」
木曾の話を聞いた摩耶は気持ちを切り替え、やる気に満ちた声を上げる。そんな彼女もまた、阿武隈同様改二になっているのであった
そう、今の海賊団の艦娘は正蔵達の修行のおかげで、全員が改二になれるほどの練度に達しているのである。ここにいない扶桑もしっかりと改二に改修してあったりするのだ
龍驤はガダルカナルに来てからは、翔の手伝いばかりで修行に殆ど参加していないのだが、翔の手伝いをしながらも常に艦載機を飛ばし、かなりの頻度で戦闘をしていた為正蔵の修行に匹敵する程の経験値を手に入れていたので、他の皆と同じように改二になっていたりするのである
「かなりの自信ね……」
「雲龍達も正蔵さんの修行がどんなものか見たんだろう?俺達はアレを乗り越えてここにいるんだ、そう考えると嫌でも自信が付くぞ」
摩耶の様子を見た雲龍が呟くように言うと、木曾はニヤリと笑いながら雲龍にそう返すのであった
『そうじゃろそうじゃろ?自信を持つのは大事じゃからなっ!やれると思って必死になってやれば大体の事は何とかなるっ!儂の修行はそういう事も考慮してあるんじゃよ?凄いじゃろ?』
その直後、通信機から正蔵の声が聞こえてきた。木曾は正蔵の声を聞いた途端ビクリと身体を震わせ、辺りをキョロキョロと見回してその姿を探す。それからしばらくして、ようやく木曾は自分の通信機の通話スイッチが入りっぱなしになっていた事に気付くのであった
『雲龍よ、もしその気があったらお前さんにも儂の修行をつけてやるぞ?あっちで手が空いたちょっとした時間にやるだけでもかなり違うみたいじゃからなぁ!』
正蔵がそう言って通信機の先でカッカッカッと笑う、それを聞いた雲龍は……
「そうね……、検討しておこうかしら……」
そう言って正蔵の修行のお誘いを暗に断るのであった、雲龍達ショートランド泊地の艦娘は空と正蔵の修行を目の当たりにしているので、正蔵の修行がどれほど壮絶なものなのか知っているのである。自分にあんな事をされてしまったら間違いなく自分は死んでしまう、そう思ったが故雲龍は正蔵の誘いを断ったのである
『せかせか、ちょっち残念じゃな……、まあ気が向いた時にでも言ってくれれば修行をつけてやるからのぅ!っと、そろそろ出港の時間じゃな、済まんがこの通信を聞いてる艦娘達は他の者達にそろそろ出港すると伝えてもらえんか?』
雲龍の返事を聞いた正蔵は少々残念そうな声を上げた後、そろそろ欧州に向けて出発する旨を皆に伝えて欲しいと言うのだった
現在正蔵は輸送船の中におり、木曾達と共に欧州に向かう事になっているのである
理由は現在の欧州の様子を自身の目でしっかりと見て、今後欧州の方にどのくらいの規模でアンダーゲートを展開していくかを考える為なのだとか……
「分かった、それじゃあ行くか」
「おっしゃ!やってやるぜ!」
「この任務……、無事に終わるといいわね……」
正蔵の言葉を聞いた3人は思い思いの言葉を口にして、通信機を持っていない艦娘達に先程正蔵が言っていた事を伝えて回り、全員が海に出たところを確認したところで自分達も海に向かって歩いて行くのであった