正蔵の怒りの声は余りにも大きく、大広間にある全ての物を震わせ、テーブルに設置されていたナプキンに至ってはその声の衝撃で軽く吹き飛ばされてしまうほどであった
「儂の私兵の実力見て驚き竦むのは仕方ないとしておこう……、じゃがその後貴様らは一体何をしていた?何をしにここに来た?貴様らは儂のとこの輸送船の護衛任務の為に来たんじゃろうがっ!!!」
そう叫ぶ正蔵の顔は、正に大鬼神と表現出来るほど恐ろしいものへと変貌していた
「我に返ってすぐに木曾達の援護をするなり、輸送船の守りを固めるなりしたらいいものを……、貴様らときたらただただ木曾達の戦いぶりを呆然と眺めておるだけ……。ふざけるのも大概にせんかぁっ!!!」
その表情を更に怒りの色に染め、護衛任務に参加していた彼女達に向かって先程より大きな声でそう叫ぶ正蔵
「そして戦闘が終わった今でも何時までもウジウジしくさりおって……、声をかけても反応せんだけでなく、気分転換の為に準備した料理にも碌に手を付けない、挙句の果てに儂にこれだけ言われても悔しがりもせん……。儂の事馬鹿にしておるのかあああぁぁぁーーーっ!!!」
またもや大広間が大きく揺れる、そんな中この説教の対象外である木曾達は両手で耳を塞いでその大声に何とか耐えるのであった
「何ですかあの人……!?物凄く怖いのですが……っ!?」
正蔵の豹変ぶりに驚き怯える朝潮、まあ先程まで普通だった者が突然怒り狂い鬼の様な表情をして凄まじい声量で説教を始めれば、誰だってこのような反応をする事だろう……
「戦闘中はこんなもんじゃねぇぞ……」
「えっ!?戦闘中?!依頼主さんは深海棲艦と戦えるのですかっ!?」
摩耶が呟くように言った言葉に反応した朝潮は、驚きを更に加速させ段々混乱し始めるのであった……
そうしてしばらくの間正蔵の説教が続くと、遂に艦娘達がすすり泣き始めた。これがここに来て彼女達が初めて示した反応である、だがそれは今の正蔵に対しては逆鱗に触れるどころか生えている方向と逆方向に力を込めて無理矢理剥ぎ取るような行為にしかならなかったのである……
「泣けば許されるとでも思っておるのか馬鹿者共があああぁぁぁーーーっ!!!」
遂に正蔵の怒りが頂点に達し、今まで以上に大きな声で咆哮を上げる。するとその声のせいで閉まっていた扉が蝶番ごと吹き飛び、料理が乗っていたテーブルが悉くひっくり返る
「あああっ!!!」
テーブルがひっくり返る際、空中に投げ出された料理達を見て夕立が思わず声を上げ、その表情を絶望に染める……
そして完全に頭に血が上った正蔵が、とうとうこの言葉を言ってしまう……
「もうよい!ここから先は貴様らの力などいらんっ!!!とっとと自分の泊地やら基地やらに帰れっ!!!報酬の事なら成功時と同額払ってやるから気にせんでいい、それが分かったらここから出ていけっ!!!」
正蔵がそう叫ぶと、艦娘達は涙を拭いながら次々と大広間から退出していく……
「……もしかして木曾さんが言っていたのはこの事だったんですか……?」
「多分な……、俺も正蔵さんからそうするように指示を出されただけだから何とも言えねぇけどな……」
先程の正蔵の叫びからしばらくして、大広間には正蔵と海賊団、ショートランドの艦娘と朝潮だけが残っている状態になるのであった
そして朝潮が木曾にそう尋ねるのだが、木曾はただただ曖昧な答えを返すだけなのであった……
「はぁ……」
そんな中、大声を張り上げすぎて疲れたのか、正蔵が溜息を吐く
「なあ親分、いくら何でも今のは言い過ぎじゃねぇか……?」
「自覚が無いわけじゃないわい、じゃがあれだけ言われても食って掛かるような真似もせんような奴らが、この先でヌ級のような転生個体と遭遇してもカモにされるだけじゃ」
「じゃあ何で連れて来たのよ……?」
「お前らの戦いぶりを見て奮起するかと思ったんじゃがな……、アテが外れたわい……、まあこの朝潮は例外じゃがな」
摩耶と陽炎の問いに正蔵がそれぞれ答え、朝潮の方へと視線を向ける。正蔵に見つめられた朝潮は一瞬ビクリと身体を震わせるも、気を持ち直して姿勢を正し正蔵に問いかけるのであった
「あの、私が例外と言うのはどういう事でしょうか……?」
「お前さんくらいじゃぞ?あの戦いの後木曾達にコンタクトを取ったのは、他の連中はみ~んな下向いてウジウジウジウジしておった……。あ奴らは落ちてる小銭でも探しておるんか?とか思ったわい」
「はぁ……」
朝潮の問いに対してこう答え、苦虫を噛み潰したような顔をする正蔵に向かって何とも言えない様な微妙な表情をしながら朝潮はそう返事するのであった
「それにその目を見れば分かる、お前さんは強さを求めて木曾達に接触した……、違うか?」
「……分かるのですか?」
正蔵の言葉を聞いた朝潮は一瞬驚きの表情を浮かべるのだが、すぐに気を引き締めて正蔵にそう尋ねる、すると正蔵はニヤリと笑いながら大きく頷くのであった
「伊達や酔狂で長生きしてた訳ではないからのう、どれ……」
正蔵はそう言うと指を鳴らし紅吹雪を発動させるや否や、宙を飛び交う花弁を集め即座にテーブルと椅子を形成し、その真っ赤な椅子に「よっこらせ」などと言いながら腰掛けると、朝潮に対面の椅子に座るよう促すのであった
「こ、これは一体……っ!?」
「こいつについてはお前さんの話を聞いた後じゃ、ささ、遠慮なく座るといい」
突然目の前に現れた彼岸花と思わしき花の花弁で出来たテーブルと椅子に驚愕する朝潮だったのだが、それを作り出したと思わしき正蔵が再度椅子に座るようにと勧めて来たので、朝潮は素直に正蔵の言う事聞き正蔵の対面の椅子に座るのであった
「正蔵さんの紅吹雪にはこんな使い方もあるのか……」
「長く使っているとこんな真似も出来るようになるんじゃよ」
驚愕しながら何とか言葉を紡ぐ木曾に対して正蔵がそう返し、今度は大き目のソファーをいくつか作り出して木曾達にも座るようにと勧めるのであった
「それで、朝潮は何故強くなりたいんじゃ?」
「それは……」
正蔵が朝潮に向かってそう切り出したところで、朝潮は力を求める理由をポツポツと話し始めるのであった……
「なるほどのう……、お父上の敵討ちか……」
朝潮の話を聞き終えた正蔵がそう呟く、それとほぼ同じくらいのタイミングで木曾、球磨、陽炎、不知火、天津風が目を伏せる
朝潮が強くなりたいと思う理由、それはこの戦争の初期ごろに深海棲艦との戦いでその命を散らしてしまった海軍中佐であった父親の仇を討つ為だったのである
朝潮は尊敬する父親を奪った深海棲艦を激しく憎み、艦娘になってからは深海棲艦を討ち滅ぼす為に毎日欠かさず己を磨き上げ、戦場でその修練の結果を遺憾なく発揮し数多くの深海棲艦を沈めて来たと言うのであった
だがそんな朝潮でもどうしようもない相手と言うものはやはりいるようで、それをどうしたら倒せるようになるのか、毎日の様に試行錯誤していたのだとか……
そして今日この日、朝潮は木曾達の戦いぶりを目の当たりにし、この人達なら何か知っているのではないかと思い木曾達に接触したのである
そう、朝潮もまた先程目を伏せた5人と同じ復讐鬼だったのである。木曾達が思わず目を伏せたのは、朝潮の話を聞いた時ふと自分達が戦い続ける理由を思い出し、朝潮の気持ちを理解した為である
「相分かった!そう言う事なら儂がお前さんに、お前さんが望む力を授けようではないか!……じゃがその前に確認じゃ」
正蔵はそう言った直後、正体を隠す為に今の今まで顔を覆っていた頭巾を脱ぎ、朝潮を見据える。朝潮は正蔵の行動に疑問符を浮かべていたのだが、その素顔を見た瞬間思わず驚愕する……
「リコリス……棲姫……っ!?」
「朝潮、さっきも言ったと思うがお前さんが力を望むなら、リコリス棲姫の転生個体であるこの儂が直々に力を授けようと思うのじゃが……、どうする?」
朝潮は正蔵の問いに答えられず、ただただ絶句する事しか出来なかった……