朝潮達が剛と遭遇していた頃、ショートランド泊地内に設置されたベンチで眠りこけていた空は、後頭部に感じる柔らかさに気付きその正体を確認する為に重い瞼を持ち上げるのであった。そして寝起きの為ぼんやりとした空の視界に飛び込んで来たのは……
「あっ……、おはようございます、空さん」
そう言って空に微笑みかける翔鶴の顔と、彼女の性格とは対照的にやや自己主張が強い彼女の双丘であった
空はそれを認識した瞬間、意識を完全に覚醒させその映像を網膜に焼き付け、頭の中のSSDと心の中のHDD、そして魂の中にあるフラッシュメモリにしっかりと保存する。そしてその直後、空は自分が彼女に膝枕をしてもらっている事に気付くのであった
「ああ、おはよう、翔鶴」
空は頭の中で先程記憶した映像を、脳内翔鶴フォルダに移しながら彼女に挨拶を返す
「こんなところで眠ってしまうなんて……、余程疲れていたみたいですね……」
「心配させてしまって済まないな……」
空が翔鶴に挨拶を交わしたところで、彼女は心配そうな顔をしながらそう尋ねてくる。そんな翔鶴の表情を見た空は、少々申し訳なさそうにそう答えるのであった
「ええ本当に……、朝の哨戒任務を終わらせて戻って来たら、空さんがこんなところで眠っているんですよ?最初見た時は本当に驚いてしまいました、空さんの身に何かあったんじゃないかって……、私、本当に心配したんですよ……?」
「いや、本当に申し訳ない……。ようやく泊地の修繕が終わってな、それで気を抜いていたら眠ってしまったようなんだ……」
翔鶴がそう言いながらその表情を見る見るうちに暗いものへと変えていく様子を見て、空は罪悪感に駆られまたも謝罪するのであった
すると翔鶴の表情は先程とは打って変わって、恥ずかしそうにその頬を紅く染めていき
「そうだったんですね、それでその……、こんなところで寝ていると風邪をひきますよって、私、空さんに何度も話しかけたんですが……、一向に起きる気配がなくって……、あの……」
彼女はしどろもどろに話し始める、空はその話を聞いてる最中に自分の身体にタオルケットが掛けられている事に気付き、彼女が何を言おうとしているのかを察するのであった
彼女は何度話しかけても中々起きない自分を居住スペースに運ぼうとしたのだが、自分を抱き上げたまま工廠まで移動するのは骨が折れると判断し、いっそ目が覚めるまでここで寝かせる事にしたのだろう
そう考えた彼女は自分が風邪をひかないようにと、自分の居住スペースからタオルケットを持ち出しかけてくれたのだと空は考えた
だがそうなると疑問に思う点が1つ浮かび上がる、何故翔鶴はタオルケットを持ってくるついでに枕を持ってこなかったのか……。そこまで考えたところで、空はある仮説を立てる
もしかして翔鶴は意図的に枕を持って来ず、自分の膝を使って膝枕をしているのではないかと……
そう考えた途端、空の頭の中で完全勝利した時専用BGMが流れ始める。それと同時に身体中に力が漲り未だ身体に残っていた疲労感が全て吹き飛んでしまう、今までのアプローチは全て無駄ではなかったと……、頑張って来た甲斐があったと……、そんな事を考えながら空は心の中で右腕を天高く掲げるのであった
「あの……、空さん……?」
空がそんな事を考えていると、不意に翔鶴が不思議そうに空の顔を覗き込む、それに気付いた空は柄にもなく慌て……
「ああ、いや、何でもない、気にしないでくれ。それよりも俺はもう大丈夫だ、ずっと俺の頭を乗せてて辛かっただろう、すぐ退くから……」
そう言いながら空は身体を起こそうとするのだが、それを翔鶴にやんわりと止められてしまう
「空さんは3日も寝てないんですよね?もしかしたらまだ疲れが残ってるかもしれません、だからもうしばらくゆっくりしてていいんですよ?」
彼女はそう言うのだが、空の方は先程の思考で疲労感は消滅し、修羅をも凌駕する存在となってしまっており、今ならヌ級すら容易く倒せるだろうと思えるほど気分が高揚しているのである
ただまあ、空も男なので今の光景と翔鶴の感触を満喫したいとは思うのであるが、理性がそれを許してくれず、翔鶴にこれ以上迷惑を掛けまいと何とか起き上がる方法を模索する。そして……
「それなら問題ない」
「えっ?」
空は翔鶴に向かってそう言って、正蔵との修行の際に極める事に成功した【集気法】を使って見せるのであった
翔鶴は突然キラキラと輝き出す空を見て驚き、それが収まった後に空にこの現象の事を尋ねて更に驚くのであった
「これが空さんの能力……」
「厳密には違うのだが……、まあ些細な事だな。っとそれはそうと本当に済まなかったな、翔鶴にも予定があるのにこんな事に付き合わせてしまって」
「あっいえ、お気になさらないで下さい。実は今日は朝の哨戒の後はお休みになっていて、これと言った予定がないんです」
空と翔鶴がこのようなやり取りを交わしている中、翔鶴の言葉を聞いた空に電流が走る……。予定がない……、だと……?その瞬間、空は物凄い速度で思考を巡らせある事を思いつくのであった
「そうか……、予定がないのか……」
「はい……、実は哨戒任務が終わった後はどうしようかと悩んでいたところなんですよ……」
「ふむ……、だったら翔鶴、少し付き合ってもらえないか?」
翔鶴が予定について悩んでいたと聞いた空は、先程の思い付きを実行に移す為にそう切り出すのであった
「あっはい、それで何をしたらいいのでしょう?」
「何、大した事じゃない、ちょっと俺と一緒にシドニーに買い物に行かないか?」
空の言葉を聞いた翔鶴が、瞬時に顔を真っ赤にして硬直してしまう。そう、空が先程思いついたのは翔鶴とデートしようというものだったのである
「居住スペースを作った時に気が付いたのだが、俺の服が現状これしか無いのでな、洗い替えや部屋着、外出用の服も確保しておきたいんだ。だが俺のセンスだと周囲にドン引きされてしまう事が多くてだな……、そこで翔鶴に俺に合いそうな服を選んでもらおうと思ってるんだが……、頼めるか?」
空は今自分が着ている空母棲姫の服を引っ張りながらそう言うのであった、服飾に関しては司に頼めば間違いないのだが、生憎その司が輸送船護衛艦隊の護衛に出ている為服を作ってもらうのに時間が掛かり過ぎてしまうのである
泊地の修繕をしながら龍気の事と並行して服の事を考えた結果、買った方が早いと思い至り機会があれば買いに行こうと考えていたところで、今回の翔鶴の発言が飛び出して来たのである。こうして空はこれ幸いとばかりに思考を巡らせてこれを理由に翔鶴をデートに誘おうと考えたのだ
「えっ……、あの……、それって……?」
「まあ、そういう事になるな……。……もしかして嫌だったか?」
我に返った翔鶴がアタフタしながら何かを言おうとしたので、空はその内容を察して翔鶴の言葉を肯定した後少々悲し気に翔鶴にそう尋ねる。すると……
「いっいえっ!全然そんな事はなくてっ!そのっ!えっと……、はっはいっ!この翔鶴、その任を全力で全うさせて頂きます!」
かなり緊張した様子で翔鶴はそう答え、準備があるからと言い残しそそくさと自室に戻ってくのであった
その場に残された空は提督に外出許可をもらう為に執務室に向かい、超ハイテンションになっている提督から翔鶴の分と合わせて許可をもらい、翔鶴と待ち合わせしている間にシドニーのショップ関係の情報を徹底的に集め、その脳内に刻み込むのであった
因みに、何故提督がハイテンションになっているかについてだが、以前提督が戦治郎に頼んでいたガンダム型パワードスーツが完成したとの情報を受けたのが原因だったりするのである