先程の宣言の後から翔鶴の様子がおかしい……、そう思った空が翔鶴に話しかけたところ……
「どうしました?」
翔鶴は笑みを浮かべながらこの様に返すのだが、空はその笑顔に途轍もない威圧感を感じ押し黙ってしまうのであった……。後に空はこう語る……
「あの時の翔鶴には、やると言ったらやる……『凄味』があったッ!」
そして翔鶴に気圧された空は大人しく翔鶴の後に続き、ショップ内のスーツ売場に辿り着くのであった。そしてその直後
「それでは空さん、私はこれから空さんによく似合うお洋服を選んで来ますので、空さんは試着室の中で待っていて下さい」
翔鶴がそう言い残してスーツ売場に向かい、真剣な眼差しで空のスーツを選び始める。そんな翔鶴の姿を見た空はあるものを思い出す、そう、今の翔鶴のその眼差しが敵艦を発見し攻撃を仕掛ける為に艦載機を発艦させる際、矢をつがえ狙いを澄ます時の眼差しと全く同じである事を思い出してしまうのであった……
そうまでして自分の服を選んでくれる翔鶴に対して、空は感動を覚え彼女を信じて言われた通りに試着室の中で待機する事にしたのであった。それからしばらくしたところで、翔鶴が大量のスーツを抱えて試着室のカーテンを開き
「お待たせしました!取り敢えず目ぼしい物を持ってきましたので、試着してみて下さい!」
そう言って先程選んだ大量のスーツを空に手渡すと、翔鶴は試着室のカーテンを閉じて空が着替えるのを試着室の外で待つのであった
ただその時、翔鶴の目がやたらキラキラと輝いていた事に空が気付く。それは何処からどう見ても空のスーツ姿を期待する眼差しであった
こうして空は翔鶴が選んだスーツを試着する事になったのだが、空はその手の中にあるスーツを見て少々困惑してしまうのであった。何故なら翔鶴が選んだスーツは全て黒、男は黒に染まれと言わんばかりに真っ黒だったのである
「まるで礼服だな……」
空は思わずそう呟きながらも、翔鶴の期待に応える為にも着替え始めるのであった
「お疲れ様でした、空さんはスタイルがいいのでどのスーツも本当によく似合いますね……」
翔鶴が持って来た分の最後のスーツの試着を終わらせたところで、翔鶴がウットリしながらこのような事を言うのであった
「そうか、ありがとう翔鶴。しかし、最初は黒のスーツばかりで困惑してしまったが、実際に着てみると中々良いものだな。この身体だと特にそう感じるな」
空は翔鶴に礼を述べ、試着室の中で考えた事を思い返す
翔鶴に渡されたスーツに袖を通し、試着室の鏡を見た空は思わず感嘆の声を上げるのであった。今まで着ていた空母棲姫の服もそうなのだが、空母棲姫となった空のその真っ白な肌や髪とスーツの黒が鮮やかなコントラストを描き、美しさを見事に演出していたのである
これが他の色だったらこうはいかなかっただろう、まあネイビー系の色だったらまだマシではあるだろうが……、空は鏡に映る自分の姿を見ながらそんな事を考えるのであった
「ええ、私もその事を頭の隅に置きながら選んでみたんです。ちょっと不安だったんですけど、空さんに気に入ってもらえたようで本当に良かったです♪」
自分が選んだスーツを気に入ってもらえたのが嬉しかったのか、翔鶴は微笑みながらこの様な言葉を紡ぐのであった
「そのおかげでどれを買うか本当に迷う事になったがな……、取り敢えずこの3着を買おうと思う」
空はそう言って3ピースと言うジャケット、ベスト、スラックスがセットになっているスーツを3着購入する事にした。この3着は色が黒でスラックスがワンタックであるところまでは共通なのだが、襟の形状がノッチド・ラペル、ピークド・ラペル、ピークド・スリムとそれぞれ異なる形状をしていたりするのであった
空がその3着を手にレジに向かおうとしたその時だった
「あの……、空さん……?ちょっとお願いが……」
「……っ!……どうしたんだ?」
翔鶴が空の服を引きながら、上目遣いでお願いして来たのである。空はそんな翔鶴の姿を見た瞬間昇天しそうになるのだが、何とか踏みとどまってその映像を脳内翔鶴フォルダに保存しながら返事をする
「ちょっと空さんに試着してもらいたい服を見つけてしまいまして……」
翔鶴は上目遣いのまま、申し訳なさそうに、オズオズとした様子でそんな事を言ってきたのである。空はその様子を今度は動画として翔鶴フォルダに保存しながら、服を選んでくれたお礼と言う事で翔鶴のお願いを聞く事にしたのだった
そういう訳で翔鶴のお願いを聞く為に、彼女の後に続いて目的地に向かった空だったが、そこに並んでいるスーツを見て思わず驚愕してしまうのであった
そこにはモーニングコートや燕尾服と言った、格式の高い礼服ばかりが並んでいたのである。我に返った空がまさかと思いながら翔鶴の方を見ると、彼女は先程よりも強く目を輝かせながら空の事を見つめていたのである
翔鶴のお願い……、それはモーニングコートや燕尾服を着た空の姿を見せて欲しいと言うものだったのである
ここで空はある推測をするのであった、もしかしてこの翔鶴は制服フェチ……、正確にはスーツフェチなのではないかと言うものである
未だに期待の眼差しを空に向ける翔鶴、その瞳を濁らせる訳にはいかない、先程の約束を違える訳にはいかない……、そう思った空は意を決してモーニングコート一式と燕尾服一式を手に取り試着室へと突撃する。そんな空の背中を翔鶴は満面の笑みを浮かべながら追いかけ、先程と同様に空が着替え終わるのを試着室の外で待つのであった
試着室の中、燕尾服に着替えた空が改めて今の自分の姿を鏡で確認する。するとそこには燕尾服を身に纏った見目麗しい空母棲姫の姿が映されるのであった
それを見た空は何とも言えない複雑な気分になるのだが、それを頭から追い出すように首を振り、これも翔鶴の為だと決心し試着室のカーテンを勢いよく開く。すると勢いよく開いたカーテンに驚いた翔鶴がそちらに目を向けた際に空と目が合い、それを認識したところで翔鶴は空が着替え終わった事に気付いてすぐさま空を頭のてっぺんから爪先までじっくり観察し……
その身体をキラキラと輝かせるのであった、その様子を見た空は翔鶴がスーツフェチである事を確信するのであった
その後空が翔鶴に感想を聞く為に話し掛けるのだが、翔鶴は自分の世界に旅立ってしまった様で全く反応してくれなかった
そういう訳で空は燕尾服の感想を聞くのを後回しにし、今度はモーニングコートに着替え始めるのであった。その最中に翔鶴が我に返り、慌てた様子で何か言っていたのだが今はスルーしようと思う空であった
そしてモーニングコートに着替え終わった空が再び翔鶴の前に姿を現す、すると翔鶴は先程までアタフタしていたのを急に止め無言で空の姿を観察し、静かに……、ただ静かに……、一筋の鼻血を垂らすのであった……
「まさか鼻血を垂らすとは……、翔鶴、いくら何でも興奮し過ぎだ……」
「……えっ?……あぁっ!すみません!本当にすみませんっ!!!」
今度は話し掛けたところですぐに我に返る翔鶴、そして空の言葉を聞いたところで自分の鼻に手を当て、その手に血が付いている事に気付いたらまたもやアタフタと慌てふためき出すのであった。そんな翔鶴の様子を見た空は、自分のいつもの服からハンカチを取り出して翔鶴を落ち着かせてから、翔鶴の頬にそっと手を添えながらその鼻血を優しく拭ってあげるのであった