「その……、さっきはごめんなさい……」
ようやく落ち着いた愛宕がシゲに対して心から申し訳なさそうに謝罪する、あの後摩耶と愛宕のやり取りを聞いた戦治郎が、愛宕に摩耶が海賊団にいる理由と今現在トラック泊地がどうなっているかについて説明したところ、愛宕は震える声で感謝の言葉を述べながらこの場にいない戦治郎に向かって何度も何度も頭を下げるのであった
摩耶の声を聞いた後の愛宕は、シゲ達がよく知るいつもの愛宕へと戻っていた。恐らく彼女が深海棲艦を憎む理由だった摩耶が健在である事を知り、彼女から深海棲艦への憎悪が消えた為こうなったのだとシゲは予想する
「気にしちゃいねぇ、そう言う理由だったらああなってもおかしくねぇと俺も思うからな。っと、そういや愛宕さんにいくつか聞きたい事があったんだわ」
シゲそう言って愛宕の謝罪を受け取った後、まずは佐渡達が何処にいるか知らないかを愛宕に尋ねるのであった
「佐渡ちゃん達は私が貴方達と対峙したあの時から何処にも移動していなかったら、提督の執務室にいるはずよ。あの子達を秘書艦として執務室に連れて行ったのは私だからね……」
彼女はそう言った後、その表情を暗くする。恐らく自分が佐渡達に行った行為に対して、今になって罪悪感が湧いたのだと思われる
「これ終わった後2人に謝罪したらいいだろ、今は落ち込むより2人を助ける事が大事、そうだろ?」
「そう……、そうよね、うん、きっとそう!2人にちゃんと謝る為にもまずはあの子達を助けてあげなきゃねっ!」
シゲと愛宕がこの様なやり取りを交わした後、シゲが愛宕にいくつかの質問を投げかけ、その答えを聞いたところで現在絶賛逃走中の伊吹に合流を提案、伊吹がそれを承諾したところで合流地点を指定して愛宕と共にその場所へと移動を開始するのであった
伊吹より先に合流地点に到着したシゲ達は、シゲの迦具土の事を話しながら伊吹を待つ事にしたのだった
「シゲさんにはそんな力があったんですか……、道理で砲弾が途中で消えちゃう訳ね……」
「あの時は自分の周囲の気温を爆上げして、範囲内に入った砲弾を一気に加熱してプラズマ化させてたんですよ。まあ調整ミスったら天井と床が大炎上しちまうんですけどね~……」
「攻撃にも防御にも使えるけど、ちょっとしたミスで味方にも被害を出しちゃう諸刃の剣って感じなのね~……。っとそう言えば何で敬語なんです?逃げてる時はもっと砕けた感じだったのに……」
「いや、あの時はまさか貴女が摩耶の姉ちゃんだとは思わなかったので……、一応この世界の艦娘やら艤装やらの仕様については聞いていますので、もしかしたら姉妹艦ではあるけど血縁関係は無いだろうな~とか思ってましたので……。って言うか愛宕さんも今敬語じゃないですか……」
シゲと愛宕がこんなやり取りを交わしていると……
「ふんぬらばあああぁぁぁーーーっ!!!」
雄叫びを上げながら伊吹がシゲ達がいる方へと全力疾走してくるのであった、そんな伊吹の背後には夥しい数の艦娘達が迫っていたのであった
「お~お~、大漁じゃねぇか伊吹!もしかしてこれトラック泊地の艦娘全部いるんじゃね?」
「いえ、佐渡ちゃん達は兎も角、那智と隼鷹の姿が見えないわ……。恐らくあの2人はまだ外にいるんじゃないかしら?」
「そがいな事言うとらんで早う何とかせえええぇぇぇーーーっ!!!なんかええ考えがあるんじゃろうがあああぁぁぁーーーっ!!!」
伊吹の様子を見たシゲと愛宕が暢気にそんな事を言ったところで、伊吹が咆哮を上げるのであった。それを聞いたシゲは自身が思いついた策を実行する為に伊吹の方へと駆けだし、伊吹とすれ違った際シゲは伊吹に愛宕さんを頼むと言って艦娘達の目の前に立ち塞がる様に停止、艦娘達に威圧感をぶつけてたじろがせる事で彼女達の足止めを図り、伊吹はシゲに言われた通り走りながら愛宕の身体を抱き上げて、そのまま奥へと姿を消すのであった
「今度はあんたが囮になるって言うのっ?!」
「残念だが、そんなつもりは毛頭……、ねぇよっ!!!」
艦娘達がシゲに向かって大声を張り上げながらそう尋ねると、シゲはそう答えながらすぐさましゃがみ込んで両手で床を勢いよく叩く。その直後シゲの背後と艦娘達の背後に突然炎のような物で形成された壁が発生するのであった、その壁のすぐ傍に立っていた艦娘達は、その壁から発生する熱に驚き思わず壁から離れる様に飛び退くのであった
「こ、これは一体……っ!?」
「あちぃだろ?その壁に触れたら火傷じゃすまねぇぜ?」
突然の事態に騒然とする艦娘達に向かって、シゲはニヤリと笑いながらそう言い放つ。そして……
「事が終わるまでその中で大人しくしてなっ!んじゃあばよっ!!!」
シゲは艦娘達にそう言い残し、その壁を通過して伊吹達の後を追うのであった
「シゲ、あの娘達に一体何したんじゃ?さっきから追っかけてこんのじゃが……?」
「あの娘達ならさっき俺が発生させた高温プラズマジェットの壁に閉じ込められてるぜ」
「高温プラズマジェットと来たか……、またエグいモン出しおって……」
「あの……、高温プラズマジェットって……?」
「金属を簡単に溶断出来る光線みたいな物だと思ってもらえたらいいですよ」
「ちょっとでも触ったら、触れたところが即御釈迦になるのは間違いないのう」
「えぇ……」
3人はこの様なやり取りを交わしながら、佐渡達がいるであろうトラック泊地の執務室へと向かう。そして3人が執務室の扉に立ったところで、室内からシゲ達にとっては聞き慣れた乾いた音が鳴り響くのであった
その音を聞いた瞬間、シゲと伊吹は同時に執務室の扉を蹴破り中へと侵入する。そして2人が室内であるものを見た途端驚きのあまりその目を見開くのであった
2人が見たもの、それは銃口から煙を吐き出すハンドガンを佐渡に向けるトラック泊地の提督と、右太ももを撃ち抜かれその白いストッキングを赤く染めて蹲る占守、そんな占守に懸命に声を掛ける佐渡の姿だったのである
その後遅れて執務室に入って来た愛宕は、目の前に広がる光景を目の当たりにすると驚愕しながらその口元を両手で押さえて硬直してしまうのであった
シゲと伊吹が頭の中で状況を整理したところで2人の怒りは臨界点を突破、すぐさま2人は提督に向かって何かを叫ぼうとするのだが……
「ずぇあああぁぁぁーーーっ!!!」
誰かの雄叫びと共に、大きな何かが執務室の壁を外から突き破って侵入してくるのであった
「な、何だっ!?」
突然の出来事に驚くトラック提督が壁の方へと視線を向けると、巻き上がる砂埃の中から緑色に輝く双眸がトラック提督を射抜くように見据えるのであった
「よう、トラックの……、面白れぇ事やってんじゃねぇか……、ええ……?」
その声が執務室内に響き渡ると同時に砂埃が晴れ、執務室にド派手に侵入して来たものの正体が明らかになる。そう、それは空達と共にウェーク島の増援部隊を叩きに行ったはずの燎のディープストライカーだったのである
「その声は源少将っ!?何故お前がここにっ?!いや、それ以前にそれは一体何だっ!??」
「うるせえええぇぇぇーーーっ!!!」
トラック提督は動揺しながらも燎に何かを問い質そうとするのだが、それを燎が遮る様に叫びながら、ビーム・スマートガンの砲身でトラック提督を殴り飛ばすのであった
目の前に広がる光景を見て呆然としていたシゲ達は燎の叫びを耳にした途端我に返り、大急ぎで佐渡達の下へと駆け寄り、トラック提督に撃ち抜かれたであろう占守の右太ももに悟直伝の応急処置を施すのであった
「貴様……っ!何を……っ?!」
「黙れゴラァッ!!!」
燎を睨みながら呻く様に声を上げるトラック提督に対して、追撃とばかりに燎がビーム・スマートガンの砲身をその脳天に叩き込む。何故ビーム・スマートガンでばかり殴打するのかについては、それしか手頃な鈍器がディープストライカーには装備されてないからである
「例のヌ級に所属艦娘をやられっちまってから、お前はホントに変わっちまったよな……、昔のお前は仏だとか慈愛の塊だとか言われてたのによぉ……。ああ、そうか……、お前は優し過ぎたからそうなっちまったのか……」
燎はトラック提督をディープストライカーのメインカメラ越しに、まるでゴミを見る様な目で見据えながら、悲し気にそう呟くのであった……
「分かっているなら、何故邪魔をするっ!!!この泊地に大量の深海棲艦が押し寄せて来ているのだぞっ?!!それらを全て殲滅しないとどうなるか分かっているのかっ!!!お前はラバウルの悲劇を繰り返そうと言うのかっ!??」
「繰り返そうとしてるのはてめぇの方なんだよばっきゃろおぉっ!!!」
燎の呟きを聞いたトラック提督がそう反論するのだが、それを聞いた燎が雰囲気を一転させありったけの激情を乗せた叫びを上げるのであった
「戦況をよく見やがれっ!誰と誰が戦っているっ?!深海棲艦同士が戦ってんだろがっ!!!それを見てお前はおかしいとか思わねぇのかっ!??」
「同士討ちならば殲滅するチャンスだろうっ!!!まさかお前はそのどちらかが人類の味方だとでも言うつもりなのかっ??!笑わせるなっ!!!深海棲艦は全て人類の敵だろうがっ!!!」
「笑わせんなはこっちのセリフだあああぁぁぁーーーっ!!!」
遂にブチギレた燎がディープストライカーの主砲砲身ユニットの砲身で、掬い上げる様にしながらトラック提督の腹を思いっきり殴りつけるのであった
「うわぁ……、あれぜってぇ痛ぇぞ……」
「おぉ怖い怖い……、桑原桑原……」
その様子を見ていたシゲと伊吹が、思わずそう呟くのであった……
「前に日本海軍に所属する全提督宛てに大本営の長門の報告書が回って来たのは知ってるだろうっ!!?まさか知らんと言うつもりじゃねぇだろうなぁっ!!!えぇっ?!!」
「そんな物は知らんっ!!!知った事では無いっ!!!深海棲艦は……、あの娘達の命を奪った深海棲艦は全て皆殺しにするべきなんだあああぁぁぁーーーっ!!!」
燎の叫びに対して、トラック提督がそう叫び返した直後である
ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュッ!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥッ!!!
トラック提督の尻からこの様な音が鳴り響くと同時に、執務室内に不快な臭いが漂い始めるのであった……
「うげぇっ!!!あいつまさか力一杯叫んだせいでクソ漏らしおったんかっ?!?」
「ちょっと待て伊吹……、あいつ白目剥いてねぇ……?」
「白目って……、まさかこいつ憤死したんじゃねぇだろうなっ?!」
絶叫と脱糞の末、白目を剥いたまま動かなくなったトラック提督を見たシゲ達は、慌てて彼の脈の有無を確認しトラック提督が気絶しただけだと判明したところで胸を撫で下ろし、すぐさま彼を拘束して床に転がすと、シゲが負傷した占守を抱きかかえて燎のディープストライカーのレドーム側の肩に乗り、治療の為に悟の下へと急行するのであった