空と雲龍が一騎打ち演習をしていた頃、自室で欧州観光中に撮影していた写真の整理をしていた時雨は、改修作業の予定時刻となった為写真整理を中断し工廠へと向かっていた
この時雨、写真撮影が趣味で機会があればお気に入りのカメラを片手にフラフラと出掛け、自分が素晴らしいと思った風景や珍しいと思った物を撮影し、その写真を撮った時の出来事を思い出しながら現像した写真を整理しアルバムに収める事を楽しみとしているのである
この間の輸送護衛任務の時も、前情報として欧州観光をする時間があるかもしれないと聞くとすぐに荷物の中にカメラを入れ、観光中は皆と行動を共にしながら多くの写真をそのカメラで撮影していたのだった。先程彼女が整理していた写真は、その作戦に参加していた皆に配る用の写真だったりするのである
「皆、喜んでくれるかな……?」
時雨がそう呟いたところで上空から轟音が聞こえて来る、彼女は何事かと思いながら空を見上げると、そこにはライトニングⅡに乗って上空を縦横無尽に飛び回る空とそんな彼を追い回す雲龍の航空隊の姿が見えるのであった
「……これはちょっと遅くなりそうだね……」
頭の中で思った事をつい零してしまう時雨、その後彼女は自室に戻って写真整理の続きをするか、空の居住スペースで空達が戻るのを待たせてもらうかで悩んだ末、後者を選択して工廠の扉を開いて中に入り、バーナー妖精さんの案内のもと空の居住スペースに辿り着くのであった
時雨はバーナー妖精さんに一言お礼を言って、その背中を見送った後居住スペースに入ろうとしたのだが……
「ナナナナーナナナナーナナナナナー♪ナナナーナナナーナナーナーナーナー♪」
中から聞こえて来た歌声の様なものと、ゴォーっと言う音に反応してその足を止めて警戒し始める。居住スペースの中に誰かがいて何かを用いて何かをやっている……、一体誰が……?何のために……?そんな事を考えながら、時雨は居住スペースの中にいる存在に気付かれないよう細心の注意を払いながら、その身を隠し中の様子をこっそりと窺うのであった。そんな彼女の目に飛び込んで来たのは……
「ナナナナナーナナー♪」
何かの歌を歌いながら居住スペースに掃除機をかける、空の艦載機の姿であった……
その光景を目の当たりにした時雨は、思わず前のめりにズッコケそうになりその拍子に工廠と居住スペースを仕切る壁と言っても差支えが無さそうなパテーションに、自身の頭をぶつけてしまうのであった……
「むっ!?誰だナーッ!!!」
その時に発生したゴンッと言う鈍い音で、居住スペース内部にいる空の艦載機が時雨の存在に気付く。その叫びを聞いた時雨は降参とばかりに両手を上げ、苦笑いを浮かべながら艦載機の前にその姿を現すのだった
「何だ時雨かナー、確か今日改二改修をやる予定になってたんだったかナー?でもまだご主人は戻って来てないナー、一体ご主人は何をしてるんだナー?もう時間になっているはずなのにナー?」
「それなんだけど……」
時雨の姿を確認した艦載機は、不思議そうに小首を傾げる様に空中に滞空するその機体を傾けながらそう言った。それに対して時雨は先程工廠の上空で見たものと、自分がここにいる理由について話し始めるのであった
「そんな事になってたのかナー……、ちょっとワイルド達が羨ましいのナー……。っと今はそれどころじゃなかったのナー、そう言う事ならここでご主人の事を待ってるといいナー。今ナーが掃除しているからちょっとうるさいかもしれないナー、でもそこはちょっと我慢して欲しいのナー」
「ありがとう……、えっと……「トムだナー」、トムだね、ありがとうトム」
トムは事情を聞くと時雨にここで待っていていいと許可を出し、すぐに掃除を再開するのであった。そんな時雨はトムに一言お礼を言うと、空の事を待ちながらトムの事を観察し始めるのであった
「……さっきからナーの事見てるけど、何か気になる事でもあるのかナー?」
「あ、うん……、ちょっとだけね……」
時雨の視線に不快感を覚えたトムが時雨にそう尋ねてみると、時雨は歯切れの悪い返事をして困った様な表情を浮かべるのであった……
「気になる事があるなら聞いてもいいのナー、その方がお互いスッキリすると思うナー」
トムのこの言葉を聞いた時雨は、ちょっとだけ覚悟を完了させたのか真剣な表情を浮かべてトムに質問するのであった
「じゃあお言葉に甘えて……、トム、君は何でこんなところで掃除なんかやっているんだい?空さんの艦載機だったら普通は空さんに付いて行って皆の訓練の手伝いをするものじゃないのかい?」
「あ~……、その事かナー……、それについてだけどナー……」
時雨の質問を聞いたトムは、自身の舌で掃除機のスイッチを切った後、困った様な表情を浮かべながら時雨の質問に答えるのであった……
何とこのトム、今の空の艤装では武装した状態で発艦する事が出来ないのだと言うのである。もし彼を発艦させようと思ったら、『試製甲板カタパルト』なる物が必要なんだとか……。一応空に投擲してもらったり、航空基地を使ったりしたら飛ぶ事は出来るそうなのだが、前者の場合空の投球(?)速度が尋常ではないせいでトムがしょっちゅう空中で気絶して墜落、発艦成功率が著しく低い為、後者の場合航空基地からしか発艦出来ない艦載機と言う矛盾を空に突きつけてしまい、空を大いに悩ませてしまった為この2つの方法でトムを発艦させるのは禁止になったのだとか……
「ご主人は旅の途中、どっかでそれを拾えるだろうと思ってたみたいで、これまで自作しようとは思っていなかったみたいなのナー」
「そうだったのか……、しかし『試製甲板カタパルト』……?そんな物の名前は今まで1度も聞いた事が無いな……「そう!ソコナーッ!!!」えっ?」
自分が話しているところに突然割って入って来たトムに、時雨はつい驚いてしまう。そんな時雨の事など気にも留めず、トムは話を続けるのであった
「これはこの工廠に来た時聞いた事なんだけどナー、何とこの世界には試製甲板カタパルトがまだ生まれていないみたいなんだナー。妖精さん達の方もまだ企画段階とか言ってたんだナー」
その言葉を聞いた時雨は思わず驚愕してしまう、まさか彼をまともに飛ばす為にはこの世界に存在しない技術を使う必要があるのかと……。時雨はそんな事を考えながら驚きの表情のまま固まってしまうのだが、とある事を思い出して今度は不思議そうな表情を浮かべる……
「その表情をみる限り、時雨は気付いたみたいだナー……」
そんな時雨の表情を見たトムがそう呟く、その呟きを聞いた時雨が思った事を口にしようとしたところで……
「言わなくても分かっているナー、実際ご主人はそのつもりなのナー」
トムが時雨の発言を遮るようにそう言って、更に言葉を続ける
「ご主人は時雨達の改修作業の後、自分が持っている技術を全て使ってこの世界に『試製甲板カタパルト』などを生み出すつもりなのナー」
やっぱりか……、トムの言葉を聞いた時雨は心の中でそう呟くのであった。艤装やパワードスーツに飛行能力を付与する事が出来るほどの技術力を持った空達に、その『試製甲板カタパルト』とやらを作れないという理由がない、時雨はそう思ったのである
「まあその作業に取り掛かる為には、まずは時雨達の改修作業を終わらせないといけないナー。そう言う話になってるみたいだからナー」
トムの最後の発言が気になった時雨がトムにどう言う事なのかを尋ねたところ、どうやら空は試製甲板カタパルトの開発を許可してもらう為に、時雨達の改修作業を引き受けたという事だった
「取り敢えず、何をするにしてもまずはご主人が戻ってこない事には話が始まらないのナー。って事でナーはご主人を待ってる間ここを掃除してるナー、時雨はそれまでゆっくりしていくといいナー」
「いや、僕も掃除を手伝うよ。何かやってた方が時間が早く過ぎる様な気がするからね」
こうして時雨は空がここに戻るまでの間、トムと共に空の居住スペースを雑談を交わしながら掃除する事にしたのであった