時雨達の改二改修が終わった後、空はすぐさま試製甲板カタパルトの開発に着手した訳だが……
それ以来空は工廠に籠りっぱなしになり、ここ2日ほど皆の前に姿を見せなくなってしまったのである
食事の時も食堂まで妖精さんが代わりに食べ物を取りに来ていたり、艦娘達の出撃時や帰還時の艤装の出し入れに関しては工廠の入口で妖精さんが受け渡しを受け付けていたりと、何が何でも工廠から出ようとはせず、誰とも一切会おうともせず、それどころか関係者以外の工廠への立ち入りも徹底して禁止していたりするのである
空が工廠に籠って1日が過ぎた時、燎が提督権限で無理矢理工廠の中へ入ったのだが、その数分後、顔を青ざめさせた燎がフラフラと外に出て来て空が出て来るまで工廠への立ち入りを禁止してしまうのであった
その際燎が譫言の様に「アカン……、あれはマジでアカン奴や……」と言っていた為、艦娘達も怖がりしばらくの間工廠には近づくまいと心に誓うのだった……
たった1人を除いてだが……
「んで、そんな空の様子を見たいから俺の力を借りたい、と……」
「はい……、入口の妖精さん達にお願いしても空さんの指示だと言って追い返されてしまいますし、提督や他の娘達に声を掛けても断られてしまいまして……。こうなると頼れるのが空さんの親友である戦治郎さんくらいしかいなくて……」
ガダルカナル島にある穏健派深海棲艦の総本山である拠点の中にあるリチャードの執務室にて、困った顔をした戦治郎と今にも泣き出しそうな顔をした翔鶴が、この様なやり取りを交わしていた
空の事を心配した翔鶴が、遂に耐えきれなくなってしまい提督の許可を得て空の親友である戦治郎がいるガダルカナル島へ、空の様子を確認する為に力を貸して欲しいとお願いする為に、穏健派の護衛艦隊4艦隊に守られながやって来たのである
因みに護衛艦隊が4艦隊も付いて来たのは、翔鶴がヌ級のターゲットである事を考慮しての事である
「空の親友である俺の頼みだったら空も簡単には断れない……、そう考えて俺のとこに来た訳か……」
「はい……、お願い出来ませんか……?」
戦治郎がそう言った後、翔鶴は涙を浮かべながら戦治郎に懇願してくる
「実はその事なんだが……」
そんな翔鶴に戦治郎がある事を話そうとしたその時だった
「アニキ~、愛宕山 重雄、只今参上しましたよ~っと」
こんな事を言いながら、執務室の扉を開いてシゲが中に入って来るのであった。そしてシゲが翔鶴の姿を見るなり
「……って翔鶴さん?何でここにいるんです?」
不思議そうな顔をしながら翔鶴にそう尋ねる、対して翔鶴は突然現れたシゲに驚いた事と何故シゲがここに来たのかが分からない事が重なり、オロオロし始めるのであった
「あ~……、俺の方から説明するわ、それでいいよな?」
そんな2人に向かって戦治郎がそう言うと、2人は戦治郎の方へ向き直るなり頷いて返す。その様子を見た戦治郎がお互いの事情について話し始めるのであった
翔鶴サイドの事情を聞いたシゲは納得したとばかりに大きく頷いて見せると
「そう言う事ならマジ丁度良かったかもしれませんね」
「んだな、しっかし空の奴……、惚れた女をホイホイ泣かしてんじゃねぇよ全く……」
「あ~……、俺は空さんの気持ちが分からんでもないんですよね~……、ほら、俺ってたまに人間溶鉱炉やるじゃないですか……」
「ああ、こないだ出力調整ミスって要塞の工廠吹き飛ばしたアレか……、それ言われるとまあ……なぁ……」
そう言って頭の上に疑問符を浮かべる翔鶴の事をそっちのけで、戦治郎とシゲは2人だけで話をし始めるのであった
「あの……、丁度いいと言うのは……?」
そんな2人の会話に、オズオズとしながら翔鶴が参加しようとしたところ、戦治郎は一言詫びを入れてから自分達の事情を翔鶴に話す
「さっき言いかけてた事なんだけどな、実は俺とシゲは昨日の夜、空から応援を頼まれたんだわ」
「何かカタパルトの開発が思った以上に難航してるから、力を貸して欲しいって言われたんですよ、俺達」
「んで、どうせだから一緒に行くかって事で俺はシゲをここで待ってたら翔鶴が来たわけよ」
「もしかしたら俺達に便乗する形で中入って、空さんの様子見る事が出来るかもしれない。そう言う訳で丁度いいって言ったんですわ」
「そう言う事だったんですね……、それで……」
交互に話す戦治郎とシゲの言葉を聞いた翔鶴が納得したところで、翔鶴が何かを言おうとするのだが
「みなまで言うな、当然付いて来ていいぞ」
戦治郎が翔鶴の言葉を遮り、自分達に同行するのを許可するのであった
その後翔鶴は戦治郎達に礼を言い、戦治郎達と共にショートランド泊地へと戻り空がいるであろう工廠へと向かう。そして戦治郎達と共に工廠の中に入ろうとした翔鶴を入口にいた妖精さん達が止めようとしたのだが……
「翔鶴には俺達の手伝いしてもらうんだ、そういう訳で翔鶴も中に入れさせてもらうぞ」
戦治郎がそう言って妖精さん達に睨みを利かせ、翔鶴を連れて工廠内へと足を踏み入れるのであった
「えぇっと……、これは……?」
「なあシゲェ……、ここってショートランド泊地の工廠だよな……?」
「その筈なんですけどねぇ……」
工廠の中に広がる光景を目の当たりにした3人が、口々に己が抱いた感想をもらす
3人が見た工廠の様子、それはまるで激戦区の戦場及び野戦病院の様になっており、空の居住スペース付近に敷かれた布団の中で呻き声を上げる妖精さんや、その場所に搬送されている最中の妖精さん、自力で動く事が出来ないのか倒れた状態で救助を待つ妖精さんの姿、更には至る所に散らばってしまった工具や作業用機械などが見受けられた。よく耳を澄ましてみると、居住スペースの方からも呻き声が聞こえてきていた為、戦治郎達は工廠内でとんでもない事が発生し甚大な被害を与えたと推測、そしてそれを意図的にやった存在がいるのではないかと予測するなり警戒心を高めるのであった
「……っ!?空さんっ?!」
そんな中翔鶴が壁にもたれ掛かりながら座り込む空の姿を発見し、急いで彼の下へと駆け寄って行く。その様子を見た戦治郎達も後を追い、空の容態を確認する
「空さんっ!しっかりして下さいっ!!」
空の身体を抱きかかえた翔鶴が必死になって彼に呼びかけると、空はうっすらと瞼を開けて……
「翔鶴……?何故ここに……?工廠への立ち入りは禁止していたはずだが……?」
蚊の鳴く様なか細い声でこの様な事を言うのであった
「翔鶴は俺達が連れて来たんだ、それはそうと空……、ここで一体何があったんだ?この惨状はどういう事なんだ……?」
「それなんだが……」
戦治郎がそう言うと、空は申し訳なさそうな顔をしながらこうなった経緯について話し始める。それを聞いた戦治郎達は思わず呆然としてしまうのであった……
この惨状の原因、それは空達が作った試製甲板カタパルトが原因だったのである……
「最初に試した時は豆鉄砲か何かかと思うほど、艦載機を撃ち出す力が弱くてな……。そう言う訳で調整を行って2度目のテストを行ったところ、今度は強くなり過ぎてしまって撃ち出した際に衝撃波が発生してしまってな……、工廠内にある工具や機械、そして妖精さん達を薙ぎ払うと言う甚大な被害が出てしまったのだ……」
「えぇ……」
空の言葉を聞いた翔鶴がドン引きしてしまう、そんな翔鶴の様子に気付いていないのか空は話を続けるのであった
「その後も何度も調整を行ったのだが……、豆鉄砲とレールガンを交互に繰り返すだけで、狙い通りに調整が出来なかったんだ……。工廠を立ち入り禁止にしたのはそれが原因だ……」
「極端過ぎィッ!!!何ですかその二極スイッチ調整はっ?!調整はダイヤル式だって教えたの空さんでしたよねっ!??何でそんな事になってるんですかっ??!」
「その原因が分からんからお前達を呼んだんだ……、そういう訳で済まんが戦治郎、こいつをちょっと見てもらえないか……?」
空はシゲの叫びにそう返しながらヨロヨロしながらも立ち上がり、その手に持った試製甲板カタパルトを戦治郎に手渡すのであった。そして……
「空さん……っ!無理しないで……」
カタパルトを戦治郎に預けた後、ふらつきながらも工具を取りに行こうとする空を翔鶴が呼び止めるのだが……
「済まない、翔鶴の頼みであってもそれは聞けないんだ……。このカタパルトは俺の専用装備ではない、お前も使う事になる物なんだ……。その辺りの話は戦治郎達から聞いていると思うのだが……?」
空はそう言って戦治郎達に視線を向けると、それに対して戦治郎達は静かに頷いて見せ、それを確認した空は視線を翔鶴の方へと戻し話の続きを話し出すのであった
「もしお前がこのカタパルトを使って、何かしらの被害を受けたとなると俺は死んでも死にきれなくなってしまう……。そんな思いを俺自身がしたくないから、お前をそんな目に遭わせたくないから……、だから俺は今、このカタパルトを完璧に仕上げたいと思っているんだ……。心配させてしまった事は本当に悪かったと思う……、だがこればかりはどうしても譲れない、譲ってはいけないんだ……。だからこれについてはどうにか堪えてもらえないか……?」
空が真剣な眼差しを翔鶴に向けながらそう訴え掛ける、そんな空の言葉を聞いた翔鶴は
「……分かりました、でもこれ以上は無理だと私が判断したらすぐに止めさせてもらいます。いいですよね?」
1度諦めた様な表情を浮かべた後、空同様真剣な眼差しを空にぶつけながらこの様に答えるのであった
「済まない……、ありがとう……」
「空ーっ!ちょっちいいかーっ?!」
空が翔鶴にそう答えた直後、早速カタパルトを分解して構造を見ていた戦治郎に呼ばれ、空は翔鶴に背を向けて戦治郎の下へと歩き出すのであった
その後、戦治郎達と調整したカタパルトの試運転を行ったところ、またしても衝撃波が発生し居住スペースで妖精さん達の看病をしていた翔鶴以外の3人が、まとめて工廠の壁に叩きつけられるのであった……