※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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ドラ猫、飛ぶ

ヌ級が放った爆撃機から自分目掛けて爆弾が投下される様子を目撃した翔鶴は、つい反射的に目を閉じ身体を縮こまらせ爆発に備えたのだが……

 

「ふっ!」

 

その声と共に誰かが自身の身体を抱き寄せ、その直後に頭上から爆発音が鳴り響く。爆発音が聞こえたにも関わらず衝撃や痛みを感じなかった事を不思議に思った翔鶴が、何が起こったのかを確認する為に恐る恐ると言った様子で瞼を持ち上げると……

 

「翔鶴、大丈夫か?」

 

翔鶴の視界には、彼女を庇う様に抱き締める空の顔が弩アップで映し出されていた

 

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

あまりに唐突な出来事に焦った彼女は、その顔を紅潮させながら慌てて返事をしてしまうのであった

 

その後ようやく落ち着いた翔鶴は、何が起こったのかを確認する為に周囲に視線を巡らせる。その時まず視界に入ったのはコンクリートの地面に機首を突き立て、両方の大型クローアームで翔鶴達を包む様にして守るテキサスの姿、そしてその次に翔鶴が見つけたのは空の腕から離れ、自分達の頭上で滞空する事でその身を挺してヌ級の爆撃から自分達を守ってくれているライトニングⅡの姿であった

 

翔鶴がライトニングⅡとテキサスに向かって感謝の言葉を述べ、改めて周囲の状況を確認した際、炎の海に沈み赤々と燃え上がる艦娘寮や執務室などがある本庁を目の当たりにし思わず絶句する

 

「俺達がヌ級の相手をしている間に、川内達が他の艦娘達を連れて脱出してくれていたおかげで人的被害は最小限に抑えられたが……、これは酷いな……」

 

その惨状を見た空が怒りで表情を歪め、ギリリと歯軋りをした後にそう呟いた。その際空の頭の中にふと悟の姿が浮かび上がる、悟が体験した大火災の時は凄まじい人的被害が出てしまった事を思い出し、悟の絶望感が如何ほどのものであったかを想像してしまい、空は思わず身震いしてしまうのであった……

 

『ぎゃーっはっはっはっはっはっ!!!どうした同胞~、早く俺を止めねぇと状況はもっと悪くなっちまうぜ~?』

 

空がふとそんな事を考えていると、耳障りな高笑いの後ヌ級がこの様な事を叫ぶ

 

『とか言ってたら町はっけ~ん!くくっ……、今の俺が何考えてるかくらい……、わかるよなぁっ!?同胞よおおおぉぉぉーーーっ!!!』

 

ヌ級がそう叫んだ刹那、空が弾かれる様にしてヌ級に飛び掛かる。その際空は自身の身体を空中で4回転半ほど横回転させその勢いを殺す事無くそのままヌ級に向かって回し蹴りを、【クワドラブル】を放つ。が……

 

『おめぇが何かしてくる事くらい……、お見通しなんだよおおおぉぉぉーーーっ!!!』

 

ヌ級はそう叫びながら空の足をガッチリと掴み、【どつきまわす】の時のお返しとばかりに何度も空をコンクリートの地面に叩きつける

 

「ぐぅっ!!?」

 

空の身体が叩きつけられる度にコンクリートが粉々に砕け空中に舞い上がる中、空がその痛みに耐える様な苦悶の声を上げる、それを聞いたヌ級がトドメとばかりに空の身体を持ち上げ、今まで以上の力で空を地面に叩きつけようとしたその時だ

 

「てんめえええぇぇぇーーーっ!!!」

 

突如姿を現した燎のディープストライカーが、ヌ級目掛けて突撃し凄まじい勢いで激突、思わぬ奇襲に動揺したヌ級はつい空の足を掴んでいた手の力を緩めてしまい、折角捕まえた空に逃げられてしまうのであった

 

「てめぇがっ!!!てめぇのせいでっ!!!泊地がっ!!!俺達の思い出がよおおおぉぉぉーーーっ!!!」

 

ヌ級と激突した状態のまま、燎は怒りの叫びを上げながら幾度となくビーム・スマートガンで、左腕のマルチセンサーでヌ級を殴打する。何度も何度も殴打するのであった

 

「それだけで飽き足らずっ!!!」

 

燎はそう叫びながらヌ級を思いっきり殴り、弾き飛ばしてしまう

 

「日向(ひなた)に……、俺の妻に大怪我させやがってよおおおぉぉぉーーーっ!!!ぜってぇぶっ殺してやるあああぁぁぁーーーっ!!!」

 

その直後、燎は主砲砲身ユニットを起動させ、ヌ級に照準を合わせ一切の躊躇いも無くその引き金を引き、ヌ級に巨大な熱線を浴びせるのであった

 

燎の怒りっぷりに困惑する空が翔鶴の方へ視線を送ると、翔鶴はある一点を見たまま両手で口を覆いながら驚愕の表情を浮かべる。翔鶴の表情からただ事ではない事を察知した空が、翔鶴が見ている方向に視線を送ると……、そこには鋼材が突き刺さった両足から夥しい量の血を流す日向の姿があったのである

 

そう、先程燎が叫んだ日向(ひなた)と言うのは燎の妻である日向の本名、源 日向(みなもと ひなた)の事だったのである

 

「日向っ!!!」「日向さんっ!??」

 

事態に気付いた空が、我に返った翔鶴が急いで駆け付け、すぐさま日向に応急処置を施す

 

「済まない……、どうやら足を引っ張ってしまったようだな……」

 

苦悶の表情を浮かべる日向が呟く様にそう言うと、空は首を横に振りながら

 

「そんな事は無い……、だから気にするな……。だがこれは一体……?」

 

日向に対してこの様に返す、それから空は応急処置の手を止める事無く日向からこうなった経緯を聞き出そうとするのだが……

 

その直後、尋常ではない規模の爆発音と……

 

「あがあああぁぁぁーーーっ!!!」

 

燎の悲痛の叫びが同時に響き渡るのだった……

 

何事かと思い空がヌ級と戦っている燎の方へと視線を向けると、そこには背中に資源保存庫の扉が突き刺さったディープストライカーの姿があった……

 

「燎っ!!!……つっ……っ!」

 

燎の凄惨な姿を目の当たりにした日向が思わず声を上げるのだが、直後に両足に激痛が走りその表情を歪める

 

『なんだよ……、かかったのは雑魚の方かよ……』

 

そんな中、ヌ級が心底つまらなそうにそう呟いた

 

日向の足に突き刺さった鋼材……、そして燎の背中に突き刺さった資源保存庫の扉……、実はこれら2つは全てヌ級が空に対して仕組んでおいた罠だったのである

 

このヌ級、泊地全体を爆撃した様に見せかけて工廠と資源保存庫には一切爆撃を行っていなかったのである。この2つに共通する物……、それは中に凶器になり得る物と爆発物が数多くある事……

 

そう、ヌ級はこれらを空が飛び出して来たところで爆破し、その爆発で吹き飛ばされた工具や作業用機械、鋼材、砲弾に建物の破片を用いて空にダメージを与えようとしたのである

 

空がヌ級に【クワドラブル】を放ったところでヌ級は工廠を爆破したのだが結果はヌ級にとっては空振り、破片や工具はまるで空を避ける様に飛んで行ってしまったのである。尤もそのせいで日向の両足に工廠内に残っていた鋼材が突き刺さり、日向を行動不能に追い込んだのだが、今のヌ級にとって日向の存在はすこぶるどうでもいい存在だった為、存在そのものをなかった事にされてしまうのであった

 

その後、空達が日向の応急処置を始めたところで今度は空達の近くにあった資源保存庫を爆撃したのだが、こちらは本命である空達にダメージを与える事こそ出来なかったが、主砲砲身ユニットで多少ダメージを与えて来た燎を行動不能に追い込んだ為、判定はカス当たりとなったのである

 

『小賢しい真似を……っ!!!』

 

日向の話を、ヌ級の呟きを聞いた空が思わずそう呟く……。と、その直後である

 

『ご主人ー!大変だニャーッ!!!』

 

上空で翔鶴の艦載機と共にヌ級の艦載機の相手をしていたワイルドから緊急通信が入る、こんな時に……っ!空がそう思いながら通信に出ると……

 

『ヌ級の艦載機の半分くらいが、ブインの方に飛んで行ったニャーッ!!!』

 

『多分逃げた娘達を狙ってるんだミーッ!!!』

 

『どうするんだニーッ!?追いかけるのかニーッ?!』

 

『でもミャー達の誰かが1機でも離れると、こっちが押し切られてしまうかもしれないミャーッ!!!』

 

ワイルド達は矢継ぎ早に状況を報告して来る、それを聞いた空はすぐさまヌ級を睨みつける。するとヌ級は……

 

『さあどうする?別にあっちに戦力割いてもいいんだぜ?まあそしたらもしかしたら?おめぇらを直接爆撃出来る艦載機が出来ちまうかもしんねぇけどな?ぎゃっはっはっはっはっ!!!』

 

そう言って大笑いし始めるのであった

 

ここで空は超高速で思考を巡らせ、この状況を打破する方法を考え始める。こちらの戦力は下手に割けない……、現在翔鶴を守っているライトニングⅡを向かわせた場合流れ弾が翔鶴に当たる可能性がある……、雲龍を信じるか……、いや……、あの数ではいくら彼女や時雨達が優秀だったとしても押し切られてしまう……。一体どうしたら……っ!!?

 

空がそう思ったその時である

 

『ご主人!ここはナーが行くナー!』

 

なんとトムが名乗りを上げたのである

 

「トム……、お前……、しかし……」

 

しかし空はそれを中々了承しようとはしなかった……、それもそのはず、トムはその仕様上今まで1度もまともに戦闘どころか訓練すら行っていないのである。理由はそれだけではない、カタパルトの試運転も未だに終わっていない為、上手くトムを発艦出来るか不安で不安で仕方が無かったのである

 

『今はそんな事言ってる場合じゃナー!ぶっつけ本番だとしてもやらなきゃいけない時なんだナー!でないと時雨が……、皆が危ないんだナーっ!!!』

 

トムのこのセリフを聞いた空に衝撃が走る、そうだ……、今はこんなつまらん事で悩んでいる場合ではないのだ……っ!

 

「まさか自分の飼い猫に諭されるとはな……、分かった、トムの発艦を許可するっ!トムは直ちに発艦シークエンスに入れっ!!!」

 

『合点ナーッ!』

 

空とトムがこのこの様なやり取りを交わした直後、ライトニングⅡがブインの方角へ機首を向けてカタパルトを展開、そこに今度は完全武装したトムが姿を現し……

 

「時雨……、ショートランドの皆……、ナーがすぐ行くからそれまで耐えててくれナー……。トム、行くナーッ!!!」

 

トムが声を上げエンジンを点火、そしてカタパルトから打ちだされると同時に一気に加速し……

 

                 ボッ!

 

空気の壁を突き破る音を辺りに響かせて飛翔し、トムの姿はすぐに見えなくなってしまうのであった……

 

「頼んだぞ……、トム……っ!」

 

トムが飛んで行った方角を見ながら、空はトムとショートランドの艦娘達の無事を祈りながらそう呟くのであった

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