祝勝会の翌日、ちゃんぽん要塞に朝から1隻の大型輸送船がやって来る
この輸送船はブインにショートランドの艦娘を預けられないと分かった戦治郎が、すぐにちゃんぽん要塞に艦娘達を迎えに来て欲しいと長門に連絡を入れて寄越してもらったものである
戦治郎が何故その様な事をしたのか、何故ショートランド泊地の代わりとしてちゃんぽん要塞を使おうとしなかったのか……。理由は簡単だ、ちゃんぽん要塞に日本海軍の強硬派を立ち入らせない様にする為である
もしショートランド泊地の代わりにちゃんぽん要塞を艦娘の拠点として使ってしまうと、どうしても監査や視察などで、海軍の人間を中に入れなくてはいけなくなってしまう。その時監査及び視察に来る人間が強硬派の者だった場合、変に探りを入れられる可能性があったり、何かと理由を付けて異動と称して工作員を潜入させようとするかもしれないのである
それらを防ぐ為に、ショートランドの艦娘達は戦治郎達の監視員となった川内達4人を除いた全員が、大本営横須賀に戻る事となったのである
そして今回の輸送船の乗組員は、全て元帥と長門が厳選した穏健派のメンバーで、その護衛も……
「くぅ~!美味しいっ!!!」
「吹雪ちゃん達が持って帰って来る『お持ち帰り用海戦ちゃんぽん』もいいけど、やっぱ作り立ては全然違うねっ!」
「流石は名物と言うだけはあるなっ!ぬぅ……、これを何とかして筑摩に食べさせてやれぬものか……」
「気に入ってもらえて何よりです♪筑摩さんの方は……、しばらくの間はお持ち帰りで我慢してもらうしかないでしょうね……」
海戦ちゃんぽんをそれはそれは美味しそうに食べる飛龍、蒼龍、利根に向かって、海戦ちゃんぽんを振舞った翔はこの様な言葉を掛ける
「ちゃんぽんを食べさせたいが為に航巡を遠征に出すなんて事したら、鷹派の連中が騒ぎ出しそうだからね~……、遠征など駆逐や軽巡にでもやらせればよかろう~なんて言ってね~」
「それが原因で強硬派にここの存在がバレてしまうなんて事になってしまったら……、リチャードさん達に何と言えばいいのでしょう……?」
翔の言葉を聞いた伊勢がこの様な事を言い、それを聞いた綾波が嫌な展開を想像して苦笑を浮かべながらそう言った
「作戦行動中に立ち寄る事も出来ないんでしたよね?確かそちらの報告書は嘘偽りなく、かなり細かく内容を書かなきゃいけない上に、資料として長期間報告書は保管されるんでしたっけ……?」
「だね~、だから出撃してる最中にここに立ち寄った場合、ここの事も報告書に書かなくちゃいけなくなっちゃう、そしてそれが資料保管庫に保管されるからその内誰かの目に留まって騒ぎになる。それだけは避けたいから、今回のコレも遠征って形になってるんだよね。遠征の報告書は資料保管庫には行かないで、その拠点の提督達……、私達だったら元帥が管理する様になっているからね」
ここのちゃんぽんの事を多くの艦娘達に伝えたいと心から思っている吹雪の問いに、3杯目のちゃんぽんを食べ始めた飛龍が答える
と、この様に輸送船の護衛には、戦治郎達と面識がある大本営横須賀の主力メンバーである飛龍、蒼龍、利根、綾波、そして長門の代わりにアムステルダム泊地の件で戦治郎達に助けられた伊勢、妙高の代わりに案内役を買って出た吹雪が付いているのである
現在彼女達はショートランドの艦娘達が輸送船に乗り込み終わるまでの間、休憩と言う事で食堂で吹雪達が普及させた噂のちゃんぽんを頂いていたのである
「ホントは俺らも一緒に行けたらよかったんだが……」
「そうしたら強硬派の連中が、輸送船諸共俺達を沈めに来るかもしれんからな……」
「そうなると翔鶴さんに危機が迫って、空さんがブチギレ」
「横須賀が銀の龍に飲み込まれる光景が、いとも容易く想像出来るッスね~」
不意に食堂の入口の方から、聞き慣れた4つの声が聞こえて来る。その声に反応して飛龍達がそちらに視線を送ると、そこには目の下に隈を作った戦治郎、空、シゲ、護の姿があった
彼らが何故隈など作っているのか、それは彼らが祝勝会の後ディープストライカーとズーイストライカーを徹夜で修理したからである。そうして修理が完了したディープストライカーとズーイストライカーは、艦娘達と共に横須賀に送られる事になっており、彼らは今の今までその搬入作業を手伝っていたのである
「4人共お疲れ~、で、今何を話してたの?」
4杯目のちゃんぽんに手をかけた飛龍が、4人に労いの言葉を掛けると共に4人が何を話していたのかについて尋ねる
「いやな、俺達もあの輸送船に乗って横須賀に向かったら、色々捗りそうだと思ったんだがな~……」
「ただ、今の状況でそんな事をしようものなら、強硬派が面倒な事をしてくるだろうと言う話だ」
戦治郎と空の言葉を聞いた艦娘達が、あ~……と言う声を出しながら苦笑を浮かべる
「何処までも自分達の邪魔してくるッスね~……、日本海軍の強硬派って奴は~……」
「まあ、それも長門達がミッドウェーを攻略するまでだろうけどな」
忌々し気に吐き捨てる護に対して、シゲがこの様な言葉を掛ける
「ああ、戦治郎達はミッドウェーの事を長門から聞いてるんだ」
「まあな、それも参加してやりてぇけど……」
「大丈夫、察してるから……」
飛龍と戦治郎が、この様なやり取りを交わした後、同時に溜息をつく
「そういう訳で、俺達はその作戦が終わるまでは北マリアナにあるであろう強硬派深海棲艦の拠点を占拠して、そこで時間を潰すつもりだ」
「空さんはサラリと言ってますけど、拠点占拠とか私達からしたら結構な規模の作戦になりそうな……」
「でもこの人達だったら、簡単にやってのけそうと思う自分がいるわ……」
軍属の艦娘達からしたら結構な大事をやらかそうとしている事を、あっけらかんとした態度で告げる空に対して、吹雪は表情を引き攣らせながら、伊勢は額に指を当てながらこの様な事を言うのであった
その後、戦治郎達は食事を済ませるとすぐに食堂を出て、荷物をまとめたり部屋の掃除をしたりして、ちゃんぽん要塞を後にする準備を始めるのであった
戦治郎達が作業を進めている間に、輸送船は横須賀に向かって出港し、空はその光景を戦治郎が借りていた部屋の窓から眺めていた
「翔鶴に挨拶しなくてよかったのか?」
「問題ない、ディープストライカーを修理している最中に既に済ませておいたからな」
「ああ……、道理で途中姿が見えなかった訳だ……」
戦治郎と空はこの様なやり取りを交わすと、戦治郎は1度ガックリと肩を落とした後、気を取り直して部屋の片づけを再開し、空は何かを思い出しながら、そっと自分の唇を指でなぞっていた
その翌日……、戦治郎達が荷造りと部屋の掃除の後、泥の様に眠ってしまった為、出発が予定より1日遅れてしまったが、戦治郎達が南方海域を離れる時がやって来たのであった
「リチャードさん、本当にお世話になりました!」
戦治郎が海賊団の代表として、リチャードに礼を言い
「こちらこそ、君達のおかげで色々と助かったよ。本当にありがとう、長門屋海賊団の皆」
リチャードもまた、そう言って戦治郎達に向かって頭を下げるのであった
「もし困った事があったら、すぐに教えて下さいね。私達穏健派深海棲艦は貴方達の味方ですから、何かあればすぐに駆け付けますからね」
柔らかい笑みを浮かべながら、スウがそう言うと
「本当にどうにもなりそうになかったら、その時は遠慮なくそうさせてもらいますね。で、そちらもまた何かでかい問題が発生したら、すぐに教えて下さいよ?」
戦治郎はニヤリと笑いながら、この様に返すのであった。それを聞いたリチャードが静かに頷く姿を確認した戦治郎は……
「よっし!んじゃ行くか!いざ北マリアナッ!トラックの時のお礼参りの時間だあああぁぁぁーーーっ!!!」
\おおおぉぉぉーーーっ!!!/
そう叫んで海賊団を奮い立たせ、大五郎のクロスアーム部分に設置した旗立てに、司が作った海賊旗を差し込んでから、大海原に駆け出すのであった
その道中で、更なる厄介事に巻き込まれてしまうと知らずに……