「遂に旅立ちだー!一体どんな夜戦が待ってるのか楽しみだなー!」
「姉さん……、どの夜戦もそんなに変わらないと思いますけど……?」
戦治郎達がちゃんぽん要塞を発ち、ミクロネシアを越えた辺りで急に川内が声を上げ、それに対して神通が困り顔でこの様な言葉を口にする、すると川内は
「え~?そんな事ないって~、ね~?通さ~ん!」
そう言って通に隣接し、同意を求めるのであった
「そうですね……、確かに夜戦には色々な場面があると思います。例えば燃え盛る炎の中での乱戦や、月明かりもない真っ暗な状況での静かな攻防戦、闇夜に紛れて相手をやり過ごす隠密行動……、言い出したらキリがないですね……」
「でしょでしょ!?やっぱり通さんは分かってるなー!」
通がそう言って自分の意見を肯定してくれたのが余程嬉しかったのか、川内はニコニコしながら通の腕に組み付く
「……」
それが面白くなかったのか、神通は頬を膨らませ唇と尖らせ、無言で川内が組み付いている腕とは反対の通の腕に組み付くのであった
「いや~、神通さんがあんな表情するなんて、何か新鮮ね~」
「不知火達の教官を務めていた頃には、絶対に見せなかった表情ですね」
「最近の海賊団って、色恋沙汰が多い様な気がするのは気のせいかしら?」
そんな神通達の様子を見ていた陽炎、不知火、天津風の3人がこの様な会話を交わし、天津風はチラリとある方向へと視線を向ける
その視線の先にはさっきから自作のスマホをいじってばかりの空の姿があり、別の方向へ視線を向ければ今度は悟が操縦するケートスに、満面の笑みを浮かべながら悟の腰に手を回して搭乗する龍鳳の姿があった
因みに空の肩の上には、空がショートランド泊地の工廠で出会ったあのバーナー妖精さんが乗っかっていたりする
このバーナー妖精さん、祝勝会中に燎達と話を付け、海賊団に同行する事になったのである
同行を希望した理由については、空からまだまだ色々と教えて欲しい事がある事とと、自分の見聞を広げたいからと言うもので、それを聞いた空からその向上心を認められ、同行の許可が下りたのである
まあ、その空は現在翔鶴とのやり取りに夢中だったりするのだが……
「その……、陰鬱な雰囲気になるよりはマシなんじゃないかな~?と私は思いますけどね……」
陽炎型3人の話を聞いていた望が、苦笑いを浮かべながらそう答えたその時だった
「……冠者よ、護冠者よ……」
不意に戦治郎がこの様な事を吐かし出す
「誰が冠者ッスか、んで、どうしたんッスか?シャチョー」
「今GPS起動してるか?」
HMDを装着しキーボードをカタカタと叩きながら自身の艤装に跨って移動する護が、この様に返したところ、戦治郎は続けてこんな事を護に尋ねるのであった
「あ~……、今システムメンテナンスしてるところッス……」
「って事は気付いてるって事か……」
「どうした?何かあったのか?」
戦治郎達がこの様な会話を交わしていると、空がスマホの操作を中断し、不思議そうな表情を浮かべながら2人に向かってそう尋ねる
「確か空のそいつにも、護特製のGPSアプリ入れてたよな?ちょっち起動してみ?」
空は怪訝そうな表情をしながら、自作のスマホを操作して戦治郎の言う通りにGPSアプリを起動する。すると……
「ぬぉっ?!」
「何々?どうしたっぽい?」
空が驚きの声を上げ、それが気になった夕立が、空にこの様に尋ねながら空のスマホの画面を覗き込む。するとそこには凄まじい速度で縦回転と横回転を同時に行うメニュー画面の映像が映し出されていた
「まるで意味が分からないっぽい……、これって一体なんなの……?」
夕立は思わず真顔でこの様な事を口にする、それを機に皆が足を止めて空のスマホや戦治郎のタブレットを覗き込み、驚きの声を上げたり、呆然としてしまうのであった
「えっ!?えっ?!これって一体どういう事っ!?!」
「旦那、その状態で操作して地図とか……「出せない」マジかよ……」
混乱する阿武隈の隣で、摩耶が戦治郎に質問しようとしたところで、戦治郎が先回りして答えた返答を聞いて思わず肩を落とす
「もしかして……、私達全員迷子になってしまったのでしょうか……?」
「扶桑さん、どうして心なしか嬉しそうなのでしょうか……?」
瑞穂の補助がなかったらしょっちゅう迷子になってしまう扶桑が、ほんのりと嬉しそうにこの様な事を口にすると、すかさず瑞穂がツッコミを入れるのであった
「そう言えば、羅針盤の方はどうなってるんだ……?」
木曾がそう言って羅針盤を取り出すと、羅針盤の針はとんでもない速度で回転し続け、やがて……
「うぉっ!?」
羅針盤の針は更に回転速度を上げ、ガラス面を突き破って天高く飛び上がってやがて見えなくなってしまうのであった……
「もしかして……」
時雨がそう呟いて木曾と同じ様に自分の羅針盤を取り出すと、時雨の羅針盤の針は大暴れする様にそこら中を回転しながら跳ね回り……
「あっ!?」
そしてガラス面を突き破って外へ飛び出し、海の中へとダイブしてしまうのであった……
「羅針盤もダメか……、マジで一体何が……、って……っ!何じゃこりゃっ?!」
時雨の羅針盤の針がダイブしたところを見ていたシゲが、急に驚愕の声を上げる。今まで透き通る様な青色をしていた海面が、突如として濡れた地面に零した油の様な七色の光を放ち始めたのである
「これは……、油かしら……?」
「いえ、どうやら油じゃないみたいですよ……」
疑問を口にする剛に向かって、翔が先程計量カップで汲み上げた海水を見せる。カップの中の海水は、全体的に虹色の輝きを発していたのである
「……おいおいおい嘘だろ……?」
「うげぇっ!気色悪ぃっ!!」
その直後、今度は輝がそう呟きながら天に向かって指を指し、それに倣って天を見上げた江風が思わずそう叫ぶ。海だけでなく空まで七色の不気味な光を発し始めたのである
「何か分かんないけど……、凄く嫌な予感がする……。急いでここから離れた方がいいんじゃないか?」
光太郎の提案に戦治郎が頷いたところで、パシャリと何かが海面に落ちる音が辺りに鳴り響き、それからすぐ後に今度はバシャンッ!と先程よりも大きなものが海面に叩きつけられた様な音がした
一同が何事かと思い音の発生元に視線を送ると、そこには先程まで元気に立っていたはずの翔が倒れ込んでいたのであった
「翔っ!?」
悟がそう叫びながら慌てて駆け寄り、すぐに容態を診始める……
「……特に異常はねぇなぁ……、ただ寝てやがるだけだなぁ……、だがよぉ……」
悟はそう言うなり翔の頬をペチペチと叩き始める、だが翔は叩かれているにも関わらず、全く起きる気配がないのである
「翔さんっ!一体どないしたんっ!?ちょっちはよ起きてぇやっ!」
悟のペチペチに合わせる様に、龍驤が大声で翔に呼びかけながらその身体を揺らす。だが翔は一向に起きようとはしなかった……
「ぼ、ぼぼ僕達の、ま、ま、周りで、いい、一体何が、お、お起こってるんでしょう……?」
「流石にこれは俺にもすっかりさっぱり分からんちんよ……、だが1つだけ分かってる事がある……、ここに留まってるのは多分不味い、先を急ぐぞっ!」
不安がる藤吉に戦治郎がそう言うと、海賊団の面々は一斉に頷き、眠ったままの翔を光太郎のリヴァイアサンに乗せ、翔が乗っていたケートスには陽炎と不知火が搭乗し、一行は急いで移動を再開するのであった
それからしばらく航行していると、戦治郎達の目に大きな拠点が見え始める。ようやく目的地に着いたと戦治郎達が安堵の息を漏らしたのも束の間……
急に何者かが馬鹿デカイ声を張り上げて、戦治郎達を呼び止めるのであった
海賊団の全員が水を差された事に苛立ちながらその声の主の方へと視線を向けると、そこには戦治郎の大妖丸よりも明らかに長大な鉄パイプを握り締めた、戦艦水鬼の様な深海棲艦が仁王立ちしていた
それを視認した海賊団は、目に見える厄介事に思わず一斉に溜息を吐くのであった