傷猫の弱々しい声と腹の虫を聞いて呆然としていた3人は、しばらくしたところで我に返り、未だに海面を揺蕩う傷猫をどうするかについて話し始める
「んで、こいつどうするんッスか?自分らにいきなり攻撃仕掛けて来る様なヤバそうな奴ッスけど……?」
「でも事情も聴かずに沈めるのは流石に可哀想っぽい……」
「しかし、この様子ではまともに話が出来そうにないな……、よし」
3人がこの様な会話を交わすと、突然空がそう言って立ち上がるなり傷猫を両手で掴み、海上に浮かぶライトニングⅡの上に乗せるのだった
空がいきなり傷猫に向かって両手を伸ばしたところで、護と夕立は空が傷猫に噛まれるのではないかと心配し慌てて空を止めようとするのだが、肝心の傷猫が空腹が限界を突破しているせいで動く気力もない為か、特に抵抗する事無く捕まった為2人の心配は杞憂に終わる
「おめぇ……、俺に何をする気だニ"ャ……?」
「何、気にするな……、別に大した事をするつもりは無い……」
空の事を睨みつけながら問い掛ける傷猫、対する空はそんな事などお構いなしとばかりにライトニングⅡの中に手を突っ込み、探し物をしているのかその中をガサゴソと漁っていた。それからほんの少ししたら、目当ての物を掴んだのか空の動きが止まり、空はライトニングⅡからその手を引き抜く
「そ、それは……っ!?」
空が手にした物を目の当たりにした護が、思わず目を見開いて驚く。空はそんな護の事など無視して行動を開始するのであった
空がその物体に付いたプルタブを立てると辺りにパキッ!と言う音が鳴り響き、その後空がゆっくりとプルタブを引いてその蓋を開封していき、やがてそれはまたもパキッ!と言う音を鳴らしながら本体から離れてしまう
するとどうだ、今まで気だるそうにライトニングⅡの上に寝転がっていた傷猫が、瞬時に起き上がって空の手の上に乗ったそれを注視しているではないかっ!
その様子を確認した空が、恐らくそれを取り出す際一緒に引き寄せていたであろう皿の上にその中身を盛って、傷猫の前に差し出すのであった
「……人間の施しは受けないのニ"ャ……」
皿から顔を背けるものの、やはりそれが気になるのか何度もチラチラとそれの方へと視線を向ける傷猫。恐らく相当強がっているだろうと、その様子を見守っていた護は推測するのであった
「……ならばこれでどうだ?」
空から発せられた言葉を聞いた傷猫が、空の方へと視線を移すと思わず驚愕の表情を浮かべる。そこには先程空が皿の上に盛ったものと全く同じものを握った空が立っており、空は先程と同様にそれを開封し皿の上に盛る。すると……
「……ニ"ャーーーッ!!!」
我慢の限界だったのか、傷猫は遂に皿に飛びついてガツガツと勢いよく、一心不乱に皿に盛られた物を食べ始めるのであった
「猫まっしぐらっぽい?」
「今パッケージがチラっと見えたッスけど……、あれ結構お高い奴じゃないッスか……っ!?あんなの一体何処で仕入れたんッスかあの人……っ?!」
夕立と護の会話など気にすることなく、空はそれをねだる様に寄って来たワイルド達にもそれを、翔鶴とシドニーで買い物した帰りに買っておいたリッチな猫缶を振舞い、それを美味しそうに食べる猫艦載機達の様子を、慈愛に満ち溢れた表情で見守るのであった
尚、このリッチな猫缶をどのくらいライトニングⅡに積んでいるのかを護が空に尋ねたところ、最近出来た余剰スペースが埋まる程、大体25mプール1杯分だと正直に空が答えたところ、空は護からその半分くらいは食糧を積んでおけと説教された挙句、口止め料として護には明日の晩のおかずを献上し、夕立には新しい技を教える羽目になったのである
「……何が目的だニ"ャ」
空達がそんな事をしている間に傷猫が猫缶2つを完食し終え、空達に短い言葉で尋ねて来る。それを聞いた空達はすぐに傷猫に色々と質問し始めるのであった
まずこの傷猫の正体だが、元々は戦治郎達と同じく東京都町田市に住む野良猫達を束ねるボス猫だったらしく、野良犬との抗争の際命を落としてしまった様で、気付いたらこの姿になっていたと言うのである
「目が覚めたら真っ暗なとこに閉じ込められてたニ"ャ、んでそこで出せ!って叫びながら暴れたらリコリスなんたらとか言う奴の右腕をやってるアンタそっくりな姉ちゃんに捕まって、お前は私の艦載機なんだから大人しく私に従い決して逆らうな、もし逆らったらその命は無いと思えとか舐めたクチ利かれたニ"ャ、そんであまりにもそいつの態度がムカついたからそいつの足に唾吐きかけて、そいつの部屋の中で大暴れしてやったニ"ャ。その時に腹の下の奴とこいつの使い方を知ったニ"ャ」
傷猫はそう言って腹の下の魚雷に視線を送った後口の中から機銃を出す、傷猫の話をここまで聞いた3人はこいつの凶暴さに引くべきか、強硬派のリコリスの側近と思われる空母棲姫に哀れさを感じるべきかで悩み、揃って微妙な表情を浮かべるのであった
その後傷猫は強硬派深海棲艦の総本山を飛び出し、ひたすら北へと逃げ、休憩する為に下りた場所でハイイログマやオオカミの群れと激戦を繰り広げたり、追って来た強硬派を撒いたり、艦娘から追い回されたりしている内に、この海域に辿り着いたそうだ
「道中、全く飲まず食わずで移動してたもんだから、もう腹が減って死にそうだったニ"ャ。そんな時にアンタ達を見つけたもんだから、こうなったらぶっとばして食い物を奪うかって思って攻撃を仕掛けたニ"ャ」
「で、戦ってる最中に限界突破して墜落した訳ッスね……」
傷猫の話を聞いた護がそう言うと、傷猫は舌打ちしながら護の事を睨みつけ、護はその迫力に思わず気圧されて、思わずその身体をビクリと震わせる
「っと、そろそろ質問は終わりでいいかニ"ャ?まさかこれだけの為に俺に食い物を献上した訳じゃないだろ?」
「ああそうだ、先程の戦闘を見て思ったんだ、お前のその力が欲しいとな。どうだ?俺達と共に来る気は無いか?」
ある程度質問に答えた傷猫が、空の事を見据えながら目的について尋ねて来る。そんな傷猫の事を空もまた真っ直ぐ見据えながら、正直に自身の思惑を話すのであった
「俺は誰かの下に就く気は無いニ"ャ」
「そう言うと思っていた……」
傷猫がそう言って空の頼みを一蹴すると、それも想定内とばかりに空は傷猫の前に猫缶を置き、話を続ける
「だから取引だ、もしお前が俺達と共に来てくれるなら、出撃の度にこの猫缶を1つお前に譲ろう。食糧の安定供給が出来ないお前からしたら、悪くない条件だと思うのだが……、どうだろうか?」
「……3つ」
「2つまでが限度だな……」
「……寝床はどうなるニ"ャ?」
「俺のライトニングⅡの中になるな、余程の事が無ければ雨風も凌げるし、格納庫内にはお前達用の個別ベッドもトイレも完備している」
「……主従関係は?」
「無い、俺とお前は同等の立場として扱う、これでどうだ?」
「……及第点ってところだニ"ャ、いいニ"ャ、その話乗ってやるニ"ャ」
「感謝する」
こうして傷猫と空の取引は成立し、傷猫は空の艦載機となるのであった
その後、名前が無いと不便だと言う事で傷猫に名前を付ける事となり、話し合いの結果傷猫には『アグ』と言う名前が与えられるのであった
「よろしく頼むぞ、アグ」
「任せるニ"ャ、飯の分はしっかり働いてやるニ"ャ。っと腹が一杯になったら眠くなって来たニ"ャ……、悪いがちょっと眠らせてもらうニ"ャ……」
空とアグがこの様なやり取りを交わした直後、アグはライトニングⅡの上で眠ってしまうのであった
「このままライトニングⅡを動かせばこいつが落ちてしまうし、格納庫の中に入れても多少自力で動いてもらわんとベッドにいけない様になっているからな……。ワイルド達もさっきの戦闘でボロボロになっているから、流石にそんな身体でこいつを運んでもらうのも申し訳ない……、そう言う訳で頼めるか?」
「ぽいっ!」
空が困った顔で夕立に向かってそう言うと、夕立は元気よく返事を返し空から受け取った睡眠中のアグを起こさないよう優しく抱っこし、3人は戦治郎達が待つ拠点へと帰還するのであった
アグ……白猫戦闘攻撃機、一人称は俺、語尾はニ"ャ、猫缶2つを与えれば戦闘に参加してくれる