戦治郎達が大五郎と春雨の為に人工骨格を作ったり、回収した砂の分析を進めたりしている頃、ミッドウェー島にある飛行場姫の拠点では……
「貴方達が儀式とやらで生贄として使おうとしていた艦娘達が、隙を見て脱走したからそれを捕まえる様にと貴女が指示を出した、と……」
「はい、その通りでございます……」
飛行場姫の趣味で作られた執務室と言う名の謁見の間にて、部屋の中央最奥に設置された玉座に座り腕と脚を組んだ飛行場姫が、自身の前で顔を伏せ片膝を突いて佇む欧州棲姫に向かって尋ねると、欧州棲姫はその姿勢を崩す事無く飛行場姫が言っている事を肯定する
「で、その結果生贄を取り逃した挙句そっちにいる貴女の部下とそのペットが、立ち入り禁止指定したウェーク島に侵入し、長門屋海賊団の連中に秘密にしておきたかった貴方達の存在がバレてしまった、と……」
「はい……、誠に申し訳ございません……」
飛行場姫続けてそう尋ねると、欧州棲姫は先程と同じ姿勢のまま謝罪の言葉の述べるのであった。その反応がつまらないと思ったのか、飛行場姫は眉を顰めながら欧州棲姫から視線を外すと、その隣に欧州棲姫と同様に片膝を突いて佇んでいるものの、鼻息を荒げながらその目をガン開きして、自分の足を注視する彼女の部下である海峡夜棲姫の姿があった
その後ろには、長門屋海賊団と接触するというポカをやらかしてしまった彼のペットである深海双子棲姫が、後ろ手に拘束された状態で不満そうな表情を浮かべながら、両膝を付いて佇んでいた。拘束されている理由については、こいつらの『手で生物に触れた際、触れた部位の骨を抜き取る』と言う能力を発動させない為である
「先程からシスター・エリカばかりが謝罪してるけど、
シスター・エリカと呼ばれる欧州棲姫の謝罪の言葉を聞き飽きていた飛行場姫は、悪戯半分で山城 駆と呼ばれる海峡夜棲姫に尋ねる。すると駆は……
「太ももスリスリ!ふくらはぎスリスリ!そのおみ足で某をどうか踏んづけて欲しいのですぞっ!!!(今回の件は某の躾不足が最たる原因、今後この様な事が無い様スティーラーズを厳しく躾ける所存にございますぞっ!!!)」
駆は目を血走らせながら、全身全霊の力を込めてそう叫ぶのであった。この時、飛行場姫は駆に冷ややかな目を送りながら、変な気起こすべきじゃなかったと己の迂闊さを内心後悔した
そして駆のそんな変態発言を聞いたシスター・エリカは……
「……アルバート」
「はっ!」
駆の反対側に佇む北端上陸姫のアルバート=ザハウィーに声を掛ける、するとアルバートはエリカが言おうとしている事を察し、力強く返事をするとすぐに駆の方へ歩み寄り……
「フンッ!!」
掛け声と共に腰に差していたエストックを、鞘を付けたまま駆の脳天に勢いよく振り下ろすのであった
「オウフッ!アルバート殿っ!?いきなり殴るとは酷いですぞっ?!」
殴られた痛みで駆は我に返り、先程殴られた頭を手で摩りながらアルバートに抗議する。その際、駆の後ろにいたスティーラーズと呼ばれている深海双子棲姫、白いスカルと黒いボーンが飼い主である駆の真似をしてキーキーと声を上げるのであった
「貴様が下劣な発言をするからだっ!全く……、貴様がそんな調子だからリコリス様に協力を申し出た際、品格を疑われ断られてしまったと言うのに……」
アルバートは抗議する駆に向かって一喝した後、ブツブツと小言を言いながら先程自身が佇んていた場所へと戻って行く
(この男が如何わしい事を言わなかったとしても、リコリス姉様はその申し出を断っていたでしょうね~……。リコリス姉様は純粋な深海棲艦による世界の統治が目的だし……)
アルバートの言葉を聞いた飛行場姫が内心で独り言ちる、そう、この飛行場姫は強硬派深海棲艦の現トップであるあのリコリス棲姫の妹なのである
彼女はその高過ぎるプライドのせいで時代の流れに取り残されかけている姉とは違い、仲間に加わろうとしている者は例え転生個体であったとしても快く引き入れ、戦力を増強しているのである。そして……
(まあ、そのおかげでこっちも下克上し易くなってるんだけどね……。今に見ていなさい、リコリス姉様……、いつかきっと私はこいつらの力を使ってでも、貴女を強硬派のトップの座から引きずり降ろしてやるんだから……っ!)
とまあ、こんな感じで強硬派深海棲艦のトップになると言う野望を持っていたりするのである
「飛行場姫様……、飛行場姫様……っ!」
飛行場姫が内心で打倒リコリスの為に気合いを入れていると、不意に囁くように声を掛けられる。それによって我に返った飛行場姫が慌ててそちらに顔を向けると、そこには以前ウェーク島の拠点を任せていた自身の右腕である中間棲姫が立っていた
「そろそろ切り上げないと、後のお仕事に支障が出てしまいますよ……?」
「そうね……、いい加減こいつらの漫才も飽きて来た事だし……」
これ以上こいつらの相手をしていると、まだ残っている今日の執務に差し支えるとひそひそ声で伝えて来る中間棲姫に対し、飛行場姫は同じ様にひそひそ声でこの様に返し
「取り敢えず脱走した艦娘については貴方達の方で何とかしなさい、そして駆に関してはそのお猿さん達をしっかり躾けて、今後このような事が無い様にしておきなさい。ああ、それともし脱走した艦娘が海賊団の手に渡った時の事や、誤って沈めちゃった時の事も考慮して、新しい艦娘をプロフェッサーから購入しておくわ。で、その代金としてエリカの結界だったかしら?アレの影響を受けなくなるお守りをプロフェッサーに渡すから、今持ってるなら今すぐ私にそれを渡しなさい。いいわね?」
シスター・エリカ率いるアビス・コンダクターの面々に向かって、声高らかにそう言い渡すのであった
その後、アビス・コンダクターの面々は一斉に返事を返し、エリカはアビス・コンダクターに所属する者全員に渡した、一定範囲内の相手を自身が張った結界の中に閉じ込めると言うエリカの能力、『
「さてシスター・エリカ、脱走した艦娘はどうするんだ?」
謁見の間を出た後、アルバートが自分の前を歩くエリカに尋ねる。現在この場にいるのはエリカとアルバートの2人だけ、駆は用事があるからと言ってスティーラーズを連れて、早々にミッドウェーの拠点内部にある自室に戻ってしまったのである
「そうですね……、生贄の準備は急いだ方が良いと言えば良いのですが……、脱走した者を探し出して捕まえるのは時間が掛かり過ぎる様な気がするのです……。それに飛行場姫様が新しい生贄を準備して下さるとの事でしたから……、いっそ脱走した艦娘達には貴方のところの戦い慣れていない方々の為の練習用の的になってもらいましょう。そうすればあの悪魔の眷属共も、きっと我々の神の偉大さを知って改心してくれるでしょうから」
アルバートに質問されたエリカは、最初の方こそほんの少し困った様な顔をしていたのだが、最後のあたりはまるで天使の微笑みとでも言えばいいのかと思う様な、素晴らしい微笑みを浮かべながら、途轍もなく物騒な事を言い出すのであった
エリカの言葉を聞いたアルバートは、すぐさま返礼すると自身の部下である狂信者達に指示を出す為に、エリカを残してその場を後にする。そしてその場に独り残されたエリカは、天使の様な微笑みを崩す事無く、胸元にあるロザリオを握り締めながらこう呟くのであった
「ルルイエに住まう神々よ……、どうか我らに力をお貸しください……」