飛行場姫の執務の補佐を終え、自室に戻っている途中で中間棲姫は思わず溜息を吐いた
転生個体と関わってから、彼女はここ最近ずっと碌な目に遭っていないのである
先ず最初に彼女達の前に姿を現したのはプロフェッサーだった、彼は今まで見た事も無い兵器や、深海棲艦や転生個体では到底入手出来ない様な情報を飛行場姫に売り、その兵器の優秀さや情報の精度から彼はすぐに飛行場姫の信頼を勝ち取ったのである。その結果、飛行場姫は転生個体への認識を改め、転生個体を自分達の軍勢に数多く登用する様になったのだ
そんな中、飛行場姫はプロフェッサーから日本海軍がこのミッドウェーに大規模な攻撃を仕掛けようとしていると言う情報を手に入れ、それを迎え撃つ為に今まで以上の勢いで転生個体を集め始めたのである
そんな最中、あのアビス・コンダクターの連中が飛行場姫の前に現れ、何と無償で協力を申し出て来たのである
この時、飛行場姫はアビス・コンダクターの連中が纏う怪しげな雰囲気を流石に訝しみ、彼女はアビス・コンダクターの連中の実力を確かめる為に、最近ミッドウェー付近に姿を現す艦娘達をどうにかする様にと命令を下すのであった
それからは早かった……
アビス・コンダクターの連中は、その命令が下されるや否や、ものの数分でその艦娘達を全員捕まえ、拷問の末艦娘達が持っている情報の全てを引き出して見せたのである
これにより、プロフェッサーが言っていた事が事実であった事、転生個体の集団であるアビス・コンダクターの実力が本物であった事、これら2つの事柄が合わさった事で飛行場姫の中での転生個体の株が爆上がりしたのである
その結果、今まで彼女の右腕として頑張って来た中間棲姫はウェーク島の指揮を任され、飛行場姫の周りはアビスコンダクターを中心とした転生個体で固められるのであった
左遷同然にウェーク島を任された中間棲姫は、しばらくの間鬱屈した日々を過ごすのだが、ある日彼女は飛行場姫からある頼み事をされるのだった
それがあの戦闘狂を超越した、修羅としか形容しようのない戦艦水鬼改の転生個体の身柄を預かり、可能であれば説得し自分達の仲間に引き込んで欲しいと言うものだったのである
中間棲姫はその任を成功させ、その功績を以てミッドウェーに返り咲こうと画策するのであった。尤もそれは戦艦水鬼改の暴走によって拠点が壊滅した直後、長門屋海賊団に拠点を乗っ取られると言う最悪の形で実現してしまう訳だが……
形はどうあれ、中間棲姫は飛行場姫の右腕のポジションに返り咲いた訳だが、頼まれていた戦艦水鬼改の説得に失敗した挙句、拠点を海賊団に奪われ情報を吐かされただけで留まらず、警告の為のメッセンジャーとして使われた事が彼女の中で尾を引いており、彼女は非常に肩身が狭い思いをするのであった。そんな彼女に対して、飛行場姫は
「こればかりは、運が悪かったと思うようにしなさい」
と、慰めの言葉を掛けたのだが、それは中間棲姫にとっては追い撃ちにしかならなかったのであった……
その時の事を思い出して、憂鬱になった中間棲姫が再び溜息を吐いたところで、不意に外から雄々しい声が複数聞こえて来る
「貴様らの敵は誰だっ!!?」
\腐れ切った人類だっ!!!/
「我らは誰の味方だっ!?!」
\神の御使い深海棲艦っ!!!/
「我らが崇めるべき神は誰だっ?!!」
\神聖なるルルイエに住まう崇高なる神々だっ!!!/
その声量に驚いた中間棲姫が思わず外の様子を窺うと、そこには狂信者達に戦闘訓練を受けさせるアルバートの姿があった
アルバート=ザハウィー、この北端上陸姫となった男はイギリスの大富豪の息子だったらしいのだが、父の会社が経営悪化で倒産してしまい、それはそれは苦しい生活を余儀なくされるのであった
その後、何とか資金を集めた彼は起業のノウハウを学ぶ為、海外留学を決意し単身飛行機に乗って海外に飛ぶのだが、運悪く彼が乗った飛行機は大規模な事故を起こし、彼はその事故に巻き込まれて亡くなってしまうのであった
そうして気が付けば彼はこの世界に転生し、右も左も分からない状態だった彼をシスター・エリカが拾い、彼をアビスコンダクターに加入させたのである。その為彼は、シスター・エリカを呼び捨てにこそしているが、基本彼女に忠誠を誓っているのである
そんな彼は、幼少の頃から続けていたフェンシングの技術を活かして、敵対する存在を悉く葬り去る騎士となり、いじめや差別などが原因で人類を強く恨むようになった転生個体達を、エリカと共に深海棲艦とルルイエの神々の素晴らしさを説いて狂信者に仕立て上げた上でまとめ上げているのである
さてこの男、一見すると特に問題点が見当たらない良識人の様に見えるが、実はたった1つとんでもない悪癖があり、その内容は自身に都合が悪い事があった場合、その全てをある男のせいにし、激しく怒り狂うと言うものである。その男の名は『長門 戦治郎』、あの長門屋海賊団のリーダーである男である
アルバートは幼少の頃、戦治郎のせいで大衆が集まる社交パーティーの会場で、大恥をかかされたと言うのである。それが原因で彼の父の会社の傘下にいた企業が、傘下から抜けた挙句、長門コンツェルンの傘下に入ったなどと言っているが、恐らくそれは彼の妄言だろうと中間棲姫は思うのであった
それは兎も角アルバートは今現在、狂信者達に銃剣銃を使っての戦闘方法を指導しているのだが、中間棲姫は艦娘や深海棲艦にはそんな銃での攻撃は通用しないと分かっているのも関わらず、何故そんな事を狂信者達に教えるのだろうか、そんな事が何に役に立つのだろうかと、眉を顰めながら思うのであった
尤も、中間棲姫はその銃剣銃がプロフェッサーからもたらされた、艦娘も深海棲艦も倒す事が出来るとんでもない代物である事を知らないので、こういう風に思ってしまった訳なのだが……
アルバートの無駄な訓練をこれ以上眺めているのは時間の無駄だ、そう思った中間棲姫はアルバート達から視線を外し、再び自室へ向かって歩みを進めるのであった
と、その道中で偶々通りかかった部屋の前で、彼女はまるで呪詛の様な言葉を耳にするのであった
「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した……」
思わずギョッとした中間棲姫は、何事かと思いながらその声が聞こえて来る部屋の扉をノックする。するとノックに反応して部屋の中がバタバタと騒がしくなったかと思ったら、すぐに静まり返ってしまう。中間棲姫は不思議に思いながら扉を開けると……
「これはこれは中間棲姫殿……」
そこには肩で息をする変態……、山城 駆が部屋の入口に立っていたのである。駆は来訪者が中間棲姫である事を確認すると……
「そのたわわに実った胸の谷間に、顔をうずめて窒息してもよろしいですかな?(某の部屋に一体何用ですかな?某の部屋には中間棲姫殿が喜びそうな物は無いと思うのですぞ?)」
すぐさまセクハラ発言を発する、それに対して中間棲姫は駆を睨みつけると同時に、その頬に思いっきりビンタをお見舞いしてやるのであった。尚、ビンタをもらった駆は……
「ありがとうございますっ!!!」
と、中間棲姫に礼を述べそれはそれはいい笑顔を浮かべながら吹っ飛び、部屋の入口の壁に勢いよく激突するのであった
この時、駆をビンタした際彼の部屋の奥にあるクローゼットの扉が、ガタリと音を立てて揺れた事に中間棲姫は気付く事が出来なかったのであった……