※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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春雨の願い

「ん……」

 

意識を取り戻した春雨は、自身を優しく包み込む柔らかな何かに疑問を覚えながら、その重い瞼を開く。すると……

 

「よぅ、お目覚めかぁ?」

 

春雨の視界には自分の顔を覗き込む潜水棲姫の顔のドアップが映し出されるのであった、最初はぼんやりとしていてよく分からなかったが、意識がハッキリしてくるにつれ潜水棲姫の顔の輪郭がハッキリと映し出される様になり、潜水棲姫が自分の近くにいると言う現状を春雨の脳がしっかりと認識すると……

 

「きゃあああぁぁぁーーーっ!??」

 

春雨は目尻に涙を浮かべながら大きな悲鳴を上げ、その悲鳴を至近距離で聞いた潜水棲姫は腕組みした姿勢のまま、思わず上半身を仰け反らせるのであった

 

どうしてここに深海棲艦の姫級がっ?!いや、それ以前にここは何処っ!?私は確か……、たし、か……

 

状況が分からず混乱する春雨は、自身を何とか落ち着かせようと状況整理の為にここに来る前に自分が何をしていたかを思い出す、思い出してしまう……、あの正体不明の双子の攻撃から天龍を庇った事で、自分は1度沈んでしまった事を、そして自分が、自分達がこんな目に遭う羽目になった原因を……、春雨は思い出してしまったのである……

 

自身の過去を思い出した事で湧き上がって来る恐怖に、春雨が身を震わせ始めたその時であった

 

「何ぞ何ぞ何事ぞおおおぉぉぉーーーっ!!?」

 

「悟うううぅぅぅーーーっ!!!お前まさか春雨ちゃんに手ぇ出したんじゃないだろうなあああぁぁぁーーーっ?!!」

 

部屋の入口の扉が勢いよく開かれると同時に、戦艦水鬼と南方棲戦姫がそう叫びながら部屋の中に飛び込んで来た

 

「悟さんっ!!!春雨ちゃんに手を出したって本当ですかっ!?!」

 

「いくら悟さんでも、それだけは夕立許せないっぽいっ!!!」

 

「落ち着いて夕立、多分それは勘違いだと思うから……」

 

そしてそれに続くようにして、龍鳳が、夕立が、時雨が部屋の中に入って来る。それからすぐに戦艦水鬼と南方棲戦姫、龍鳳と夕立が潜水棲姫の下へ駆け寄ると、自分に手を出したかどうかを問い詰め始めるのであった

 

「皆さん、医務室ではお静かにー!」

 

先程自分が上げた悲鳴を聞きつけて駆けつけて大騒ぎする面々に向かって、どうやら自分が目覚める前からここにいたであろう駆逐棲姫が、慌てた様子で声を張り上げる

 

「くかかかかっ!望ちゃんの言う通りだぜぇ、ここではお静かにってなぁ、それと念の為に言っておくがよぉ、おりゃぁ春雨には手ぇ出してねぇから安心しなぁ」

 

駆逐棲姫の声を聞いて静まり返る面々に向かって、変な笑い声を上げながら潜水棲姫がそう言い放ち、潜水棲姫の言葉を聞いた龍鳳と夕立は安心した様に息を吐き、その傍で時雨は苦笑いを浮かべるのであった

 

そこで春雨はまた混乱し始める、どうして深海棲艦と艦娘が一緒にいて、仲が良さそうにしているのっ?!春雨はそう思いながら艦娘達の顔を改めて確認し、その中に見知った顔がある事に気付くと、驚きの表情を浮かべながらこう呟いた

 

「夕立……、姉さん……?それに時雨姉さんも……?」

 

「良かったっぽいー!本当に記憶が戻ってるっぽいー!」

 

「戦治郎さんや空さんが言っていたのは本当だったんだね……、うん、本当に良かったよ……」

 

春雨の呟きを聞いた夕立が涙を浮かべながら春雨に飛びつき、時雨はその様子を見守りながら、その瞳に浮かんだ涙を指で拭うのであった

 

「春雨の口振りからすると、どうやらお前らは姉妹っぽいな……、でも何で部屋に飛び込んで来た段階で気付かなかったんだ?」

 

「多分その時はまだ混乱してたんだろ」

 

その様子を見ていた戦艦水鬼が疑問を口にすると、南方棲戦姫がこの様に返す。それを聞いた春雨は正にその通りだった為特に反論はせず、自身と熱い抱擁を交わす姉を落ち着かせる事に集中するのであった

 

 

 

その後、夕立が落ち着いて春雨から離れたところで戦艦水鬼達が自己紹介を始め、それから春雨が今何処にいるのかについてや、どうしてここにいるのかについて説明してくれた

 

説明を受ける春雨は、終始驚きっ放しであった。自身が沈んだ後深海棲艦になってしまっていた事、そんな自分を彼らが助け元の姿に戻してくれた事、そして何より驚いたのは……

 

「あの双子に引き抜かれた春雨の腕の骨だけど、駆逐棲姫から春雨に戻っても治らなかったんだわ……」

 

「そういう訳でだぁ、今のお前の腕の骨はこいつと俺、そして空母棲姫になっちまった空って奴が頑張って作った人工骨になっちまってるんだわぁ」

 

「素材は妖精さん達特製のオベロニウム鋼、それをこれまた妖精さん達謹製のティルタニア樹脂でコーティングした特別仕様の人工骨となっておりま~す」

 

「で、そいつをこの俺が手術して埋め込んだんだわぁ、どうだぁ?傷口が何処にあるか分からねぇだろぉ?それが俺の腕前って奴だぁ、くっきゃっきゃっきゃっきゃっ!!!」

 

戦艦水鬼の戦治郎と潜水棲姫の悟のこの発言である、自分の腕の骨があの謎の双子に引き抜かれていた事に加え、その代わりとなる人工骨を彼らが今まで聞いた事も無い様な謎の素材で作り上げただけに留まらず、その骨を何と自分の腕に埋め込んだと言うではないか。何処をとっても驚くべき点しかなかった為、春雨はただただ愕然とするしかなかったのである

 

その後、春雨は戦治郎から戦治郎達が此処に来るまでの話を聞き、戦治郎達があの南方海域の問題も解決した存在であると知ると、ある決意を固め戦治郎達にあるお願いをするのであった

 

「あの……、皆さん……、お願いがあるんです……」

 

「どったよ春雨、藪からスティックに……」

 

春雨の言葉を聞いた戦治郎が最初は冗談めかしながら尋ねるが、春雨の表情を見るなりそれが真面目な内容である事を察し、その表情を真剣なものへと変えて春雨が言葉の続きを話すのを静かに待つ

 

「助けて欲しい人達がいるんです……」

 

「詳しく話を聞こうか……」

 

春雨と戦治郎がこの様な会話を交わし、春雨はまずは自分が、自分達が何故この海域にいるのかについて話し始める。それを海賊団の面々が聞いた途端、部屋の中の雰囲気がガラリと変わった、部屋の中の空気が明らかに剣呑なものに豹変したのである。夕立と光太郎に至っては、燃え上がる激しい怒りを必死になって堪えているのが傍から見ても分かる様な状態となっていた

 

「OKありがとう春雨、んで、今回その腐れ外道の被害被ってる春雨以外の艦娘の名前は?」

 

「天龍さん、暁ちゃん、響ちゃん、雷ちゃん、そして電ちゃんの5人です……」

 

戦治郎に尋ねられた春雨が、自分と共にこの海域に送り込まれた艦娘達の名前を挙げる。戦治郎はそれを聞くと静かに立ち上がり……

 

「今拠点にいる奴を全員会議室に集めろ、天龍達の捜索隊を編成してすぐに出撃するぞ」

 

そう言って医務室から出て行き、それに続くようにして光太郎達も医務室から退室、すぐさま散開して拠点内にいる海賊団のメンバーにこの事を伝えに走るのであった

 

「もしかしたら天龍達が負傷してる可能性もあるからよぉ、今回の出撃は俺も出るぜぇ。そういう訳で望ぃ、悪ぃがその時は春雨と翔の事頼むわぁ」

 

悟は望に向かってそう言い放ち、それを聞いた望は悟の言葉を了承した事を伝える為に、静かに1度だけ、コクリと頷いて見せるのであった。それを確認した悟はすぐに医務室を出て、会議室へと向かうのであった

 

それから間もなく、周辺の調査に出ていた通達も帰還し、会議室には海賊団のメンバー全員が集結するのであった




白露~春雨の5人姉妹、その親戚が五月雨~涼風の5人姉妹という設定です
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