「皆集まってくれてありがとうな、ちょっち緊急事態が発生しちまってな……、それ解決する為に出撃する事になったんだわ。詳細は春雨、頼んだ」
戦治郎が会議室に集まってくれた皆ににそう言って頭を下げた後、春雨に向かって視線を送り続きを話す様に促した
春雨は海賊団全員の視線が自分に集中したところで、気圧されてしまったのか1度だけ身体をビクリと震わせた後、気を取り直して自分がこの海域に来る羽目になった切っ掛けを話し始める
まず彼女が話したのは、自身が所属する泊地が超弩級と言っても差支えが無いレベルのブラックな艦隊運営を行っている泊地である事だった
泊地の備蓄資源が大本営が定めた上限30万を遥かに超過しているにも関わらず、遠征部隊は設定されたノルマの為に毎日の様に出撃させられ、もしノルマが達成出来なかった場合は罰として暴力を振るわれていたそうだ。特に旗艦を務める軽巡クラスの艦娘は、酷い時は性的暴行を加えられる事さえあったと春雨は言う
そしてそれが原因で精神に異常が出る者や、自主的に解体申請をする艦娘が後を絶たなかった。誰かが抜ければまた誰かがすぐに新しく配属され、何かしらの原因でまたいなくなる。春雨はそれを今まで幾度となく見て来たと言っていた
それだけならばまだ普通のブラック運営なのだが、この泊地はこれから先の内容が明らかに他とは違うのである
何とこの泊地で精神を患った艦娘や解体された艦娘は、全員が全員行方不明になってしまっているのである。親族から警察に捜索願が出されているのだが、今の1度も誰かが発見されたなどと言う報告は無かったそうだ
警察の要請で憲兵が提督を事情聴取しても、提督はその件に関しては知らぬ存ぜぬを貫き通し、毎回シロと判断されてすぐに釈放され、またいつもの様にブラック運営を行うのだ……
この様な仕打ちは何も遠征部隊に限った事では無く、海域攻略作戦に参加する艦娘達にも行われていたのだ
海域攻略作戦に参加する艦娘達と親しい艦娘を人質に取って、一定以上の戦果を挙げられなければ人質に手を出す、或いは人質を解体する。提督はそう言って艦娘達を脅迫し、艦娘達を自分の都合の良い手駒に仕立て上げているのである……
春雨がここまで話を進めると海賊団全員が殺気立ち始め、春雨の目にはどことなく空間の一部がその殺気のせいで歪んで見えていた
と、ここで護は手を上げて、春雨に向かって質問する
「何か話の一部が確定情報みたいになってるッスけど、その情報ソースは何処ッスか?」
「それが私がここにいる原因なんです……」
護の質問に対して、春雨はそう答えて話を続ける
そんなある日、遠征から戻った春雨達が報告の為提督の執務室に立ち寄った際、中から話し声が聞こえてきたのだそうな……
その時春雨達は話の邪魔をしたら何をされるか分からないと言う恐怖から、すぐに執務室から離れようとしたのだが、その会話の内容をハッキリと聞いた瞬間、春雨達は思わずその足を止めてしまったのだ
「この間お前さんが売ってくれた情報なんじゃが、無事買い手が見つかったぞ」
「そうか……、まあ誰が買ったかなど容易に分かるがな……。で、そいつらの情報はいくらだ?」
「……これくらいでどうじゃ?」
「ふむ……、いいだろう……」
「毎度あり、で、お前さん達が攻撃を仕掛けようとしておる飛行場姫なんじゃが、アビス・コンダクターとか言うグリーンランド近くに拠点に据えている転生個体の集団を味方に付けたようじゃ」
「グリーンランドだと……?よくもまあそんなところからミッドウェーに行ったな……」
「大方アメリカにいるリコリスが、そいつらを追っ払う時に飛行場姫の名前を出したんじゃろ」
「成程……、それで、そいつらは俺が警戒しなくてはいけない程危険な奴らなのか?」
「毎度、奴らの企み事が成功したら、地球人類と深海棲艦全てが一丸となってそいつらに戦いを挑んでも、勝てるか分からんな。もし企みが失敗したとしても、幹部クラスの連中の実力じゃったらお前さんの自慢の大和もワンパン確定じゃな」
「……笑えん冗談だな」
「お前さんがそう思うんならそうなんじゃろ、んでそのアビス・コンダクターから飛行場姫経由で商売の話が来たんじゃ」
「ほう……?」
「何でも生贄にする娘が6人ほど足りんから、儀式成功の為に売って欲しいと言う事なんじゃが……」
「流石にそこまでしてやる義理はないな」
「言い値で買うと言っておるそうじゃが?」
「……だったら、一人当たり……」
「お~お~、いつもの10倍の価格じゃな」
「いつもの泡風呂や臓器売買、奴隷貿易とは訳が違うからな、攻め潰す相手を強化するのだからこれくらいで丁度いいだろう」
「ふむ……、まあいいじゃろう、あっちにその価格でいいか確認取りに行って来るんで、その間に誰を出すか決めておけ」
「通信は出来んのか?」
「毎度、アビス・コンダクターのトップの能力のせいで、あの海域じゃ通信機も電探関係も碌に使えんのじゃ。まあ電探は電波ではなく電磁波、或いはビーム方式にしたら何とかなるかもしれんがのう」
「そんな技術がこちら側にある訳ないだろう……、まあいい、取引の件は頼んだぞ、プロフェッサー」
「任せておれ、何とかその価格で話をつけてやるわい、じゃから仲介料の方は頼んだぞ」
「私達はこの話を聞いた後、司令官に気付かれない様に注意しながら、急いで部屋に戻って司令官を大本営に通報したのですが……、憲兵さんは動いてくれず、それどころか通報した事が司令官にバレてしまって……」
「それで提督は口封じの為にお前達を生贄にした、と……」
俯きながら自分達がこうなってしまった経緯を話した春雨は、何処かから持って来たコーヒーメイカーで作ったコーヒーを啜る空の言葉に対して、力なく頷いて返すのであった
「そして私達はそのアビス・コンダクターと呼ばれている方々に捕まっていたんですが……、天龍さんが機転を利かせてくれたおかげで、何とか脱走する事に成功したんですけど……」
「追って来たあの双子の攻撃から天龍を庇った結果、春雨は沈んでしまって駆逐棲姫になってしまった、と……」
春雨の話を聞いた木曾がそう言うと、春雨はまたコクリと頷いて見せる
「身体の方に重傷を負っていたら深海棲艦化……、あぁ、今後扶桑や神通、春雨みたいに1度深海棲艦になっちまった奴の事は、これからは黄泉帰りからとって『
「あの時は皆を逃がさなくちゃって事で頭がいっぱいで……」
「だから春雨さんは黄泉個体になったんですね……、私も同じ様な経験をしているのでその気持ちはよく分かります……」
戦治郎の言葉に対して春雨はこの様に返し、それを聞いた神通がそれはそれは優しい瞳で春雨の事を見つめるのであった
「で、でだ、骨抜かれて気絶した春雨がこのウェーク島に流れ着いて、それを摩耶達が発見、その後春雨を追って来た双子と摩耶木曾コンビが激突、その間に阿武隈と天津風が春雨を連れて戦線離脱、俺達に双子の事を報告して俺と大五郎、輝が摩耶達の応援に駆け付けるが、大五郎が春雨が喰らった骨抜きを喰らってダウン、それから射撃攻撃で双子を追い詰めたんだが、双子の関係者と思われる海峡夜棲姫が乱入して来て、双子には逃げられたんだわ……」
戦治郎が春雨と交代して、春雨がこのウェーク島に流れ着いてからの話を皆に話す。それを聞いた海賊団のメンバーの表情が、一斉に真剣なものへと変わる。それも当然だろう、先程の話から出撃の目的が今も何処かを彷徨っているであろう天龍達の保護であると察しがついたところで、強力な転生個体が天龍達を追っている事が判明したのだから、真剣にならざるを得ないのである
「……皆の表情を見る限り、目的は分かってくれているみたいだな。取り敢えずさっきの話に出た双子と闇城には注意してくれ。んじゃ編成に移ろうと思うんだが……」
戦治郎がそう言って、艦隊編成の話に移ろうとした時である
「その前に1つだけいいか?」
会議中ずっと眠気覚ましのコーヒーを啜っていた空が、春雨に視線を向けながらある事を尋ねようとする。戦治郎が許可を出すと、空は春雨に対して質問をぶつける
「春雨は何処の所属なんだ?俺達はこの海域の問題を解決し、長門達がミッドウェーを攻略するのを見届けた後、日本のある泊地を襲撃する予定でな、そこを潰し終えた後、ついでに春雨のところにも1つきつい灸を据えてやろうと思っているのだが……」
「んだな、人身売買とか洒落になってねぇし、何よりエデンの構成員に日本海軍の情報流してるのは流石に見過ごせねぇ。って事で春雨、春雨が所属してる泊地ってのは何処だ?春雨の仲間を助け出す為に、俺達に教えてくれねぇか?」
空の言葉を聞いた戦治郎がその話に乗っかり、空と共に春雨の所属する泊地の名前を尋ねる。春雨は少し戸惑った後、意を決して自身が所属する泊地の名前を口にする
「桂島……、日本にある桂島泊地です……」