あたしが艦娘になった理由は、今思えばしょうもない事だった
中学に入学し部活で艤装競技の射撃を始め、才能があったのか技術がメキメキと上達し2年になる頃には大きな大会で優勝出来るほどの腕前になっていた
高校は学校推薦で艤装競技の名門と言われているところに入学し、そこでも大いに活躍しあたしはエースの座に付いていた、その頃のあたしは正に井の中の蛙、世界の広さも知らず周囲に持て囃されて天狗になっていたのだ
調子に乗ったあたしは高校卒業後の進路で軍に入隊するつもりでいた、自分の射撃の腕を過信して深海棲艦をバッタバタと沈めて国の英雄になってやろうと考えていたのだ
だが、両親には激しく反対された、そんな危険な事などせずに大学に進学するなり艤装競技のプロ選手になればいいではないかと言われたのだ
あたしを心配して言ってくれている優しい両親、しかしあたしはそんな両親の気持ちを踏みにじるかのように数日かけて準備を整えて、艤装といくつかの荷物を持って家を飛び出した
友人にメールで短い別れの挨拶を済ませて向かった先はロシアのモスクワ行きの便が出ている空港だった
日本の近くで活動していたらすぐに見つかってしまうだろうし、艦娘の配備が殆ど出来ていないヨーロッパ方面ならもしかしたら活躍して有名になれるかもしれないなどと甘い考えでまずロシアへ向かいそこから陸路でドイツに向かう事にした、直接飛行機でドイツに行こうとしなかったのはバルト海と地中海からの襲撃を恐れたからだ
金銭については両親には秘密でバイトして貯めた金があり、一部を向こうで使えるように換金しておいた
忘れ物がないかチェックし問題ない事を確認した上で空港の入口に向かってみれば、先程メールを送ったはずの友人がそこに立っていた
あたしを連れ戻しに来たのかと思ったが、友人はあたしに付いて行くと言い出したのだ、あたし以上にしっかりと準備をしていたようでこれには流石にあたしも驚いた
パスポートについては艤装に付いているプレートがその代わりとして使えたので問題なく飛行機に搭乗し、あたし達はロシアを経由してドイツに向かい北海にて初出撃を果たしたのだった、未来の英雄を夢見て……
しかし、現実はそう甘くはなかった
艤装は競技用の改造を施しているから普通のものより威力があるだろうと思って付近を通った深海棲艦に戦いを挑んだが、相手にはまるでこちらの攻撃が通用していない、それに気付いてしまってからは思うように身体が動かなくなり、相手の攻撃を悉く受け艤装はボロボロになってしまった……
あたし達が如何に愚かだったかを思い知らされた、死を目前にしてようやく両親が正しかった事に気付き、友人を巻き込んでしまった事を激しく後悔した……
そして放たれた砲弾が真っ直ぐあたしに向かって飛んでくる、友人が、木曾が何か叫んでいるが聞こえない……、すまねぇな、あたしのわがままに付き合わせちまって……、先にあの世で待ってるぜ……、目を閉じて現実を受け入れようとする……
爆発音が聞こえた、嗚呼……、あたしもいよいよ終わりか……、痛みも何も全く感じねぇ……、そう思ったところで疑問が浮かぶ
何で砲弾が爆発したのにあたしにダメージがこないんだ?
不思議に思って目を開いてみれば、誰かの背中が見えた
間違いなく木曾のものではない、あたし達が知らない誰かの背中と、その背中から伸びた腕に握りしめられた鉄パイプと小脇に抱えられた大きな長い箱がハッキリとあたしの目に映った
「大丈夫か?」
その背中の持ち主がこちらに視線を送りながら問いかけてくる、あたしはその顔を見るなり恐怖で表情が凍り付いてしまった
深海棲艦が……、あたしを助けてくれたのか……?
アクセルがくれたでっかいバウムクーヘン、梱包に使われている箱は完全防水、耐衝撃仕様で飛沫も多少の戦闘もへっちゃら! ガンガン飛ばして帰れるぜ! これ見たらあいつら皆驚くだろうな~でゅっふっふ~、しかもドイツ海軍と仲良くなったとか言ったら更に驚く事間違いなし! ……幼馴染連中はそうなって当然みたいなリアクションしそうなのは何故だろうか……
来るときと違って今は頼んで譲ってもらった鉄パイプもあるし、軽い戦闘なら出来そうだな、しかし出来ればポン刀が欲しいところだ、どうせだから背中に背負うようなでかくて長いのがいいな~、某狩りゲーの太刀みたいな奴、あれカッコイイよな~、あんなん作ってみたいわ~……、って向こうが何か騒がしいな……
そう思ってそっちを見てみてもここからじゃよく見えん……、どうしたもんか……
「旦那、何なら俺がひとっ飛びしてくるか?」
うぉっ! びっくりした~……、そうだそうだ俺には鷲四郎という艦載機があったんだわ、スッカリ忘れてた!
「よし、んじゃちょっち頼んだ!」
そう言って鷲四郎を発艦する、しかしこの爆雷みたいなのはいつの間に手の中に入ってるんだろうか……
「あいよ! んじゃ行ってくる!」
鷲四郎は発艦するなりすんげぇスピードで飛んで行った、あいつめっちゃ速ぇ! もう見えなくなっちまった……、とりあえず俺もそっちに向かうとするか
「大変だ旦那! 女の子が深海棲艦に襲われてやがる! 方角は……、確か正面が12時方向だっけ?」
「そうそう、因みに俺は今おめぇが飛んでった方角に真っ直ぐ進んでいるからそこんとこよろしく」
「じゃあそのまま真っ直ぐ来てくれ!」
さって方角も分かった事だし、急ぐとしますか!
俺は勢いよく海面を蹴り、全力で真っ直ぐに走り出す、大五郎が近くにいたらもっと速く走れるんだが今はそんな事気にしてらんねぇ!
いたああああああっ!!! あれは摩耶と木曾かっ!!! つか相手は主砲発射の準備完了してるじゃないですかやだー!!!
更に速度を上げて2人に接近する、そうしている間に主砲が発射され砲弾が摩耶に向かって飛んでいく
「なっ! 摩耶、新手が来たぞっ!! って聞いてるのか摩耶っ!!?」
木曾が叫ぶが摩耶が反応してねぇ、あぁあぁあぁ……、ありゃ砲弾受けて沈む覚悟出来た顔ですわぁ……、でもそんな事俺が許さん!
摩耶と砲弾の間に割り込み、気合入れて鉄パイプで砲弾を切り払うようにぶん殴ると砲弾が爆発した、でも鉄パイプは無事! 不思議! とか言ってる場合じゃねぇな……
「大丈夫か?」
摩耶に視線を送りながら問うが返事はない、つか驚いて固まっちまってやがる……、まあ俺の姿が姿だからしゃあねぇか……
そんな事よりも、だ……、相手はリ3チ2イ1か……、戦艦や空母がいなかったのが救いっちゃ救いだった感じだなおい……
そんな事を考えていると、リ級の中の1匹が俺を見るなりギョッとする、ああ、こいつは撃ち漏らしたあのときのリ級か、運のねぇ奴だなぁ……
「おい、こっちは固まっちまったがそっちは大丈夫か?」
「あ、あぁ……、艤装はこの通り使い物にはならなくなったが命だけは無事だな……」
固まっている摩耶は放っておいて木曾に尋ねる、戦闘には参加出来ねぇようだな……
「ならこいつを預かっててくれ、大事なもんだから無くすなよ?」
そう言って木曾にバウムクーヘンを預けると俺は鉄パイプをしっかりと握り直し、撃ち漏らしリ級に突っ込む、後ろから木曾の声が聞こえるが気にしない
撃ち漏らしリ級……、同じ顔が3つもあるからリAでいいや、リAは怯えた表情をしながらも俺に右腕の砲を向けてくる、何か罪悪感が湧いてくるがとりあえずそんなものは無視してその腕を鉄パイプで薙ぐように殴りつける、その衝撃でバランスを崩したのかよろめくリAの首を左腕で掴み、こちらに引き寄せながら腹に左脚で膝蹴りを叩き込む
前のめりになったリAの首に気合を入れた鉄パイプを振り下ろせば、その首はバッサリと切断され頭が海に落ちて見えなくなる
それを見たリBは怯え竦んでいたがリCは果敢にも俺に砲撃してくる、俺はすぐさまそこから飛び退き……、やっべ飛び過ぎた、丁度着地地点にイ級がいたのでついでとばかりに鉄パイプを突き立ててそこからの斬り上げに繋げて撃沈する
それでもリCは砲撃の手を休めない、俺に向けてバンバン砲弾を飛ばしてくる、そういやチ級達はどうなってるのか、気になったのでそっちを見てみれば摩耶達に攻撃しようとしていた
急いでそちらに向かって走り、背後からチAの後頭部に鉄パイプを叩き込みそれに驚いたチBの首を掴みリCの砲撃から身を護る為の盾にする、リCの砲撃が当たる度に悲痛な叫び声を上げるチBの事など気にも留めずリCに突撃する
リCの表情が段々と恐怖に染まっていく、そんなリCの顔にチBの頭を叩きつけチBの後頭部に鉄パイプを突き立てればリCの顔面も一緒に貫き深海二色団子の出来上がり
遂に耐えきれなくなったリBがこちらに背を向けて逃げ出そうとするが、その背中に向けて鉄パイプを振るえばリCとチBの亡骸が飛んでいき激突、リBが身動きがとれなくなったところで一気に間合いを詰めてリBに袈裟斬りを叩き込んだところ3匹仲良く沈んでいった
チAは後頭部に鉄パイプを受けた衝撃で気絶していたが目を覚ましたときには既に俺の間合いの中、冥途の土産のつもりで笑顔を向けてやると絶望に染まった表情で震えていた……、俺はそんなチAの首を無情にも刎ねた
何だこの戦艦水鬼は……、強過ぎるってレベルの問題じゃねぇぞ……、摩耶はさっきの奴の戦いを見ていただろうか? 艤装無しで鉄パイプのみで1対6という圧倒的な数の差をひっくり返して無傷で勝利するとか有り得ねぇ……
「もう大丈夫だ……って俺が言っても信用出来ねぇわな……、とりあえずバウムクーヘン返してくれ」
その戦艦水鬼が俺に話しかけてくる、ってこれバウムクーヘンだったのか? 何でバウムクーヘンなんか持ってんだこいつ、さっき大事な物とか言ってた気がするんだが……
「魚介類以外での貴重な食料なんでな、仲間達に食わせてやりてぇんだ、ってことでほれ」
手を伸ばしてきたのでさっき預かった箱を返す、しかしこいつは流暢な日本語を話すな……、一体何者なんだろうか
「そういや、おめぇらは自力で航行出来るのか? 艤装滅茶苦茶になってるが大丈夫なのか?」
「残念ながらダメだな……、どうにかして助けを呼ばねぇと……」
何かこの戦艦水鬼、俺達の事心配しているように感じるんだが気のせいか? いや、気のせいじゃないな……、助けを呼ばないとの件で渋い顔をしていたからだ
「残念だが救援は期待しねぇ方がいいぞ、現状ヨーロッパで艦娘配備してんのドイツだけだが、そのドイツでさえあんま頭数揃えられてねぇみたいだからな……」
何でそんな事知ってんだよこいつ……、そのバウムクーヘンと何か関係あったりするのか……? まさかな……?
そんな事を考えていると、戦艦水鬼が提案してくる
「なぁ、もしよければなんだが……、俺達にその艤装いじらせてくんねぇか? どうせボロボロだし直ればラッキーって感じで、どうだ?」