一体何が起こった?何処から攻撃が来た?アルバートは一体何をやった?
突然の攻撃を受けてまともに身動きが取れなくなってしまったシゲ達は、驚愕の表情を浮かべながらも状況を把握する為に全身の神経が鳴らす警鐘を無視して周囲を見回すのだが、アルバートが自分達を攻撃する際に用いた物の痕跡は何1つ見つける事は出来なかった
アルバートはこちらが認識出来ない方法で、こちらを一方的に攻撃し嬲り殺しに出来る
その事実を突きつけられたシゲ達は次第に動揺し始め、その様子を見ていたアルバートは動揺するシゲ達を鼻で笑った後、シゲ達にトドメを刺そうとエストックを握り締めて動き出そうとするのだが……
「アルバート、この者達が気に入らないのは分かります、ですが今は儀式を優先して下さい。この者達を始末するのは、儀式を終え偉大なる神の力を手に入れてからでも遅くはないと思います」
アルバートの背後から姿を現したエリカがこの様に言うと、アルバートは舌打ちしながらもエリカの言葉に従って、先程の攻撃の最中に回収したと思われる儀礼用の剣をエリカに差し出す
エリカはそれを受け取ると祭壇に向かい、生贄の拘束を解こうとしていた天龍を思いっきり蹴飛ばして祭壇から遠ざけ、儀式を再開しようとする。と、その時だ、儀式を再開しようとしたエリカに向かって、誰かが大きな何かを投擲したのである
しかしそれはエリカに当たる事は無く、祭壇の手前で何かによって撃ち落とされてしまう。突然の出来事に驚いたシゲ達は、先ずはエリカに向かって投げられた物に視線を向ける
得体の知れない何かに撃ち落とされた物、それは普通の手裏剣より遥かに大きい手裏剣、風魔手裏剣であった。こんな物を扱う者は1人しかいない、そう思った一同が該当者の方に視線を送れば、風魔手裏剣を投擲したと思われる人物、神代 通はゆっくりと立ち上がりながら己の腕に付いた傷を、反対の手で撫でて見せるのであった
するとどうだ、先程までパックリと割れていた通の腕は、すっかり元通り、傷一つない状態にまで回復しているではないか!それを見たシゲ達が驚き慄いていると
「あの状況で斬られたフリをするか……、貴様……、何者だ……っ?!」
アルバートが忌々し気に通の睨みながら、その名を尋ねるのであった。そう、通はあの不意打ちを見事に捌き切り、忍具として出現させた血糊を使って刃物傷を偽装し、あたかも不意打ちを受けたように見せかけていたのである
「風魔一党の頭目は風魔小太郎の末裔、神代 通と申します。以後お見知り置きを……」
「風魔……、忍者の末裔か……っ?!あの男、何と言う奴を味方に引き込んでいるんだ……っ!?」
尋ねられたのならば仕方が無いと言った様子で、通がアルバートに対して自己紹介すると、アルバートは風魔と言う単語を聞いた瞬間、驚きの表情を露わにした後この様な事を呟くのだった。どうやらイギリス生まれのアルバートにとって、忍者は強敵であると言う印象がある様だ
「……しかしいくら忍者と言えど、僕の攻撃を見切っていたとしても、たった1人ではこの状況はどうしようもないだろう」
「果たしてそうでしょうか?」
アルバートが通に向かってそう言い放つと、通はこの様に返すと同時に指を鳴らして『闇寄せ』を解除してしまう。折角自分が得意な戦場を作り上げているのに、どうして通は『闇寄せ』を解除してしまったのだろうか?突然の『闇寄せ』解除に対して、シゲが疑問に思っていると、辺りは沈み切っていない夕日に照らされ、通が『闇寄せ』を解除した理由がその正体を現すのであった。それを目の当たりにしたシゲ達は、思わず愕然とし硬直してしまう
何とアルバートの影から、斧の刃の様な物が先端に付いた真っ黒な触手の様な何かが何本も生えていたのである。いや、アルバートの影だけではない、木の根元にある影や木の葉の裏に出来た影、そして自分達の足元にある影からも同じ様な物が生えてきているではないか
そう、アルバートの能力は影を自在に操ると言うもので、その名を『シャドウ・スレイヴ』と言うそうだ。その有効範囲はアルバートの目が届く範囲全てとなっており、彼が対象をしっかりと捕捉し、攻撃に使う影の有無とその位置を把握していれば、何時でも何処からでも攻撃を仕掛けられる様になっているのである
つまり先程の不意打ちは、『闇寄せ』によって作られた影で、『闇寄せ』の影に紛れて行われたもの、通の『闇寄せ』を逆に利用しての攻撃だったのである
「これで先程の手は使えなくなりましたね、とは言ってもまだまだあちこちに影はありますが……」
「さっきの攻撃でそこまで読むか……、いや、それよりもあの夜はお前が作り出していたものだったのか……。道理で影が中々言う事を聞かなかった訳だ……」
「これも修行の賜物と言ったところでしょうね、尤も、気付くのが遅れて皆さんにダメージを負わせてしまいましたが……」
通とアルバートはこの様な会話を交わしながら、同時に剣を構える
先程の言葉通り、通はアルバートが『シャドウ・スレイヴ』を発動した時、自身が生み出した影に何者かが干渉して来た事を感知し、そこでアルバートの能力に気付いて影の主導権を渡さない様に奮闘したのである。だが結局主導権の半分以上をアルバートに奪われしまい、精一杯の抵抗として潜入チームに向けられた影の刃のコントロールに妨害を仕掛け、致命傷になりそうな攻撃だけは何とか逸らす事に成功したのである
「他の連中はどうでもいいが、お前だけは殺すのが惜しくなったな……、どうだ?この僕、アルバート=ザハウィーと共に来る気はないか?」
「生憎と、私は貴方達の様に人間に絶望していませんので。それに……」
通とアルバートはお互いに剣を構えたまま、ピクリとも動く事無くこの様な会話を交わしていると……
「おい……、俺達のダチ公をカルトに勧誘してんじゃねぇよ……」
「タネと仕掛けが分かればこっちのモンッスね……、覚悟しやがれッス、サイコ野郎……」
不意に2つの声がアルバートの耳を打つ、アルバートが声が聞こえた方へ視線だけ送ると、そこにはアルバートの『シャドウ・スレイヴ』でボロボロになったシゲと護がユラユラしながらも、アルバートを打倒しようと言う意志をその瞳に宿らせながら立っていたのである
「彼らを、友を置いて貴方達に就こうなんて気は一切ありません」
「そうか……、ならば仕方が無いなっ!!!」
通の返答を聞いたアルバートは、そう言うと一気に間合いを詰めて、通に襲い掛かるなり驟雨の様な突きを繰り出すのであった
「シカトこいてんじゃねえええぇぇぇーーーっ!!!」
その様子を見ていたシゲがそう叫ぶと同時に駆け出し、アルバート目掛けてカイザーフェニックスを撃ち出す。が、それはアルバートにヒットする直前で回避されてしまうのであった
シゲの攻撃を紙一重のところで回避したアルバートは、お返しとばかりに『シャドウ・スレイヴ』を発動し、影の刃達をシゲに向かって殺到させるのだが……
「はいは~い、ちょっとそこ通るッスよ~!」
突如視界の隅から姿を現した護が、シゲの襟首を掴むなり靴の爪先と踵に仕込んでおいた球状のローラーで、凄まじく不規則な軌道を描きながらローラーダッシュして影の刃を全て回避して見せるのであった。その最中にも
「メ・ラ・ゾ・ー・マっとぉっ!ダブルフィンガー・フレア・ボムズッ!!いけやコラァッ!!!」
護に首根っこを掴まれたまま引っ張られるシゲが、そう言いながら両手の小指から順に火の玉を発生させながら指を立てていき、最後の掛け声と同時に計10個の火の玉をアルバートに向かって投げつける
アルバートは身体を横にスライドさせて、シゲの攻撃を回避するのだが、そこに待ってましたと言わんばかりに、通が風魔手裏剣を2つ投げ込む。アルバートはそれをエストックで叩き落すのだが、それで出来た隙に乗じて今度は通自身が斬りかかって来たのである
通の斬撃を影の刃で凌ぎ、カウンター気味にもう1本の影の刃で通に斬りかかるアルバート、彼が放った影の刃は見事通の腹に直撃……した様に見えたが、それは通が予め仕掛けておいた空蝉、つまり偽物だったのだ
アルバートが本物の通を見つける為に周囲を見回すと、本物の通は彼が立っている位置から少し離れた位置で、シゲと護の2人と何かを話していたのであった
「遺言でも残していたのか?」
アルバートが3人に向かって、挑発する様にそう言うと……
「いいえ、3人で貴方を倒す方法を考えていたのですよ。貴方を倒さない限り、あの祭壇には辿り着けそうにないですからね」
「ほれ、昔から3人寄れば何とかって言うだろ?」
「シゲ~、あいつ名前からして日本人じゃなさそうッスよ~?その言い回し分かるッスかね~?」
3人は口々に、この様に返答する。そして……
「そして先程1つだけですが方法を思いついたので、早速試してみようと思っていたところなのですよ」
通はそう言うと、謎の機械が取り付けられた己の両腕を、アルバートに見せる様に自身の胸の前に掲げる。と、その時である
「う"わ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ーーーっ!!!」
突然祭壇の方から誰かの絶叫が聞こえて来たのである、通達3人だけでなく、アルバートまでもが何事かと思いそちらに首を向けると、そこには祭壇を見つめながらボロボロと涙を流し、怒りと悲しみと無力感が綯交ぜとなった感情が籠った声で絶叫する天龍の姿があった……
そう……、たった今、『シャドウ・スレイヴ』のダメージのせいで動けなくなっている天龍の目の前で、シスター・エリカの手によって、最後の生贄が彼女達が言う偉大なる神に捧げられてしまったのである……