視線を向けた先で妖精さんが溺れていた、大きさは金次郎と同じくらいだろうか、小さな手足をばたつかせ必死にもがいていた
何でこんなところに妖精さんがいるんだ? 俺達がこの小島に来たときはその姿を全く見かけなかったんだが……、何で今更姿を見せるようになってしかも溺れてるんだ……? って考えてる場合じゃねぇ、助けねぇとっ!
俺は走って妖精さんの元へ向かい溺れる妖精さんを両掌で優しく掬い上げる、妖精さんは一頻り掌の上でもがいた後様子がおかしい事に気付いてキョロキョロと辺りを見回し俺と目が合う
「おめぇ、大丈夫か?」
声をかけたら尋常じゃないくらいに驚いて震えだす、妖精さん達にとっても深海棲艦は敵だって聞いてたからこの反応はまあ仕方がないものだと思う、でも俺達は妖精さんに対して酷ぇ事するつもりもサラサラないからいつまでもこの状態でいられるのも面白くないんだよな~……
どうしたものかと考えてたとき、話し合いのとき食っていたバウムクーヘンの残りの存在を思い出す、そういや妖精さんは甘い物大好きなんだっけか……
「ちょっち大人しくしててくれよ」
俺は妖精さんにそう言って小屋へ向かう、確かバウムクーヘンの残りは小屋の中で保存するって言ってたっけか……、とりあえず妖精さんにバウムクーヘンあげて落ち着いてもらおう
バウムクーヘンはすぐに見つかった、そりゃまあ大した家具とかねぇから隠す場所がねぇもんな……、かなり小さく切り分けて妖精さんに与えてみる、妖精さんはそれをおずおずと受け取ると俺の顔と小っちゃいバウムクーヘンを交互に見る
「変なもんは入ってねぇから安心して食っていいぞ」
俺の言葉を聞いて恐る恐る食べ始める妖精さん、一口食べた後ニパァと笑ってガツガツと勢いよく食べ始める、余程腹が減ってたみたいだ
妖精さんはバウムクーヘンを食べ終わると満足したようにお腹を摩った後笑顔でピョンピョンと飛び跳ねる、これはお礼を言っているのだろうか? その姿はとても可愛らしいものであった
「さって……っと……」
俺はそう呟いて小屋から出ようとした、妖精さんとの触れ合いがいい休憩になったのでまた艤装の修理に再チャレンジしようと思ったからだ
その様子を見て不思議そうな顔をする妖精さん、俺が歩き出したら慌てて付いて来ていたので俺の肩の上に乗せてそのまま摩耶達の艤装のところへ向かった
妖精さんは摩耶達の艤装を見て驚きながら俺の方を見ていたが、事情を説明すると納得したのか両腕を組んでうんうんと頷いていた
「一応機械いじりはやってはいたんだがな~……、これは何度見てもホントよく分からん構造してて困ってたんだわ……」
妖精さん相手に愚痴をこぼしながらスパナを握ったところで、妖精さんが腕を伝ってスパナを握った手の甲の上に立ちピョンピョン飛び跳ねた後自分の額をペチペチと叩いていた、何事かと思って反対の手で額を拭うとブンブンと勢いよく首を横に振り足元を指す妖精さん、こっちの手でやれって事か?
取り敢えずスパナを置き妖精さんをどかそうとしたら必死になって手にしがみついたので妖精さんはそのままにして、スパナを握っていた手を額に近付ける、すると妖精さんが飛び起きて自分の額を俺の額にくっつけてきたのだ
その瞬間、今まで聞いた事もない言葉がいくつも重なってテレビの砂嵐のような音となり俺の耳の中で暴れだし、これまでに見た事もない図面などが目の前にいくつも現れ視界を埋め尽くす、全身の筋肉がまるで何かに呼応するようにビクビクと脈動し始め奇妙な感覚に陥る、俺は一体何が起こっているのか分からなくなり激しく混乱していた……
しばらく続いたそれは前触れもなく唐突に消えて、目の前には摩耶達の艤装と修理に使っていた工具が転がってる、妖精さんと額をくっつける前と変わらない光景がそこにはあった
「今のは一体何だってんだよ……」
そう呟いて妖精さんの方を見てみれば、妖精さんはニコリと笑顔を返してきた
「お礼……? 今の発狂しそうな光景見せるのがお礼って……」
口に出したところでふと思う、俺は何で妖精さんが言っている事が分かるんだ?
妖精さんが言葉を発したわけではない、しかし妖精さんが何を言っているのかが分かるようになっていた、なにこれこわい、これってもしかしてさっきの奴の影響なのか?
そしてまさかと思って摩耶の艤装を恐る恐る開いてみると、その内部構造が全て理解できていた……、うひぃ! これは怖い! 超怖い! 知らねぇはずの事を既に知っているとか恐ろし過ぎるだろう!
「ん……? お菓子のお礼に情報交換した?」
情報……、交換……?
「……おかげで俺がどんな奴か分かったって? お、おう……、そうか……」
キィャアアアァァァッ!!! 俺の事も妖精さんにブッコ抜かれてるうううぅぅぅっ!!! すんげぇ恥ずかしいいい!!! すんげぇ怖いいい!!!
「そんな貴方にお願いしたい事がある? ……何かあったのか?」
お願い? 一体何事だろうか、そういや何でこいつは海で溺れていたのだろうか……、その事とお願いに関連性があるのではないだろうか……?、何か胸騒ぎがするな~……
そんな俺を余所に妖精さんが話し始める……
「は~~~い、皆さ~~~んおはようございま~~~~~す!!!あっさでっすよ~~~~~!!!」
ものっそいハイテンションで起床ラッパの如く声を張り上げ全員を叩き起こす、全員が俺の元にノロノロと集まったところで今日の活動予定を話し始める
「え~、まず最初に摩耶と木曾の艤装についてなのですが~……」
俺はそこで苦悶の表情をしながら言葉を切る、それを見て摩耶と木曾が察したような顔をする
「ダメだったみたいだな……、まあ最初に期待するなって言ってたからな……」
木曾は仕方ないといった感じだが摩耶は非常に悔しそうだった、やられっぱなしが気に入らないんだろうな~、んじゃあまあ、その表情ぶっ壊しましょうか
「完全完璧パーフェクトな状態に仕上がりました~!」
すんげえ笑顔でそう言って2人の前に擬装を持ってくる、見よ! この新品の如く輝く艤装を!
「「修理出来たのかよっ!!!」」
2人が声をハモらせる、その表情は目をまん丸にして驚いてる
「早速装備してみな! きっと驚くぜ!」
言われてすぐに艤装を装着する摩耶と木曾、おぉ……ってな感じに感嘆の声を上げておられる、ふっふっふ~、頑張った甲斐があるってもんよ~
「前の奴よりも漲ってくる感じがするけど、あんた何かやったのか?」
「民間用艤装はリミッター付いてるって言ったよな? それ外したんだわ」
ぶっひゃっひゃっひゃっひゃっ、驚いておる驚いておる! 話ではそう簡単には外せない、外そうと思ったら日本の大本営のとこの工廠にでも行かねぇといけないくらい外すのが難しいというリミッターを取っ払っちまったんだからなぁ、驚きもするわなぁ!
「艤装の事碌に知らなかったあんたがどうやって外したんだよ!」
まあ、そうくるよな~……、空達現場組も気になってるみたいだしここらでネタ晴らし
「それは~……、こういう事だ! 出てらっしゃいな!」
俺がそう叫ぶと俺の首の後ろに待機していた妖精さんが肩の上に飛び出す、ちょっち無茶させてごめんな
「それは……、妖精さんかっ!?」
あの空が驚いていた、いや~愉快痛快! いあホントた~のし~!!!
「ご名答! 昨日の夜に溺れているこの子を見つけてな、助けてあげたら力貸してくれたんだわ」
俺の肩の上で胸を張る妖精さん、ホント君のおかげで修理出来たんだからもっと胸張っていいのよ?
「流石ご主人様! どんな生物とでも仲良くなれるって凄い凄い!」
自分の事のように喜びながら太郎丸が言う、褒めるな褒めるな太郎丸、お前も十分凄いと思うぞ~?
「……待った、何で妖精さんが海で溺れてたんだぁ? 妖精さんなら海で溺れないよう対策の1つや2つくらいやれそうな気がするんだがなぁ?」
悟が感づいたか……、こいつも普段ふざけまくってるけど頭回る奴だからな~……
「それが今日の予定に繋がるわけだ、この妖精さんは深海棲艦の拠点に捕らえられてたらしくてな、仲間の協力のおかげでこの子だけ脱出する事が出来たらしいが追手に追われたらしくてな、移動に使ってた船沈められて流されてこの島まで来たみてぇなんだわ」
ここまで話したところで、長門屋の皆さんの眠気は何処へやら、口角上げて目がギラついてまいりました
「ってぇことはあれか? その妖精さんの仲間を助けに行くついでにその拠点も頂戴しちまおうって腹か?」
輝が言う、うわぁこいつめっちゃやる気になってんじゃん! まあまだ1回も戦闘してないからいい加減暴れたいんだろうなぁ……、つかウチはいつからこんな喧嘩屋集団になってしまったのだろうか……
「輝、大正解! 更に言えばその拠点にある情報使ってプリンツの所在なんかも調べるつもりだ、沈めてるなら沈めたって記録とか残しそうだからな」
深海棲艦の拠点にカチコミすると聞いて盛り上がる長門屋の面々、そんな戦闘狂になり果てた従業員達は放っておいて、俺は摩耶と木曾の方へ向き直る
「さて、俺達はこれから深海棲艦の拠点に攻め込もうとしているわけなんだが、おめぇらはどうすんだ? 今回の事反省して日本でやり直すってんならカチコミの前におめぇらをドイツまで送るが……」
摩耶達に尋ねる、そう、今から俺達がやる事は非っ常に危険な事なのである、間違いなく大量の深海棲艦を相手にしなくてはいけなくなるのだ、ぶっちゃけ俺らの方も摩耶達を守りながら戦う余裕はねぇと思うからどうするか聞いてみたのである
「生憎俺は戻るつもりはないね、戦治郎さんに助けてもらった恩も返せてねぇし、深海棲艦には右目の礼もしなくちゃいけねぇからな、だから俺は戦治郎さん達に付いて行く、もしダメだと言っても付いて行くつもりさ」
木曾の眼帯はマジな奴だったか……、そうなると帰れって言いずれぇ……
「あたしも戻るつもりはないぜ、やられっぱなしは嫌だからな! それにあんた達に借りもあるし、あんな酷ぇ目にあったからこそ深海棲艦を野放しにしちゃいけねぇってのがよぉっく分かったからな!」
摩耶の奴、いい目してやがんなぁ……、こないだので一皮剥けた感じだな……、んも~! これじゃあ帰れって言えねぇじゃんかよ~! ……とか言いつつもこうなる予感はしてたんだよな~、だからリミッターも外したわけだし……
「それに、俺は戦治郎さんのあの鉄パイプ捌きを見て感動したんだ、もしよかったら俺にも教えてもらえないか?」
えぇ……、あれってそんな感動するようなもんかねぇ……?
「あたしはそれより射撃の腕をもっと磨きてぇんだけど、そういうの得意な人ってあの中にいるか?」
いるっぽい、確証まだないけど自信ある人はいるっぽい
「ああ分かった、生き残れたら教えてやっから無茶だけはしてくれんなよ?」
「「よっしゃぁっ!!!」」
こうして、摩耶と木曾が俺達の仲間になった、この2人は後に【鬼神の眷属】と呼ばれる事になる長門屋の主力艦隊を担い、それぞれ【百花繚乱の摩耶】【紫電一閃の木曾】と呼ばれ恐れられる存在となるのだが、それはまだまだ先の話である