戦治郎達が長門に頼まれた閃光迎撃神話の量産を始めた傍らで、シゲが完成した野バス、件の砲塔から名前を引用して名付けられた『アルゴス号』のフロントバンパーにメタルブレード、車体の後方にアースチェインとロケットブースター、運転席にうさぎちゃんと安全おまもり、それと迷彩シールドGとオートエアコンと消火装置の操作用パネル、更に後部座席の殆どを取り払って業務用冷蔵庫とキャンプキット、診察台と医療キットEXを取り付けている頃、工廠にいない空は何をしていたかと言うと……
「空っ!荷物の積み込みが完了したぞっ!」
「承知した、ならこのままサラ達のところへ向かうぞ」
「分かったっ!では空と翔は我の背に乗ってくれっ!」
空はゾアの報告を聞くと、この様な指示を出して翔と共にゾアの背中に乗り込むのであった
護達が飛行場姫の隠し部屋を物色している頃から、空、翔、ゾアの2人と1柱はこれまで拠点にしていたウェーク島の拠点から、ミッドウェーの拠点に引っ越す為に拠点に設置したレーダーと閃光迎撃神話250基以外の荷物を回収していたのである
何故日本に近いウェーク島から、日本から遠のいてしまうミッドウェー島に拠点を移すのか……、それには2つの理由があった
1つは単純にミッドウェーの方が設備が整っていたり、資源が大量にあるからである
ミッドウェーの拠点はこの海域の本拠地なだけはあって、兵用の部屋1つ1つがウェーク島のものより広く、調度品などもワンランク上のものが置いてあったのである
他にも入渠施設や工廠などの設備も、あちらには無い様な機材もこちらには設置されていたりと、兎に角こちらの方が環境が格段に良いのである
そしてもう1つの理由、それはサラ達の事である
ミッドウェー攻略作戦終了後の話し合いの後、空は通信機を使ってサラに作戦が成功した事を伝えると同時に、彼女達に日本かこのミッドウェーの拠点に避難する事を勧めたのだ
だがサラは空の提案を断り、自分達はこのままホノルルに留まるつもりでいる事を空に伝えるのだった。それに対して空が、何故そうまでしてホノルルに留まろうとしているのかについて、サラに尋ねてみたところ……
「あの研究所の地下には、あのライフルと同じ様に開発されたものの封印された兵器達や、採用されなかった兵器達が眠っているんです。それらがもし悪意ある者の手に渡ってしまえば、きっと大変な事になってしまうのではないか……、そう考えた私達はこの地に留まって、封印された兵器達が勝手に持ち出されない様に守って行こうと決意したんです」
サラは決意の籠った声で、この様に返答するのであった。それを聞いた空が、この事を戦治郎に伝えたところ……
「だったら研究所の再建を手伝うかっ!んでその報酬はサラ達が持ってる技術の一部を、こっちに提供するって感じでどうよ?」
この戦治郎の鶴の一声で、海賊団はホノルルの兵器開発研究所の再建を手伝う事となり、先に述べたミッドウェーの拠点の居住性の良さとホノルルまでの距離の都合が突き刺さり、海賊団は拠点をウェーク島からミッドウェーに移す事となったのである
その後、戦治郎が引っ越しの件を海賊団全員に通達しようとしたところで、長門から閃光迎撃神話の量産設置の話を持ち掛けられ、戦治郎が長門とその打ち合わせをしている間に、空が戦治郎の代わりに引っ越しの件を通達、手伝ってくれる者を募集したところ……
「それなら我と翔がいれば事足りるなっ!」
『確かに……、荷物の積み込み作業はゾアの眷属の皆に手伝ってもらえばいいし、食品以外の荷物はゾアの殻の中に積み込めばいいし……、ホントに僕とゾアだけで何とかなりそうだね……』
ゾアのこの発言により、引っ越し作業は空、翔、ゾアの2人と1柱が担当する事となるのであった。因みに、ゾアの殻の中に食品関係が積めない理由は、単にゾアの殻の中が冷蔵や冷凍に対応していないからである。一応クーラーボックスなどを使えば、多少なれど食品も保存出来はするのだが……、そんな事は今は些末な問題である
それから空と翔はゾアの背に乗り、念動力を用いて跳躍力と推進力を強化したゾアの跳躍でウェーク島に向かい、引っ越し作業を開始するのであった
その際、ディープ・ワン達が持って来た食糧を仕分けしていた翔が、持って来られた食糧を見て……
「これは蛇肉……、こっちは野豚の肉……、僕が眠っている間、皆食糧関係で難儀したみたいですね……。本当に申し訳ないです……」
思わず謝罪の言葉を口にするのであった。尚、眠っている間の翔も食べ物関係で苦労させられた事を知っているゾアは、苦い表情を浮かべながらただただ閉口するのであった……
因みに、今回の件で翔だけに食糧の保管を任せるのは危険だと知った海賊団は、輝と太郎丸の艤装に手を加え、この2人の艤装でも食糧が保存出来る様にし、そちらにもある程度食糧を積み込む様になったそうだ
こうして引っ越しの荷物を回収した空達は、以前救援物資として確保していた食糧をサラ達に届ける為に、1度ホノルルの方へと跳躍するのだが、そこで空達は少々信じ難い光景を目の当たりにするのであった……
ホノルルのサンド島で空達が目にした光景、それはゾアの眷属達が研究員達と協力して、瓦礫の撤去作業を行っていると言うものだったのである
先ずはショゴス達が現場に入り積み重なったコンクリートや金属片を崩していき、それらをバケツリレーの要領で所定の場所まで運ぶディープ・ワン達と研究員達、ナイトゴーント達はと言うと、ショゴスが対応しきれない大きな瓦礫を、何処から持ち出したのかは不明だがワイヤーで吊るして所定の場所まで空輸して見せていたのである
「おかしいな……、我は眷属達にこんな命令を下した覚えがないのだが……?」
この光景を見たゾアが、そう呟きながら前脚(?)を組んで困惑していると……
「あっ!空さんっ!!」
不意に誰かから声を掛けられ、空達はほんの少し驚いた後声がした方角で視線を向ける。そんな空達の視線の先には、これまた何処から持って来たのか不明な、安全メットを頭に被ったサラが、こちらに向かって駆け寄って来る姿があった
「サラ……、これは一体……?」
ゾア同様この状況に困惑する空が、駆け寄って来たサラに預かっていたデュラハライト砲を返却しながら、この様に尋ねてみたところ……
「私達がこの場に留まると言う話は先程しましたよね?この決定は研究所の皆と話し合って決めた事なんですが……、その話し合いが終わったところで、眷属の皆さんが突然集まって話し合いの様な事を始めて、それが終わったところで眷属の皆さんが私達に協力を申し出てくれたんです。ボディーランゲージで」
「なるほど……、サラ達の話を聞いて感化されたディープ・ワン達が中心となって、他の眷属達を説得してみせた様だな……。ディープ・ワンの精神的価値観は人間と同じだから、こうなる可能性も十分有り得た訳だ……」
サラの言葉を聞いたゾアは、納得した様にウンウンと頷きながら、その様な事を口にするのであった
その後、空がウェーク島から持って来た救援物資をディープ・ワン達に運ばせながら、海賊団が研究所の再建を手伝う方針でいる事をサラに伝えると、サラは流石にそこまでしてもらう訳には……、と申し出を断ろうとする。しかし……
「そう言わずに手伝わせてくれ、戦治郎は報酬云々と言っていたが……」
空がそう言って食い下がりながら、とある場所へと視線を向ける……
そこには今回の騒動のせいで命を落としてしまった、サラの部下である研究員達の墓がいくつも建てられていた。そう、瓦礫撤去作業を行っているゾアの眷属達が、作業中に発見した研究員達の遺体をここに運んでくれたのである
「俺達がもっとうまく立ち回っていれば、これほどまでの犠牲を出さずに済むはずだった……、この墓の下に眠っている者達は、俺達の不手際のせいでこうなってしまったんだ……。だから俺達はその事に対しての謝罪と、新たなる旅立ちに対しての餞の意味を込めて、再建に協力したいんだ……」
空がサラの方へと向き直りながらそう言うと、サラは少しだけ困った様な表情を浮かべた後……
「……分かりました、そう言う事ならばその申し出を受けましょう」
その表情を引き締めながらこの様に返答し、空はサラの言葉を聞くなり有難いと言いながら、サラに対して深々とお辞儀をして見せるのであった
それからしばらくして、救援物資を降ろし終えた空達がミッドウェーに帰還しようとした時である、不意にサラが空に声を掛け呼び止める
「そう言えば研究所が襲撃された時に助けてくれた事に対してのお礼と、救援物資に対してのお礼がまだでしたね」
サラはそう言って胸ポケットからある物を取り出し、それを空に手渡してくるのであった
「これは……?」
「それは私達の研究所で妖精さん達と協力して開発した、超極薄型のパワードスーツが格納されているブレスレットです。対深海棲艦用に開発された物なのですが、防御面に不安があり過ぎると言う理由で不採用になってしまったんです」
突然手渡された物を眺めながら困惑する空に対して、サラはそう言って先程空に手渡した物の説明を開始する
「超極薄型と言われる通り、このパワードスーツは全身タイツの様に薄く、装甲なんて物は一切付いていません。ですが装甲が付いていない分恐ろしい程に軽く、装甲同士が干渉したりしないおかげで非常に動き易くなっています。更にこのパワードスーツには、装着者の筋力を大幅に増幅すると同時に、装着者の肉体的負担を大幅に軽減させるパワーアシスト機能が搭載されているんです」
「ほう……、つまりこれはパワーアシスト機能をフル活用して、相手の攻撃を回避する事に特化したパワードスーツと言う事なんだな……?」
サラの説明を聞いた空が、突如目を輝かせ始め、サラに対してこの様な質問をする
「はい、他にも頭部に装着するフルフェイスタイプのヘルメットには、ガスマスクの機能と各種センサー類を搭載しているので、あらゆる環境に対応して行動出来る様になっていますね」
「それだけの機能がありながら没になったのは、これを使いこなせる人間が碌にいなかったから、と言ったところか?」
「はい……、いくらパワーアシスト機能や優秀なセンサーがあっても、発射された砲弾に反応出来る人が殆どいなくて……」
空とサラがこの様なやり取りを交わすと、サラはその表情を曇らせてしまう。恐らく微妙な品だと思っている物を渡している事に、少々罪悪感を感じているのだろう……。そんなサラの反応を見た空は
「なるほどな……、ならば有難くもらっていこう。まさかこれほどまでに俺にうってつけの装備があるとはな……、本当にサラには感謝しなくてはな」
「えっ!?」
そう言いながら、先程サラから渡されたブレスレットを自身の右腕に装着し、サラを驚かせるのであった
「こいつがあれば、俺は本当の自分の力を十全に発揮して戦えるかもしれない……、そう考えると……、胸が熱くなるな……っ!」
「えっと……、それは一体どう言う……?」
空の言葉に対して疑問を口にするサラ、そんなサラに空は生まれた時から自身に付けられた枷、身体と思考のリミッターが外れたままになる脳障害を自身が患っている事を話し、サラを驚愕させるのであった
その後、空は改めてサラに感謝の言葉を述べ、翔達と共にホノルルのサンド島を後にして、ミッドウェーの拠点へと帰還するのであった。尚、空はこのブレスレットに格納されているパワードスーツの存在を、誰にも知られないよう秘匿するように翔とゾアに頼み込むのだった。恐らく戦治郎を拗ねさせない様にする為であろう……
この出来事が、後に深海棲艦との戦争によって治安が悪化した日本に蔓延る悪党達を震撼させる白銀のヒーロー、『クロム・ドラゴン』誕生のきっかけとなるのであった……