「つかよぉ、そいつは何処見て行動起こしてんだ?どう考えても世界征服より、深海棲艦をどうにかする方が優先順位上だろ?それなのに混乱に乗じて世界征服って……、頭おかしいんじゃねぇか?」
大和の話を聞いて頭を抱えた戦治郎が、気を取り直してこの様な事を口にすると
「あの男の中では、その順位が逆転している様なんです……。世界征服を達成した後、各国の軍隊を全て大日本帝国軍に引き入れ、情報伝達の効率化の為に情報系統を一本化し、優秀な人材を厳選した後自身の手元に置き、全権をあの男が握る新しい大日本帝国軍を築き上げ、転生個体も純正個体も、強硬派も穏健派も全てひっくるめて、深海棲艦をこの世界から根絶やしにする……。それがあの男の野望なんです……」
大和はその表情を曇らせながら、戦治郎の問いに対してこの様に答えるのだった……
「いやいやいや……、待って?ちょっち待って?それ単純に同盟組むとかでよくね?各国で軍管理した方が、そいつの負担軽くなるよね?つか戦力を一点に集め過ぎたら、相手から集中攻撃されね?軍関係者だけでなく、国民にまで甚大な被害及ばねぇ?」
「あの男は自分以外の人間を一切信じていません……、それどころか自分以外の人間を見下している節までありますから……。他人に任せるより自分がやった方が間違いない、自力で事を成す事も出来ず、他人に頼る様な無能は不要だと……、あの男は私の前でハッキリとそう言い切った事があるんです……。そんな考えであるが故に、自身が組織した強硬派の関係者も、自分の部下である艦娘も、買収した陸軍の方々や国民、更には取引を行っているプロフェッサーという方も、あの男にとっては自分にとって都合がいい道具でしかないんです……。深海棲艦を根絶やしにする為の……、只の道具に過ぎないんです……」
大和の言葉を聞いた戦治郎が、まるで意味が分からないと言った風の表情を浮かべながら大和に尋ねると、大和はその表情を更に暗いものにしながら、そう答えるのであった……
「深海棲艦滅ぼすのが第一で、人命は二の次三の次って……。つか、国民まで道具って……。ん……?まさか戦力を一点に集めて相手に狙わせるってのは……」
「それは……、広い海を駆け回って相手を探すよりも、戦力を日本に集める事で深海棲艦達に日本を狙う様に仕向け、相手を誘き出してから叩いていく方が無駄な時間をカット出来ると言う狙いがある事と、深海棲艦の攻撃によって家族や友人を失った国民の憎悪や怒りを利用して、志願兵を効率よく集める事が出来るからだそうです……。仮に適性が無い人物だったとしても、アリーズ・ウェポンを握らせれば戦力として数えられる様になりますからね……。そして国内からの志願兵が減った場合、今度は国外、制圧した国の住民達を徴兵し兵に仕立て上げる……、それが世界征服の狙いの1つになっています……」
戦治郎が大和の話を聞いた際、ふと頭に過った事について尋ねようとすると、大和はその目に涙を湛え始めながら、この様な言葉を口にするのであった……。そんな大和の姿を見た戦治郎は、自身の心に、左目に、そして背中に燃え盛る炎の様な、熱い何かを感じるのであった……
「どうして……、こんな事になってしまったのでしょう……?」
不意に大和が声を震わせながら、力なくそう呟く……
「大和はただ……、深海棲艦達から国民を……、人類を守りたかっただけなのに……、どうして……、こんな事態に巻き込まれてしまったのでしょうか……?元帥から賜った【国士無双】の二つ名も……、今の大和には……、余りにも重過ぎます……。あの男の言いなりになり……、泊地の仲間達の事も助けられず……、何が【国士無双】なのでしょうか……?」
大和は溢れ出してしまいそうな感情を、理性で無理矢理抑え込みながら、この様に言葉を続ける……
戦治郎はそんな大和の言葉を隣で静かに聞いていたのだが、言葉を発する度にその表情を絶望の色に染めていく大和の姿を見ていたら、遂に堪えられなくなってしまい、戦治郎は大和の前に回り込むなり彼女の事を優しく抱きしめ、その頭をまるで硝子細工でも扱う様な繊細なタッチで、撫で始めるのであった
「大和……、さっきも言ったがここには今は俺とお前しかいねぇんだ……、誰も聞き耳なんざ立てちゃいねぇし、馬鹿にする奴もここにはいねぇんだ……。だから無理して自分の気持ちを抑え込まなくていい、泣きたけりゃ泣いていい、何かをぶちまけたいならぶちまけていいんだ。それを全部俺が受け止めてやる、今のお前は自由なんだ、自由とはそう言うものなんだ……」
戦治郎が大和の頭を撫でながら、慈愛に満ちた声色でそう言うと、大和はその言葉を合図にでもしたかの様に、堰を切ったかの様に大声で泣き始めるのであった。提督がプロフェッサーと関りがある事を知った際、罰として無理矢理純潔を奪われた時でさえ、涙を流す事が無かった【国士無双】の二つ名を持つ大和が、この日この時この場所で、戦治郎に縋りつく様に抱き着いて、まるで赤子の様に泣きじゃくるのだった
そんな大和の事を慈愛溢れる表情で見守っていた戦治郎だが、その心の中は先程以上に怒りの炎が熱く激しく燃え滾っていた。自身が嫁艦認定している大和を、ここまで思い詰めさせた桂島の提督が、兎に角憎くて憎くて仕方が無かったのだ。戦治郎はその感情を抑え込みながら、大和の事を労う様に、慰める様に優しく撫でていたのだが……
「……っ!?!」
不意に背中に走ったジクジクとした火傷の様な激しい痛みに、刹那の間ではあるが思わずその表情を歪ませる
それに勘付いたのか、大和が顔を上げて不思議そうな表情を浮かべながら、戦治郎の表情を窺ってくるのだが、戦治郎は痛みを堪えながらも大和に向かって優しい笑みを返すのであった
この時の戦治郎は気付いていなかった……、自身の背中に痛みが走った時、背中の三角形の印の頂点に位置する円の中に、『鬼』の文字が刻まれた事に……
それからしばらく時間が経ち……
「お見苦しいところをお見せして、本当に申し訳ございません……」
ようやく落ち着いた大和が、ほんの少し気恥ずかしそうにしながら、戦治郎に向かって謝罪の言葉を述べる
「誰だって泣きたくなる時はあるもんだから気にすんな、むしろ泣きたくなった時はいつでも頼ってくれていいぞ?そん時も今回みたいに、全部俺が受け止めてやんよ!」
そんな大和に対して、戦治郎は冗談めかしながらこの様に返すのであった。その様子を見た大和は、思わずクスリと笑みを零し……
「最初に見た時はガチガチに緊張してとても頼りない、変な人だと思っていましたが……、本当はそんな事ない、とても頼れる方だったんですね。海賊団の皆さんが戦治郎さんを慕って、付いて行く理由が分かった様な気がします」
この様な事を口にするのであった
「お、おう……、そうか……」
それを聞いた戦治郎は、面と向かって変な人だと言われた事に軽くショックを受けながらも、苦笑いを浮かべながらこの様に返答するのであった
その後戦治郎は立ち直った大和を連れて工廠へ向かい、輝達と共に明日実行予定の閃光迎撃神話500基の設置作業の準備をすると、その日の作業の終了宣言を行って食堂へと向かうのだった
因みに、この日の夕食は翔とゾアが担当し、久し振りの翔の料理を心待ちにする一同は、厨房内を慌ただしく飛び交う食材や、空を飛び自ら食卓に並ぶ料理と言う、極めて珍妙なサムシングを目撃する事となるのであった