さて、目の前の女性がクトゥルフ神話に登場するクタニドであると知った翔が、あの後どうなったかと言うと……
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ……」
この様にSAN値をごっそりと削られて不定の狂気に陥り、何かに取り憑かれたかの様に意味不明な言葉を羅列し始めるのであった……
余りにも突然過ぎる翔の発狂に驚き、どうしていいか分からずオロオロし始める鳳翔とは対照的に、クタニドはやっちゃったZE☆とばかりに笑顔を浮かべながら己の額をペチリと叩いた後、翔に精神操作系の魔法を掛けて翔を正気に戻すのだった
「本当にご迷惑をおかけして申し訳ないです……」
それから正気に戻った翔は、鳳翔に向かって突然奇行に走って驚かせてしまった事を詫び
「いえ、私もその前に貴女を叩いてしまっているので……、あっ!ならこうしましょう!私は貴女を叩いてしまいました、そして貴女は私を驚かせてしまいました、これでお互いお相子と言う事で……、どうでしょうか?」
それを聞いた鳳翔は、名案が浮かんだとばかりに手を打ち鳴らした後、翔に向かって笑顔を浮かべながらこの様な提案をする。そして鳳翔の提案を聞いた翔は、本当にそれでいいのか……?とやや困惑しながらも、鳳翔の提案を受け入れる事にするのであった
と、その直後である
「紛い物、ちょっとこっちに……」
翔を不定の狂気に陥れた張本人であるクタニドが、翔の事を紛い物呼ばわりしながらチョイチョイと手招きして呼んできたのである。それに対して翔は紛い物と言う呼称にムッとしながらも、鳳翔に断りを入れてからクタニドの下へと向かうのであった
そして翔が自身の手が届く範囲に来たところで、クタニドはいきなり翔と肩を組むなりしゃがみ込み、耳打ちする様にボソボソと話し始める
「なあ紛い物、あの……、鳳翔だったか?何故あいつは私の正体を知っても平然としていられるんだ?普通だったらお前の様に、不定の狂気に陥るものなんだが……?」
「何でわざわざ僕に聞くんですか……、まあ……、強いて言うなら鳳翔さんはクトゥルフ神話に疎い上に、普段から深海棲艦の相手をしている関係でこの手の見た目した相手を見慣れてるのではないかと……。後は……、もしかしたら鳳翔さんは天然なのかも……?」
「ふむ……、なら試しに今一度影を見てもらって、感想を聞かせてもらうか……。っと助かったぞ紛い物」
クタニドと翔はこの様な会話を交わし、翔はクタニドが最後に言い放った言葉を聞くなり、心から不愉快そうに眉間の皺を更に深くしながら……
「お礼を言うよりも先に、その『紛い物』って呼び方止めてくれませんか?僕には出雲丸 翔って名前があるんですから。って言うか何なんですか?その『紛い物』って呼び方は……」
クタニドに向かって、この様な言葉をぶつけるのであった。それを聞いたクタニドは、心底不思議そうな表情を浮かべながら、翔に1つ質問する
「む……?まg……じゃなかった、翔は自分がどうやってこの世界に来たのか知らんのか?」
「え……?」
「……その反応を見る限り、把握していないようだな……。いや、すまん、変な事を聞いてしまった、今のは忘れてくれ」
自分の質問に対しての翔の反応を見たクタニドは、そう言って話を終わらせようとするのだが……
「待って下さい、今のはちょっと驚いて変な反応してしまっただけです。ちょっと今から思い出しながら話すので、少しだけ待って下さい」
翔がそう言って食い下がり、翔は自分達がこの世界に来るまで、転生個体になるまでの話をクタニドにゆっくりと話し始めるのだった
「……こんな感じです」
「ふむ……、本来いた世界で死んだ後、気付いたらこの世界で深海棲艦の姿になっていたと……。そう言う経緯があったから、同じ様な形でこの世界に来た者を『転生個体』と呼ぶ事にした……、か……」
翔の話を聞き終えたクタニドは、考え込む様な仕種をしながらこの様な事を呟く……
「……何かおかしいところがありましたか?」
「……それなりにな……、だが今ここで話せる様な内容ではない……。そんな事したらクトゥルフを止められなくなってしまうからな。もし詳細を聞きたかったら、私の手伝いをする事だ。いいな?」
1人と1柱はこの様なやり取りを交わし、翔はクタニドが持つ情報を手に入れる為に、クタニドに協力する事を約束するのであった
その後1人と1柱は鳳翔と給糧妖精の下に戻り、クタニドが再び自身の本来の姿の影を出して、鳳翔に影を見た感想を聞くと……
「わぁっ!大きな影法師ですねっ!」
鳳翔は目を丸くしながらこの様に答え、その反応を見たクタニドは、翔の予想はかなり当たっているのではないかと推測するのであった
その後翔達は改めて自己紹介を行い、目的地を目指して移動を開始する。のだが……
「クタニドさん……、移動魔法とかないんですか……?冗談抜きでここからルルイエまで歩くんですか……?」
翔がゲンナリしながらクタニドに尋ねる、そう、クタニドは自分で急いだ方が良さそうだとか言っておきながら、有ろう事かルルイエまで徒歩で向かうとほざいたのである
「確かに急いだ方がいいのだが……、移動魔法はあるのだが……、それを使うとあっという間に目的地には着くが、間違いなく到着した瞬間準備も予備知識も無いまま、数百万と言う数の神話生物達に囲まれる事になるぞ?」
「さぁ歩きましょうかっ!あっ鳳翔さん、疲れたら言って下さいね?そしたら僕が艤装を展開しますから、その上で休憩して下さいねっ!!」
「え?あ、はい」
クタニドの返答を聞いた瞬間、翔は凄まじい掌返しを実行し、そんな翔の姿を見た鳳翔はやや驚きながらも、この様に返事をするのであった
それから一行がしばらく歩いていると、先頭を歩くクタニドが不意に足を止めて大声を上げる
「よしっ!完成したぞっ!!」
そう叫ぶクタニドの手には、真っ黒なケープと女性向けのリボン、そしてとても小さなバレッタが握られていたのであった
「それは……?」
どことなく嬉しそうな表情を浮かべるクタニドに対して、皆を代表して翔が不思議そうに尋ねると……
「これか?これは先程私が作ったものでな、これら全てに降り掛かる狂気や神話生物の魔法、それから一部の旧支配者が持つ特殊能力から身を守る魔法を仕込んでおいたぞ。まあ、さっき私が言っていた準備と言うのはこれの事だ」
クタニドはそう答えながら、ケープを翔に、リボンを鳳翔に、小さなバレッタを給糧妖精さんに手渡していく
「作ったって……、魔法か何かでですか……?」
クタニドからケープを受け取った翔が、クタニドに促されるがままにケープを纏いながらそう尋ねると……
「いや、完全なお手製だ。翔は知っているだろう?私の本来の大きさを」
「えぇ……、まぁ……」
「私が人間の姿になると、どうしても余ってしまう肉体が出て来てしまうだろう?私はそれを魔法で作った特別な空間に置いているんだが、先程渡した物はその特別な空間の中で、余った肉体から作り出した分身を使って、手作業で作り上げたものなんだ!因みに分身とこの身体は、感覚を共有しているので例えそれらが分身が作った物であったとしても、作っている時の感覚は共有されているので、私が作った物と言う事になるんだっ!!!」
クタニドはそれはそれは得意げに、自身が持つ豊満な胸を張ってこの様な事を言い出すのであった。それを聞いた翔は、思わず……
「ブライガーかな?」
などと意味不明な事を口走ってしまうのであった……、まあ翔が変な事を言いたくなるのは仕方が無い事である、作られた物や作り方が、どう考えても常識と言うものを遥かに超越してしまっているのである……。翔が現実逃避をしたくなるのは、至極当然で本当に仕方が無い事なのである……
その後、件のリボンを装着した鳳翔に対して、何か一言言ってやれとクタニドに言われた翔が、その声で我に返って鳳翔の方へ視線を向けるのだが、その際翔は鳳翔の遥か後方に、凄まじく異様なものが存在する事に気付いてしまうのであった……
翔が見つけてしまったもの……、それは岩壁に上半身が完全に埋没し、残った下半身を力なくダラリと垂らしてしまっている、巨大な神話生物であった……
これこそが、翔とゾアの邂逅なのである……