「クタニド殿っ!これは一体どう言う事なのだっ!?何で我がこんなにも小さくならねばならないのだっ?!」
自身を包んでいた闇が晴れた後、自身の姿を確認するなりガタノトーアが声を荒げ、クタニドに対して猛抗議を開始する
今のガタノトーアの姿はポケモンのオムナイトと全く同じ……、いや、最早オムナイトそのものと言っても過言ではない姿となっており、30m以上あった全高も今ではたったの40cmにまで縮んでしまっているのである
「落ち着けガタノトーア、さっきも言ったがこれはお前に食事を施す為にやった事なんだ。それに理由はそれだけではない、私の事情を知ったお前の事だから、どうせ私に同行すると言い出すつもりなのだろう?もしそうなった場合、あの姿のままだと何時私や翔達がお前にうっかり踏み潰されてしまうか、全く分かった物ではないからな……。実際、お前らみたいに図体のデカい神話生物達は、碌に足元を確認せずにそこらを歩き回って、しょっちゅうディープ・ワン達の様に小柄な眷属達を、誤って踏み潰しているだろうが」
ガタノトーアの抗議に対してクタニドがこの様に答えると、ガタオトーアは心当たりがあったのか、指摘された直後に思わずクタニドから視線を外し、その様子を見ていた翔達は引きつった笑みを浮かべながらドン引きするのであった……。そんな中、クタニドはそんな皆の様子など気にも留めず、懐から雑誌の様な物を取り出しながら話を続ける
「取り敢えず、お前の本来の姿はコレに封じておいた。事が終わればちゃんと戻してやるから安心しておけ」
「そう言う事なら仕方が無いな……」
その手に持った雑誌の様な物を、ヒラヒラさせるクタニドの話を聞いたガタノトーアは、やや不満そうな表情を浮かべながらもこの様に答える。と、その時である
「え……?その雑誌みたいな物に、ガタノトーアのあの大きな身体を封じ込めているんですか……?その雑誌って一体……?」
その様子を鳳翔と給糧妖精とで見守っていた翔が、思わずこの様な疑問を口にする。それに対してクタニドは……
「これか?これは私が書いた旅行ガイドの様な物だ、仕事の都合上色々な旧支配者の領地に訪問するものでな、たまにその土地の祭やイベントに出くわす事があるんだ。それでそれらをまとめた本なんかがあってもいいかと思って、思い切って自分で書いてみたんだ。読んでみるか?」
この様に答えながら、翔に雑誌を手渡そうとしてくる
「いえ……、今はいいです……」
それに対して雑誌から得体の知れない何かを感じ取った翔は、やや引き気味にそう答え、翔の返事を聞いたクタニドは若干ションボリしながら「そうか……」と、短く返事をして雑誌を懐に仕舞うのだった
この時の翔は知らなかったのである、クタニドが持っているこの神話生物向けイベントガイドブックこそが、この世界に出回っている『無名祭祀書』の本来の姿である事を……
その後、気を取り直した翔は自身の艤装を展開すると同時に、艤装に取り付けられた簡易厨房と食糧保存用冷蔵庫を出現させ、食器や調理器具の確認と言った料理の準備を始める
そんな翔の様子を見ていたクタニド達は
「先程記憶を読んだ際、翔が料理人である事を知ったのだが……、まさかここまで筋金入りだったとはな……」
「艤装に簡素ながらも厨房や冷蔵庫を取り付けるだけでなく、備わっている調理器具も皆かなり上質な物ばかり……。翔さんは一体何処であんなに良い物を手に入れたのでしょう……?」
「何だあれはっ!?一体奴はあれを使って何をするつもりなのだっ?!」
この様に驚愕を露わにしながら、思い思いに言葉を口にするのであった
こうして翔の準備が整ったところで、我に返った鳳翔が翔の手伝いを申し出て、翔は鳳翔と協力しながらガタノトーアの食事を作り始めるのであった
「素晴らしいお手並みです……、クタニドさんが言っていた通り、翔さんは本当に料理人さんだったんですね」
その最中、鳳翔は翔が調理する姿を見て、思わず感嘆の声を上げる
「はは……、まあ色々あって料理人の道から、1度逃げ出した事があるんですけどね……」
そんな鳳翔に対して、翔は調理の手を休めずに、苦笑いを浮かべながら返事をする
「逃げ出す……、ですか……」
その直後、翔の言葉を聞いた鳳翔は突然その表情を曇らせ、調理の手を止めて俯いてしまう。その様子を見た翔は、自身も調理の手を止めて、怪訝そうな表情を浮かべながら鳳翔の方を見る
「あ……、いえ、気にしないで下さい。深海棲艦の世界でも、料理の道は厳しいものなのかと思っただけですから……」
そんな翔の視線に気付いたのか、鳳翔は誰が見ても空元気だと分かってしまう様な笑みを浮かべながら、この様な事を口にするのであった。ここで翔は、自身の正体についてまだ鳳翔に話していなかった事を思い出し、この際だからという事で、翔は鳳翔に自分の正体について話す事を決め、鳳翔に向かって話し掛ける
「鳳翔さん……、自己紹介の時は名前しか教えていませんでしたが……、実は僕は転生個体なんです……。料理人云々のくだりも、僕が人間として生きていた頃の話なんですよ……」
「え……?てんせい……、こたい……?」
翔の言葉を聞いた鳳翔が、驚きの表情を浮かべながらこの様に呟くのだが、この次の瞬間、今度は翔が鳳翔の言葉に驚かされる事となるのであった……
「翔さん……、『てんせいこたい』とは一体何なのでしょう……?」
「……え?転生個体の事を知らないんですか……?じゃあ長門屋海賊団については……?」
「海賊……、ですか……?いいえ、そちらについても全く……」
これはおかしい……、翔は鳳翔の言葉を聞くなり内心で訝しむ。転生個体や海賊団の事に関しては、長門を通して日本海軍全体に通達してもらったはずなのに、自己紹介の際所属している場所こそ明かさなかったものの、自分が軍属である事を明かしているこの鳳翔は、それを知らないと言っているのである。それがどうしても気になった翔は、ちょっとだけ賭けに出る事にした
「おかしいな……、この件は大本営の長門さんに頼んで、情報拡散する様にお願いしていたのに……」
翔は内心でダシにした長門に謝罪しながら、鳳翔をチラ見しつつこの様に呟く。すると……
「大本営の……、長門さん……?翔さんは大本営の、元帥の秘書艦である長門さんとお知り合いなのですか……?」
鳳翔は翔の言葉を聞くなりビクリと身体を震わせた後、恐る恐ると言った様子で翔に向かってこの様な事を尋ねて来る……
この時翔は当たって欲しくない予感が的中した気がして、表情に出さない様細心の注意を払いながら、内心で不快さを全開にした表情を浮かべる。どうやら鳳翔は、艦娘に情報規制を敷く様な酷いところに着任していると、翔は心の中でそう思うのだった
「僕は仲間達と旅をしている途中で、色々あって長門さん達と出会い、助けた事があるんです。それ以降、お互い困った事があったら助け合う様な関係になっていますね」
「そう……、だったんですか……」
翔の返答を聞いた鳳翔は、何か戸惑う様な表情を浮かべながら1度俯いてしまうのだが、しばらくすると意を決したのか、真剣な面持ちをしながら翔に話し掛ける
「翔さん……、私のお願いを聞いてもらえませんか……?」
「僕に出来る事なら……」
「では……、クタニドさんの件が終わってからでも構いません、今から私が話す事を大本営の長門さんに伝えてもらえませんか……?」
「分かりました、それで、長門さんに伝えたい事とは……?」
鳳翔と翔はこの様なやり取りを交わした後、鳳翔は長門に伝えて欲しい事について話始める。その余りにも惨過ぎる内容を聞き終えた翔は、最後に1つだけ鳳翔に質問する
「なるほど……、それで鳳翔さんが所属しているのは、一体何処なのですか……?」
「桂島泊地です……」
そう、この鳳翔はミッドウェー攻略が完了した後、海賊団が襲撃しようと考えているあの桂島泊地の艦娘だったのである……。鳳翔の言葉を聞いた翔は、眉間に皺を寄せながら1度ギリッと歯軋りをした後、表情を引き締めながら、鳳翔に向かってこう言い放つ
「分かりました、この件は必ず長門さんに伝えます。そしてしばらくの間待っててください、必ず鳳翔さん達の事を助け出して見せますから……っ!」
翔のこの言葉を聞いた鳳翔は、感極まったのかその瞳に涙を浮かべながら、翔に向かってお礼を述べ、それを受けた翔は鳳翔を落ち着かせた後、今は目の前の事に集中するべきと言って、調理を再開するのであった
真・魔道書の定義は『執筆者である神話生物直筆の生原稿である事』です。直筆サイン入りだと更に強化されるかも?