「お待たせしました」
あの後調理を済ませた翔達が、そう言って調理を開始する前に設置しておいたテーブルと椅子に座って待っているクタニド達の下へ、今しがた完成させた料理を手にして戻って来る。因みにオムナイトになってしまったガタノトーアだが、こちらは流石に椅子に座っているとテーブルの上の物に手が届かなくなってしまう為、行儀が悪いがテーブルの上に乗ってもらっていたりする……
「ようやく儀式が終わったかっ!待ち侘びたぞっ!!」
そんな翔達に向かってガタノトーアはこの様な言葉をかけ、それを聞いた翔達は料理の事を儀式と表現したガタノトーアに苦笑いしながらも、先程自分達が作った料理をテーブルに配膳していく
「ほう……、カツカレーか……」
「本当は3日も何も食べてないって事でしたので、胃に優しいうどんにしようかと思ったんですけどね……。って言うかクタニドさんは料理を知ってたんですか?ガタノトーアさんの反応を見る限り、神話生物は料理の事をあまり知らないみたいですけど……?」
配膳された料理を見てクタニドが呟くと、翔は苦笑しながらこの様に尋ねる
「私は仕事の都合、人間社会に紛れ込む事があるから多少はな。他の連中に関してはよく分からん……、たまに自身の化身にする為に人間の精神を食って、それで満足して物理的な食事をしない奴もいるからな……。っとそれはそうと、私達の胃はその程度の事で早々弱ったりはせんよ。むしろガッツリ系は、今のあいつには丁度いいかもしれん」
クタニドはこの様に答えながら、チラリとガタノトーアの方へと視線を送る。それに釣られる様にして、翔と鳳翔が視線をガタノトーアの方へと向けると……
「これは食べ物なのか?我はこんなもの初めて見るが……、しかしこれの匂いを嗅げば嗅ぐほど、我の腹がこれを食らえと訴え掛けて来る……」
ガタノトーアはこの様な事を言いながら、マジマジと翔達が作ったカツカレーを観察する
「ガタノトーアさん、どうぞ遠慮なさらずに食べて下さい」
そんなガタノトーアに対して、鳳翔が微笑みかけながらこの様に言うと
「うむ!ならば早速頂こうではないかっ!!」
ガタノトーアはそう言うと、触腕の中にある口を大きく開けてカツカレーを犬食いしようとするのだが……
「待てガタノトーア、人間の食べ物を食べる時には道具を使うマナーがあるんだ。まあお前の事だから分からんと思うから、私をよく見ておけ」
それにクタニドが待ったをかけ、この様な言葉を口にした後、手にしたスプーンでカレーを1口分掬い上げ、己の口の中へと運んで見せるのであった
「これはまた……、素晴らしい出来ではないか……。このカレー、スパイスは自分達でブレンドしたのか?」
「いえ、これは市販のルーを使ってます。流石にそこまでやっちゃうと時間が掛かり過ぎちゃいますからね……」
翔達が作ったカレーを一口食べたクタニドは、その美味しさに思わず目を見開いて驚き、翔に向かってこの様な質問をすると、翔はやや苦笑しながらこう答えるのであった
「なるほど……、っと次はカツを頂こう……。ふむ……、衣はサクサクしていながら中の豚肉は柔らかく、噛めば噛むほど肉汁の旨味が口の中いっぱいに広がっていく……。これにルーをかけて……、うん、思った通り、肉の旨味とスパイスの風味が上手い具合に絡み合っている……。まさか市販ルーでこれほどの物を作り上げるとは……」
「市販ルーと言う物は、メーカーさんが考え抜いてブレンドして完成させたスパイスですからね。中々侮れないものだと思いますよ?」
翔の言葉を聞いたクタニドが今度はカツに手を付け、その完成度の高さに思わず感嘆の声を上げたところ、今度は鳳翔がこの様な事を口にする
クタニドと鳳翔が話をしている間に、翔はガタノトーアの口に自分達のカツカレーが合ったかどうかを確認する為に、ガタノトーアの方へと視線を向け反応を窺うと……
「うまあああぁぁぁーーーいぃっ!!!何だこれはっ!?口にすれば口にするほど、このトロトロした物体が放つピリッとした刺激と香りが、我の胃にこれを渇望させるではないかっ?!そしてこの肉っ!!我に捧げられた生贄の肉より遥かに美味いこの肉は一体何の肉なのだっ!??」
ガタノトーアは触腕で器用にスプーンを使いながら、凄まじい勢いでカレーを自身の口へと運んでいき、皿の上にあったカツカレーをすぐさま平らげてしまうのであった
「どうやらお気に召してもらえたようですね」
自分達が作ったカツカレーを絶賛するガタノトーアを見ていた翔が、内心でホッとしながらガタノトーアに微笑みかけ、この様な言葉を口にする
「むっ!これを作った紛い物かっ!?どうしたらこんなに美味い物を作れるのだ!?人間はいつもこんなに美味い物を口にしているのか?!我はもっとこれを堪能したいのだが!??」
翔に話し掛けられたガタノトーアは、すぐさま翔の方へと視線を向けるなり、捲し立てる様な勢いで次々と翔に自身が抱いた疑問をぶつけていく
それに対して翔は、ガタノトーアが発した『紛い物』と言う単語に不快感を感じた為
「僕の事を紛い物扱いする方の質問に、答えるつもりはございませんよ~」
翔はそう言いながら、わざとらしく頬を膨らませながらそっぽを向く。そんな翔の反応を見たガタノトーアは、このままではカツカレーのおかわりにありつけないと悟るなり慌てた様子で翔に謝罪を入れ、それを確認した翔はガタノトーアの皿にカツカレーのおかわりを装いながら、ガタノトーアの質問に答えていくのであった
それからしばらく経った頃……
「よし!決めたぞっ!!」
急に何かを決意したクタニドが立ち上がりながら、大声でこの様な言葉を発する。突然の出来事に、一同が驚きながら視線をクタニドに集中させると、クタニドは翔達に向けてこの様な言葉を口にする
「翔達に頼んでいるクトゥルフ説得の手伝いの件なんだが、お前達……、その料理の腕前でクトゥルフの胃を掴んでくれ。それであいつが緩み切ったところで、私が一気に仕掛けてあいつを丸め込む、どうだ?出来そうか?」
「えぇっ?!」
クタニドの発言に、思わず鳳翔が驚きの声を上げるのだが……
「やっぱりそうなりますよね~」
翔の方は鳳翔とは対称的に、分かってましたとばかりに返答するのであった
「不服か?」
翔の言葉を聞いたクタニドが、眉間に皺を寄せながらそう尋ねると……
「いえ、むしろ別の方法で手伝えって言われたら、なんとしてでもこっちの方向に変更してもらう様説得しようと思ってたくらいですよ。悲しい事に僕にはこれ以外で手伝える方法がないですし、何より料理人としてのプライドが、これ以外の方法を認めてくれませんから」
翔はガタノトーアの皿に7杯目のカツカレーを装いながら、この様に答えるのであった
「……そんな口を叩ける人間が、何故1度料理人の道から逃げ出したのか、是非とも教えてもらいたいところだな……」
翔の発言を聞いたクタニドが、やれやれと頭を振りながら皮肉っぽくそう言うと
「僕がこんな口を叩けるようになったのは、戦治郎さんが自分を見つめ直す時間と場所を僕に与えてくれたから、ですかね?」
翔はクタニドに向かってこの様に言い放つのであった
と、次の瞬間……
「おい翔……、今、戦治郎と聞こえた気がしたが……?それは長門 戦治郎の事か……?」
クタニドが急にその表情を豹変させ、地を這う様な低い声で翔に尋ねる
「え……?はい……、戦治郎さんは生前からの僕の恩人で、今所属している長門屋海賊団のリーダーですが……?」
クタニドの豹変に驚きながらも、翔はクタニドの質問に答える。するとクタニドは……
「まさか翔があの爆弾の関係者だったとは……」
そう呟きながら額に手を当て、苦悶の表情を浮かべるのであった。そんなクタニドの様子が気になった翔は、クタニドに一体何事かと尋ねるのだが……
「すまん……、これもクトゥルフの件が片付いてからだ……」
クタニドはそう言って、この件から話をはぐらかすのであった……