戦治郎の名前を出した際のクタニドの反応を見て以来、翔は心にモヤモヤした物を抱える事となってしまうのだが、時間は情け容赦なく過ぎていき、翔達は食事の後片付けを済ませると、再びルルイエに向けて歩き出すのであった
因みに、オムナイトになってしまったガタノトーアだが、案の定クタニドが言っていた通り、クタニドに向かって同行を申し出、翔達と共にルルイエに向かう事になっていた
それから一行が雑談を交えながら進んでいると、一行はそれはそれは広大な畑と、至る所に畜舎が建ち並ぶ風景と遭遇する
「ここは……、農場ですか……?」
「どうやらそうみたいですね、あっ!翔さん翔さん、見て下さい、あちらの畑に何かが植えられているみたいですよ?一体何が植えてあるのでしょうね?」
その光景を目にした翔が思わず呟き、畑に何かが植えられている事に気付いた鳳翔は、そちらを指差しながら翔にこの様な事を尋ねる。その後翔達があれが一体何なのかについて、自身の予想を交えながら話していると……
「どうやらその答えを、すぐにでも知る事が出来そうだな」
不意にクタニドがそう言いながら、ある方角を指差す。クタニドの言葉を聞いた2人が、揃ってそちらの方へと視線を向けると、そこには農夫ファッションに身を包んだディープ・ワンの姿が……
「あ、やっぱディープ・ワンいるんだ……」
「当たり前だ、っと言うかこいつら以外にルルイエに住む様な神話生物がいると思うか?」
「ですよね~」
ファーム・ワンを見るなり思わずそう呟いた翔に対し、クタニドがこの様に尋ね返すと、翔は引きつった笑みを浮かべながらこの様に返答する
と、翔達がこの様な会話を交わしている間に、ファーム・ワンは収穫の準備を終え、問題の作物を収穫しようと正体不明な植物の茎を掴み、腰を入れ勢いよくその植物を引き抜く。するとそこには大地の養分をしっかりと取り込んで、立派に育ったショゴスの姿が……
「あちょっ!?えぇっ?!」
「あら、すっごく大きいお芋さんですねっ!」
その光景を目の当たりにした翔と鳳翔は、それぞれ全く性質が違う驚きの声を上げる。そんな中、ファーム・ワンは驚く2人に目もくれず、ショゴスを引っ込抜いては籠に入れると言う作業を、黙々と続けるのであった
因みに、籠に入りきれず籠から落っこちてしまったショゴスが、次々と脱走していくのだが、ファーム・ワンはそんな事など気にも留めず、ひたすら畑のショゴスを収穫していた
「随分驚いているようだな?」
「はい、まさか海の底でもあんなに立派なお芋さんが採れるなんて、思ってもいませんでしたので……」
2人の様子をニヤニヤしながら見ていたクタニドが、2人に向かってこの様な言葉をかけ、ショゴスを活きがいい芋だと勘違いしている鳳翔は、ほんの少しはしゃいでいた事を恥ずかしがりながらそう答える。そして翔はと言うと……
「いやいやいやっ!!!ちょっと待って下さいよクタニドさんっ!!!何なんですかあれっ!?何でショゴスが畑から採れてるんですかっ?!ショゴスって神話生物ですよねっ!?!これじゃあまるで野菜じゃないですかっ!!?何でこんな事になっているんですかっ!??」
自身の中から次々を湧き上がる疑問を、クタニドに向かってマシンガントークでぶつけていく
「いやな~、古のもの達が作り上げたショゴスを、クトゥルフ達が品種改良した結果ああなってしまったんだ。まあクトゥルフ達は、簡単に数が増やせるようになったと喜んでいたが……、っと翔、こんな事やっている間に次の面白イベントが来るようだぞ?」
「ああ……、その単語からすっごく嫌な予感しかしない……」
クタニドが翔の質問に答えている最中に、この様な事を言いながら畜舎の方を指差し、翔は死んだ魚の様な目をしながらそう呟くと、ノロノロと畜舎の方へと視線を向ける
翔達の視線の先には、畑で作業するファーム・ワンとは別の個体と思われるファーム・ワンが、ハンドベルを片手に佇んでいた。そして翔達がその姿を確認した直後に、ファーム・ワンは手にしたハンドベルを掲げながら鳴らし始め、それと同時に畜舎の扉が開き、畜舎の中から大量のナイトゴーントが姿を現す……
「ああそんな気はしてたよ畜生っ!!!」
ナイトゴーントの放牧シーンを見た翔は額に手を当てながらその表情を歪め、この様な事を叫ぶのであった。そんな翔の姿を見ていたクタニドが腹を抱えながら笑っていると……
「あの……、クタニドさん……?」
不意に鳳翔がその身体を震わせ、顔を真っ青にしながらクタニドに声を掛けるのだった。そんな鳳翔の様子を怪訝に思ったクタニドが、一体どうしたのかを鳳翔に尋ねる。すると彼女は突然目尻に涙を湛えながら、クタニドにこう尋ねるのであった……
「あの人型の子達なんですけど……、畜舎から出て来たという事は……、その……、家畜と言う事なんですよね……?それはつまり……、ここの人達は人と同じ姿をしているあの子達を食べると言うのですか……?」
「いや鳳翔、あれは食べる為の家畜ではなくてだな……、あ~……何だ?え~……「……馬?」そう馬だっ!あれは私達にとって馬の様な存在なんだっ!!!」
声を震わせながら尋ねて来る鳳翔に対して、クタニドがどう答えたものかと困り果て、言葉を詰まらせてしまうのだが、そこで見かねた翔が適当に助け舟を出すと、クタニドはハッとするなり、大声でこの様に返答するのであった
その後鳳翔はクタニドの言葉を聞くなりほっと息をついて安心し、静かにナイトゴーントの放牧シーンを眺め始める。そんな鳳翔の様子を確認した後、クタニドは翔に礼を述べた後、ナイトゴーントについて話し始める
「先程お前はナイトゴーントを馬と例えたが、それは強ち間違っていないんだ。ここのディープ・ワン達はナイトゴーントの飛行能力を移動手段に使ったり、荷物持ちに使ったりと本当に馬の様に扱っているんだ」
「同じ奉仕種族のディープ・ワンに使われるって……」
「その辺は気にするな、んで、地上の馬に競馬がある様に、ナイトゴーントにもレース大会なんかがあったりするぞ。主催は私の部下のノーデンスなんだが、これが中々人気があってだな、今では至る領地で大会が開催されるようになり、かなりの数のスポンサーが付いているんだ。因みにそのスポンサーの中にはクトゥルフやクトゥグア、ツァトゥグァなんかもいるぞ」
「あんたらホント何やってんの……?」
クタニドの話を聞いていた翔は思わずそう呟くのだが、クタニドは翔の呟きが聞こえなかったのか、或いは気にもしていないのか話を続けるのであった
「長く生きているとどうしても暇になる事があってな……、っと寿命が短いお前達にはよく分からん話か。それでナイトゴーントレースなんだが……「あの、そろそろお腹一杯です……」ほんの一時期はハスター主催のビヤーキーレース……、人間で言うところのF1か?まあそんな感じのものに人気を奪われていたが、ビヤーキーが速過ぎて試合を観戦していると恐ろしいくらい目が疲れるだとか、観戦チケットが異様に高いなどの理由で徐々に人気が低迷してな……、決定打になったのはクトゥグアのレースチームの花形選手が、試合中事故死してしまった事で一気に人が離れていってしまったんだよ……」
「待って、確かクトゥグアさんって、ナイトゴーントレースのスポンサーもやってたでしょ?どんだけレースとか好きなの?」
「あいつのレース好きは筋金入りだぞ?そもそも奴がハスターと同盟を組んだ理由も、ビヤーキーレースにチームを参加させる為だけだからな」
「ああ……、僕の常識が壊れていくなぁ……」
こうして翔はゲンナリしながらそう呟きながらも、クタニドのお喋りに長々と付き合うのであった……
因みに、その間ガタノトーアは何をしていたかと言うと……
「ふむ!小さい身体と言うのは移動の面では不便だが、大きな身体の時には見る事が出来なかった物や、新しい発見などが多くあって中々楽しいものだなっ!っと、これは一体なんだっ?!」
この様な事を言いながら辺りをふらつき、発見した物はすぐさま手に取り観察し、観察が終わればそれを大事そうに殻の中に仕舞っていく。この時も、ガタノトーアは農場の隅で蠢いていた鱗で覆われた細長い紐状の生物を捕まえ、観察後大事そうに自身の殻の中に仕舞っていたのであった
因みにナイトゴーントの方は、飛んで脱走出来ない様に上空に罠を仕掛けてある模様