クタニドの長い話が終わり、一同が再びルルイエに向かって歩き出してからしばらく経った頃
「……多少は気は紛れたか?」
不意にクタニドが翔に話し掛ける、それに対して翔は軽く驚きながらクタニドの方へ視線を向けると、そこには申し訳なさそうな表情を浮かべながら、自身の頬をポリポリと掻くクタニドの姿が映る
「戦治郎の件での私の言動のせいで、お前を動揺させてしまって本当に済まなかった……。本当はすぐにでも私達が持つ情報を、お前に与えてあげたいところなんだが……、今は状況が状況だからな……」
「ああ……、気付いてたんですね……。だから気を紛れさせる為に僕達に農場を見せたり、色んな話をしていたんですね……」
クタニドの話を聞いた翔が、これまでのクタニドの言動を顧みて、どうしてクタニドがこの様な事をしたのかについて納得すると、翔はクタニドに向かってこの様な言葉を掛ける
「まあな……、お前の口から戦治郎の名前が出た時、私が反応しなければこんな事をしなくても済んだのだが……、旧神のリーダー格と言う立場上、どうしても戦治郎の事は看過出来ないんだ……」
「一体戦治郎さんの身に何が……?」
クタニドの言葉を聞いた翔が、怪訝そうな表情を浮かべながらそう尋ねると
「この件の詳細については、先程も言ったがクトゥルフの件が終わってからになるな……。この話をする為には、どうしても先に転生個体について知ってもらわなければいけないからな……。ただ……、これだけは言える……」
翔の疑問に対してクタニドはここまで話したところで会話を一旦区切り、一呼吸置いて表情を険しいものにしながら、この様に続ける……
「戦治郎を不用意に暴走させてしまえば、少なくとも地球が物理的に滅ぶ……。これが揺るがぬ事実であるが故に、私達旧神は戦治郎の事をどうしても警戒しないといけないんだ……。そこだけは分かってくれ……」
クタニドのこの言葉を聞いた翔は、その顔を真っ青にしながら驚愕の表情を浮かべる。普通だったらこの様な話をされると、冗談だろうと思って軽く流す翔なのだが、今のクタニドが纏う雰囲気やその表情、声色などからその内容が事実であると、彼女が嘘を言っていない事を本能的に察知したのである
それからしばらくして、我に返った翔がクタニドに向かって
「それ、余計僕を動揺させてしまうんじゃないです?」
この様に言い放つと、クタニドはハッとしてしまったと言った感じの表情を浮かべるのだが……
「大丈夫ですよクタニドさん、そちらに並々ならぬ事情があるって分かったので、今はそれで取り敢えず納得しておきます。その代わり、事が済んだら絶対にそれらの詳細を教えてくださいね?その情報を基に、僕達の方でも戦治郎さんが暴走しない様に、しっかり対策立てないといけませんからね」
翔は表情を暗くするクタニドに向かって、こう言って改めて約束を取り付けるのであった。それに対してクタニドは
「分かった、転生個体の事と戦治郎の事、クトゥルフの件が終わったら必ず教えよう」
この様に返答した後、遅れた分を取り戻す為に翔達を急かし、やや早足になりながら歩みを進めるのであった
それからしばらくすると、翔達の視界に石造りの巨大な城壁と、それはそれは大きな門が姿を現す
「これが……、ルルイエの入口か……」
「これは……、とても大きいですね……」
翔と鳳翔は、城壁と門を見るなり思わず足を止め、それらを見上げながら思い思いに感想を口にするのであった
「この門は本来の姿の我や父上も通るものだからな、大きくて当然だっ!!」
「ここまで来たら目的地はすぐそこだ、そういう訳で何時までもこんなところに突っ立ってないで、ほらほら、早く中に入るぞ」
そんな中、翔の頭に鎮座したガタノトーアが自慢げにそんな事を口にし、クタニドはこの様な事を言いながら、門を蹴り飛ばして強引に開き、ズカズカと中に入っていく
「あの、クタニドさん?勝手に入って大丈夫なのですか……?」
そんなクタニドの突拍子もない行動を目の当たりにした鳳翔が、目を見開いてビックリした後、オロオロしながらクタニドにそう尋ねると……
「いつもなら門に近付く前に、衛兵のディープ・ワンがすっ飛んで来るんだが、今回はそれが無い。つまり衛兵達は、ここにはいないという事になる訳だ。そうなると私達は、ルルイエに入る許可を一体誰から取ればいい?」
クタニドはあっけらかんとした様子でそう返答し……
「それ以前に、鳳翔は我が何者か忘れておらぬか?」
クタニドと鳳翔のやり取りを聞いていたガタノトーアが、ムッとしながらこの様な事を口にする。それに対して鳳翔は、人差し指を自身の顎に当て、不思議そうな表情を浮かべながら小首を傾げる。どうやら鳳翔はガタノトーアが何者であったかを、すっかり忘れてしまっている様である……
そんな鳳翔の様子を見たガタノトーアは、一瞬だけ愕然とした後、翔の頭の上に左右の触腕を突いてガックリと項垂れてしまい、見かねた翔が鳳翔にガタノトーアが何者であるかを再度説明し、それを聞いた鳳翔は慌てた様子でガタノトーアに謝罪するのであった
それから翔達は先程クタニドが蹴破った門を潜り、石造りの建物が建ち並ぶルルイエの城下町に入るのだが……
「静かですね……」
余りにも静か過ぎる城下町の様子に、思わず鳳翔がそう呟き……
「……あの……、街の中に生体反応が1つもないんですけど……?」
陸上姫だけが持つ、建築物把握能力を使った翔が、怪訝な表情を浮かべながらクタニドにそう尋ねる。それに対してクタニドは……
「恐らく郊外にいる者達以外全員を、城に集めて何かやっているようだな……」
町の中央にある城を顎で指しながら、この様に答えるのであった
「もしかしたら、父上が決起会を行っているのかもしれん……っ!」
クタニドの言葉を聞いたガタノトーアが、ハッとした後この様な言葉を口にし、それを聞いた一同はその表情を引き締め、急いでルルイエの支配者であるクトゥルフの居城へと向かうのであった……
それからしばらく走ったところで一行は城の門に到着するのだが、先頭を走っていたクタニドが間髪入れずに門を蹴破り、一行はその足を止める事無く城の内部になだれ込む。それから翔達はクタニドとガタノトーアの案内を受けながら、城内を疾走して目的地へと辿り着くのであった
「ここが謁見の間の入口だ、ガタノトーアの予想が正しければ、恐らくクトゥルフ達はこの中で決起会をやっているはずだ」
目的地である謁見の間の入口に辿り着いたクタニドが、その巨大な扉を見上げながらこの様な言葉を口にし、今度は音を立てない様に慎重に扉を少しだけ開いて、その隙間から覗き込む様にして中の様子を窺う。その直後クタニドがその表情を歪めた為、中の様子が気になった翔と鳳翔は、クタニドに倣って扉の隙間から中の様子を窺うと、そこにはとてもではないが信じ難い光景が広がっていたのであった……
翔達の目に先ず飛び込んで来たのは、それはそれは凄まじい数のディープ・ワンや淵みに棲むもの、更に蛸の様な姿をしたクトゥルフの落とし子であるクトゥルヒと言った奉仕種族の皆様方の姿である
普通ならこの光景を見ただけで発狂してしまいそうなものなのだが、どうやらこれだけでは終わらない様である。部屋の奥に視線を向ければ、ディープ・ワン達とは比べ物にならない威圧感を放つ者達が玉座を挟む様に横1列に並び、その玉座には無数の触手が生えた蛸の様な頭部と蝙蝠の様な翼を持つ、人型の巨大な何かが頬杖を突きながら座っていたのである
「あれは……、妻のイダー=ヤアーにカソグサ……、それに眷属のムナガラー、ダゴン、ハイドラ、更にはオトゥームまでいるのか……。どうやらクトゥルフの奴は、本気で人類と深海棲艦を潰そうとしている様だな……」
翔が部屋の内部の状況を把握したところで、不意にクタニドがこの様な事を呟く
「何そのクトゥルフ眷属オールスター……、って言うか、そんなメンバーに挟まれても堂々としてるって事は……?」
「ああ、あの玉座に座っている者こそが、ここルルイエを支配する旧支配者、クトゥルフだ」
クタニドの呟きに対して翔がそう尋ねると、クタニドは玉座に座る者を指差しながらこの様に答える。それを聞いた翔が、微かに身震いをしたその直後の事である、部屋の奥の玉座に座っていたクトゥルフが、突然ゆっくりと立ち上がり……
「聞けえぇっ!!!我が眷属達よぉっ!!!」
地を揺らす程の途轍もない大きさの声で突如叫び、謁見の間に集まっていた者達全員の注目を集めたところで、決起会を開始するのであった……