こうしてクトゥルフ達の決起会が始まった訳だが、翔は決起会が始まったにも関わらず未だに扉の前で静かに待機し、中の様子を窺っていた
何故翔がそんな事を続けているのか、それは鳳翔とガタノトーアに問題が発生してしまったからである。まず鳳翔は先程のクトゥルフの叫びに驚いて、腰を抜かしてしまい立てなくなってしまったのである。そしてガタノトーアはクトゥルフの叫びで、自身がクトゥルフに思いっきり殴られた時の事を思い出してしまい、完全に竦み上がってしまっているのである
そういう訳で現在、クタニドが1人と1柱を落ち着かせようと奮闘し、翔は中の様子に変化が起きた時にクタニドに知らせる為に、こうやって中の様子をこっそりと窺っているのである
そしてクトゥルフの演説を聞いていた翔が、クトゥルフの口から気になる言葉が飛び出すなり、眉を顰めながらクタニドに質問をする
「クタニドさん、さっきクトゥルフさんが人類と深海棲艦がイハ=ントレイを滅亡させたとか言ってたんですが……?」
「ああ、イハ=ントレイか。そこは人類……、厳密にはアメリカ軍と深海棲艦が戦争を開始した際、両軍の攻撃に巻き込まれて滅亡してしまったんだ……。恐らくこの決起会に参加しているディープ・ワンの中には、イハ=ントレイの生き残りがいるかもしれんな……」
「なるほど、そんな事があったんですね……。って言うか、その知らせを聞いたらクトゥルフさんは即刻ブチギレて、今回みたいに戦争仕掛けようとすると思うんですが……?」
「その時はクトゥルフの妻達と眷属達が必死になって止めたんだ、今出るのは危険過ぎるから、今だけは何とか堪えて大人しくしてくれとな。まあ考えてみれば分かるはずだ、その頃は何処にも艦娘なんてものはいないんだ、そうなるとアメリカは何をメイン武器として深海棲艦と戦うかがな……」
翔とクタニドはこの様なやり取りを交わし、クタニドの言葉を聞いた翔は顔を青くしながらこう呟く
「核兵器……」
「その通りだ、まあ深海棲艦には普通の核兵器は全く通じないがな……。だがアメリカの連中はそんな事も知らず、阿呆の様にバカスカと深海棲艦に核を撃ち込んでいたんだ。そんな中に突っ込むとなれば、私達が超常の存在だとしても流石にダメージを受け、最悪死に至る可能性が十分有り得るからな……。いくら私達が強大な神話生物だとしても、限度と言うものはあるからな……。それでイハ=ントレイだが、アメリカ軍の潜水艦が深海棲艦に向けて放ったものの外れてしまった対潜水艦核魚雷なる物が、少なくとも45発は直撃し、多くのディープ・ワンがその爆発に巻き込まれたそうだ……」
クタニドは翔の呟きに答えた後、その表情を暗いものに変えてしまう。どうやらクタニドは、当時の状況を思い出してしまった様である……。そんなクタニドの姿を見た翔は、彼女の心中を察してただただ押し黙り、それに気付いたクタニドは笑みを浮かべながら翔に話し掛ける
「まあその結果アメリカは手持ちの核を使い切ってしまい、それにより深海棲艦に核が通用しない事が世界中に知れ渡り、核保有国はこぞって核兵器を処分したそうだ、最早核を保有しておく理由がないからな」
「世界最大の核保有国であったアメリカが核を使い切ったってなると、牽制の為に持っている必要は無いし、深海棲艦に通用しないと分かれば尚更持っている意味がありませんからね……。仮に処分しなかった場合、世界中から大顰蹙を買うだけでなく、政府が自国民から袋叩きにされかねませんからね……」
クタニドの言葉に翔がこの様に返すと、クタニドは笑顔のまま大きく頷きながらこの様な事を口にする
「そういう訳で、クトゥルフの暴走を抑えていた核兵器はこの世界から撲滅され、それをいいことにクトゥルフは今回の様な行動に出たのだろうな」
「これだけ条件が揃っていれば、誰だって本気で潰しにかかるでしょうね~……」
クタニドの言葉を聞いた翔が、納得しながらそう返していると、不意に廊下に足音が響き渡る。それを耳にした1人と1柱が警戒心を高める中、足音は段々大きくなっていき、やがてその足音の主が翔達の前に姿を現す。そしてクタニドがその足音の主の姿を見るなり目を見開いて驚き、思わずその人物の名前を呼ぶ
「クティーラッ!?何故お前が此処にいるんだっ?!」
「何っ!?クティーラだとぉっ?!!」
クタニドの声に反応し、先程までクトゥルフに怯えていたガタノトーアがすぐさま立ち直り、足音の主である水色の髪を両サイドで団子状にまとめた状態でショートボブに切り揃えた少女の方を向くと、慌てた様子で声を上げるのであった
「クタニドさんにガタノトーアお兄様?こんなとこで何やってるの?」
2柱からクティーラと呼ばれた少女は、大慌てするガタノトーアの様子など気にも留めず、不思議そうな表情を浮かべながら2柱に向かって尋ねる
「それはこっちのセリフだっ!!確かお前、ヌクトーサとヌクトルーと一緒に木星に避難する様にと父上から言われていたであろうっ!!?」
「ああそれ?木星に行く直前で私だけ抜け出してきちゃった☆」
「何で抜け出して来たんだお前はぁっ!??」
「だって皆の事が心配だったんだもん!」
それからしばらくの間、この3柱は謁見の間の前でギャーギャーと口論を始め、翔がその様子をポカンとしながら見ていると、不意に服の裾がクイクイと引っ張られる。何事かと思って翔がそちらに視線を向けると、そこには状況が分からずオロオロとする鳳翔の姿があった
「翔さん……、クタニドさん達と口論をしているあの女の子は、一体何者なんですか……?」
「ああ、あの子ですか……。とても信じられないかもしれませんが、クタニドさん達の言葉が正しければ、あの子はガタノトーアさんの妹さんで、クティーラと言う名前の神話生物なんです……。いや、ホント信じ難いと思いますけど……」
鳳翔が戸惑いながら少女の正体を翔に尋ねると、翔はそう言いながら少女の髪の毛を指差す。そして翔が指差す先に視線を向けた鳳翔は、ある事に気付いて驚きを露わにする。そう、よく見ると彼女の髪の毛先は、ガタノトーアの触手の様な形状をしているのである
「見た目は普通の人間の女の子なのに……、神話生物にはあの子と同じ様に、人間と同じ姿をした方もいらっしゃるのですか?」
「全くの0と言う訳ではないですね……、実際クタニドさんの部下……?にノーデンスさんって方がいらっしゃるんですけど、その方は人間の老人の姿をしてるそうですよ?」
鳳翔の質問に対して翔はこの様に返答した後、思い出した様に謁見の間の中の様子を窺い、未だにクトゥルフの演説が続いている事を知るとホッと胸を撫で下ろし、再び口論を続ける3柱の方に向き直る
それから間もなくして、ようやく3柱の口論が終わり、クタニドが代表して口論の末決まった事を翔達に伝える
「あ~……、このお転婆姫も説得に協力する事になった……」
「お父様からは地球がこれから危なくなるって聞かされてたけど、まさかお父様達の方から戦争を仕掛けようとしてたなんて事、全く教えられてなかったよっ!!もしお父様達が戦争を始めたら、絶対ハスターさんみたいにお父様と敵対している勢力が介入して来て、地球が大変な事になっちゃうよっ!!!」
「最悪、喧嘩大好き脳筋ゴル=ゴロスや愉快犯のニャルラトホテプまでもが、便乗して来る可能性もあるのだがな……」
「そうさせない為にも、私達が頑張ってお父様を止めないとだねっ!ねっ?ガタノトーアお兄様?」
「我としては、最悪の事態に備えて双子同様、お前にも避難して欲しかったところなんだがな……」
事情を知ったクティーラはそう言って息を巻き、ガタノトーアはそんな妹の姿を見てガックリと肩を落とす……。こうして、クトゥルフの説得にクティーラが加わる事となるのであった……
因みに、クティーラがこのオムナイトが自身の兄である事に一発で気付いた件についてだが……
「お父様やお母様、お兄様達がどんな姿をしていても、私は気配で気付く事が出来るんだっ!!」
などと自慢げに言っていたそうだ……
ゴル=ゴロスの設定は、この作品内だけの設定です