会合が会食に変化してからと言うもの、クトゥルフは完全に調子を狂わされていた
その原因の1つは、間違いなく料理と酒をこの場に運んで来たオトゥームの存在だろう
いつものオトゥームなら、こう言った事は全て手先に任せるはずなのだが、今回は何故か本人が来ているのである。クトゥルフがこれには何か裏があるのでは?と訝しんでいると……
「流石は我が主……、良い飲みっぷりです」
人間の美青年と言っても過言では無い姿に変身したオトゥームが、そう言いながら空になった2柱の杯に酒を注いで回る。まるでクトゥルフが、この状況を不審に思う事を阻止するかの様に……
その後、クトゥルフが2杯目の酒を呷ったところで、不意にクタニドはクトゥルフに話し掛けて来る
「クトゥルフよ、酒ばかり飲んでないで翔が作った料理を食べてみてはどうだ?」
クタニドはそう言うと自身の目の前に配膳された料理を箸でつまんで口に運び、静かに咀嚼した後嚥下するなり、その手に持った杯の酒を一気に呷る
「ぷはっ!これは美味い!この前菜と酒が本当によく合う事合う事っ!!これならこれから出て来る料理も酒も、期待出来そうだっ!!!」
杯から口を離したクタニドが、上機嫌になりながらそんな言葉を口にする。そんなクタニドの様子が気になったクトゥルフは、彼女が先程言った通り箸を取り、翔が作った前菜をほんの少しだけ口に含む。そして……
「ほぅ……」
クトゥルフはその料理の美味しさに思わず感嘆の声を上げ、続けてクタニドと同じ様に杯に注がれた酒を飲み、クタニドが上機嫌になった理由について納得してしまうのであった
これにより、クトゥルフは前菜を口にする度に酒を飲む様になり、その結果前菜の段階でかなりの量の酒を飲んでしまい、その思考力を鈍らせてしまうのであった。こうして翔が厳選した酒と酒に合わせて作られた前菜は、クトゥルフの調子を更に引っ掻き回すのであった
その後、クトゥルフが9杯目の酒を呷ったところで、遂に機会を窺っていたオトゥームが行動を開始する
「我が主よ、少々よろしいですか?」
オトゥームが、意を決してクトゥルフに話し掛けると……
「……何だ?」
クトゥルフは前菜をつまんだ箸を握る手を止め、オトゥームに向かって用件を尋ねるのであった。その様子を見たクタニドは、表情に出さない様注意しながら内心でニヤリと笑う。この反応なら、話を聞いたクトゥルフが暴れ出す心配は無い、そう思ったからである
「今回の件、私としてはやはり思い留まるべきだと思うのです……。私の勝手な推測ですが、主は過去にあったロシアでの一件の決着を付ける為に、奴をこの世界に誘き寄せる為に今回の戦争を仕掛けようとお考えなのではないでしょうか…・・・?」
オトゥームの言葉を聞いたクトゥルフが、その身をピクリと震わせた後、オトゥームの方へ視線を向けながら問い掛ける
「いつ気付いた……?」
「最初からです……、奴の攻撃により滅び去った私の拠点は、ロシアに近いところにありましたから……。奴が動き出した時、私はそれをすぐに察知して奴に攻撃を仕掛け、手も足も出ないまま撤退を余儀なくされ、せめて情報だけでもと思いボロボロになった拠点に戻った後、手先を偵察に向かわせていたのです……」
「その結果、お前は後から駆け付けて来た私達と奴のやり取りを、偵察に向かわせた手先を通じて知った、と言ったところか……」
「クタニド様の仰る通りです……」
「そうか……」
オトゥームの返答を聞いたクタニドが、神妙な顔をしながらそう言うと、オトゥームはクタニドの言葉を肯定し、それに対してクトゥルフは溜息を吐きながら目を伏せる
「もしこのまま戦争を開始しようものなら、間違いなく私達と敵対するハスターが介入し、戦争の規模が予想を遥かに超えたものになってしまうのではないでしょうか?そうなってしまっては、完全に奴の掌の上となってしまうのではないでしょうか?」
「ハスターが武力介入して来た場合、地球が滅びかねんからな……。そうなると奴の目的の1つが、私達の手によって達成されてしまう……。それだけは何としても避けたいところだな……」
その後オトゥームがこの様な事を口にし、それを聞いたクタニドがウンザリしながらこの様な言葉を零す……
そんな中クトゥルフは静かに箸を進め、前菜が盛ってあった器の中が空になると箸を止めて10杯目の酒を呷り……
「オトゥーム、お前の考えはよく分かった……。お前の意見も考慮しながら、この会合を進めていく事を約束しよう……。さて、お前が意見している間に器が空になってしまった、悪いがこの器を下げてくれないか?」
杯から口を離したクトゥルフは、そう言って前菜が盛ってあった器をオトゥームの方へ差し出す
「分かりました、ではクタニド様の分もお下げしましょう」
「ああ、済まんなオトゥーム」
その後オトゥームは2人から前菜が盛ってあった器を受け取ると、扉の方へと向かって行き、振り返って一礼した後部屋から出ていくのであった
ここでクトゥルフがクタニドに話し掛けようとするのだが、その直後に再び扉がノックされる。これには流石にクトゥルフも驚き、目を丸くしながら思わずクタニドの方へと視線を向ける
「ああ、言い忘れていた。今回私達に振舞われている料理はコースものらしくてな、私達が料理を食い終える頃合いを見計らって、次の料理を運び込まれる様になっているそうだ。っと言う訳で……、いいぞっ!!入れっ!!!」
驚くクトゥルフの姿を見てニヤニヤするクタニドが、そう言いながら次の料理を運んで来た者を部屋に呼び込む。すると……
「失礼しやす御二方っ!!!次の料理、吸物を持ってきやしたぜっ!!!」
今度は筋骨隆々の大男に姿を変えたダゴンが、そう言いながら吸物が乗った盆を手に、部屋の中に入って来るのであった
「おいクタニド……、まさかとは思うが……?」
その直後、クトゥルフの表情が険しいものへと変わり、クトゥルフはクタニドを睨みつけながら尋ねる
「そうだ、お前が思っている通り、料理をこの部屋に運んで来るのは殆どがお前の眷属達だ。どうやら眷属達は、お前に言いたい事がある様だからな。っとぉ、そんなに怖い顔をするな、折角の酒が不味くなるぞ?」
それに対してクタニドは、あっけらかんとした様子でそう言いながら、ニヤニヤと笑みを浮かべるのであった。そしてその直後
「殿っ!!無礼は承知で言わせてもらいますっ!!!」
吸物の配膳を終えたダゴンが、気合たっぷりな大声でクトゥルフに意見具申を始めようとする。それに対してクトゥルフが、眉間に皺を寄せながらダゴンの方を向くのだが……
「クトゥルフよ~……、私は食事が始まる前に言わなかったか~?これは腹を割って話す為の酒の席だと~、腹の内を吐き出してスッキリする席だと~。それは眷属達にも当てはまるのではないか~?だったらここは無礼講と言う事で~、眷属達の無礼も多めに見てやったらどうだ~?」
その直後にクタニドが酔っ払いの真似をしながらそんな事を言い出し、それを聞いたクトゥルフはチッと舌打ちをした後、ダゴンにぶつけようとした言葉を飲み込み、吸物を啜りながらダゴンの話を聞く事にするのであった
その後クトゥルフは、次々と姿を現す関係者の反対意見に耳を傾けながら酒と料理を楽しむ様になり、木星に避難させたはずのクティーラの登場に度肝を抜かれ、最後は妻達の説得により心が折れるのであった
「見事だクタニド……、まさかこの様な手で私を説得するとはな……」
自分以外の誰もが戦争に反対であると言う事実を叩きつけられたクトゥルフが、テーブルに突っ伏したまま弱り切った声でクタニドに賛辞を贈るのだが……
「ああ、この作戦を考えたのは私じゃないぞ?」
クタニドはしれっとした様子で、そんな事を言うのであった。それを聞いたクトゥルフは、ガバリとその身を起こして発案者が誰なのかをクタニドに尋ねると……
「それは最後のお楽しみだ、っと次の者っ!!入っていいぞっ!!!」
クタニドはそう言って、部屋にご飯と味噌汁と香物を持って来た鳳翔を、中に招き入れるのであった