翔達が鳳翔の件でキレたクトゥルフを宥めている頃、佐世保オパンチュパラダイス鎮守府の執務室では、キーボードを叩く音が絶え間なく鳴り響いていた
その音の発信源は提督の執務机の上にあるデスクトップタイプのパソコン、そしてそれを操作しているのは他でもない、この佐世保オパンチュパラダイス鎮守府の提督を務めるオパンチュ大天使モモロウ大将である
彼は今、桂島の提督の情報を集める為に、険しい顔をしながらパソコンのディスプレイとにらめっこしているのである
彼は何故この様な事をしているのか……、それは今日彼が桂島泊地を訪れた際に知る事となった桂島泊地の実態を、白日の下に晒して桂島の提督に法の裁きを受けさせる為である
この日彼は偵察部隊としてミッドウェーに送られた舞鶴鎮守府の主力部隊が全員行方不明になったと言う報を聞くなり、ミッドウェー攻略の開始を早めるべきだと主張し元帥に作戦を敢行させた桂島泊地の提督にその意図を問う為に、秘書艦の金剛とこの泊地に自身の師匠がいると言う赤城を連れて桂島泊地に訪れたのだ
因みに佐世保オパンチュパラダイス鎮守府の主力艦娘である金剛と赤城が鎮守府に残っている理由だが、金剛はこの大規模作戦に参加する艦娘を決定する為の模擬戦でズーイストライカーを装備した日向と激突、敗北してしまった為候補から外されてしまい、赤城は神出鬼没なモモロウ提督の代理を務める為に、大規模作戦の参加そのものを辞退したからである
そういう訳で桂島泊地を訪れた3人は、その日秘書艦を務めていた赤城の師匠である鳳翔の案内で執務室に向かう事となったのだが、その道中で普通に考えれば有り得ないものを偶然見てしまうのであった……
モモロウ達が見たもの……、それは疲れ切った表情で死んだ魚の様な目をし、絶望感に飲み込まれているとしか表現出来ない様な雰囲気を纏った、桂島泊地所属の遠征部隊である……
普通の鎮守府や泊地などでは、艦娘達がこうなる前に適度に休みを与えるものではないのか……?モモロウ提督がそんな事を考えていると……
「テイトク……、あの子達なんかおかしいヨー……」
「ハッキリ言ってあれは異常です……、この泊地……、もしかしたら何かあるかもしれませんね……」
不意に金剛が怯えた様子で、赤城が眉間に皺を寄せながら、この様な事を口にする。それを聞いたモモロウ提督は、2人の言葉に同意する様に1度頷いて見せるのであった
その後3人は執務室に到着し、桂島の提督への挨拶もそこそこに、自分達が此処に来た理由について桂島の提督に質問する。それに対して桂島の提督は……
「連絡も無しに行方不明となった、それは恐らく彼女達はこちらに連絡を入れる前に敵に発見され、瞬く間の内に沈められてしまったのではないかと、私はそう考えたのです。なので私はそんな彼女達の餞として、可能な限り早く作戦を成功させるべきだと思い意見具申したのですよ」
何食わぬ顔でそう返答するのであった。するとその直後、モモロウ提督がいない間提督代理を務めた事がある赤城が、口角を上げずに目を細めながら桂島の提督に尋ねる
「その言い方だと、貴方はこの大規模作戦は必ず成功すると確信している様に受け取れるのですが……?偵察部隊が行方不明になった事で、こちらには相手の情報が碌に無い状態になっているにも関わらず、貴方は作戦が必ず成功すると思っている……。何処かおかしいと思わないのですか?」
「尤もな指摘ですね、戦争は情報と前準備が命……、偵察部隊が全滅した事で、我々は相手の規模を把握する事が出来ず、最悪の場合ちょっとした読み違えで艦隊が全滅する恐れがあります……。ですが、我ら日本海軍の粋を集めた屈強な連合艦隊の前では、情報の有無など誤差の範疇でしょう。彼女達なら間違いなく作戦を成功させる、私はそう信じている、だから私は先程の様に言ったのです」
赤城の質問に対して、桂島の提督は平然とした様子でそう言ってのけるのであった。尤も、この男はそんな事毛ほども思っておらず、寧ろ連合艦隊は大和を残して確実に全滅するとさえ考えているのである。事実、この男はこの時点で海軍の情報を売る、生贄となる艦娘を売るなどして、その準備をプロフェッサーを通じて手伝う様な真似をしているのだから……
「Hey!それだと舞鶴の子達の行動は、全部無駄って事になりますヨ?!アナタその辺分かってて言ってマスカッ!?」
そんな桂島の提督の発言を聞いた金剛が、目を吊り上げながら桂島の提督に噛み付くが……
「無駄になる事なんて1つもありませんよ、彼女達の偵察方法を真似ればこの様な結末が待っていると言う、悪いお手本を見せてくれたのですから」
桂島の提督はしれっとした顔で、この様な事を言うのであった。それを聞いた金剛が、その表情をまるで夜叉の様に恐ろしいものに変えて、桂島の提督に何か言葉をぶつけようとするのだが、その直前に突然鳳翔が倒れてしまったのである……
突然の出来事に驚き、硬直してしまった金剛、赤城、モモロウ提督の3人を余所に、桂島の提督は鳳翔の方へ視線を向ける事無く……
「立て鳳翔、客人の前だぞ」
ただただ冷徹に、そう言い放つのであった……。それを聞いた3人は更に驚愕すると共に、背筋に薄ら寒いものを感じるのだが、すぐに我に返って倒れた鳳翔の下へと駆け寄り、モモロウ提督は赤城が抱き起こした際に見えてしまった鳳翔の身体に、無数のアザがある事に気付くのであった。こうしてモモロウ提督は、ここの遠征部隊の様子、先程の桂島提督の鳳翔に対する態度、そして鳳翔の身体にあるアザから、ここがブラック鎮守府である事を確信するのであった
そこからのモモロウ提督の行動は早かった、モモロウ提督は昔医者をやっている兄から教えてもらった容態の確認の仕方を本物っぽくやって見せた後
「かなり危険な状態ですね……、これは大きな病院に入院させた方がいいですね。幸い、僕の鎮守府の近くにこの手の病気に強い病院があるので、鳳翔さんにはそこに入院してもらいましょう」
真剣な表情で、真剣な声色で、この後何をしでかすか分からない桂島提督から眠っている鳳翔を切り離す為の真紅も真紅の大嘘を並べ立て、鳳翔をお姫様抱っこするなり執務室から出て行こうとする。その様子を見ていた桂島の提督は、一瞬だけ呆然とした後モモロウ提督を止めようとするのだが……
「赤城さん病院の手配よろしくっ!!!行くよ金剛っ!!!」
モモロウ提督はそう言って桂島提督の言葉をガン無視し、赤城と金剛、そして鳳翔を連れて大急ぎで桂島泊地を後にするのであった
その後、モモロウ提督は移動中に金剛と赤城に先程の自分の行動の意図を説明し、2人を納得させたところで鳳翔を揺り起こそうとするのだが、何度鳳翔を起こそうとしても鳳翔が起きなかった為、不味いと思ったモモロウ提督は、本当に鳳翔を鎮守府近くにある病院に緊急入院させる事を決定するのであった……
こうして鳳翔を病院に入院させたモモロウ提督は、病院に赤城を残して鎮守府に戻ると、すぐさまパソコンを起動して桂島の提督について調べ始め、金剛は鎮守府に残っているメンバーから有志を募り、モモロウ提督のサポートの為に資料室を漁り始めるのだった
それからかなりの時間が過ぎ夜の帳が降りる頃、金剛はサポート要員として集めたメンバーを部屋に帰した後、未だに作業を続けるモモロウ提督の為に紅茶の準備を始める。と、その時だ
「だあああぁぁぁーーーっ!!!チキショウめえええぇぇぇーーーっ!!!」
突然モモロウ提督が声を上げ、両手で頭をバリバリと掻き出す。それを聞いた金剛は1度身体をビクリと震わせて驚いた後、気を取り直して紅茶を淹れ
「Heyテイトク~、根を詰め過ぎるのはbadだヨ~?」
そう言いながらモモロウ提督に、先程彼女が淹れた紅茶が入ったティーカップを差し出す
「ああごめん……、ちょっち頭がヒートアップしてた……」
「テイトクの気持ちはよく分かるネー、けどあんまり無理し過ぎてテイトクまで駄目になるのはNOなんだからネー?」
モモロウ提督は金剛に謝罪しながらカップを受け取り、金剛はこの様な事を言いながらモモロウ提督の隣に立って、先程までモモロウ提督がにらめっこしていたパソコンのディスプレイを覗き込む
「それで、一体何があったノ?」
「あいつの情報をハッキングして調べてたんだけど、どこもかしこも強力なプロテクトだらけで、僕如きじゃ情報が抜けそうにないんだ……。あぁ……、こう言う事なら護からハッキングについてもっと教えてもらっておけばよかった……」
金剛がモモロウ提督の方に視線を向けながらそう尋ねると、モモロウ提督は空になったティーカップを金剛に返却した後、机に突っ伏しながらこの様な事を口にするのだった
「マモル……?」
「僕の友達だった奴さ、こういうのが滅茶苦茶強い奴でね。多分あいつだったらこのくらいのプロテクトは、鼻ほじりながらでも解除出来るだろうね」
「だった……?今は友達じゃないノ?」
「いや、今でも僕はあいつの事友達だって思ってるよ……、けどあいつはもういないんだ……、前に言ったろ?僕の兄さんが家でパーティーしてる時、兄さんの家に突っ込んだガソリン満載のタンクローリーの爆発に巻き込まれて、兄さんと兄さんの部下の方々が皆死んだって……、護もそこにいたんだよ……」
「oh……、sorry テイトク……、嫌な事思い出させちゃったネー……」
モモロウ提督と金剛がこの様な会話を交わし、金剛が申し訳なさそうにしていると、モモロウ提督は頭を振って見せ
「気にしないで金剛、それよりも今は鳳翔さん達の事だ。何としてもあの提督から艦娘達を解放して、桂島の提督には然るべき罰を受けてもらわないとね」
モモロウ提督は金剛に向かって笑顔を浮かべた後、表情を引き締めながらそう言い放つのであった。それに対して金剛が返事をしようとするのだが、ここで金剛は睡魔に襲われ思わず欠伸をしてしまうのであった
「……もしかして限界だった?」
「う~……」
それを見たモモロウ提督が金剛に尋ねると、金剛は恥ずかしそうに身を縮こまらせながら唸るような声を出す。その後モモロウ提督はまだ一緒にいたいと我が儘を言う金剛を諭し、彼女を自室のベッドまでお姫様抱っこで運び、彼女が寝付くまで添い寝した後、執務室に戻るのであった。因みに上記のモモロウ提督の行動は、全て金剛がお願いしたものである
「ふぅ……、ようやく寝付いてくれた……。っと言ってる場合じゃないな……」
モモロウ提督はそう呟いた後、再び情報収集の為にパソコンを操作し始める。それからモモロウ提督はしばらく作業を続けるが、結局プロテクトにぶつかるばかりでこれ以上パソコンによる情報収集は出来そうにないと思うと、パソコンの電源を落として椅子の背もたれに寄りかかりながら、深い溜息を吐く……
「兄さん……、か……。……もし兄さんが僕の立場だったら、一体どう動くのかな……?」
溜息をついた後、不意にモモロウ提督の頭の中に亡くなった腹違いの兄の、長門 戦治郎の背中が過り、思わずモモロウ提督……、いや、戦治郎の腹違いの弟にして、24歳と言う若さで長門コンツェルン次期総帥候補となった
「……うん、やっぱり兄さんだったらそうなるよね、どんな手を使ってでも助けようとするよね……。よしっ!明日も仕事は休みだし、別の方法で情報収集してみるかっ!って事で今日のところはこれでお仕舞い!ベッドが僕を待っている!」
その結果を見るなり兼継はこの様な事を言い、突如彼の手元に出現した緑色の光の線で形作られたタブレットの様な物を操作すると、彼は執務室から忽然と姿を消してしまうのだった……