加賀のWRXのエンジンが唸り、砲撃音と銃撃音が鳴り響く中、クタニドが病院の窓から飛び降りた時のショックで目を回していた鳳翔は、ここでようやく目を覚ます
「ようやく目を覚ましたかっ!」
「あ、おはようございます……、ではなくてっ!これは一体どういう状況なんですかっ!?」
鳳翔が目を覚ました事に気付いたクタニドが彼女に向かって声をかけたところ、鳳翔は突然の事態に驚きアタフタしながらクタニドに現状を尋ねる
「簡単に説明すると、貴女を病院から連れ出したところで、何処かに潜んでいた桂島の提督の刺客が、貴女を泊地に連れ戻す為に追って来たの。それで今、私の仲間とクティーラが奴等の追跡を阻止する為に、応戦しているところね」
するとクタニドの代わりに、WRXを運転する加賀が簡単に現状を鳳翔に伝える
「貴女は……?」
「申し遅れました、私は佐世保鎮守府の加賀です。今回の件は作戦参加中に翔から教えられ、私達は私達の命の恩人である彼等の力になれればと思い、こうして手伝いを申し出たのです」
加賀の話を聞いた後、後方に視線を向けて3台の車がこの車を追って来ている事を確認した鳳翔が、加賀が何者であるかを尋ねたところ、加賀は手短に自己紹介を済ませた後、自分達がこうして鳳翔達の手助けをしている理由を簡潔に話す
「命の……、恩人……、ですか……?」
「ああそうだ、アムステルダム泊地の話は聞いた事があるんじゃないか?」
「すみません……、提督が泊地内で情報規制を行っていたので……」
鳳翔が加賀の口から命の恩人と言う、やや重い言葉が出て来た事で困惑していると、窓から身を乗り出していた長月が、車内に戻るなり手にしたPDWの弾倉を交換しながら鳳翔の呟きに対して言葉をかけると、鳳翔はやや暗い表情になりながら、この様に返答するのであった
「じゃあ簡単に説明するよっ!僕達3人は以前その泊地に所属していたんだけど、そこでは艦娘の深海棲艦化を止める薬を開発する為の実験が行われていたんだ。それで僕と長月はその実験の為に、身体に無理矢理深海棲艦の身体の一部をくっつけられたんだよ」
「えぇっ!?」
「想像以上に下衆な事をする人間もいるものだな……」
鳳翔が長月の問いに答えた直後、長月と入れ替わる形でPDWの弾倉の交換を始めた皐月が、鳳翔達に自分達の身に何があったかを話す。それを聞いた鳳翔は口に両手を当てて驚愕し、クタニドは眉間に皺を寄せながら呟くのだった
「その実験のせいで、多くの艦娘達が犠牲になったわ……。そして近い内、私もその仲間入りを果たすのではないか……、そう思ってた時、泊地の実態を知った翔の仲間達が私達を助ける為に、泊地にやって来たの」
「その結果、私達の仲間の多くが彼等に助けられたんだ。……助けられる者だけだがな」
「翔達でも助けられなかった人達がいるんだね……」
鳳翔とクタニドが皐月の言葉に反応したところで、佐世保川を越えた辺りで更にアクセルを踏み込む加賀が話の続きを口にし、皐月と交代した長月がこの様に続く。それを聞いて呟いたのは、長月と同じタイミングで弾倉交換の為に引っ込んだクティーラである
「あいつらは変わった転生個体ではあるが、私達ほど万能ではないからな……。そう言う事もあるだろう……」
長月の言葉を聞いてその表情を僅かに曇らせたクティーラに対して、クタニドはこの様な言葉をかけてやる。と、その直後である
「皆さんが翔さん達に力を貸そうと思った理由は分かりました……、それで……、その……、今長月ちゃん達が使っているその機銃……ですか?それは一体どうしたんですか?私は今までその様な形の機銃なんて見た事が無いんですが……?」
鳳翔がどうしても気になっていた事を、長月と皐月に尋ねるのだった……
さてここで、長月と皐月、それとクティーラが使っているPDWについて話しておこう
これは護が入手したゲーリュオーンとケンタウロスを基に作り上げられたPDWで、名前を『マカロニ』と言う。命名者は護で、元ネタはマカロニペンギンなんだそうな……
このマカロニはゲーリュオーンの携行性と扱い易さを備えながら、ケンタウロスの技術を応用する事で威力を対人用、対物用、対深海棲艦用に切り替えられる様になっている
護達は今回の作戦では間違いなく人間と戦う事になるだろうと予想し、この様な武器を準備し、作戦に参加するメンバー全員に作って配っているのである。因みに、剛などが持っているオリジナルのアリーズウェポンには、護達が分析した後威力を切り替える装置を後付けしてあったりする
何故そんな事をしたのか、それは艦娘達の軍用の艤装もアリーズウェポンも、人間相手にはオーバースペック過ぎ、模擬戦用のゴム弾やペイント弾を使用しても、確実に相手を死に至らしめてしまう為である
因みに、クティーラが使用しているマカロニは、本来加賀に渡された物なのだが、加賀は車を運転している為マカロニを使用する事が出来ないのである。こう言った理由があった為、クティーラが加賀の代わりにマカロニを手に取り応戦しているのである
さて、この事を長月が鳳翔に伝えたところで、鳳翔は次の疑問を口にする
「応戦と言う事は、相手も攻撃をして来ているのですよね……?さっきから全然こちらに銃弾などが飛んで来ていないのですが……?」
「それは私の魔法のおかげだ」
鳳翔が疑問を口にしたところで、即座にクタニドが解答し、それを聞いた鳳翔はすぐに納得するのであった。そう、あちらの攻撃は全てクタニドの反射の魔法のせいで、弾がある程度加賀のWRXに近付いたところで反射し、追跡者達の方へと戻っていっていたのである
「クタニドさんのおかげで、私の車に傷がつかないのはいいのだけれど……」
「このまま最後まで追跡され、ダゴン達と合流して桂島にワープするところを見られたら、桂島の通信網を潰した意味が無くなってしまうからな……。携帯なんかで近隣の仲間を呼ばれる可能性があるからな……」
「その為にも奴らはここで何とかしたいのだが……」
「対人用の威力じゃあの防弾タイヤを撃ち抜けないよ……、かと言って対物用じゃ流れ弾が無関係な人に当たった時、大惨事になっちゃうし……」
「私も魔法を使って道路をアイスバーンにしてみたんだけど、易々と走破されちゃったよ……」
クタニドが車が無事な理由を話したところで、運転する加賀がこの様な事を呟き、それを聞いたクタニド、長月、皐月、クティーラが順に言葉を続け、皆揃ってどうしたものかと考え込んだその時だった
「見つけましたよクタニドさんっ!!!」
突然車内に若い男の声が響いて来る、クタニド以外がその声に驚き、車を運転している加賀とクタニド以外のメンバーが声の発生源を特定する為に車内を見回していると……
「ヴォルヴァドスかっ!?」
不意にクタニドが声を上げ……
「はいっ!何時まで経ってもクトゥルフさんの所から戻って来ないものだから、父さんから探して来いって頼まれたんですよっ!!さあ今すぐ戻りましょうっ!!!」
クタニドの声に反応したヴォルヴァドスと呼ばれた声の主は、そう言ってクタニドに帰って来る様に促すのだが……
「丁度いいっ!!上司命令だっ!!手伝えっ!!!」
「はいぃっ!?」
クタニドはヴォルヴァドスの言葉を完全に無視した挙句、こちらの事情も話さずにヴォルヴァドスに無茶苦茶な命令を下すのだった
「大丈夫お前なら出来るっ!!ちょっと後ろから追って来てる車のタイヤの空気を熱して膨張させて、パンクさせればいいだけだからっ!!頼んだぞっ!!!」
「いやいやいやっ!!ちょっと待って下さいってっ!!!せめて事情を聞かせて下さいってっ!!!」
その後クタニドとヴォルヴァドスがこの様なやり取りを交わし、クタニドがヴォルヴァドスに事情を話したところ……
「はい喜んでぇっ!!!」
ヴォルヴァドスはそう叫ぶなり、WRXの天井に人の姿となって顕現し……
「ジェアアアァァァーーーッ!!!」
ヴォルヴァドスの咆哮と共にL字に組んだ腕から撃ち出された極太熱線が、追跡者達の車3台を飲み込んでしまうのであった……
「おい……、あれは大丈夫なのか……?」
「大丈夫だ、よく見てみ?」
「あ、ホントだ、綺麗にタイヤだけ消し飛んでる……」
その光景を目の当たりにした長月が引きつった表情のままクタニドに尋ねたところ、クタニドはこの様に返し、その言葉を聞いた皐月がタイヤを消失し道路の上で動かなくなった追跡者達の車を見て、思わずそう呟くのだった……
「あの……、クタニドさん……?あの方は……?」
「あいつは私の部下でヴォルヴァドスと言う旧神でな、正義感が物凄く強く私以上の人間大好き旧神なんだ」
鳳翔がヴォルヴァドスについてクタニドに尋ねたところ、クタニドはニカッと笑いながらこの様に返答し……
「皆さん初めましてっ!ヴォルヴァドスって言いますっ!!事情は先程クタニドさんから聞きましたっ!!その桂島の提督って奴……、絶対に許せませんっ!!!本当なら僕直々に成敗したいところですが……」
助手席の窓から頭を出したヴォルヴァドスが、自己紹介の後この様に言葉を続けたところ、クタニドに睨まれ口ごもってしまう
「と、兎に角っ!この件は僕も見逃せないので、可能な限りお手伝いしようと思いますっ!!!どうぞよろしくお願いしますっ!!!」
「良かったな鳳翔、頼れる仲間が増えたぞ?」
気を取り直したヴォルヴァドスがそう言ってお辞儀しようとして窓ガラスに頭をぶつけ、その様子を見たクタニドが一頻り笑った後、鳳翔に向かってこの様な言葉をかける。それを聞いた鳳翔は、ただただ苦笑する事しか出来なかった……
こうして新しい仲間、ヴォルヴァドスを加わえた鳳翔一行は、その後何の妨害も受ける事無く、無事に佐世保駅付近の海岸に辿り着くのであった……