泊地の目の前に突如出現したダゴン達の事を艦娘達に全て任せ、自分達は事が終わるまで地下牢に閉じ込めた龍田を慰み物にしようと考えた泊地に常駐する憲兵達5人が、龍田が囚われている牢屋に近付いた時だった
5人の内の2人が、何かに勢いよく殴られたのか突然もんどり打って倒れてしまった
「「「……はっ?」」」
余りにも唐突過ぎる出来事を目の当たりにした3人が、驚きの余り声を揃えて間抜けな声を上げた刹那
「へぶしっ!!!」
3人の内真ん中に立っていた1人が、奇声を上げるなりそのまま後ろへ倒れ込んでしまう
「な、何だっ!?一体何が起きてるんだっ?!」
残った2人の内の1人が、探る様に辺りをキョロキョロと見回すのだが、彼の目には地下牢の景色以外の物が映る事は無く、彼の耳には自分達の声以外の音は聞こえず、神経をいくら研ぎ澄ましても隣で動揺してアワアワする同僚の気配以外、一切何も感じなかったのであった……
そして……
「あぎゃぁっ!?」
周囲を警戒していた憲兵は、腹部にとてもこの世のものとは思えない程に重く鋭い衝撃を感じるなり、その意識を手放してしまうのだった
「う、うわあああぁぁぁーーーっ!!!」
何も無い空間で突如仲間が倒れると言う、とてもではないが信じられない光景を目の当たりにした最後の憲兵が、その表情を恐怖の色に染めて悲鳴を上げながら地下牢から脱出しようと走り出すのだが……
「ぐぇっ!?」
見えない何かに首を掴まれたかの様な衝撃を首に受け、最後の憲兵は蛙が潰れた様な声を出す。その後憲兵は必死になってもがき、出口に向かって走ろうとするのだが、見えない何かに凄まじい力で後ろに引っ張られ、彼は後方にズルズルと引き摺られて行くのであった……
そして彼の身体はある程度引っ張られたところで突如停止するのだが、その直後に全身が持ち上げられたかと思えば、今度は物凄い勢いで床に叩きつけられる
「がはぁっ!!」
その衝撃で肺の中の空気が全て口から抜け、それと共に彼の口から苦悶の声が漏れたところで、彼は両側頭部と胸部、そして腹部に凄まじい衝撃を同時に受けて気絶するのであった
さて、彼等の身に一体何が起こったのか……、それは実に簡単な話だ、彼等はクタニドの隠密用魔法で身を隠している皐月達に襲われたのである
最初の2人は義肢の力を使って飛び出した長月と皐月が、飛び出した勢いをそのまま威力に変換し、片方には長月の鋼鉄の拳を、もう片方には皐月の刀の峰による一撃をお見舞いして撃破。3人目に関しては長月と皐月の後に続いたクティーラの飛び蹴りを顔面に受けて粉砕され、4人目はようやく2人と1柱に追いついたヴォルヴァドスのそれはそれは強烈なボディーブローをまともに受けて気絶、最後の1人が長月達に背を向けて走り出したところで、後ろから長月がワイヤー付きの義手を飛ばして捕獲、ワイヤーを巻き取って自分達の近くに引き寄せたところで、憲兵の身体を持ち上げた後床に叩きつけ、最後は皐月とクティーラが側頭部を、長月が胸部を、そしてヴォルヴァドスが腹部を同時に攻撃して、彼の意識を刈り取ったのである
「見えない、聞こえない、感じ取れない相手の攻撃は、さぞ恐ろしいだろうな……」
その様子を見ていたクタニドが、クククッと邪悪な笑みを浮かべながらそう呟くのだが……
「今の貴女がそのセリフを口にしても、格好が付きませんよ……」
直後に龍田の手枷外しに悪戦苦闘している加賀が、呆れた様子でクタニドに向かってこう言い放つ
加賀にこの様に言われたクタニドだが、彼女は龍田に着せる服を完成させた後、何を思ったのか龍田の服を作った際使用した黒い布地の余りで、突然メイドさんが使う様なフリルが付いた可愛らしいエプロンを作り始めたのである
その胸の中央部分には、デフォルメ化されたフードと仮面で顔を隠したローブ姿の何か、クタニドが『いあいあ丸』と呼ぶキャラクターの様なものがプリントされ、フリル部分には紫色の糸でクトゥルフ文字が刺繍されているのだが、クトゥルフ文字が読めない加賀には、何と書いてあるか皆目分からなかった……
因みに彼女が作った龍田の服だが、それは世間一般的にはゴシックドレスと呼ばれるものであり、それにもそれなりの数のフリルが付けられていた……。どうやらクタニドはフリルがお気に入りの様である……
「そもそも、何故そんな物を作っているんですか……?」
「いや何、暇だしいい機会だから翔に送るプレゼントを作ろうと思ってな」
「そう……」
加賀とクタニドがこの様なやり取りを交わしていると、先程屑な憲兵達を叩きのめしていたヴォルヴァドス達が、気絶した憲兵達を引き摺りながら戻って来る
「こっちは終わりました~、ってそっちはまだかかりそうですか?」
「この鍵が思いの外手強くて……」
「なら僕がやりますよ」
手枷の鍵と激闘を繰り広げていた加賀の姿を見たヴォルヴァドスがこの様に尋ねたところ、加賀はヴォルヴァドスの方を見る事無く返答し、それを聞いたヴォルヴァドスはそう言って加賀の方へ近付き手枷を手に取ると、加賀達の目の前でいとも容易く手枷を引き千切ってみせるのであった
「よくやったヴォルヴァドス、お前には翔の飯を食う権利を与えよう。っとそれはそうとだ、これから私達は龍田に服を着せるから、お前は隣の牢でそいつらを適当に拘束して来い」
「噂の翔さんのご飯にありつくには、権利が必要なのか……。ってそうじゃなくて、了解しました、それではちょっと行って来ますね」
その様子を見たクタニドが、ヴォルヴァドスに対してこの様な指示を出し、それを聞いたヴォルヴァドスはクタニドの指示に従い、5人の憲兵達を隣の牢へと連れて行き、憲兵達全員を全裸にした後、両手を後ろに回した状態にしたところで鉄格子を引き千切って作った8の字状の拘束具で拘束、両足首も同じ様な形で拘束した後、憲兵達の口に猿轡の様に鉄格子を噛ませてから拘束具の端同士を己の体温で溶接、そして最後に憲兵達の顔を覆う様にそれぞれが穿いていたパンツを頭から被せて、彼等に目隠しを施すのであった。余談だが、ここでヴォルヴァドスはちょっとしたミスを犯していたりする。具体的には憲兵Aと憲兵Cのパンツを取り違えているのだが、正直なところ物凄くどうでもいい事である
こうしてヴォルヴァドスが憲兵達を拘束し終えてクタニド達の所に戻ると、龍田の着替えはクタニド達の手によって完了し、一行は何時でも本庁から出られる状態となるのであった
「さて、こっちは終わったが……、そっちの首尾はどうだ?」
ヴォルヴァドスが龍田を抱きかかえたところで、不意にクタニドがこの様な言葉を口にし、この場にいる誰もがその言葉を聞いて怪訝そうな表情を浮かべたその時である、突然クタニドの胸の辺りがモゾモゾと動き出したかと思えば、そこから給糧妖精さんが顔を出すのであった
「その子は……っ!」
「ああ、お前達と一緒にいたあの給糧妖精だ。鳳翔が入院している病院に向かう前に拾って来たんだが、どうも出してやる機会が中々なくてな……」
その給糧妖精さんの顔を見た鳳翔が、目をパチクリとさせながらそう言ったところ、クタニドは申し訳なさそうな表情を浮かべ、後頭部をポリポリと掻きながらこの様な言葉を口にするのであった
「もしかして、さっきの言葉はその子に向けたものなのかしら?」
「そうだ、こいつには妖精のネットワークを使って、この泊地にいる妖精達に避難勧告を出す様頼んでおいたんだ。で、給糧妖精よ、妖精達の避難は完了したか?」
加賀が疑問を口にしたところ、クタニドはこう言って加賀の言葉を肯定した後、給糧妖精さんに改めてこの泊地の妖精さん達の避難状況を確認する。その言葉を聞いた給糧妖精さんは、クタニドに対して笑顔を浮かべながらサムズアップをして見せる。この様子だと、ここの妖精さん達は無事に泊地を脱出出来た様である
「それなら後は、ここの艦娘達を連れて脱出するだけだねっ!!」
「そうすれば、運悪くここで戦治郎さん達が戦闘する事態になっても、被害は泊地の建造物だけで抑えられるからな」
給糧妖精さんの様子を見た皐月がこの様な言葉を口にし、長月が皐月の言葉に続く様にして言葉を発したところで
「ではダゴン達と戯れている艦娘達を拾って、翔達と合流するとしようか」
クタニドが隠密魔法を解除しながらこの様な事を言い、それに同意した一行は未だに虚ろな目をした龍田を連れてこの場を後にするのであった
多分エプロンに刺繍されたクトゥルフ文字の意味は、『美味しくなぁれ♪』なんじゃないかと思います