※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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脱出開始

龍田の救出と憲兵達の拘束を終えたクタニド達が、地下牢から出る為に階段を駆け上がっていた時の事である

 

「あらぁ?」

 

ヴォルヴァドスが抱きかかえていた龍田が、不意に不思議そうに声を上げ辺りを見回し始める

 

「龍田さん、どうかしましたか?」

 

その様子を見た鳳翔が、龍田に向かってこの様に尋ねてみると……

 

「どうして私の身体はフワフワしてるのかしら~?確か私は鎖で繋がれて地下牢に閉じ込められていたはずのに~……」

 

龍田は不思議そうな顔のまま、この様な言葉を口にする。この時、先頭を走るクタニドだけが、龍田の発言に若干の違和感を感じるのだった

 

「それは私達が貴女の拘束を解いて、地下牢から連れ出したからよ」

 

先程の龍田の言葉を聞いた加賀が、龍田に対してこの様な言葉をかけた次の瞬間、この場にいる者達全員が、次の龍田の言葉を聞くなり驚愕し、思わず足を止めてしまうのであった……

 

「あぁ~、分かった~、きっと天龍ちゃんが私を迎えに来てくれたのね~。ありがと~、天龍ちゃん。でもごめんなさい……、今の私の目、天龍ちゃんの姿をハッキリと見る事が出来ないの~……。それにね~?耳もな~んかこう……キーンって音ばかり聞こえて来てね、他の音が全然聞こえないの~……」

 

「やはりか……」

 

一行が愕然とする中、クタニドだけが沈痛な表情を浮かべながら、短くそう呟くのだった

 

「やはりって……、クタニドさん、これってどういう事っ?!」

 

そんなクタニドの様子を見た皐月が、先程のクタニドの呟きの意味を問い詰めたところ……

 

「龍田は恐らく、憲兵達に慰み物にされた時のショックで、心因性の視覚障害と聴覚障害を患ってしまった様だ……。最初の鳳翔とのやり取りを聞いた時、どうもおかしいと違和感を感じたのだが……、こう言う事だったか……」

 

クタニドは皐月の問いにこの様に答えた後、ギリリッと奥歯を噛み締める

 

「違和感?」

 

「ああ、今の龍田の姿勢で周囲を見回したら、先ず最初に何が見えると思う?」

 

「……僕の胸……、ですかね……?」

 

「そうだ、普通お姫様抱っこの状態で周囲を見回せば、自分を抱え上げている相手の姿が見えるはずだろう?なのに龍田は、あの時龍田を抱きかかえているヴォルヴァドスの事に一切触れていない……」

 

「言われてみれば……」

 

龍田を抱えたヴォルヴァドスが、クタニドに対して質問をしたところ、クタニドはヴォルヴァドスに対して1つ質問をし、ヴォルヴァドスの返答を聞いた後にこの様に答え、それを聞いたヴォルヴァドスは納得し、首をゆっくりと小刻みに縦に振る

 

「そして聴覚障害だが……、それは加賀の言葉に対しての返事を聞けば分かるな?」

 

「ああ……、龍田の言葉には加賀から聞かされた内容が、全くと言っていい程反映されてなかったからな……」

 

「ねぇ、クタニドさんの魔法でどうにかしてあげられないの?」

 

その後クタニドの言葉を聞いた長月がこの様な言葉を口にしたところで、皐月がクタニドにこの様な問いを投げかけると……

 

「すまん……、流石にこれは私ではどうにも出来ん……。ツァトゥグァの爺さんだったら完璧なまでに治療してくれただろうが……」

 

クタニドは心底悔しそうな表情をしながら、この様に返答するのであった……。そんな中、龍田はただただ自身の中に存在する天龍に対して、優しげな声で話しかける

 

「天龍ちゃんの声が聞こえないのも、顔が見えないのも、と~っても残念なんだけど……、天龍ちゃんが私の傍にいてくれる……、それだけで私は幸せなの。だから天龍ちゃん、これからはず~~~っと、一緒にいましょ~?」

 

そんな龍田の様子を見ていた面々は、遂に耐えられなくなってしまったのか、苦悶の表情を表情を浮かべながら龍田から顔を背けるのだった……

 

「……加賀さん、天龍さんは確か生きてらっしゃるんですよね?」

 

辺りに重い空気が漂い始めたところで、不意にヴォルヴァドスが天龍の事を加賀に尋ね、加賀が無言で首肯した事を確認すると、ヴォルヴァドスは静かに目を閉じ……

 

「龍田さん、天龍さんとの再会は僕が必ず実現させます……。だから今は、少しの間だけ休んでいて下さい……」

 

龍田に向かってこの様な言葉をかける

 

「……えっ……?」

 

ヴォルヴァドスが龍田に話しかけた直後、突然龍田は驚きの表情を浮かべながら声をあげるのだが、次の瞬間には次第に龍田の瞼が下りていき、間もなく龍田は瞳を閉じて寝息を立て始めるのであった……

 

「ヴォルヴァドスさん……?龍田さんに一体何をしたんですか……?」

 

「龍田さんの心に直接声をかけて、反応があったところでちょっと眠ってもらいました。これ以上は、流石に見てて辛いですからね……」

 

その様子を見ていた鳳翔が、ヴォルヴァドスに対してそう尋ねたところ、ヴォルヴァドスは苦笑しながらそう答えるのであった

 

その後鳳翔達は地下牢を出ると、真っ直ぐ本庁の出入口へと向かい、外でダゴン達と戦う艦娘達の視線を集める為に、その扉を勢いよく開いて壁にぶつけ、大きな音を立てるのであった

 

「えっ!?」

 

その直後、艦娘達の指揮を執っていた高雄がこちらに視線を向け、鳳翔と龍田の姿を確認するなり驚愕の表情を浮かべながら声を上げ、その場に硬直してしまう

 

そんな高雄の様子など気にも留めず、鳳翔はその場から数歩前に出て……

 

「皆さんっ!!今すぐ攻撃を止めなさいっ!!!」

 

その表情を引き締めながら、鋭い声で艦娘達に攻撃を止める様に指示を出すのだった

 

突然の鳳翔の登場と攻撃停止命令に艦娘達が困惑していると、鳳翔が全員に集まる様にと指示を出し、鳳翔が全員が自分の下に集まった事を確認したところで……

 

「これより私達はこの泊地を放棄し、提督を置いて脱出を図ります」

 

鳳翔は泊地の艦娘達に向かって、こう宣言するのであった

 

「待って下さい鳳翔さんっ!?状況が全く掴めないんですけどっ?!」

 

「それなら……」

 

「私達が説明しよう」

 

鳳翔の宣言を聞いた高雄が、慌てた様子で鳳翔にこの様な言葉をかけたところで、今度は加賀とクタニドが前に出て来て、今の状況を泊地の艦娘達に順を追って説明し始めるのであった

 

 

 

 

 

「……何かとんでもない事になっているのですね……」

 

「それだけの事を、ここの提督はやってしまったのよ」

 

話を聞いて呆然とする高雄が思わずそう呟くと、すぐさま加賀がこの様に返答する

 

こうして状況を把握した泊地の艦娘達は、ダゴン達に謝罪を入れた後にその背に乗せてもらい……

 

「全員乗ったなっ!?では脱出開始だっ!!!」

 

クタニドが全員がダゴン達に乗った事を確認すると、直ちに泊地からの脱出を開始するのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつら……、まさかそのまま逃げ果せる事が出来ると思っているのか……?」

 

少々ふらついている泊地の提督が、泊地から離れていく鳳翔達の様子を窓から見ながらそう呟く

 

何故彼はふらついているのか……、それはクタニドが執務室にかけた魔法のせいである

 

提督はダゴン達が姿を現したところですぐに大本営に連絡を入れようとしたのだが、そこで自身の携帯を含めた通信機器が全て使用不可能になっている事に気が付いた

 

そしてそれからしばらくしたところで本庁から出て来る鳳翔の姿を発見、泊地がこの様な事態に陥った件には彼女が関わっているのではないかと予想した提督は、憲兵達を呼び出そうとしたところで通信機器が使えなくなっている事を思い出し、通信機を投げ捨てるなり鳳翔を拘束する為に外に出ようとするのだが、押しても引いても扉が開かず、頭にきて扉を蹴りつけた瞬間、脛に衝撃が走り思わず蹲ってしまうのであった……

 

そう、クタニドは提督を執務室に閉じ込める際、扉などを開かなくするだけでなく、反射の魔法もかけておいたのである。そうとも知らずに扉を蹴った提督は、反射の魔法で返って来た自身の蹴りの衝撃を、脛で受けてしまったのである

 

その後提督は今度は窓から脱出を図ろうとして、窓を椅子で勢いよく殴りつけるのだが、先程同様衝撃が反射し提督は頭部に椅子で殴られた様な痛みと衝撃を感じて思わず倒れ、それから復活してふらつきながら起き上がって外を確認したところで、先程のセリフを口にしたのである

 

「舐めた真似をしてくれおって……」

 

提督はそう呟くなりフラフラしながら執務机の方へと向かい、机の天板の中に埋め込まれていたスイッチを押し込む。するとどうだ、工廠の入口付近の地面に突然四角い穴が開き、そこからかなりの数の人影が姿を現したではないか

 

「こいつらの出番はまだ先だったのだが……、こうなったらそうも言っていられんな……。行け……っ!!奴等を全て海の藻屑に変えて来い……っ!!!」

 

提督がこの様な言葉を発した直後、工廠の地下から現れた数百人ほどの人影達は、提督の言葉に呼応したかの様に動き出し、次々と海に飛び出して鳳翔達の後を追い始める

 

「俺に逆らった事……、あの世で後悔するんだなっ!!鳳翔っ!!!」

 

その様子を執務室から眺めていた提督は、そう言うとニヤリと笑ってみせるのであった……

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