「アニキ達も行ったか……、しっかし大和さん達の車……、スゲェラインナップだったな~……」
戦治郎達が大和達の車に乗り込み泊地を出るところを、工廠の前に設置した水バケツの傍で、憲兵の詰所から失敬して来た煙草を吸いながら遠巻きに見送っていたシゲが、口から煙草の煙を吐き出しながらそう呟く
今回泊地に残る事となったシゲは、食堂での話し合いの後に剛に呼び出され、アルゴス号で使用する戦車用の非殺傷弾を作って欲しいとお願いされたのだ
剛のお願いの内容を聞いたシゲは、快くそのお願いを引き受けると直ぐに作業を開始、作業を終え剛に報告し剛達とアルゴス号を蕨島まで運ぶ輝を見送った後に休憩していると、提督宅に向かおうとする戦治郎達のやり取りを偶然目にする事となったのだ
因みに空達が見つけた工廠地下への入口だが、今は輝の手によってコンクリートが流し込まれ、完全に封鎖されてしまっていたりする
「あんなんがポコジャカ買えるとか、ここの提督は冗談抜きのとんでもねぇ腐れ外道だな……」
シゲが顔を顰めながらそう言って、煙草を咥え紫煙を肺に流し込み、再び口から煙を吐き出したその時だった
「シゲさん、まだ休憩しているのかい?」
ヴェールヌイが工廠の入口から顔を出し、シゲに対してそう尋ねて来るのだった。何故ここにヴェールヌイがいるのか……、それはシゲが戦車用の非殺傷弾を作り始めたところまで時間を遡る……
シゲが剛の頼みを聞いて工廠に向かい作業を開始したところで、ヴェールヌイが工廠にやって来てシゲに向かってこう言ったのである
「シゲさん、もしよければ作業を手伝わせてもらえないかい?」
ヴェルの言葉を聞いたシゲが、怪訝な顔をしながら手伝いを申し出た理由を尋ねたところ、電と雷が挑戦したい事やスキルアップの為にそれぞれ悟と翔から教えを乞う様になり、それを知ったヴェルはならば自分も何かを始めてみようと思ったんだそうな
「そして私は何がしたいのか……、それを考えた時真っ先に思い浮かんだのが、私達の艤装を修理、改修する戦治郎さんやシゲさんの姿だったんだ。あの時のシゲさんは変な声を上げてたけれど、作業している時の姿はお世辞抜きに格好良くて、正直に言えば艤装の修理の手際よりもそちらに見惚れていたくらいだったよ」
「お、おう……、サンキュー?」
「それで、私もシゲさんや戦治郎さん達の様に皆の艤装の修理を手際よく、格好良く出来る様になりたいと、その技術を活かして皆の力になりたいと、心からそう思ったんだ」
ヴェルとシゲはこの様な会話を交わし、真剣な眼差しで自分を見つめるヴェルの姿を見たシゲは……
「そう言う事ならいいぞっ!!いくらでも教えてやらぁっ!!!ただまあ、今やってんのは艤装修理関係じゃないが……、それでもいいか?」
「構わないよ」
ヴェルに対してこの様に尋ね、それをヴェルが了承すると、直ぐにヴェルと共に戦車用非殺傷弾の作製を開始するのだった
「悪ぃ、もう1本くらい吸わせてくれ。っつか別府、お前もそこに突っ立ってないでこっち来て休憩しとけ。休憩も仕事の一環だからな」
工廠から顔を出してシゲに話し掛けるヴェルに対して、シゲはこの様に答えた後にヴェルに向かって手招きしながら立ち上がり、吸殻をバケツの中に投げ入れて新しい煙草を取り出すなりクロとゲータを展開、自分はクロに腰掛けて煙草に火を点け、ヴェルにはゲータに座る様に促すのであった
因みに、先程シゲはヴェルの事を別府と呼んだが、これは作業中シゲがヴェルに付けた愛称である
「スパシーバ、で、さっきの作業だが……、あれはあれで楽しいものだな」
「お、作業を楽しめたか~。こりゃ見どころあるな~、もしかしたら想定以上に早く工廠組の仲間入り出来そうだなっ!」
こんな調子で2人が話を弾ませていると、不意にシゲの視界にこちらに向かって来る白露型3人と陽炎、そして天津風の姿が映るのだった
「シゲさん、お疲れ様~」
「ヴェールヌイ?どうして貴女がここにいるの?」
シゲ達に話し掛けて来る陽炎型2人に対し、シゲが現状を説明した後に彼女達がここに来た理由を尋ねてみると、彼女達は例の饅頭を見に来た事が判明した
「そういや俺もまだそれ見てなかったな……、よしっ!」
陽炎達の話を聞いたシゲはそう言うと手にした煙草をバケツの中に投げ入れ、彼女達と共に件の饅頭を見に行く事にするのであった
「あれが夕立が言っていた物だよ」
「うわ……、本当に虫みたいな脚が生えてる饅頭だ……」
「シゲさん、何か知って……、ってえぇ……?」
シゲ達が白露型の案内で隠し部屋に入り、問題の饅頭の在り処を教えてもらい、実際に饅頭を見た陽炎が引き攣った表情を浮かべながらこの様な事を言い、天津風がシゲに対してこの様に質問しながらシゲの方を向き、シゲが驚愕しながらその身を震わせている事に気付くと思わず困惑するのであった……
「シゲさん、どうしたっぽい?」
「何か滅茶苦茶驚いてる様に見えるンだけど……、大丈夫か?」
足付き饅頭を見てから様子がおかしいシゲに向かって、夕立と江風が心配しながらそう尋ねた直後……
「アイアンポットッ!!アイアンポットじゃねぇかっ!!!」
\アイアンポット……?/
シゲが興奮しながら大声でこの様な事を叫び、それを聞いた艦娘達は思わずシゲの言葉をオウム返しする……
さて、先程シゲがアイアンポットと呼んだこの脚付き饅頭だが、正式名称は1人用多脚戦車『
人が一人入れそうなくらいの大きさの饅頭の様な形をしたボディーの下に、蟹の様な脚が4本生えており、この戦車はその脚を使って移動する事で水上以外のどんな地形も走破出来る様になっているのである
また、ボディーの正面には3つのレンズが付いた大きなカメラが付いており、そのカメラには望遠、暗視、サーモグラフィーの機能が備わっていて、この戦車はそれを用いて索敵と相手の視認を可能にしている
因みに、何故シゲがこの戦車をアイアンポットと呼んだのかについてだが、これとよく似た戦車が登場するゲームが存在し、そのゲームではその戦車の事をアイアンポットと呼んでいたのである。故にシゲはキュクロープスを見て、思わずアイアンポットと叫んだのである
その後、落ち着いたシゲがヴェルと共にキュクロープスを丁寧に調べ、1度解体してパーツの1つ1つを見ながら設計図を書き、再び組み直して元に戻すと、この様な事を口にする……
「やっべ、これまだ全然余裕で改造する余地あるわ……」
「ほほぅ……、それでシゲさん……、この後どうするんだい?」
シゲの言葉を聞いたヴェルがシゲに向かってそう尋ねると、シゲはニヤリと笑って工具を手にすると……
「決まってらぁっ!!!こいつをトコトンまで俺色に染め上げてやんだよぉっ!!!」
そう叫ぶや否や、キュクロープスの改造を開始するのであった
その結果、脚付き饅頭と呼ばれていたキュクロープスは、カメラの隣にそれぞれ主砲を1門ずつ、カメラの下に機関銃内臓の3本の指が付いたマニピュレータが2本後付けされ、ボディーの右側に閃光迎撃神話を1門取り付け、ボディーの上には砲塔が取り付けられ、そこから更に2門の主砲が伸び、砲塔の上には2門の機関砲が取り付けられた。そしてボディーの中にあった操縦席は後付けした後部ポッドに移され、それによって出来たスペースに砲弾の自動装填装置が組み込まれ、後部ポッドの上には大型の対空電探が、ポッド内部には迎撃補助機能と身かわし歩行機能がそれぞれ付いたCユニットが装備されていた
「っしゃぁぁぁーーーっ!!!完成だあああぁぁぁーーーっ!!!」
「ハラショー、こいつはいいな……」
キュクロープスの改造を終えたシゲがガッツポーズを取りながら叫び、シゲの手伝いをしていたヴェルが額を拭いながらそう呟いた
「つか別府、お前俺の作業に付いて来るとかマジで筋がいいなっ!!!まだぎこちないとこあっけどスポンジが水吸う様に教えた事吸収してんじゃんかっ!!!こりゃちょっと場数踏みゃぁ十分戦力になるわっ!!!」
「スパシーバ、そう言ってもらえると嬉しいよ」
シゲが自身の本気の作業に付いて来たヴェルをべた褒めし、それを聞いたヴェルが少し照れながらこの様に返答したところで、不意に江風がシゲに質問する
「なぁシゲさン、こいつって今すぐ乗れるのか?」
「あぁっ!!」
「だったらさ、早速乗ってみていいか?」
「いいぞぉっ!!!ついでだから乗り心地のレポ頼むわっ!!!」
こうして、シゲ達は工廠の前で改造したキュクロープスの試乗会を開始するのだが、これがちょっとした問題を引き起こしてしまうのであった……