初霜と時雨、雷と江風は激しい攻防を繰り広げている内に、いつの間にか合流を果たし、砲撃音と機銃の掃射音、そして時折金属同士が激しくぶつかり合う音を、泊地中に響き渡らせる
『そこっ!!』
「やらせないよ……っ!!」
初霜がそう叫ぶと同時に、建物の壁に張り付いた時雨の機体に砲撃を浴びせようとするのだが、時雨はそう呟くと操縦桿を巧みに操作して壁面をジグザグに走行し、初霜の砲撃を見事に回避する
『援護するわっ!!』
その様子を見ていた雷が、そう言って時雨機に腕の機銃を向け、その引き金を引こうとするのだが……
『でりゃあああぁぁぁーーーっ!!!』
その刹那、雄叫びと共に江風が雷機に体当たりをブチかまし、雷機を初霜機の方へと弾き飛ばす
『いったーいっ!!!』
『なんて荒々しい戦い方を……っ!?』
江風に弾き飛ばされた雷が思わず声を上げ、自身の方へと飛んで来た雷機を回避しながら初霜がそう呟く。それに対して江風は……
『今の江風達は海賊団の一員だからなっ!こう言う戦い方も仕込まれてるのさっ!!!』
ピロシキの腕を突き出しながら、この様な事を叫ぶのであった
江風が初霜達に啖呵を切った瞬間、シゲ達の後方にある観戦席がワッと沸き立つ
「お~お~!皆盛り上がってやがるなぁっ!!最初見た時の顔と全然違うわっ!!!」
「そうですね~、いや~、正直この泊地の艦娘達のこの表情を見れただけでも、この大会開いた価値ありますわ~」
観戦席の方を眺めている輝の声に反応し、輝と同じ様に観戦席の方へ顔を向け、泊地の艦娘達の表情を見たシゲは、安堵の息を吐きながらこの様な言葉を口にする
シゲ達が見た今の艦娘達の表情、それはシゲ達が初めて彼女達を見た時の様な死んだ魚の様な目をして、あらゆるものに絶望し切った様な表情ではなく、活気に満ち溢れた笑顔や時雨達の戦いを見て興奮している表情ばかりであった
「泊地の皆がこんな表情を浮かべるのは、本当に久しぶりだな……」
そんな艦娘達の様子を見たヴェルが思わずそう呟いた時、観客席から突如驚嘆の声が上がる。それを耳にしたシゲが何が起こったかを確認する為に、スクリーンの方へ視線を向けると、そこには塗料が付着している初霜機、雷機、江風機と無傷の時雨機の姿が映し出されていたのであった……
飛んで来た雷機を回避した初霜は、雷機を弾き飛ばした江風機に狙いを定めようとするのだが、それを阻止する様に時雨が初霜機目掛けて砲撃を行う。そんな時雨の攻撃を初霜が何とか回避し切ったところで……
『もらったっ!!!』
江風が待ってましたとばかりに声を上げて初霜に向かって砲撃、それに気付いた初霜がしまったと言う表情を浮かべた直後……
『させないわっ!!!』
先程弾き飛ばされた雷機が初霜機を庇う様にして射線に入り、自らが被弾する事で初霜機を江風機の砲撃から守り、初霜はその光景を見て動揺する江風機に向かってすかさず砲撃し、江風機を見事仕留めるのだが……
「残念だったね……」
その直後、時雨の呟きと共に飛んで来たペイント弾に被弾し、初霜は雷共々スタート地点送りにされてしまうのであった……
『悪ぃ時雨の姉貴……、しくじっちまった……』
「今のは仕方ないよ、それよりも早くスタート地点に戻って、その塗料を落としてきなよ」
初霜達との戦いを終えた時雨達が、この様なやり取りを交わしていたその時である、時雨達の通信機から陽炎の声が聞こえて来るのであった
『今北エリアを全部見終わったんだけど、何処にも提督はいなかったわ。恐らく南エリアの東側……、今天龍さんが向かっている方角にいる可能性が高いわ』
「了解、それじゃあ陽炎はすぐに天津風と合流して、天龍さんの足止めを頼むよ。その間に僕が提督を探し出す」
『ごめんっ!出来たら早く来てくれないっ!?天龍さん……、かなり強い……っ!!!ってきゃぁっ!!!』
『天津風っ!?』
『大丈夫っ!ちょっと驚いただけっ!!』
「これは急いだ方がいいかもね……」
『了解っ!!それじゃあすぐそっち行くわっ!!天津風、私が行くまで何とか持ち堪えなさいっ!?』
こうして北エリアの探索を頼んでいた陽炎との通信を終えた時雨は、天龍よりも先に提督を見つける為に急いで南エリアの東側に向かい、被弾した江風は塗料を落とす為に北エリアの下段の西から2番目の位置にある、自分達のスタート地点へと向かうのであった
さて、龍田の為にキュクロープスを狙う天龍達を相手に、こうして奮闘している時雨達は何を理由にこの大会に参加したのか……?それはこの世界に混乱をもたらす原因となり得るアリーズウェポンを、必死になって回収している剛の為である。まあ、それ以外にも個人個人にも理由はあるが、それよりも優先されるのは、やはり剛の件である
海賊団の艦娘達に対して剛はどの様な人物か聞いてみると、真っ先に返って来る答えは間違いなく『鬼教官』であろう……
剛は訓練の時は本当に鬼の様に厳しく、彼が組むトレーニングメニューは辛く苦しいものばかりで、生半可な気持ちで訓練に参加しようものなら、確実に心身共にボロボロにされる事だろう……
普通ならばそんな事をされれば、誰か1人くらいは彼に対して嫌悪感を抱くものだろうが、海賊団の艦娘達は誰1人として彼を憎む様な事はせず、寧ろ訓練の度に感謝の意を示すのである
そう、彼女達は知っているのである、この厳しい訓練も剛の優しさや、何としてでもこの世界で生き残って欲しいと言う願いから来ているものである事を、彼女達は心から理解しているのである
事実、剛は訓練を完遂した者にはキチンと労いの言葉を掛け、改善点を分かり易く指摘するだけでなく、改善する為にはどうしたらいいかまでしっかりとアドバイスしてくれるのである。そんな人間を、一体誰が恨むと言うのであろうか……?
そんな剛は自身の妻だったアリーの野望を阻止する為に、この世界をこれ以上混乱させない為に、命懸けで深海棲艦や転生個体と戦いながら、アリーが作り出した兵器を回収している。その事を知っている彼女達は、彼の力になってあげたい……、この世界を生き抜く為の力を与えてくれた彼に対する恩を返したい……、そう思ったからこそ、アリーズウェポンの1つであるキュクロープスを手に入れ、彼の目の届く場所に置いておきたいと思ったのだ。この思いは決勝戦まで勝ち進んだ時雨達だけでなく、初戦で敗退してしまった摩耶達も同じ気持ちなのである
とまあ、これが彼女達が大会に参加した1番の理由だが、先程も言った通り参加した艦娘達それぞれに、キュクロープスを欲しがる理由があったりする
初戦敗退した4人についてはこの際置いておいて、先ず江風がキュクロープスを欲しがる理由だが、彼女はキュクロープスが持つ機動力は、彼女が得意であり好んでいる夜戦と相性がいいのではと思い、キュクロープスを欲しているのである
もし江風がキュクロープスを入手した場合、全身を闇に溶け込み易い色に塗り替え、武器と駆動系の消音性を高めて隠密性を向上させ、2つあるS-E穴には魚雷発射管を取り付ける事になるだろう……
続いて天津風がキュクロープスを欲しがる理由だが、彼女はキュクロープスの機動性だけでなく、その堅牢な装甲にも目を付けていた。このキュクロープスの装甲だが、何とあの大五郎が装備しているグスタフドーラの一撃に耐える程の耐久力を持っているのである。その事実を知った天津風は、その機動力と耐久性は自身の戦闘スタイルでこそ活かされるのではないかと思い、キュクロープスを欲しているのである
もし天津風がキュクロープスを入手した場合、身交わし歩行の特性を持ったCユニットをエンジン補助の特性を持ったCユニットに切り替えてエンジンを強化し、耐久性と機動力を大幅に強化する事となるだろう……
更に続いて陽炎がキュクロープスを欲しがる理由だが、オールラウンダーとして重宝される彼女は、他の駆逐艦娘が何かしら特化した物を持っている事を羨ましく思っており、自分にも特別な何かがあったらいいのにと、日頃から思っていたのである。そしてキュクロープスを目の当たりにした彼女は、これを上手く扱える様になれば自身にも特別性が備わるのではないかと思い、キュクロープスを欲しているのである
もし陽炎がキュクロープスを入手した場合、耐久性と機動力をバランスよく強化した上に、戦況を正確に把握する為の情報管制系の装備と、それらを守る為の耐電用装備が取り付けられ、場合によって作戦指揮用の機体として運用出来る様な仕様になる事だろう……
そして最後、このチームのリーダーである時雨だが、どうやら彼女は駆逐艦では到底実現出来ない事を、キュクロープスを用いて実現させようと考えている様である……
そんな時雨は南エリアの東部に向かう途中で、天龍が天津風を討ち取る瞬間を目撃するのであった……