軍学校を首席で卒業したその男は、自身が憧れた男が元帥を務める横須賀鎮守府に着任出来た事を、それはそれは心から喜んだ
彼が憧れる存在……、
彼が御英圃元帥に着任の挨拶をした際、元帥は彼の肩に手を乗せて、微笑み掛けながらこう言った
「これから日本の未来を守る為に、共に頑張ろうではないか。大丈夫、君なら出来るさ」
元帥の言葉を聞いた彼は、嬉しさの余りつい感極まってしまい、思わずその場で涙を流したのだそうな
それから彼は元帥から多くの事を学びながら艦隊を運用し、見る見るうちにその頭角を現し、周囲からは御英圃の再来と言われる程にまで成長した。そんな彼は元帥から賜った艦娘達と協力し、元帥から与えられた任務を誰よりも早く、そして一切の被害を出さずに完遂し続けるのであった。そう、全ては元帥と日本の為に、彼は頑張り続けたのである
これこそが、桂島提督が吐き気を催す程の邪悪な提督に堕ちる切っ掛けとなったのである……
何時の日か彼は、元帥から与えられる多くの任務を、期日内に処理しきれなくなり始めたのである。その原因は間違いなく元帥が彼に与える任務の量で、彼が普段処理している任務の量は、他の提督の倍以上の量となっていたのである
何故この様な事になったのか……、それは彼が頑張り過ぎたからである。彼は元帥に認めて欲しい一心で、誰よりも早く任務をこなしていた。それを見た元帥は彼なら任務の期日を短くし、それで出来た余白の部分に新しい任務を追加しても、きっと彼なら問題なく処理出来るだろうと考え、彼に期日の短い新しい任務を次々と与え続けたのである
その結果、元帥が与える任務の量が彼の処理能力のキャパシティーを超えてしまい、彼は元帥から与えられる任務を処理しきれなくなってしまったのである
流石にこれ以上は無理だ……っ!そう思った彼は、これ以上任務を追加されても処理し切れる自信が無いと、元帥に直談判したのだが……
「大丈夫、君ならきっと出来るっ!!!」
彼の事を心から信頼する瞳で彼を見つめながら、元帥は笑顔でそう言って彼の訴えを取り合わなかったのである……
そんな瞳で見つめられたら仕方ない……、そう思った彼は元帥のその期待に応えるべく、少々無理をし始める様になる。そうして日に日にボロボロになっていく彼の姿を見た彼の指揮下にいる艦娘達は、そんな彼の力になってあげたいと思い、彼としっかりと話し合い、多少の無茶も承知の上で彼に協力する事を約束し、彼と彼女達は元帥から与えられる任務を片付けていくのであった
そんなある日、彼は元帥に大切な話があると呼び出され、元帥の執務室へと向かった。そして彼は、元帥の言葉を聞いて自身の耳を疑った
「君は僅かばかりの任務を遂行する為に、艦娘達を酷使した様だね……。君が指揮している艦娘達のその表情から、疲労の色がハッキリと見て取れる……。君には期待していたのだがね……、まさか彼女達に対してあの様な仕打ちをするとは……」
その後元帥は、彼に鹿屋基地の支援用に新しく設けた桂島泊地への異動を命じ、執務室から退室する様指示するのであった
元帥の言葉で混乱する中、彼は自分の指揮下の艦娘達の事を思い出し、彼女達も共に来てくれるのかどうかを元帥に尋ねたところ……
「彼女達は既に全員解体し、精神科の方に行ってもらったよ。だから君と共に泊地に着任する予定になっている艦娘は、こちらで手配した艦娘だけだよ」
元帥のその言葉を聞いた彼は、目の前が真っ白になり、その場で倒れ込んでしまうのであった……
因みに、彼は桂島へ向かう為の準備をする期間中に、何とか元部下達の現住所を特定し、彼女達の話を聞く事に成功する。そうして再会した彼女達は、皆口を揃えてこう言ったのである
いくら元帥に事情を説明しても、『あの男にそう言う様に強要されているのだろう?可哀想に……、大丈夫、もうあの男の事を怖がる必要は無い、だから安心して新しい生活を楽しんでくれたまえっ!!!』と言って、全く取り合ってくれなかった……、と……
これにより、彼は元帥への憧れを完全に失い、只々彼女達を失った喪失感に心を苛まれるのであった……
その後、彼は命令に従って桂島泊地に着任したのだが、そこで更なる絶望を味わう事となる……
普通ならば新設された鎮守府や警備府、泊地や基地には予め多少の資源が置いてあるものなのだが、この桂島泊地にはそれが一切無く、挙句の果てには補給拠点からの支給も半年の間は無いと、共にこの泊地に着任した艦娘から聞かされたのである……
彼はすぐさまこの件を、元帥に問い合わせるのだが……
「大丈夫っ!!君ならこの程度の逆境は乗り越えられるはずだっ!!!」
元帥のこの言葉を聞いた瞬間、彼は即通信を切りところ構わず八つ当たりした後、執務机に座り頭を抱え込んでしまうのであった……
さて、この元帥はとんでもない事を口にしているが、実際元帥が今の彼と同じ状況に立たされた場合、本当にこの状況を乗り越えられるのだろうか……?
……答えは恐ろしい事に、YESなのである……
この元帥ならば、恐らく次の日にはこの状況を打破し、通常通りに艦隊を運用し始めるであろう……
これほどまでに優秀な元帥だが、彼にはある悪癖があった……。それは自分が出来る事は他人が出来て当たり前と言う考えと、ほんの些細な物事も大袈裟に捉える感性、そして他者を必要以上に過大評価すると言う3つの悪癖があるのである……
そう、彼は元帥のこの3つの悪癖の被害者なのである……。過大評価で無駄に期待され、自分ならこの程度の事はすぐさま片付けられると言う感覚で大量の任務を与えられ、それを遂行する為にほんの少し艦娘達に無理させた事をブラック運用認定されて、彼はこの泊地に飛ばされてしまったのである……
こうして絶望に打ちひしがれた彼は、彼の事を監視する任務を与えられている艦娘に艦隊運用する様にせっつかれ様とも艦隊運用はせず、しばらくの間1日中海を眺めて過ごすのであった……
そうやって只々無駄に時間を費やす日々を送っていた彼の前に、ある日白衣を纏い布で顔を覆った泊地棲姫が姿を現した
それを目にした彼は、助けを呼ぼうと声を上げようとするのだが、初めて見る本物の姫級の深海棲艦に心底恐怖し、上手く声が出せなくなってしまうのだった……
そんな彼を見た泊地棲姫は、顔を覆った布の下でニヤリと笑った後、ゆっくりと彼の下へと歩み寄り、この様な事を口にするのであった……
「お前さん……、心底憎いと思っている奴がおるんじゃないか……?」
深海棲艦が喋ったと言う事実に驚く彼を余所に、泊地棲姫は彼にとってとても魅力的な話を持ち掛ける……
「その復讐……、儂が手伝ってやろうか……?」
その言葉を聞いた時、彼は無意識の内に首を縦に振り、その様子を見た泊地棲姫は何度か頷いた後……
「うむ、素直な事は良い事じゃぞ。人間、やはり欲望に素直な方がいいんじゃよ……」
こう言って泊地の本庁の中へと入って行くのであった……
それから数分後、泊地棲姫は泊地の敷地内にいた任務娘、アイテム屋娘、そして彼を監視していた艦娘の遺体を引き摺りながら、彼の前へと再び姿を現し……
「これでお前さんを縛るものは無くなった、では早速始めるかのう……、お前さんの復讐劇を……」
そう言いながらこの泊地棲姫……、プロフェッサーは艦娘達の遺体を彼の前に投げ捨て、呆然とする彼に向かって復讐の段取りについて話し始めるのであった……
こうしてプロフェッサーの助力を得た彼は、彼のアドバイスの下史上最悪の提督に身を堕とす事となるのであった……