横須賀に桂島泊地の提督が働いた悪事の証拠を届ける事となっている戦治郎達が、佐世保の加賀から事前に情報をもらっている様な言い方をしているが、これは一体どう言う事なのだろうか?
それについては戦治郎達が、横須賀に向けて桂島を発とうとしたところまで時間を遡る……
その日戦治郎は寝付いたのが遅かったにも関わらず、朝の4時に目を覚まし僅かな時間だが日課の朝練を行おうと思い、布団から出て身支度を整え、2本の竹刀を持って埠頭へと向かった
その時には既に長門屋剣術愛好会のメンバーである通、木曾、神通の3人と、ここのところ良い思いをしていない天龍、そしてミッドウェーにいた頃に空が発足した長門屋拳闘会のメンバーである空、シゲ、夕立の3人が、朝練の為に埠頭へと集まっていたのだった
何故ここに天龍が?そう思った戦治郎が天龍に尋ねてみたところ、天龍は最近の情けない自分を変える為に、早起きして秘密の特訓を行う事を決意し、今日から早速実行しようとしたところで、剣術愛好会の朝練に参加しようと埠頭に移動していた木曾達と遭遇、木曾達の話を聞くと自分も混ぜて欲しいと2人に頼み込み、こうして付いて来たのだそうな
こうして天龍の事情を聞いて納得した戦治郎は、剣術愛好会の朝練に天龍も参加する事を了承し、早速皆で朝練を開始しようとするのだが……
「そういや俺、今日横須賀に向かうから、30分くらいしか付き合えそうにねぇんだよな~……。朝練の内容どうすっか~……」
今日の予定の都合、短時間しか朝練に参加出来ない戦治郎は、今日の自身の朝練の内容について悩み始めるのだった。そんな戦治郎の様子を見た空が、ある事を思い付きすぐに戦治郎に提案する
「ならば戦治郎、久しぶりに……、どうだ?」
そう言って拳を突き出してくる空の姿を見た戦治郎は、ニヤリと笑うと空と同じ様に拳を突き出し、空の拳に自身の拳をコツリとぶつけると、皆に向かってこう言い放つ
「乗った、って事でおめぇら、今日は見取り稽古だ。愛好会側のテーマは~……、武器を持ってない奴を相手にする時も、油断だけはするなってところか?っと、天龍はちゃんと俺達の動きを見てろよ見てろよ~?」
「なら拳闘会サイドは……、得物を持った相手の捌き方……、だな」
2人の言葉を聞いた瞬間、シゲと通がビクリと身体を震わせるなり、大慌てしながら通信機に付いているカメラを起動したり、懐から取り出したタブレットに三脚を取り付けたりして、戦治郎と空を撮影する準備を始める
「通っ!動画撮影の準備はいいかっ!?」
「抜かりなくっ!まさかあの伝説の戦いを、再び目にする日が来るとは……っ!!」
この様なやり取りを交わすシゲと通の姿を、残ったメンバーが不思議そうに眺めていると、突然辺りの空気が剣呑なものに変わり、それを肌で感じ取ったメンバーは思わず身震いするのであった……
その直後、間合いを取って構えていた戦治郎と空が同時に動き出し、2人は朝日をバックに埠頭で激しくぶつかり合うのだった
この2人の戦いにより、埠頭のコンクリートの至る所に大きなクレーターが出来上がり、戦治郎が横須賀に向かった後、埠頭がこうなった原因を木曾達から聞いた輝は
「ちっとは加減しやがれってんだあの馬鹿タレ共はっ!!!」
そう叫んだ後、埠頭の修繕作業を開始したそうな……
尚、この戦いをリアルタイムで見守っていた者達は……
「戦治郎さんが、正蔵さんの孫だって事がよ~く分かったっぽいっ!!」
とか
「前より戦治郎さん達の動きを、目で追える様になったぞっ!!」
とか
「ミッドウェーでの戦いの時から思ってたけどよ……、この人らマジモンの化物かよおおおぉぉぉーーーっ!!??!」
など、様々な感想を思い思いの言葉で口にしていたそうだ
その後、戦治郎はいつも通りにシャワーを浴びて汗を流し、食堂でしっかりと朝食を摂り、発電機の改造を行う前に準備していた証拠が入ったアタッシュケースを手にすると、ペット衆と共に今朝方ベコベコに変形させた埠頭へと向かうのであった
因みにこのアタッシュケース、外はオベロニウム鋼で覆われ、内側はティルタニウム樹脂でコーティングされており、非常に強固な造りとなっている。又、その中に入れる証拠となる書類も、妖精さん達の手によってこれまたティルタニウム樹脂で1枚1枚コーティングされており、水濡れや文字かすれの心配も無くなっている
そして見送りに来た皆に挨拶を交わし、今から行くかと言うところで突然加賀から通信が入り、戦治郎達はここで緊急事態が発生した事を知るのであった……
「マジか……、日本にある日本海軍の拠点全ての艦娘達が、俺達を討ち取る為にこっち来てんのかよ……」
『全てではないわね、現に私達が所属する佐世保鎮守府は、この命令には従わないと、提督が先程決定したわ』
「ああ、おめぇらんとこの提督は、桂島泊地の実態に気付いてるからな……」
『他にも、桂島泊地と仲が悪かった岩川基地と、最近ちょっとした事故のせいで碌に機能しなくなった鹿屋基地も、この命令を無視すると思うわ』
「ちょっちその辺詳しく」
加賀とこの様なやり取りを交わしていた戦治郎が、岩川と鹿屋の事情を説明してもらえないかと加賀に頼んだところ、加賀は以前赤城から聞いた話をそのまま戦治郎に伝えるのだった
先ず岩川基地だが、桂島泊地が稼働し始めた頃に、岩川の提督が挨拶の為に桂島に向かったところ、自身に対して事務的な対応しかしなかった桂島の提督に怒りを覚え、岩川の提督は今後桂島がどんな事態に陥ろうとも、絶対に手を貸さない事を決意したのだとか……
そして鹿屋基地の方はと言うと、どうやらここはつい最近、1人の駆逐艦を提督の判断ミスで失ってしまったらしく、鹿屋の提督はそのショックから未だに立ち直れず、まともに指揮が出来る状態ではない為、鹿屋基地は現在絶賛開店休業中なのだとか……
『そういう訳で、九州圏を出るのは比較的容易に出来ると思うわ。ただ、そこから先が問題の様ね……』
「その先って言ったら……、呉か……」
『恐らく呉を中心に、佐伯湾、宿毛湾、柱島が手を組んで、大規模な艦隊をそちらに差し向けて来るんじゃないかと予想されるわ』
「あらやだめんどくちゃい……」
「それは厄介だな……、どうする戦治郎?ここはそちらに少し戦力を割くべきではないか?」
加賀とのやり取りの最中、戦治郎を心配した空がこの様な提案をするのだが……
「いんや、ここは作戦通り俺とペット衆だけで行くわ。最悪剛さん達の目を盗んで、ここに攻め込んで来る陸軍の兵達が出て来る可能性があるからな」
「そうか……、分かった。だが、無理だけはしてくれるなよ?」
戦治郎の言葉を聞いた空は素直にその決定に従い、戦治郎に向かってこの様な言葉を掛ける。それに対して戦治郎は、空に向かって笑顔を浮かべながらサムズアップをするのであった
『続き、いいかしら?』
「あっどぞ」
『それで話の続きなのだけど、どうやら呉鎮守府には佐世保から出向している艦娘がいるそうよ。これは私が赤城さんから聞いた話で、私自身はその艦娘と会った事はないのだけど……』
「何で呉に出向……?いや、今はそこ気にしてる場合じゃねぇや、んで、その艦娘って誰なんよ?」
『大和型戦艦2番艦の武蔵だそうよ、呉に出向するまでは、彼女が佐世保の最大戦力だったそうよ』
「ぶぼふっ!?武蔵だとっ!?」
空とのやり取りの直後、加賀が話の続きを話し始め、その内容を聞いた戦治郎は驚きの余り思わず吹き出し、戦治郎の口から武蔵と言う単語が出た瞬間、大和がピクリと反応する
『ええ、そちらにいる大和さんの姉妹艦である、あの武蔵よ』
「確かその武蔵って佐世保所属なんだろ?説得とかは……」
『無理でしょうね、現在の彼女の指揮権は呉側にある上に、説得する為の材料が無いわ。赤城さん曰く、彼女は非常に好戦的らしく、迂闊に海賊団の名前を出せば、喜び勇んでそちらに向かって行くと思うわ』
「oh……」
その後、戦治郎が貴重な情報と提供してくれた加賀に礼を言って通信を切ると……
「あの……、戦治郎さん……?」
これまでのやり取りを見守って来た大和が、戦治郎に駆け寄って話し掛ける
「……どしたよ?」
「その……、先程武蔵の名前が出て来ましたけど……」
「ああ、呉の艦隊の中にいるってさ」
「そう……、ですか……」
大和は戦治郎にこの様に尋ね、それに対して戦治郎がこう返答すると、大和はそう呟いて何か言いたげな表情を浮かべながら俯いてしまう。そんな大和の様子を見た戦治郎は、大和の頭に優しく手を乗せると……
「心配すんな、俺は横須賀に桂島の提督の悪事の証拠を届けに行くだけで、別に武蔵と戦いに行く訳じゃねぇんだ。仮にもし、武蔵と戦う事になったとしても沈める様な真似はしねぇし、身体の何処にも傷を付けるつもりもねぇ。だからそんな顔すんな」
そう言って大和の頭を撫で回し始め、戦治郎の言葉を聞いた大和は
「ありがとうございます……、武蔵の事、どうかお願いしますね……っ!」
「任せろっ!!!」
戦治郎に向かってこの様な事を言い、それを聞いた戦治郎は大和に向かってサムズアップをしながらそう返答するのであった
その後、戦治郎は皆に見送られながら桂島泊地を発ったのである
そんな戦治郎は今……
「艦載機キタ─wヘ√レvv~─wwヘ√レvv~─!!!」
『旦那達をやらせるかよぉっ!!!』
「皆っ!鷲四郎の援護をお願いっ!!」
「お前らも行って来いやっ!!!」
「甲三郎っ!!オラ達は可能な限り弾幕を展開するだぁよっ!!!」
呉の大連合の艦娘達が放った大量の艦載機達を相手に、航空戦を挑んでいたのであった
先ずは鷲四郎が先陣を切って相手の艦載機群に突撃し、それを援護する為に太郎丸と弥七が発艦した艦載機達と六助が後に続く。そしてその間を縫ってこちらに向かって来た艦載機は、戦治郎のヨイチさんと大五郎のグスタフドーラに装填された三式弾と、甲三郎の対空機銃によって形成された弾幕によって叩き落されるのであった
しかし、時間が経てば経つほど鷲四郎達の猛攻を掻い潜る艦載機が増えていき、艦載機達の攻撃から戦治郎達を守る為に、大五郎が戦治郎達を庇って被弾する回数が増えると言った具合に、戦治郎達側の状況は段々と悪化していくのであった
そんな中、自身が被弾する度に苦しそうな表情を浮かべる戦治郎を見た大五郎は
(この状況をひっくり返す様な力が欲しいだぁよ……、これ以上ご主人の苦しそうな表情を見るのは辛いんだぁよ……)
艦娘達が繰り出す艦載機から投下される爆弾をその身で受けながら、戦治郎をこれ以上苦しめない様にする為の力を、ただただ渇望するのであった……
そんな大五郎の切なる願いが神に届いたのか、大五郎がそう願った次の瞬間、大五郎の身体に変化が起こるのであった……