戦治郎達が呉大連合の相手をしている頃、和歌山県から南に50kmほど離れた海上には、京都府の舞鶴鎮守府から陸路で遥々やって来た雲龍、天城、羽黒、由良、大淀、大井の6名からなる舞鶴主力艦隊と、横須賀の陸奥、そして青森県にある大湊警備府から海路で大急ぎでやって来た、足柄が率いる大湊警備府の全艦娘100名が、横須賀鎮守府に向かって来ていると言われている深海棲艦を迎え撃つ為に、大規模な艦隊を展開していた
尤も、本当にその深海棲艦を迎撃しようと思っているのは、事情を知らない足柄達大湊の艦娘達と舞鶴の大淀と大井だけだったりするのだが……
「舞鶴と言い、横須賀と言い……、本当にたったそれだけの戦力で大丈夫なの?って言うか横須賀は陸奥だけ寄越すとか、正気なの?」
そんな足柄がたった6人しかいない舞鶴主力艦隊の旗艦を務める雲龍と、単騎でこの海域に姿を現した陸奥に対してそう尋ねると……
「多分何とかなるんじゃないかしら?雲龍もそう思ってるのよね?」
「大丈夫よ、問題ないわ。私達には秘策があるから」
陸奥と雲龍は平然とそう言ってのけるのであった
さて、ここで何故陸奥が単騎出撃しているのかについて触れておこうと思う
陸奥は例の通信を聞いた直後、スマホでムサシにワンコールを掛けた後、海賊団と関りが無い艦娘達全員を率いて、横須賀鎮守府を後にしたのである。そして彼女達が横須賀鎮守府からある程度離れたところで、桂島提督傘下の陸軍兵達が横須賀鎮守府に攻撃を開始したのであった
それから更にある程度航行したところで、艦隊の先頭を進んでいた陸奥は全員に停止する様に指示を出し、艦隊が完全に停止した事を確認すると自身に付いて来る艦娘達の方へ向き直り、長門達の話を盗聴して得た情報を、この事件の真実を彼女達に伝え始める
陸奥の話を聞いた艦娘達は大いに驚いた後、すぐさま横須賀鎮守府に戻るべきだと陸奥に進言するのだが、それに対して陸奥は横に首を振った後、この様に答えるのであった
「私達が今鎮守府に戻っても、足手まといにしかならないわ。仮に今から戻ったとして、私達に何が出来るの?私達艦娘は艤装と言う非常に強力な兵器を持っているけど、それは何に対抗する為の兵器か忘れた訳じゃないわよね?そんなものを只の人間である陸軍の兵に使ったら、演習用の模擬弾を使ったとしても致命傷は避けられないでしょ?それに相手は陸戦のエキスパート、そんな相手に今まで使った事も無い対人用兵器を持った私達が敵うと思う?」
陸奥の言葉を聞いた艦娘達は悔しそうな表情を浮かべながら押し黙り、その様子を見た陸奥は彼女達に父島にある拠点に向かい、事態が収束するまでそこで大人しくしている様にと指示を出し、彼女達がその言葉に従って動き出し、その姿が見えなくなった事を確認すると、陸奥はたった1人で、噂の海賊団のリーダーである戦治郎と直接話をする為に、目的地へと向かうのであった
時間は戻り、足柄達が先程のやり取りを交わしてからしばらく経過したところで
「そろそろね……」
雲龍がそう呟くなり艤装から何かを取り出し始め、それを見た天城、羽黒、由良の3人も雲龍同様行動を開始する。そして彼女達が『秘策』の準備を終えると、それを見た陸奥は口に手を当てて笑いを堪え始め、大淀、大井、そして足柄達大湊の艦娘達はただただ唖然とするのであった……
大五郎の活躍によって呉大連合を退けた戦治郎達が、横須賀鎮守府を目指して航行を再開し、和歌山県南部の海域に差し掛かったところで……
『なんだありゃ……?』
先行していた鷲四郎が何かを発見し、思わずそう呟くのだった
「どしたよどしたよ?」
『旦那……、なんか海上に検問があるんだが……』
「ごめん鷲四郎……、ちょっと何言ってるか分からない」
その後鷲四郎は、取り敢えず進行方向上にあるから、そのまま進んで実際見て欲しいと言うと、補給の為に戦治郎の腕に着艦してその姿を消してしまうのであった……
それから戦治郎は鷲四郎の言葉を信じ、それを確認する為にしばらく前進を続けると、戦治郎の視界に先程鷲四郎が言っていた検問が飛び込んでくるのであった……
その直後、辺りに突然ホイッスルの音が鳴り響き、それに驚いた戦治郎が音の発生源の方へ視線を向けると、そこには検問の右側に立ち、口にホイッスルを銜え戦治郎を検問の方へと誘導する様に、誘導棒を振る雲龍の姿が映るのであった
いや、雲龍だけではない、雲龍の反対側に立つ由良も雲龍同様誘導棒を振るって戦治郎を誘導し、その近くには船舶間での通信用の国際信号旗ではなく、何処から持って来たのか不明な一時停止の道路標識を手にした天城と羽黒の姿まであった。因みに、道路標識を持つ2人は余程恥ずかしいのか、その身を微かに震わせながら耳まで真っ赤になっていた
普通に考えれば有り得ないものを見た戦治郎は、1度目を閉じて目頭を揉み、再び目を開いてそれを視認すると……
「ったくよぉ……、そんな事されたら……、ノるしかねぇだろうがよおおおぉぉぉーーーっ!!!」
海上に浮かぶ検問を見て呆然とする太郎丸達を置き去りにし、そう叫びながら一直線に検問の方へと全力疾走するのであった……
そう、これこそが舞鶴主力艦隊の秘策……、『悪ふざけ』である……。彼女達はこうすれば戦治郎は間違いなく悪ノリし、ここで足を止めるだろうと確信していたのである
こうして雲龍達の策に嵌った戦治郎は彼女達のすぐ傍で停止し、それを確認した雲龍は戦治郎に向かってこの様に声を掛けるのであった
「すみません、この辺りで非常に危険な深海棲艦が出ると言う話を聞いて、怪しい深海棲艦がいないか調べる為に、こうして検問する事になったんです」
「あ、そうだったんですかっ!いや~、最近は本当に物騒ですからね~!」
「ええ、本当に……。っと、それはそうと、艤装使用免状はお持ちですよね?少々見せてもらってもいいですか?」
戦治郎と雲龍がこの様なやり取りを交わした直後、戦治郎は1度ビクリと身体を震わせた後、突然挙動不審になるのであった
「どうしました?」
「あの……、えっとぉ……、その……」
「まさか……、免状を持たずに艤装を使っていたのですか……?」
「あっあっあっ……、あの……、その……、すみません……」
2人がこの様な会話を交わした直後、雲龍の目つきが鋭くなり、戦治郎は慌てた様子で視線を右往左往させ始め、そんな2人の様子を眺めていた天城、羽黒、由良の3人が笑いを堪え始める。そして……
「ちょっと身分を証明するものを出してもらってもいいですか?」
「そ、その……、それも持ってないです……」
鋭い表情のまま戦治郎に身分証明書を掲示する様言って来る雲龍に対して、戦治郎がブルブルと震えながらそう答えた直後、天城達と陸奥が堪えられなくなってしまったのか、思わず噴き出してしまうのであった
「艤装の免状も身分証明書も、深海棲艦が持ってるわけないじゃない……」
「それよりも……、水鬼クラスの深海棲艦が怯えると言う絵面がシュール過ぎて……」
戦治郎達のやり取りを見て噴き出してしまった4人の内、陸奥と羽黒がこの様な感想を述べた直後……
「貴方達、何時までそのコントを続けるのかしら?」
戦治郎達のやり取りの途中で我に返った大井が、苛立ちながら戦治郎達にそう尋ねたところ……
「雲龍が満足するまでだなっ!」
「ならこの辺りにしておきましょう」
戦治郎が即答し、それを聞いた雲龍はこのコントをすぐに切り上げ、天城達と共に小道具の片付けを開始するのであった
「いや~、まさか雲龍達がこんな事するなんてな~……、おっちゃん完全に予想外だったわ~……」
「こうでもしないと、戦治郎さんを止められないと思ったのよ」
片付け中の雲龍に向かって戦治郎がそう尋ねたところ、雲龍は片付けの手を止める事無く返答し、片付けが完了すると戦治郎の方へと向き直り……
「改めて久しぶり、それで早速で悪いのだけれど、情報交換をしましょう?現状を分かっていない娘達に説明する意味も込めて……ね?」
戦治郎に向かってこの様な事を提案し、それを聞いた戦治郎は大きく頷いた後、置き去りにして来た太郎丸達がここに辿り着いたところで、簡単な自己紹介と足柄達への事情の説明も兼ねた情報交換を開始するのであった