「戦治郎……、何とかもってくれよ……っ!」
そう呟きながら、光太郎は先程胸を撃ち抜かれた戦治郎に治療を施すのだが、その表情には焦りの色が強く現れていた。恐らく、光太郎の治療は上手くいっていないのだろう……
「戦治郎……」
「ご主人様……」
その様子を心配そうに見つめていた長門と太郎丸が、思わず戦治郎の名を呟く……
現在、アルゴス号の中には負傷した戦治郎、そんな戦治郎に必死になって治療を施す光太郎、剛達と合流した際戦治郎を光太郎と共にアルゴス号に搬送した長門、先程からずっと戦治郎に付き添っている太郎丸、そして光太郎の治療を静かに見守っている剛と剣持とズインと弥七、そしてアルゴス号内を興味深そうに見て回る元帥が乗っていた
「……くそっ!やっぱり俺じゃダメなのか……っ?!俺じゃ戦治郎を助けられないのか……っ!?」
それからしばらくの間、懸命に戦治郎に治療を施している光太郎が、声を荒げながら心底悔しそうに声を上げる
「……諦めてたまるかよ……っ!俺はまだお前に嘘付いた事謝ってないんだ……っ!!その為にも俺は絶対諦めないからな……っ!!!」
心が折れそうになった光太郎が、そう言って奮起したその時である
「すみません、重篤な患者がいると聞いて来たのですが……」
何の前触れも無くアルゴス号に乗って来た男が、この様な事を尋ねて来るのであった。そんな彼を見て、この場にいる殆どの者が怪訝そうな顔をした時、不意に剣持が口を開く
「ようやく来たか、
「これでも急いで来た方ですよ?今外は大荒れですから……」
剣持の言葉に対して、矛崎と呼ばれた男はこの様に返答して見せるのであった
「刃衛、この方は?」
「申し遅れました、僕は軍医をやってる矛崎陸軍軍医少佐です。この戦いできっと負傷者が出るだろうなと思って部隊に付いて来たところ、剣持大将から大至急こちらに来る様に言われて来ました」
「こいつの腕は俺が保証する、だから戦治郎だったか……、そいつもきっと助かるはずだ」
福岡での戦いの後、アルゴス号の中で交流を深め互いに呼び捨てし合う仲になった剛が、剣持にこの男の素性を尋ねたところ、矛崎が自己紹介を行いそれに続く様にして剣持が言葉を口にする
「そう言う訳で後の事は僕が引き継ぎますので、皆さんは外の方をお願いします。何かこの人がやられた事が切っ掛けになって、艦娘達が皆ブチギレちゃってるみたいなんですよ……」
「分かりました……、では戦治郎の事、どうかよろしくお願いします……」
矛崎の言葉を聞いた光太郎は、そう言うと矛崎の方へと頭を下げて戦治郎の事を任せると、戦治郎から一向に離れようとしない太郎丸と陸軍兵達の攻撃目標である元帥を残してアルゴス号から降りるのであった
「戦治郎の弔い合戦だあああぁぁぁーーーっ!!!」
「待って飛龍っ!まだ戦治郎さんが死んだと決まってないからっ!」
アルゴス号の外では、戦治郎が撃たれた事を知った飛龍が怒り狂いながらそう叫んで弓を引き、それを聞いた蒼龍が飛龍の言葉を訂正しながらも、彼女同様艦載機を発艦する為に弓を引く
「飛龍、気持ちは分かるけど落ち着いて……。もし感情のままに艦載機を発艦して、操作を誤って相手を殺してしまったら、戦治郎さんに何と言うつもり……?」
「大丈夫っ!!私は冷静よっ!!!」
「それは本当に大丈夫なんですか……?」
そんな飛龍に対して、剛達のやり取りで戦治郎が倒れた事を知って急いで合流した雲龍が、飛龍を宥めようとこの様な言葉を口にし、それに対しての飛龍の返答を聞いた翔鶴が、噴式戦闘爆撃機である橘花改の発艦準備をしながら、思わずそう呟いてしまう
先程矛崎が外は大荒れと言っていたが、その原因は戦治郎が撃たれた事で陸軍兵達に対して怒りを覚えた艦娘達が、感情のままに攻撃を再開したからである
これにより陸軍兵達に多くの負傷者が出てしまうのだが、それでも彼等は元帥を討たんと攻撃を続けるのであった
何故彼等はそこまでして元帥を討ち、横須賀を陥落させようとするのか……、その全ての原因は彼等が桂島の提督が既に拘束されている事実を知らず、元帥を討てば多大な報酬を貰えると未だに思い込んでいるからである……
こうして戦治郎の仇を討たんと躍起になる艦娘達と、己の欲望を満たす為に戦い続ける陸軍兵達が激しくぶつかり合うのだが、ここに来てようやく大きな変化が訪れる。そう、アルゴス号に乗っていたメンバーが、アルゴス号から降りて来たのである
「中々派手にやっているじゃないか……」
「剣持大将っ!?何故貴方がここにっ?!」
現状を見て剣持がそう呟いたところ、彼の元部下であった足柄がその声に即座に反応し、驚愕しながらこの様に尋ねる
「何、俺は欲の皮を突っ張った逆賊共を、この手で討ち取りに来ただけだ……」
「そうだったんですね……」
足柄に質問された剣持がこの様に返答すると、足柄は苦笑しながらこの様に返事をするのであった。そして……
「聞けぇっ!!!逆賊共ぉっ!!!」
足柄とのやり取りを終えた剣持が、突如途轍もない声量で叫び始める。そしてそれを聞いた者達全てが、突然の出来事に驚き攻撃の手を止めて声の発生源に目を向ける。そしてそこに剣持がいる事に気付いた陸軍兵達の顔色が、皆一斉に真っ青になるのであった
それも当然の事だろう、彼等の所属は陸軍である為、軍神と呼ばれ畏怖される剣持の名前と顔は、本当に広く知れ渡っているのである。そんな彼が相手陣営にいる、つまり自分達の敵として立ち塞がっている……。その事実に気付いてしまえば、彼を知る者達が顔面蒼白になってしまうのは、本当に仕方が無い事なのである……
「貴様らが何の為に戦っているのかは知らんがっ!!!これ以上貴様らが戦い続ける意味は皆無だっ!!!何故なら貴様らが支持する桂島の提督はっ!!!全ての罪を白日の下に晒されっ!!!既に海軍の手に依って拘束されているからだっ!!!!!」
剣持がこの発言をした直後、この場は静寂に包まれ……
\う、うわあああぁぁぁーーーっ!!!/
それからしばらく時間が経過したところで、我に返った陸軍兵達が一斉に武器を捨てて逃走を開始した。これ以上頑張っても得るものが無い上に、陸軍で最も恐れられる存在が敵にいる。その事実を理解した途端、陸軍兵達は己の命を守る為に逃走する事を選択したのである……
「逃がすかっ!!!」
「貴様らだけは許さねぇぞっ!!!閃転っ!!!」
「大人しく法の裁きを受けてもらおうっ!!!」
その光景を目にした剣持、シャイニング・セイヴァーに変身した光太郎、そしてズインがそれぞれ声を上げ、こちらに背を向け逃走し始めた陸軍兵達に突撃を仕掛け……
「俺達も追撃すんぞっ!!!一人残らずとっ捕まえろっ!!!」
\了解っ!!!/
その様子を見た燎が艦娘達に指示を出し、艦娘達は一際大きな声を張り上げて返答すると、全ての陸軍兵達を拘束せんとばかりに、剣持達に続く様にして追撃を開始するのであった
因みに、光太郎の変身を目の当たりにしたズインことムサシは……
(あちょっ!?僕なんかよりよっぽどヒーローっぽい姿に変身しちゃったよこの人っ!!?しかも変身ポーズに掛け声付きっ?!!なんかカッコイイんですけどぉっ!?!)
内心で思わず驚きの声を上げ、羨望の眼差しを光太郎に送るのであった……
その後、横須賀鎮守府を襲撃した陸軍兵達は全て拘束され、先の未来に大きな影響を及ぼす事となる横須賀の乱は、こうして幕を閉じるのであった……
それからしばらく経ったところで、剣持の通信機から矛崎の声が聞こえて来る
「胸を撃たれた戦治郎さんですが、無事一命を取り留める事に成功しました」
剣持がこの事をこの場にいる者達全員に伝えると、直後に更地となった横須賀鎮守府内に大きな歓声が響き渡るのであった