横須賀の乱の際に撃たれた戦治郎の治療や、横須賀鎮守府の復旧作業の為に横須賀に行っていた輝達が、長門達を連れて桂島泊地に戻って来たところから、更に時間を遡って戦治郎がペット衆と共に桂島泊地の提督の悪事の証拠を持って桂島を発った後の事である
この日特に予定が無かった輝は、泊地にいる間寝泊りする為に貸し与えられている部屋で、一人で酒をかっ喰らっていたのだが、その最中に突然悟から医務室に来る様にと呼び出しされたのであった
それから輝はその呼び出しに何の疑問も抱かずに応じて一人医務室へと足を運び、ノックも無しに医務室へ入室し……
「悟ー!!一体何の用じゃいっ!!!」
医務室の中にいる悟に向かって大声で尋ね……
「医務室ででけぇ声出してんじゃねぇぞぉ、このばぁたれぇ」
悟からこの様な言葉をぶつけられるのであった
「すまんすまん、んで?俺に何の用だ?」
「お前に用があんのは俺じゃねぇんだよなぁ」
輝が悟に謝罪した後改めて用件を尋ねると、悟はこの様に返答してある方向に親指を向ける。その様子を見ていた輝が、怪訝そうな表情を浮かべながら悟が親指で指し示す方向へ視線を向けると、そこには何らかの原因で負傷した艦娘と、その艦娘の付き添いとして医務室に来ていると思わしき艦娘、そして負傷した艦娘に治療を施す望の姿が映るのであった
「ん?望ちゃんが呼んだのか?」
「阿呆ぅ、艦娘の方に決まってんだろうがよぉ」
全く見当違いな事を言う輝に対して悟がツッコミを入れたところで、艦娘の治療をしていた望が輝の存在に気付き、軽く挨拶を交わした後に輝に対して事情を説明し始めるのであった
「その子が艦娘寮の床を踏み抜いてしまって、その拍子に負傷した……、か……」
「はい……、幸い怪我は軽いものだったのですが……」
「もしかしたら他の床も腐っちまっててよぉ、誰かが同じ様に踏み抜いて怪我しちまうかもって、そいつらが心配してやがんだわぁ」
「それで俺を呼んだ訳だな、OK分かった!んじゃあ早速その現場を見に行くとしますかっ!!!って事で案内頼むわっ!!!」
事情を聞いた輝が呟き、それを聞いた望が返答しているところで悟が言葉を続け、それを聞いた輝はこの様に返答した後、治療を終えた艦娘達に案内されながら艦娘寮に向かうのであった
(おいおいおい……、こりゃ何の冗談だ……?)
艦娘達に案内されて踏み入った艦娘寮の中の様子を見た輝は、思わず絶句し内心でこう呟く……
輝は艦娘寮の外装を見た時、中々手入れが行き届いていると感心していたのだが、肝心な中の方はそれとは全く正反対、冗談でも手入れが行き届いてるとは言えない様な状況になっていたのである
床は先程医務室にいた艦娘が踏み抜いた場所以外にも、腐ってしまってちょっと乗っただけで抜けてしまいそうな所が至る所に存在し、床や窓には大量の埃が溜まっており、天井のあちこちに蜘蛛の巣が張られ、建物を支える柱もその殆どがボロボロになっており、扉や窓の立て付けが悪くなってしまっているのか、所々半開きになっている扉や窓も見受けられたのであった……
この惨状を目にした輝はすぐさま艦娘達に質問を繰り返し、寮内がこんな酷い状況になってしまった原因を探り始めた結果、大体の原因が提督にあり、そこから悪い事が連鎖してしまい、寮内がこの様な状況になってしまった事が判明するのであった
具体的に言えば、提督に扉や窓や床の修繕を依頼しても相手にもしてもらえず、腐った床を踏み抜いてしまえば罰を与えられてしまう可能性を艦娘達が恐れていた事と、誰もが忙しなく動くシフトになっている為に寮内を掃除する者がいなかった事が重なって寮内の掃除が滞り、寮内が蜘蛛の巣塗れの埃塗れになってしまったのである。そして今もこの状況が続いているのは、多分すぐに抜ける床が恐ろしい上に、穴が開いた床を修繕出来る者が今までいなかった……、故に誰も掃除しようとしないのではないか……?輝はそう考えるのであった
因みに何故外装だけが修繕されていたのかに関してだが、恐らくこれは訪問者対策の一環として、外観だけでも良く見せようとしたからではないかと輝は予想している
(よくねぇなぁ……、こいつぁマジでよくねぇなぁ……)
輝が内心でそう呟きながら頭を振ると、艦娘達はそんな輝の姿を不思議そうに見つめ、それに気付いた輝は座り込む様にして艦娘達に目線を合わせて……
「この件、全部俺に任せてくれないか?ぜってぇ悪い様にはしねぇから、な?」
艦娘達に向かって、こう言い放つのであった。それを聞いた艦娘達は戸惑いながらもコクリと頷いて見せ、それを確認した輝は艦娘達に頷き返した後に静かに立ち上がると、寮から出て通信機を操作し始め……
「藤吉いいいぃぃぃーーーっ!!!司あああぁぁぁーーーっ!!!仕事だあああぁぁぁーーーっ!!!」
通信機のマイクに向かって、思いっきり絶叫するのであった
『ちょっとちょっとぉっ!?何で俺様までっ?!』
「お前は別件っ!あれだほらっ!羽毛布団っ!!司は今から超特急で羽毛布団を泊地の艦娘の数だけ作れっ!!!」
『うわぁ……、とんでもねぇ無茶振りッスね……』
通信を聞いた司が輝にそう尋ねると輝はこの様に返答し、それを聞いていた護が思わず横から口を挟む。すると……
「おっ!護かっ!お前にも用事あんだわっ!!お前は大至急CADが入ったパソコン持ってこいっ!!」
輝のこの言葉を聞いた瞬間、長門屋のメンバー全員に電流が走る……っ!
『輝さんが……、CADを使う……、だと……?』
『輝の奴……、どうやら本気の様だな……、一体何があった……?』
『なぁシゲ、CADって何だ?』
戦慄するシゲと空が緊張感が漂う声でこの様な事を言ったところで、これまでの話を聞いていた摩耶がCADについて質問するのであった
その後、輝がCADとは何かについて説明し、それが終わると空達に事情を説明し始め……
「……っとまあこんな感じで、あの艦娘寮を修繕するより新しく建てた方が早いし安全、そう思ったから今から艦娘寮建てようと思ってるんだわっ!!!」
『その為だけにお前がCADまで持ち出すとは思えん……、一体何を企んでいるんだ……?』
「相変わらず空は勘がいいなっ!まあそれはCADが届いてからだなっ!!」
「何かめっちゃ面白そうッスから急いで仕上げて来たッスッ!!!」
その最中、輝は空とこの様なやり取りを交わし、直後にノートパソコンを持って来た護からCADが入ったノートパソコンを受け取り、早速CADを使って建物の設計を開始するのであった……
それからしばらく経ったところで、隣で捧腹絶倒する護を放置しながら輝が通信機に向かって話し始める
「何か色々いじってたら人手が欲しくなったっ!!って事で暇な奴や俺がやろうとしてる事に興味ある奴、作業服来て東の浜辺に集合なっ!!!」「あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!」
『何故護は爆笑してるのでしょうか……?』
「分からんっ!!俺がCADで設計図作ってたら突然笑い出しやがったっ!!!」「これは!これはヒデェッスッ!!!おっひょっひょっひょっひょっひょっひょっ!!!」
『護は一体何を見たんだ……?』
『こんなん絶対気になるやろ……』
通と輝のやり取りを聞いていた木曾と龍驤は、思わずそう呟くのであった……
その後、鳳翔と共に皆の食事を準備する翔と龍鳳、そして言われた通り羽毛布団を量産する司、医務室で龍田のカウンセリングを行っている悟を除く海賊団のメンバーが、作業ツナギに着替えて輝が指定した場所に集まり、輝はその面子を確認し終えると大声でこの様な言葉を口にする
「今から艦娘寮と言う名のリゾートホテル建てるぞっ!!そしてそれを足掛かりにして泊地を遊園地に改装しっ!!!最終的にはこの桂島全体を巨大な遊園地に大改造してっ!!!!泊地の艦娘達の辛そうな表情を吹き飛ばしっ!!!!嫌な思い出の数々を楽しい思い出で叩き潰すぞっ!!!!!」
その言葉を聞いた誰もが愕然とし、その傍らでは相変わらず護が爆笑していた……
「何でそんな発想に至ったんですかね……?」
我に返ったシゲが、輝にそう尋ねると……
「いやな、今日ここの艦娘寮の中見たってのは言ったよな?そこ入った瞬間案内してくれた艦娘達の表情が、急に暗くなっちまったんだわ。それ見て思ったんだわ、多分この子らはこの内装見て、辛かった事とか苦しかった事思い出してんだろうな~ってな。だからその嫌な思い出をぶっ潰してやりてぇなって、俺はそう思った訳よっ!!!」
「だったらそのリゾートホテルだけ作ればいいんじゃない?」
輝の返答を聞いた陽炎が、思った事を口にしたところ
「ばっかお前、それだけで嫌な思い出が潰せると思うなよ?例えば部屋で独りになった時、不意に思い出したりするかもだろ?俺はそこから叩き潰そうと考えてるんだっ!!そんでそれが可能な楽しい思い出が作れそうなものと言えば、やっぱでっけぇ遊園地だろうがよっ!!!そんでそこで仲間達と一緒に全力で騒げば、きっといい思い出になるはずだろうがよっ!!!実際俺がそうだったしっ!!!」
「理屈は何となく分かるけど……、本当に大丈夫なのかな……?」
「何かすっごく面白そうっぽい!」
「確かに、遊園地を自分達で作るってのは面白そうだなっ!」
輝はこの様に返答し、それを聞いた時雨、夕立、江風が思い思いの言葉を口にし、これ以上何を言っても輝は意見を曲げないだろうと思った一同は、輝から設計図を見せてもらった後、早速行動を開始するのであった
因みに工事が始まってしばらくしたところで、慌てた様子で大和達が現場に姿を現し、ここで輝が無許可で工事をしている事が発覚するも、輝の熱意に負けた大和達は戸惑いながらも工事の許可を出すのであった……
この時は誰もが予想だにしなかった事であろう……、後に『艦娘ランド』となるこの遊園地が、後に長門屋鎮守府と大日本帝国海軍の財政を支える柱になるとは、きっと夢にも思っていなかった事だろう……