シゲがクトゥグアが放つ超巨大火球を受け止めようと、両腕を大きく広げる姿を見たクトゥグアは、内心で大きな溜息を吐きながら、シゲから視線を外すのであった
(あいつ……、まさかあの火球を受け止めて時間まで耐え凌ぐつもりなのか……?もしそれが本当だったら、とんだ大馬鹿野郎だな……)
シゲが炎と熱を操れると聞いた時、クトゥグアは多少ではあるがシゲに対して興味を抱いたのである。そんなシゲが自分相手にどれだけ粘れるか、自分との戦いの中でどんな事をしでかしてくれるのか、クトゥグアはそんな期待を胸にシゲにこの勝負を持ち掛けたのである
しかしいざ実際に戦ってみれば、シゲはこれまで自分と戦った者達同様只々自分の攻撃から逃げ惑い、最後は無謀としか言い様の無い行動に走ろうとしているのである……
クトゥグアは何故シゲの行動を無謀と言い切ったのか……、それはあの火球がシゲ同様炎や熱に対して耐性を持つ者を、真正面から押し潰す為だけに使用される、クトゥグアのとっておき中のとっておきの火球だからである
あの火球の表面で燃え盛る炎は、実は火球が持つエネルギーを外部に放出しない様にする為のシールドの様な物であり、その炎に包まれている為実際に目にする事は出来ないが、本体は真っ青な光を放つ超高エネルギーの塊なのである
そのエネルギー体が放つ熱が一体どれ程の物かと言うと、とても信じ難いものだが約1溝4100穣℃と、天文学的な数字となっているのである。これを数字で表記すると……
約1.41×10^32℃=約141000000000000000000000000000000℃である
これがクトゥグアが操れる温度の上限であり、温度が温度と見なされる限界ギリギリの値なのである
もしクトゥグアがこれを超える温度を操ろうとすると、途端に火球はクトゥグアの制御下から離れて暴走し、火球はクーゲルブリッツと言うブラックホールへと姿を変えてしまうのだとか……
尤も、このエネルギー体を包む炎も、本体程ではないがかなりの熱を持っており、その温度は兆を超え、京を超え、5垓℃にも上ると言う……
これ程の温度を持つこの火球ならば、ゴムが絶縁破壊を起こす様に火球の温度が耐性の上限を突き破り、炎や熱に耐性を持つ者すらも焼き尽くしてしまえるのである
因みにこの火球、破られた事は3回ほどあったりする……
1度目は若い頃にチームを結成して粋がったクトゥグアが、有ろう事かアザトースの居住区にカチコミを仕掛け、鎮圧の為に出向いたヨグ=ソトースに火球を一刀両断された時
2度目はヨグ=ソトースに報復しようとした際、偶々遭遇したアザトース配下のネームレス・ミストに火球の当たり判定を潰され、幾ら火球をぶつけようとしても、火球が対象を通り抜けてしまう様にされてしまった時
3度目はクトゥグアのチームを潰しに来たアザトース配下のダークネスに、放った火球を悉く闇に葬り去られてしまった時である
また、実際にやりあった訳ではないが、ヨグ=ソトース達の主であるアザトースや、ヨグ=ソトースと同等の力を持つと言われているティンダロスの王であるミゼーアにも、これまでの経験からこの火球は通用しないだろうとクトゥグアは推測しているとかなんとか……
この火球はヨグクラスの実力がある存在くらいしか捌けない……、そう思っていたからこそ、クトゥグアはシゲの行動を無謀と言い切ったのである
しかし……
(……?)
いつまで経ってもエネルギー体が相手にヒットした際に発生する爆発が起こらない……、その事を不思議に思いながらクトゥグアがシゲの方へ視線を向けると……
「ふんぐおおおぉぉぉーーーっ!!!」
そこには気合いの叫びを上げながら、火球をしっかりと両手で掴んで耐え凌ぐシゲの姿が映るのであった……
(なん……だと……っ!?)
これには流石のクトゥグアも、驚きを禁じ得なかった……。何せシゲは神格でもなんでもない、少し変わったところがあるとは言え、只の地球の生命体なのである。それが自身のとっておきの攻撃に耐えている……、これはクトゥグアの中では有り得ない事なのである……
(まさか……、あいつは俺のとっておきに耐えられる程の耐性を持っているとでも言うのか……っ!?)
そう思って動揺するクトゥグアが、必死の形相で火球を受け止めるシゲをよく観察すると、シゲの両腕は火球の熱によって既に骨の髄まで炭化している事実に気付く。いや、両腕だけではない……、シゲの身体の至る所にも炭化した部分や、水膨れが発生している部分が存在している……
(耐性じゃない……っ?!なら一体どう言う事だ……っ!?あいつは何故俺の火球に耐えていられるんだ……っ!?!)
クトゥグアが内心で激しく動揺していると、突然シゲがとんでもない声量で咆哮を上げる……
「こんなとこでっ!!俺は負けられねぇんだよおおおぉぉぉーーーっ!!!絶対に復活してっ!!!皆のとこ戻るんだあああぁぁぁーーーっ!!!!!」
炭化した箇所を増やしながら咆哮するシゲを見て、クトゥグアは思わず戦慄しその身を1度だけブルリと震わせる……
「あいつ……、まさか気合いと意地、それと根性だけでアレに耐えてるって言うのかよ……」
そう呟くクトゥグアの表情は、恐怖で引き攣るどころか、満面の笑みであった……
「最初両腕広げてるとこ見た時は、とんでもねぇ大馬鹿だと思ったが……、まさかまさかの常識が通用しねぇ神話級の超大馬鹿だったのかよ……。これはちょっとあいつに対しての認識改めねぇとだな……、って……っ!?」
クトゥグアはここまで独り言ちたところで、ある事に気付いて更に驚愕の色を濃いものへと変化させる……
クトゥグアが気付いた事、それはシゲの身体が青白く輝き、何と現在その腕で掴んでいる火球から、エネルギーを吸収している事だった……
シゲがこれを意識してやっているのか……、無意識の内に実行しているのか……、それはクトゥグアには分からない……。だが……
(ここまで来ると、もう笑いしか出ねぇわっ!!!あいつマジで面白過ぎだろっ!!!)
内心でこう呟くクトゥグアは、もうシゲから目を離せなくなってしまっていた……。クトゥグアはシゲの一挙手一投足が気になって気になって仕方が無くなってしまったのである……
(次は何をして俺を驚かせてくれるんだ?どんな非常識を見せてくれるんだ?ダメだ、こいつに対しての興味がガンガン湧いて来やがる……っ!こいつの事もっと見ていたい……、いや……、こいつが欲しい……っ!!!欲しくて欲しくて仕方が無いっ!!!こいつと俺が組めば、ヨグさんどころかアザトースも倒せるっ!!!そう思えて来ちまいやがるっ!!!!!)
クトゥグアが頭の中でエキサイトしている中、最早腕以外の全身が表面だけ炭化したシゲは……
「ずぇらっしゃあああぁぁぁーーーっ!!!」
自身を奮い立たせる為に更に気合いの咆哮を上げ、迫り来る火球を押し戻そうと完全に炭化して感覚が無くなった腕に力を込めた気分になる
(正直、声張り上げてねぇと意識が飛んじまいそうなんだよな……、そうなると確実に俺はこの火球に押し潰される……っ!!それだけは何とか避けねぇと……っ!!!ったく、後どんだけこのままでいたらいいんだよ……っ!!!)
シゲが頭の中でそう呟いた直後、突然自身を焼き尽くそうを迫って来ていた火球が消失してしまう……。そう、戦闘開始から5分が経過したのである……
こうしてクトゥグアとシゲの戦いは、シゲの勝利と言う形で幕を閉じるのであった……