神話生物が憲兵になると言う前代未聞の決定が成された雑談会の翌日、スーツの上から外套を羽織った剣持は、手にしたメモから視線を外して目の前の建物に目を向けると
「ここか……」
そう呟きながら目の前の建物、横須賀市内にある一人暮らし用アパートの敷地内に入り、目的の人物の部屋へと足を運ぶのであった
そして目的の部屋に剣持が近づいたところで、不意にその部屋の扉が開いて中から鶴田 ムサシが姿を現す。そして何処かへ出かけようとしていた彼は扉に鍵を掛け、移動を開始しようとしたところで彼の進行方向にいた剣持と目が合うと……
「うぎょっ!?」
驚きの声を上げながら目を見開いて硬直し、それからしばらくして硬直が解けたムサシは、ダラダラと脂汗をかきながらそれはそれは見事なムーンウォークで後退すると、先程鍵を掛けた扉の鍵を開けるなり、大急ぎで部屋の中に入って再度中から鍵を掛けるのであった……
そう、この日剣持は鶴田 ムサシと接触し、ある提案をする為にこの場所に来たのである
因みに剣持が手にしていたメモは、彼の部下である盾井中佐が情報をかき集めて入手した、ムサシの住所が書き記されたものである
そんな盾井中佐は、現在対戦型ネットゲームでマッチングした『ライトニングボルトペンギン』、そして『I.O.D.』なる人物達と、ゲーム内で激闘を繰り広げていた……
「……」
その様子を無言で見守っていた剣持は、無言のままムサシの部屋の扉の前に立ち、4回ほど扉にノックをするのだが、ムサシからの返事は返って来なかった……
「いるのは分かっている、大人しく出て来い」
そう言って再び4回ノックをしても、部屋に閉じこもったムサシは全く反応しなかった……
「こうなれば……、強行突破しかないな……」
ムサシの態度に遂に業を煮やした剣持が、そう呟くなり突然着ている外套を翻すと、そこには彼のトレードマークとも言えるであろう、妖精さん達が鍛えた太刀が佩かれており、彼はそれを抜いて扉に斬りかかろうとするのであった……
「待って下さいっ!それだけは本当に勘弁して下さいっ!!!」
そんな剣持の様子を、扉に付いている魚眼レンズから見ていたムサシは、大慌てしながら扉を開いて剣持に懇願するのであった
その後、剣持は太刀を鞘に収めるなりムサシの部屋へ上がり込み、勝手に部屋の中央にあった折り畳み式のテーブルに着き、ムサシはそんな剣持に冷蔵庫から取り出したペットボトルのお茶を出すと、特に言われた訳でも無いにも関わらず、彼の対面に腰を下ろすのであった
「まあ……、男の一人暮らしだからな……」
目の前に出されたペットボトルのお茶を目にした剣持が、この様な事を呟きながら出されたお茶を飲み始めると……
「あの、陸軍の方が僕に一体何の用があるんですか……?」
恐る恐ると言った様子で、ムサシは剣持に対して彼の訪問理由を尋ねるのであった
「俺は何時、お前に身分を明かした……?」
その直後、剣持は鋭い目つきでムサシを見据え、その反応を見たムサシは剣持の言葉を内心で反芻した後、自分が失言した事に気付くなり大量の脂汗をかき始めるのであった
そう、ムサシが剣持と知り合った時、彼はその正体を隠す為に怪傑ズインに変装していた為、ムサシとして剣持と話すのはこれが初めてなのである。加えて、現在の剣持は外套を羽織って太刀を佩いているものの、それ以外は至って普通のスーツ姿である為、見た目から素人が剣持が陸軍の人間であると判断する事は、本来かなり難しいはずなのである
なのにムサシは剣持を一目で陸軍の人間であると言い当てたのである、普通なら剣持に怪しまれてしまっても仕方が無い事を、このムサシはやってしまったのである
「よくそれで今まで正体を隠し通す事が出来たな……」
見て分かるレベルで動揺し始めたムサシを見て、剣持はこの様に呟きながらその表情をいつものものへと戻すのであった
「しょ、正体って……、何の事でしょうか……?」
まるで機械の様な動作で剣持から顔を背けたムサシが、動揺全開で剣持に対してこの様に尋ねると……
「お前が怪傑ズインである事は分かっている、お前には言っていなかったが俺の身体は妖精に頼んでサイボーグ化してもらっているのでな、眼球があった場所にはアイカメラが取り付けられ、耳の中には耳にした音声を即座に録音出来る装置が埋め込まれている。そして、そうして集めたお前の情報を部下の下にリアルタイムで送って、部下が解析したデータをあらゆる情報と照らし合わせ、お前がズインである事と此処の住所を特定したんだ」
剣持はこの様に答えながら立ち上がり、ズインスーツが収納されているクローゼットの方へと歩いて行き、ムサシの目の前でクローゼットを勢いよく開け放って、ズインスーツを白日の下へと晒して見せるのであった
「マジですか……、陸軍すげぇ……」
剣持の行動を見守っていたムサシは、剣持に自分がズインである事がバレていると知ると、ガックリと肩を落としながらそう呟くのであった
そんなムサシの様子を見ていた剣持は、身体ごと彼の方へと向き直ると、彼の事をしっかりと、真っ直ぐ見据えながらこう言い放つのであった
「今回、俺がお前の所に来たのは他でもない、お前を……、横須賀の英雄である怪傑ズインを、陸軍の一員として迎え入れたいと思ったからだ」
「やはりそうですか……」
剣持の言葉を聞いたムサシは、力なくそう答えるのであった……
ムサシが剣持の発言に対して、この様な反応をしたのには理由がある。麻薬カルテルによる警視庁襲撃事件を切っ掛けにズインが警察と和解した後、陸軍の上層部はそんなズインの力を私利私欲の為に欲し、彼を捕まえようと執拗なまでに追いかけ回していたのである
それにより、ムサシは陸軍に対して多少悪感情を持っていたのである……
「今回の戦いで俺はお前の実力を目の当たりにし、大切なものを守りたいと言う気持ちをしっかりと感じる事が出来た。そんなお前の力を、今の陸軍は必要としているんだ」
「止めて下さい……、あの時はある人に頼まれたから戦っただけなんです……。今の僕は只の無職の変な奴なんです……」
「そんなに自分を卑下するな、俺はお前の心も実力も評価している。現元帥陸軍大将のこの俺が、お前の力を必要としているんだ、頼む……、俺達に力を貸してくれ……っ!」
このやり取りの直後、突然剣持はムサシに土下座して懇願し始めるのであった……
「ちょっ!?止めて下さいっ!!貴方程の人が、俺なんかに土下座なんてしないで下さいってっ!!!」
そんな剣持の姿を目の当たりにしたムサシは、大慌てしながら剣持に顔を上げさせようとするのだが、どれだけムサシが腕に力を込めても、剣持の顔を上げさせる事は出来なかったのであった……
「この混沌とした日本を……、いや……、世界を救う為には、どうしてもお前の力が必要なんだ……っ!」
そう言いながら土下座を続ける剣持の姿を見て、ムサシは本当に剣持が自分の事を評価し、その力を必要としている事を感じ取るのであった
(こんな事を本気でやられたら……、応えない訳にはいかないじゃないか……っ!)
ムサシは内心でこの様に呟く……、いや、自分自身に対して言い訳するのであった
正直なところ、ムサシは剣持が土下座をする直前に発した言葉を聞き、彼の目を見た瞬間、この人なら信用してもいいんじゃないかと思ったのである
そして自分自身に言い訳した理由、それは横須賀の乱に参戦している間、彼の心は誰かを、何かを守る為に戦っている事を実感すると、かつてない程に高鳴っていたのである
その事を思い出したムサシは、立場こそ変わるものの平和の為に戦えるならと言う事で、今も尚土下座する剣持に対して陸軍に入隊する事を伝え、ようやく彼の顔を上げさせる事に成功するのであった
こうして、ヴォルヴァドスに続いて怪傑ズインこと鶴田 ムサシも陸軍入りを果たし、この1人と1柱は後に戦治郎達が設計、建設し着任する長門屋鎮守府に着任する事となるのであった
余談ではあるが、この日ムサシが何処に行こうとしていたかについてだが、彼は横須賀の乱の時に大破させてしまった、陸奥からプレゼントされたバイクをどうにかする為の資金を稼ぐ為の仕事を探す為に、ハローワークに向かおうとしていたのだとか……
操作ミスで1度途中まで書いた奴を上げてしまいました……
この場を借りて深くお詫び申し上げます、誠に申し訳御座いませんでした……