お互いに本名を知らないまま、辛くも防人を打ち破ったシゲは父島に到着し、上陸した島の光景を目の当たりにするなり思わず絶句する……
シゲが上陸した砂浜のあちらこちらに夥しい量の血溜まりが出来ており、それはこの島に住む者達が集まる集落までの道や、集落の中にまで散見されるのであった
そしてこの惨状を更に強調する様に、集落にある建物は悉く、文字通り粉々に破壊され、そこに建物があった事実を、建物の土台と土台の上に僅かに残った瓦礫が静かに物語っていた……
建物の被害はこれだけに留まらず、農家の畑にまで及んでいた。作物が育てられていたであろう畑は、暴力的な力か何かによってグチャグチャに荒らされ、畑で作られていた作物達も無残な姿を白日の下に晒していた……
更にこの凄惨な光景を彩るのは、集落の中に足だけになって転がっていた犬や猫の亡骸や、島にあった酪農家の家と思わしき建物の敷地内に転がっていた、上半身や下半身が無くなっている家畜の亡骸である……
「まさか一般人だけでなく、犬猫や家畜、それに畑の植物までもがあいつの攻撃対象なのかよ……、こりゃもう狂ってるってレベルの問題じゃねぇぞあいつ……」
戦いの中で聞いた防人の言葉を思い出し、これを全て防人がやったと想像したシゲは、思わずその身を震わせながらそう呟くのであった……
「おーいっ!シゲーッ!」
シゲが集落の中でそんな事を考えていると、不意に誰かが大声で自分に呼び掛けて来て、シゲがその声に反応してそちらに視線を向けたところ、自分に向かって手を振りながら駆け寄って来る飛龍の姿があった。相方の蒼龍がいないのは、如何やら先に父島に到着した光太郎達が、要救助者を探す為に手分けして行動する様に指示したからの様である
「やっとこっちに来れた……、って、うげっ!?ちょっとシゲッ?!全身ボロボロじゃないのっ!?貴方大丈夫なのっ!!?」
シゲの下に辿り着いた飛龍は、改めてシゲの姿を見た瞬間、ギョッとするなり慌てた様子で彼の身を案じ始めるのであった。突然どうしたのか?そう思ったシゲが自分の身体に目を向けると、そこには防人との戦いで大小様々な裂傷を負ってしまった自分の身体が映るのであった。シゲはそれを見た瞬間……
(ああ……、確かにこりゃ心配されるわな……)
思わず内心でそう呟き、苦笑するのであった
その後、シゲが自分は大丈夫であると告げて何とか飛龍を落ち着かせたところで、光太郎から浜辺に集合しようと言う連絡が入り、それを聞いたシゲと飛龍は共に光太郎達が待っているであろう浜辺へ向かうのであった
「シゲッ!?無事だったのかっ!?」
「ええ何とか……、か~な~り手こずりましたが、あいつを素粒子レベルまで分解して、宇宙の彼方に放り出してやりましたよ。恐らくこれであいつの顔は見なくて済むでしょう……、多分……」
「そこまでしても不安が残るとは……、いや、まあ気持ちは何となく分かるが……」
「その前に、そんな事が出来るシゲが少し怖いんだけど……?」
集合場所である浜辺で光太郎達と合流したところ、真っ先にシゲの姿を発見したヴェルが無言でシゲに飛びつき、それによってシゲの存在にに気付いた光太郎がこの様に尋ね、シゲが少々表情を引き攣らせながらこの様に返答したところ、話を聞いていた長門が思わずこの様にコメントし、続いてシゲの言葉を聞いた蒼龍が、この様な事を口にするのであった
その後、シゲはこの惨状を作り出した犯人が、先程遭遇した防人であった事を光太郎に伝え、その事実を知った光太郎達は、苦々しい表情を浮かべながら沈黙してしまうのであった……
「それで光太郎さん、島の人達の事なんですが……」
そんな中、シゲが自分にしがみついたヴェルを落ち着かせながら、光太郎に向かってそう尋ねたところ
「如何やら島の住民は全滅みたいだ……、俺達も懸命に捜索したんだが……、生存者を見つける事は出来なかったよ……」
苦悶の表情を浮かべながら光太郎がそう言うと、シゲの服を掴んだヴェルの手に力がこもり、それと同時に長門達が俯きながらシゲから視線を外す……
「まあこの惨状を見たら、生存者がいるとは……、ん?」
島の様子を見たシゲが、きっとそうだろうなと予想していた言葉を聞いた直後、何かを感知して思わず不思議そうな表情を浮かべる
「シゲさん、一体どうしたんだ?」
そんなシゲの様子にいち早く気付いたヴェルが、シゲにしがみついたままそう尋ねてみたところ
「いや……、何かこの島から俺達以外の熱源を感知してな……」
「熱源……?」
「それって……、もしかして……」
ヴェルの問いにシゲがこの様に答えると、シゲの発言を聞いた二航戦が驚きの表情を浮かべながらこの様な言葉を口にし……
「シゲッ!!それもうちょっと精度上げられないかっ!?」
「もしかしたら、それは私達が見つけられなかった生存者の体温かもしれないっ!!シゲッ!!それが何処にあるか分かるかっ!!?」
光太郎と長門が凄まじい勢いで話に食い付き、シゲは2人のその気迫に気圧され驚いた後、自身の熱感知能力を最大まで引き上げ……
「見つけたっ!!!こっちですっ!!!時間が経つ毎に温度が低下してるので急ぎましょうっ!!!」
その熱源の場所を特定したシゲはそう叫ぶと勢いよく立ち上がり、ヴェルを自身にしがみつかせたまま猛ダッシュでその場所に向かい始め、光太郎達も急いでその後を追い始めるのであった
「ここですっ!!この中ですっ!!!」
「ここは……、山肌が露出しているだけの様だが……?」
問題の場所に辿り着いたシゲが山を指差しながらそう叫び、その様子を見ていた長門が困惑しながらこの様に言ったところで、光太郎が何かに気付いて声を上げる
「もしかして……、ここは本来防空壕跡地だったんじゃ……?」
「あいつが襲って来たから誰かがここに避難して、あいつが暴れたせいで入口が崩落して、その人は生き埋めになっちゃったって事……?」
「だったら大変じゃないっ!!急いで助けてあげないとっ!!!」
光太郎の言葉を聞いた二航戦が、口々にそう言って慌てふためき出し……
「別府ッ!!!」
「了解だ、ポリたん、アレを頼む」
その傍ではシゲとヴェルがこの様なやり取りを交わし、ヴェルがポリたんに指示を出すと、ポリたんの側部が開いてそこから数本のシャベルが姿を現し、シゲはそれを引っ掴むと急いで防空壕跡地を掘り返し始め、そんなシゲの姿を見た長門達もシゲに倣ってシャベルを手に取ると、シゲと共に埋もれた防空壕跡地を掘り始めるのであった
そんな中、光太郎はと言うと……
「双腕重機アーム起動っ!モード・ショベルだっ!!!」
この様に叫んで重機アームを起動し、自身の手にはポリたんから受け取ったシャベルを握り、先端部分がショベルカーのバケットになった重機アームと併用して、ガンガン穴を掘って行くのであった
それからしばらく時間が経過し、シゲ、光太郎、長門の3人が引き続き穴を掘り、二航戦とヴェル、そして前面にブルドーザーの様なブレードを付けたポリたんが、3人が掘り起こした土を外に出す作業を行う様になったところで……
「見つけたっ!!!」
遂にシゲが要救助者を発見し、3人掛かりで要救助者を掘り起こした後、光太郎が急いで応急処置を行った結果、防空壕跡地の中で生き埋めになっていた少女は、何とか一命を取り留めるのであった
その後、光太郎が傷病者搬送用アタッチメントを取り付けたリヴァイアサンに、先程救助した生き埋めになっていた少女を乗せて先行して横須賀に帰還し、鎮守府に待機していた救急車に彼女の事を任せ、少女は現在悟が医師免許取得の為に研修医として勤めている病院に緊急搬送されたのであった
「もうちょい発見が遅かったらよぉ、あの娘は助からなかったかもしれねぇなぁ。こいつは冗談抜きでシゲのお手柄って奴だわなぁ」
彼女の治療に携わった悟は、仕事を終えて横須賀鎮守府に戻り、食堂で食事をしている時にこの様な事を言ったのだとか……
こうしてシゲ達の手によって助け出された少女は、故郷の事を医師から知らされると復讐の炎をその魂に宿し、深海棲艦撲滅の為に艦娘になる事を固く決意し、必死に勉強して横須賀鎮守府の近くにある軍学に入学し、厳しい訓練に耐え抜き己を磨き上げるのであった
そしてその少女は後に綾波型駆逐艦の8番艦である曙として、彼女の仇である防人とよく似た姿をした戦治郎が提督を務める長門屋鎮守府に着任する事になるのだが、その事は彼女も、そして戦治郎達も今は知らない、知りようが無かったのであった……