オトゥームによって知らされた信じられない事実を耳にした一同が、ようやく落ち着く頃には時刻は正午を回っていた為、戦治郎達はここで一度会議を切り上げて、揃って翔達が待つ食堂へと足を運ぶのであった
尚、戦治郎が皆に食事に行く事を提案した際、クトゥルフが誰よりも早く食事と言う単語に反応し、戦治郎の提案に激しく賛同したのはここだけの話である
さて、そうして食堂に向かった戦治郎達が目にしたのは、正に御膳と呼ぶに相応しい、それはそれは豪勢な料理の数々であった。そんな料理の群れを目にした者達は、誰もが先ずはその量に圧倒され驚愕し、しばらくして我に返ると今度はその料理の盛り付けの美しさに思わず心を奪われてしまうのであった……
如何やら調理担当の翔がやたら気合いを入れて料理を作り、それに呼応する様に周りの給糧艦達やゾアなどのヘルパー達がいつも以上に頑張ってくれたおかげで、この見ただけで美味しいと確信させる料理達が出来上がった様である
その後、料理が冷めてしまうと美味しくなくなってしまうからと、翔に促されるままに席に着いた戦治郎達が適当な席に腰を下ろすと、すぐさま傍に控えていた給糧艦達がテーブルに置かれていた縁の広いガラスのグラスに、開栓時に漂って来た香りからでもそれがかなりの高級品であると分かる様な日本酒を注いでいくのであった
この時、会議の途中なのに酒を飲むのはどうなのかと、日本海軍の上層部の誰かが苦言を呈するのだが……
「その方がかえって話し合いが進むのではないでしょうか?」
「だな、どうせならお互い腹を割って話したいところだからな」
「それに折角そちらの者達が準備してくれた物だ、それを無碍にするのは流石に我々も心苦しく思ってしまう」
「僕の場合なんだけど、立場上各国の海軍の代表の皆さんと親睦を深める機会と言うものが、どうしても少なくなってしまうんだよね。だから今日この日は是非とも皆さんと親睦を深めたいところなんだけど……、こんな理由じゃ駄目だったかな?」
「リチャードよ、お前達はまだマシな方であろう……。私達の場合、本来の姿では地上に出る事すらままならず、こうして地上に出る時は常に姿を変え、本来ならば素性を隠し通さなければならんのだぞ……?」
「まあ確かにな、そもそもクトゥルフや私が表に出ている事が世間にバレれば、親睦どころの騒ぎではないだろうからな……」
「と、各代表達はこの様に言っているのだが、それについて海軍はどう考えておられるのかな?陸軍としては早急に返答してもらいたいのだが?」
とまあ、この様な調子でアクセル、セオドール、ジョシュア、リチャード、クトゥルフ、クタニドと言った各代表達が口々に意見を出し、そうして出た意見を剣持が総括して苦言を呈した海軍の上層部の1人に投げかけたところ、その人物は剣持に反論する事が出来ず、何とも言えない様な表情を浮かべながら閉口してしまうのであった
「あ、もういい?話纏まった?」
その直後、その様子をグラスを手に見守っていた戦治郎がこの様に尋ね、それに対して元帥以外の代表達が頷いて返したところ……
「OKOK、んじゃあ折角の料理が冷めない内に、乾杯と洒落込みますかっ!!!」
戦治郎はそう言い放つと、この場合本来ならば日本海軍の代表として乾杯の音頭をとるべき元帥そっちのけで、声高らかに乾杯の音頭をとって手にしたグラスの酒をグイッと一気に飲み干して見せるのであった
因みに、乾杯の音頭をとる際いつも入る長門屋の面々による野次が、今回に限っては無かった事が少々寂しかったと戦治郎は後に語っているのだが、正直なところそれはこの際本当にどうでもいい事であった……
こうして戦治郎達は会食と言う名の親睦会を開始し、翔の渾身の作品達に舌鼓を打ちながら翔達が厳選した上等な酒を呷り、通信機による雑談会の時以上に深い情報交換を行うのであった
この時発覚したのだが、如何やら欧州の方では順調に艦娘の配備が進んでいるらしく、ドイツとイギリスに続きイタリアとフランスでも艦娘の艤装の開発に成功したのだそうな
尚、今でもクロエとクトゥルフ達の戦いの傷痕の復旧作業に追われているらしいロシアだが、こちらについては中々情報集めが上手くいかず、現状把握が出来ていないとアクセル達は言うのであった
また、ここでクトゥルフが酒の勢いで口を滑らせ、彼が今企んでいる事がこの場にいる者達に周知される事となるのであった
如何やらクトゥルフは、ルルイエの一部の区画を大幅に改装し、そこに観光名所になりそうな大きなグルメ街を作り、神話生物用の観光資源にして利益を得ようとしているのだとか……
そしてクトゥルフが食べ歩きの旅をする理由の1つが、そのグルメ街で働く従業員の育成に関する事らしく、如何やらクトゥルフは自分の口に合う店を食べ歩きで発見した場合、そこに人間に化けさせたショゴスを送り込み、その店の味を体得するまで料理の修行を行わせようとしているのだとか……
こうしている内に時は過ぎ、酒も料理も無くなって来たところで、頃合いを見てリチャードがこの場にいる者達に向かって、この様な提案をするのであった
「これまでの話を聞いていて思ったんだけど、この世界で跳梁跋扈する転生個体達や強硬派深海棲艦、それに何かしらの切っ掛けで暴走した邪神達に対抗する為にも、僕達は一丸となって行動すべきだと思うんだ」
「それは言えてるな……、今の俺達じゃホノルルや父島を襲撃したレベルの転生個体には太刀打ち出来そうにねぇしな……」
「それだけじゃないね、オトゥームさんが言っていた邪神達も、皆が皆翔と仲良くなるとは限らないからね……」
「うむ、あの連中が本気になれば、どれだけ大量のショゴスがいたとしても、まるで塵芥の様に吹き飛ばす事だろう……。私が手渡したショゴスの種は、所詮私達が駆け付けるまでの時間稼ぎに過ぎんのだからな……」
「実際、あれはあくまで現在日本にいる連中だけだからな……、世界に目を向ければ割と至る所に邪神達はいるからな……。ツァトゥグァの爺さんなんかが最たる例だ……」
「改めてみると、この世界は本当に危機的状況にあるのだな……」
「どの様な状況であろうと、どんな輩が相手であろうと、俺は只日本を護る為に戦うだけだがな……」
リチャードの言葉を聞いた各代表達が、思い思いの意見を出して騒めき出すと、リチャードはそれを制した後、この様に言葉を続けるのであった
「そこで提案があるんだ、僕はこの危機的状況を打破する為に、この場にいる者達で平穏な世界を取り戻す為の組織、『穏健派大連合』を立ち上げようと考えているんだ。ああ、もしこの場にいないイタリアさんやフランスさんも加入したいと言うなら、僕は全然構わない、寧ろ丁重に歓迎しようとと思ってる。平和を志す仲間は多い方が良いと思うからね」
この言葉が食堂内に響き渡った直後、食堂の至る所から再び騒めきが発生し、それが治まると各代表達はリチャードに向かって、その考えに同意する様に頷き返して見せるのであった
只1人、元帥を除いて……
「リチャード殿、それはとても素晴らしい提案だと私は思う。だが、私達日本海軍はその穏健派大連合への参加は断らせてもらうよ」
元帥がそう言い放った直後、日本海軍の上層部の者達全員の顔色が真っ青になり、元帥の言葉を耳にした者達が一斉にどよめき出すのであった……
如何やら元帥は、日本海軍が一致団結すれば転生個体の群れにも荒れ狂う旧支配者達にも問題無く勝てると考えており、日本海軍は穏健派大連合には所属せず、独自の判断で行動が出来る独立部隊的な立ち位置にあるべきだと考えている様である……
確かに今の日本海軍には、艦娘達に指示を出せれば転生個体であろうと撃滅出来る元帥もいれば、真正面から転生個体とぶつかって勝利出来る戦治郎達もいる。そして挙句の果てには戦治郎達のところには、ゾアが専属の邪神として所属しているし、シゲのバックには宇宙を股にかけて活動する組織まで付いている為、元帥が言う様に本当に日本海軍だけでも、ある程度この状況に対処出来てしまうのである……
特に元帥は、先日戦治郎達が作り上げたカメラとディスプレイのおかげで、今まで以上に正確で迅速な指示が出せる様になっている為、元帥の言葉には更に説得力が付いてしまっているのである……
「っと、興を削ぐような真似をして済まないね、私は後の事もあるのでお暇させてもらうよ。会議に関しては会食中に大体話が出ていた様なので、この辺りでお開きとしようではないか。そういう訳で、積もる話もあるだろうから、戦治郎君達は皆さんともっと親睦を深めるといい。何、今日の分の君の仕事は私がやっておくので安心したまえ」
元帥はそう言うと食堂を後にして執務室に向かい、日本海軍の上層部の者達は慌てた様子でその後を追う……
そうして元帥が食堂を去った後、入れ違いになる様に外で修羅場を展開していた空達や、工廠にいたシゲ達が食堂に入って来て、彼等は俯いてプルプルと身を震わせる戦治郎と燎の姿を目にするのであった
そんな戦治郎達に、空が何事か尋ねようとしたその直後である……
「「いいよっしゃあああぁぁぁーーーっ!!!作戦成功おおおぉぉぉーーーっ!!!」」
突然戦治郎と燎が大声でそう叫びながらハイタッチを交わし、状況が上手く呑み込めない空達は、只々困惑の色を濃くするのであった……
その後、戦治郎は笑顔を浮かべるアクセル達や長門達ともハイタッチを交わし、空達ともハイタッチをしようとしたところで、空達が困惑している事にようやく気付き、この状況の説明を開始するのであった
そう、この穏健派大連合の話をリチャードがこの場で話したのは、元帥と日本海軍の上層部の認識の違いを浮き彫りにし、元帥を上層部と切り離して孤立させる為の作戦だったのである
この作戦は通信機での雑談会の時に、元帥ならこう出るだろうと予測していた戦治郎が発案したもので、戦治郎と燎から元帥の事を聞いていたアクセル達は、元帥を失脚させる為の布石であるこの作戦に、それはそれは快く協力してくれたのである
実際、幾らこの世界の現状を説明しても、全く聞き入れてくれないこの元帥をこのまま放置していると、日本海軍には未来は無いと、アクセル達はそう思ったのである……。なので彼等は戦治郎の作戦に乗ったのである
因みに、元帥は穏健派大連合への参加を拒否しているが、実は裏の方で既に燎の名義で長門達横須賀の艦娘達は、穏健派大連合に参加していたりするのである
尚、長門は大連合に参加する事を決定した際、この様な言葉を口にしている
「確かに元帥の指揮は素晴らしく、その指示に従っている間私達は誰にも負けないだろうと思っている。だが、こんな芸当が出来るのはあくまで元帥だけであり、元帥が思っている様に他の提督達も元帥の様な戦い方が出来ると考えるのは、大きな間違いだからな……。そもそも、提督達全員が元帥の様な戦い方が出来るのならば、深海棲艦との戦争はとっくに終わっている筈なのだからな」
これを聞いた戦治郎達は、思わず苦笑したのだとか……
その後、戦治郎達は穏健派大連合結成を祝して、翔が予め準備していた先程の日本酒よりも更に上等な日本酒で乾杯し、遅れて来た空達も巻き込んで酒盛りを続行するのであった
その際、酔った勢いで強硬派は鷹派、穏健派は鳩派、なら武闘派揃いなのに穏健派を名乗るこの集まりは何派?と言う話題になり、通例に倣って何かの鳥から取ると言うルールの下、ペンギンやドードー、ティラノサウルスなどの意見が出るも、ペンギンは迫力が無いと言う理由で却下され、ドードーは絶滅した経緯が縁起が悪いと言う理由で却下、ティラノサウルスは分類上鳥類なのかもしれないが、見た目が鳥っぽく無さ過ぎると言う理由で却下され、最終的には基本臆病な性格だが、キック力が凄まじい最強の鳥と言う事で、ヒクイドリが採用される事となるのであった……